木を組み合わせた不思議な球体。
釘を使わない伝統的な木工技術「組子」(くみこ)で造った「茶席」である。
島根県江津(ごうつ)市にある島根職業能力開発短期大学校の住居環境科1年の島崎希世さん、佐々木智加さん、笠原蒼葉さんの3人が製作した。

組子で茶室を制作した3人
「kumiko」と名付けたこの茶室は、10月27日(木)から東京都中央区の銀座三越で開かれている「銀茶会」で展示している。
お披露目を前に、リーダーの島崎さんに製作過程を伺った。
茶道も組子も日本の伝統
茶室はことし9月、日本建築学会が主催した「創立130周年記念 建築文化週間学生グランプリ2016『銀茶会の茶席』コンペティション」で金賞に輝いた作品だ。
高さ2.9m、広さおよそ2畳、土台上にスギ材のパーツ23個を組みドーム型にしている。
魔除けの意味を持つ「麻の葉」模様を採用し、茶道の伝統を守る意味を込めた。球体は包み込むような優しさを表現している。
組子は棚や戸の装飾に使われる釘なしで格子状に木を組む工芸で、飛鳥時代から伝わる。
数百通りの紋様をつくれるが、0.1mmの誤差が全体の歪みにつながる繊細な技でもある。
入学前から組子に興味を持っていたという島崎さん。
担当教員からコンペティションの紹介を受けた時、「伝統的な茶道と組子が交われば、新しい美を創造できる」と思いついたという。
「茶道も組子も時間を大切しています。
茶室で組子越しに入る日の光が朝から夕方にかけて変わる具合で時間を表現できると思いました」
周囲に無理だと言われることも
組子は従来、平面で用いる直線的な技術であり、円形、まして曲面の表現には適さない。
島崎さんは「周りの人から無理だと言われることもあった」と明かす。
「先生からも、そもそも円をつくるのが無理じゃないかと心配されました。
最初に指導を受けた木工所の方も『そうとう難しいよ』と。
ある人からは『本当にできたら金賞だ』と皮肉交じりに言われたこともあります」

平面で使われる組子(イメージ画像) 出典元:Fotolia
しかし、島崎さんの決意は固かった。
「kumikoができたら金賞だという自信がありました。
どうしても球体をつくりたかったので、すべての神経を集中して組み立てました」
三角形の組み合わせサッカーボールの原理を応用
どうやって球体にしよう……。
考える中でひらめいたのは、サッカーボールの原理(通称・フラードーム)だった。
五角形と六角形の集合体であるボールの形。「あれなら当てはめられると確信した」という。
CADを駆使して、大工の規矩術(きくじゅつ)も応用しながら「こうやってみたらどうなるかと挑戦的に」試行錯誤を繰り返した。

組子の茶室の10分の1の模型
23の部品のつなぎ目は辺によって角度が異なるため、10分の1の模型を組み立てて微調整を重ねる日々。
つくり始めた6月から模型が必要な8月のコンペの1次審査までの約2か月間、3人が夜通しで作業することもあったという。

コンペティションの最終審査で発表する3人
「kumiko」は自分の子供みたいな存在
最終審査では伝統技法で球体を生み出した技術力、そして茶席にふさわしい優しい雰囲気が好評を得て金賞を獲得した。
島崎さんは「本当に苦労して造ったので、kumikoはもう自分たちの子供みたいな存在」と話す。
メンバーは愛着を込め、「くみこ」と人の名前のように呼ぶ。
銀座の展示では会期中の29日(土)、30日(日)に実際にkumikoで茶道家が実演を行い、来場者をもてなす。
「木をふんだんに使ったので自然を感じてほしい。
日本だけでなく世界に伝統技術を伝えたいので、お客さんからも発信してもらえたらうれしいです」

金賞を喜び記念写真に収まる3人
受賞後も展示に向けた調整が続き、「まだ実感が湧かない」のが本音。
「来場する皆さんに使ってもらうことで実感すると思います」と声を弾ませた。
【「銀茶会」学生創作茶席】
期間:10月27日(木)~31日(月)
会場:東京都中央区 銀座三越9階 銀座テラス
時間:10時30分~20時(31日は18時終了)
※島崎さんの「崎」は、正しくは「大」が「立」です。
※写真は島根職業能力開発短期大学校の許可を得て転載しています。
