まずカン女史は、中国政府の代表たちが他国との対立や紛争の案件で自国の主張を表明するとき、ごく頻繁にこの犠牲者カードを使うことを指摘する。

 最近の実例が、今年7月に常設仲裁裁判所が中国の南シナ海での領有権主張を不当だと断じる裁定を下した際の、中国側の反応である。裁定が下されると複数の中国政府高官たちが、「中国は過去100年もの間、外国の侵略により屈辱を体験してきた。今回の裁定も同様に、米国が中国を標的に展開する『アジア再均衡』戦略の犠牲になった結果だ」と述べていた。

 しかしカン女史は次のように指摘して、そうした中国側の主張を退ける。

「米国上院軍事委員長のジョン・マケイン議員が最近強調したように、米国は過去100年以上、進歩的な政府の樹立、自由化、国民の教育向上などの面で中国を支援し、中国が国際社会の一員となることを助けてきた。米国ほど中国の近代化や国際化を支援してきた国は他にない」

 米国が中国に被害を与え犠牲者にしたなどという中国側の主張はとんでもない、というわけだ。

日本にもある「反論」の材料

 そのうえで同論文は、米国が過去に中国を支援した実例を挙げる。

 第1に、米国は1800年代末期の清朝の頃、どの国にも市場を開く「門戸開放」政策の効用を説いて、中国国内での暴力的な衝突などを防いだ。この米国の動きによって関係諸外国は自制することになり、中国領土が分割される展開を阻止した。