今年、あるアニメシリーズが公開から10周年を迎えた。”人造昆虫カブトボーグ V×V”だ。10月には10周年に合わせて出演声優などを迎えた非公認イベントが開かれ、筆者も興味を持ったものの迷う間もなくチケットが完売してしまうほどの人気ぶりだった。
「一部ファンの間でカルト的な人気を博する」などという表現があるが、”人造昆虫カブトボーグ V×V”こそその表現に相応しい熱狂的なファンを擁し、10年経った今もその勢力を伸ばし続けているのである。
今回はその常識破りのアニメ”カブトボーグ”が伝説と化すまでの軌跡をごく一部ながら紹介したい。
カブトボーグとは?
カブトボーグとは2005年ごろトミーから発売された児童向け玩具で、図のような虫の形態を模した車体で戦う。そして”人造昆虫カブトボーグ V×V”はその商品のいわば販促アニメのという位置づけである。
しかし、なぜそうなったのかは分からないがアニメ放映時には本商品の日本展開が終了する直前で、好きにしろとスポンサーのチェックがまともに入らず、またテレビ東京にも放映を断られてしまう。こういった状況もあいまってスタッフが好き放題に制作した結果、全52話ふざけ倒しのアニメシリーズが誕生したのである。
なお、玩具自体は人力で動くため駆動には限界があるのだが、アニメではスタッフが実物も触らずに制作したためありえないスピードでありえない距離を走る光景が繰り広げられる。
<おもな登場人物>
天野河リュウセイ
- 本作の主人公にして最強のボーグの使い手。相手の弱点を突き心理的に追い込むファイティングスタイルのため心無い発言や行動が目立ち、ファンからは畏敬の念を込め”外道”と称される。
松岡勝治(カツジ)
- リュウセイの親友で仲良し三人組の一人。病弱で幾度となく生命の危機に瀕し、あるいは実際に死ぬこともあるが次週になれば何の説明もなく復活している。テクニカルな戦いを繰り広げる美少年で、精神的に荒むと女性関係が荒れる。
龍昇ケン
- リュウセイの親友で同じく三人組の一人。中華料理屋「昇竜軒」の息子で中華料理をこよなく愛する。異常者の多いカブトボーグの世界にあっては貴重な人格者だが、しばしば頭のネジが外れたような発言が目立つ。
ロイドさん
- リュウセイたち三人が入り浸っているパーツショップの店主。とても優しいが人をイラつかせる天性を持って生まれたとしか思えない喋り方や行動でファンに「ウザい」と煙たがられる。「まさに○○ですネ!」と熟語で話をシメることが多い。
ビッグバン
- 作品世界に蔓延る悪の組織”ビッグバンオーガナイゼーション”の総帥にして、その正体は…1話で明かされる。
◯◯のマドンナ✕✕ちゃん
- アニメの節々で現れてリュウセイを止めるが、最終的に「それでも俺は行かなくてはならない」と無碍にされてしまう本作のヒロイン。名前と髪や服の色を変えただけの同じデザインの使い回しだが別人物として何度も登場する。
さて、ここまででも「?」な部分は多いと思うが、キャラクターについて知っていただいたところでいよいよアニメ本編の主な出来事を振り返ってみたい。
いわば完全なネタバレなのだが、カブトボーグの本質は字面を追っているだけで捉えられるようなものではないと判断し、あえて紹介させていただくことをお詫びしたい。(どうしても嫌な方は本編を観てから戻ってくることを推奨する。)
カブトボーグの主なできごと
第1話
・第一話なのに最終話のような展開で視聴者は騒然となった。
・この回、ヒロインとしてクラスのマドンナさやかちゃんが登場しリュウセイの無理を諌めるが、これが実質最後の登場となる。
第2話
・普通そんなことは起こらない。
・いわゆるカツジ病気シリーズの記念すべき第一回目である。
第3話
ケンの店のはす向かいにできた「中華三兄弟」の店に殴り込む
・以降、昇竜軒のはす向かいにライバル店ができるとリュウセイ達が殴り込んで潰すというパターンが確立され「はす向かいシリーズ」と呼ばれるようになる。
第4話
リュウセイのライバル”ジョニー・ザ・ファーステスト”が登場、リュウセイに長髪が不快だと難癖をつけられ七三にする
第5話
1話でビッグバンだと判明した父が登場し普通にリュウセイ達と談笑するも、仮面をつけて出てきた瞬間に「ビッグバン!」と即座に敵対するなど複雑な関係性が露わになる
・以後、仮面をつけていればビッグバン、私服で登場すれば父親という謎の不文律が守られる。
第6話
リュウセイが米以外の食事を禁止した市長・米田と対決するが、ボーグバトル場に炊いた米をばらまかれ車輪に絡まってしまう
第7話
唯一使い捨てを免れた奇跡のヒロイン、ベネチアンが登場
第8話
カツジの祖父が登場し、カツジ同様死にかけるが、カツジ同様死なない
第9話
ロイドさんが「それがおばさんです!」と叫ぶ
第10話
あまり存在感のないリュウセイの兄が初登場
第11話
ケンが女装にハマったまま話が終わる
第12話
ロイドさんの衝撃の過去が明かされる
・以後、ロイドさんに「メガネを外すと粗暴でワイルドな人格になる」という設定が加わるが、メガネをかけている状態でも言動が不安定なためキャラクターとしてさらに分かりにくくなった。
第13話
話が始まった時点でなぜか街が変な組織に支配されている
第14話
・次回予告でブラックゴールド団が殲滅される。
(これについては、恐らく言っても意味が伝わらないため実際に見てもらうしかない。)
第15話
カブトボーグ全国大会の地区予選でビッグバンの刺客・シャングリラ小川が特に触れられることなく敗退する
・ジョニーが赤ちゃんに負ける。
第16話
カブトボーグが海で養殖されている事実が明かされる
第17話
高山病の恐ろしさが分かる回
・メキシコ出身ホセ・ソルプレッサ選手が全国大会を全部の国の大会と勘違いして出場し失格。
・ケンの名言「わー!揚げ足取られたうえに感謝を強要された!」が誕生。
第18話
沖ノ鳥島が沈没する
・ちなみに、沖ノ鳥島が沈没すると日本の排他的経済水域40万平方km以上が消失する。
第19話
カツジが「はずかしめてやろうよ!」と発言する
第20話
第21話
・当然、カツジは死んでしまった
第22話
トマトボーグ、ピーマンボーグ、ブロッコリーボーグなどの野菜ボーグが栽培されている事実が明かになる
第23話
主要キャラがムキムキになる
第24話
・隣町のマドンナひろみちゃんが一度きりの登場。
第25話
リュウセイが視聴者ともども意味がわからないカブトボーグの歴史を丸一話聞かされる
第26話
ケン、束縛の強いと女性と付き合い腐心のすえ別れる
第27話
ドキュメンタリータッチで作られた世界大会仕様のボーグマシンが車に轢かれる
第28話
カブトボーグ世界大会で兄と再会
第29話
ルール無用のダークバトルで苦戦したカツジとケンがデカいロボとかミサイルを使って勝つ
第30話
明らかに亀田三兄弟をモチーフにしたカメーダ親子が登場し、卑怯の限りを尽くす
第31話
・この回については見てもらうしかないが、見てもよく分からないと思う。
第32話
リュウセイ、世界大会で初の敗北を味わう
・元祖ヒロイン、クラスのマドンナさやかちゃんらしき人物が登場
第33話
失意のリュウセイを美少女に変装した父が慰める
第34話
「こういうとこのラーメンって意外とシンプルでおいしいんだよな」と動物園にやってきたケンがラーメンを食べて「まずい」と発言する
第35話
・玩具アニメで絶対に言ってはいけないセリフが飛び出した回であり必見。
第36話
ジョニーが逮捕される
第37話
カツジがボーグ工場のオーナー(壮年の男性)と結婚させられそうになる
・カツジはなぜかセクハラ的な扱いを受けることが多い。
第38話
リュウセイに罪をなすりつけられ、監獄から這い出してきたライバル・浜田操が登場
・リュウセイの外道扱いを不動のものにした回。
第39話
物語終盤で悪の組織のもとに辿り着くものの、特に戦いが描かれることなく終了
第40話
ロイドさんがリュウセイの顔面にピザ生地をぶつけたのを起点に時間がループする
第41話
一度も登場したことのないキャラクター・マンソンがあたかも最初から仲間だったかのように登場し、何の説明もなく大活躍して大団円を迎えたが以後二度と出てこない
・カブトボーグが「視聴者置いてけぼりアニメ」から「視聴者無視アニメ」へと進化した回といえる。
第42話
髪型をカブトムシやクワガタにして頭突きで戦う「カブトバトル」が流行しカブトボーグが完全に廃れる
第43話
3秒で決着がつく小さなカブトボーグ「ワンコインボーグ」が大流行してそこらじゅうに捨てられ、販促アニメなのにリュウセイに「ゴミの山」呼ばわりされる
第44話
リュウセイ、カブトボーグを捨てる
第45話
ロイドさんがリュウセイたちを騙したり馬鹿にしたりする
第46話
ジョニー死亡
第47話
ケンがヤバい女と付き合ってやつれる
・リュウセイが「ならばあえて言おう…お前は性格も何もかもブサイクだ!」とギリギリな発言。
第48話
夏休みの宿題で追い込まれたケンとリュウセイが町の子供たちをカブトボーグでボコボコにする
第49話
・いつも死ぬ死ぬ言うだけで全く死ななかったカツジが本当に死んだため視聴者の涙を誘った。
第50話
ケンがおかしくなる
・分かりにくい表現だが、本当にそうとしか言えない。
・あと、カツジが普通に出てくる。
第51話
第52話
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・そして伝説へ・・・・
こうして綴られたあまりにも熱すぎる”カブトボーグ”52話に渡る(なんでそんなに続いた?)物語は幕を閉じ、10年後の現在に至る。
しかし、”販促という目的を無視してもよくなった販促アニメ”という、スポンサーはおろか視聴者に媚びる必要性すらなくなった異質な環境で、アニメスタッフの才能が遺憾なく発揮された本作は時を経ても新たなファンたちを魅了し続けている。
アニメがビジネスである以上、スポンサーやDVDを買う層に対する手堅い戦略は避けて通れないが、ひとたび自由を与えられれば”カブトボーグ”のようなアニメだって作れる…本作には、色々としがらみの多いアニメ業界で奮闘する作家たちの魂に肉迫する熱さがある。
リュウセイたちのバトルを通してその熱が視聴者の心に伝わり、火を灯すがために、何年経っても”カブトボーグ”人気の灯は途絶えないのである!
(イラスト・文章 小野ほりでい)