News Up なぜ進まない 水道管の「鉛管」撤去

News Up なぜ進まない 水道管の「鉛管」撤去
私たちの生活に欠かせない水を送ってくれる水道管は、全国的に老朽化など多くの問題を抱えています。その問題のひとつが、あまり知られていませんが「鉛」です。家庭などで使う水に、地域によっては微量の鉛が溶け出している可能性があるとして、対策が進められています。なぜそのようなことが起きているのでしょうか。
私たちが利用している水は、浄水場などで浄化されたあと、自治体が設けている水道管を通り、最後に各世帯に水道管から水道を引き込むための給水管と呼ばれる管に枝分かれして流れてきています。
問題となっているのは、この水が最後に通る給水管です。地質などに対応して折り曲げるなど加工がしやすいことや、サビなどの経年劣化に強いこと、それに素材を統一することで災害復旧も迅速に対応できることなどから、給水管の素材に長年、鉛が使用されていたのです。鉛製の給水管は「鉛管」(えんかん)と呼ばれています。この鉛管から水道に少しずつ鉛が溶け出しているおそれがあるのです。

なぜ水道に鉛が?

私たちが利用している水は、浄水場などで浄化されたあと、自治体が設けている水道管を通り、最後に各世帯に水道管から水道を引き込むための給水管と呼ばれる管に枝分かれして流れてきています。
問題となっているのは、この水が最後に通る給水管です。地質などに対応して折り曲げるなど加工がしやすいことや、サビなどの経年劣化に強いこと、それに素材を統一することで災害復旧も迅速に対応できることなどから、給水管の素材に長年、鉛が使用されていたのです。鉛製の給水管は「鉛管」(えんかん)と呼ばれています。この鉛管から水道に少しずつ鉛が溶け出しているおそれがあるのです。

国は鉛管の使用を禁止したが

鉛は子どもや妊婦が吸収しやすく、長期間、大量に摂取すると特に子どもの場合に視覚や聴覚などに影響が出ると言われています。このため国は、平成元年に鉛管を新たに設置することを禁止していて早期に鉛管の使用をゼロにするという目標を掲げています。
しかし、おととし3月末時点で18の府県で鉛管の使っている世帯は10%を超え、撤去が進んでいないことが、日本水道協会の統計で浮き彫りになっています。
このうち香川県は全国平均のおよそ7%を大きく上回るおよそ37%と、全国で最も高い結果となりました。香川県ではいまだ、約14万6000世帯で鉛管が使用され続けています。さらに、さぬき市など県内の4つの自治体では、関係する資料が残っていないことなどから鉛管の使用の実態が分かっていません。
全国でも1400余りの水道事業者のうち、約250の事業者が実態を把握できていないのが現状です。

遅れの背景に「個人財産」

なぜ、鉛管の撤去が進まないのか。その背景には、鉛管が設置されている場所が大きく関係しています。鉛管が設けられている給水管の部分は、個人の住宅の敷地内がほとんどで、住民の「個人財産」とされているのです。仮に鉛管が使用されていても、自治体は交換を促すことはできても交換費用の全額を負担することはできないのです。
自治体の中では、交換費用の一部を助成する制度を設けていますが、交換には数十万円かかるとされ、「目に見えない危険」に住民が対応を先延ばしにしている現状があります。
香川県高松市では、鉛管の残存世帯が約9万世帯、残存率では全世帯の約半数を占めていますが、高松市が市民に行ったアンケート調査では、自宅に鉛管が使われているかどうか把握していない世帯が約半数で、交換のための助成制度を知っていたのは、約2割にとどまっていました。鉛管に関する認知度の低さも浮き彫りになっています。

自治体によっては独自の取り組みも

NHKが全国の鉛管の残存率の高い自治体などを取材したところ、自治体によっては独自に実態把握や交換を進める取り組みを行っていました。
鉛管の残存率が全国平均(7%)を大きく上回る三重県伊勢市(12%)や福岡県大牟田市(28%)では、職員が鉛管の使用の可能性のある世帯に出向き、実際に1軒1軒、目で見て確認を進める地道な作業を続けて実態を把握したほか、静岡県島田市では民間企業に委託して実態調査を進めていて、今年度中に調査を終える予定となっています。
また富山県小矢部市では、「個人財産」とされている各世帯の給水管を住民から「寄付」を受けるという形をとることで、自治体が全額負担して鉛管の交換工事を進めています。

アメリカでも鉛管が問題に

こうした鉛管の問題は日本に限ったことではありません。アメリカのミシガン州のフリント市では、鉛管から水に高い濃度の鉛が溶け出したことが原因で、子どもなどを中心に健康被害が報告され、ことし1月にオバマ大統領が「緊急事態宣言」を出しています。アメリカでも上水道に鉛管を多く使っていたものの交換が進んでいません。
特にフリント市では、財源不足を背景に処理が不十分な水が鉛管を通ったことで高い濃度の鉛が溶け出したと見られています。
ただし専門家は、日本とアメリカでは水質の基準が異なっているので鉛管による健康被害として「単純な比較は難しい」と話しています。

「鉛管」は水道が抱える多くの問題の1つ

水の安全性などを研究する京都大学大学院の伊藤禎彦教授は、「日本では、これまでに鉛管から鉛が溶け出して健康被害があったという報告はないのではないか」と指摘したうえで、「上水道はさまざまなインフラの中で最も早く整備が進められたことから、破裂などにつながる水道管の老朽化や職員の高齢化など、鉛管だけではない多くの問題がインフラの中で先端をきって顕在化してきている。全国の水道事業体は鉛管の交換の必要性は十分理解しており、鉛管の問題は、やるべきことの1つではあると思うが、現段階で、鉛管の交換を優先してやるべきとまではいえない」と話しています。
人口減少などに伴い、命のライフライン、水道が多くの課題を抱えるなかで、どのように効率的に「鉛管」の交換を進めていくか。考える時期が来ています。