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  • Tetsutaro Inoue

    Tetsutaro Inoue

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日本のアニメに憧れる社員が語るピクサーの裏側【インタビュー】グラント・アレクサンダー

Google, Apple, Facebookなど、世界的に活躍するテクノロジー系の会社で知られているサンフランシスコ・シリコンバレーエリアであるが、実はアニメーションスタジオとしてもトップを走るピクサーのオフィスも存在している。スティーブ・ジョブスがAppleを去った後に気づき上げたもう一つの”遺産。” それがトイ・ストーリーやカーズなどの完全CGによるヒットアニメーション作品を次々と作り出すピクサーである。

サンフランシスコからベイブリッジを渡り、その対岸のエメリービルという小さな工業都市にそのオフィスはある。何の変哲も無いような住宅街を抜け,その先の倉庫街の一角に突如として現れるのがピクサー・アニメーション・スタジオである。他のスタートアップやテクノロジー企業と異なり、ピクサーのオフィスには入り口にはセキュリティーゲートがあり、その中に入るには事前のアポが必要となり、簡単には立ち寄る事が出来ない。日本から来て入り口まで来たが結局入れなかったケースも後をたたないらしい。

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そんな中で、今回はGoodpatch CEOの土屋 尚史さんの計らいでピクサーのイラストレーターとして働く、グラント・アレクサンダーを紹介して頂き、インタビューする事が出来た。今回は日本の文化やアニメの大ファンでもある、ピクサー社のキャラクター・デザイナーのグラント・アレクサンダー氏にビートラックス社 CEOのブランドンと共に、クリエイティブな作品を生み出し続ける会社のカルチャーから日本のアニメに関してなど、ざっくばらんに話す事が出来た。

ピクサーのイラストレーター、グラントとのインタビュー

おおらかな雰囲気と、とびっきりの笑顔。まさにThe American Guyともいえるグラントは、晴天の空の下、ピクサーキャンパスの真ん中に位置する並木道を通り、中心に位置するThe Steve Jobsビルディングの目のに置かれた巨大なLuxo Jr. の電気スタンドのオブジェ前で我々を迎えてくれた。

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グラントの「天気も良いし、中庭のテーブルで話そうか?」との提案で、野外インタビューとなった。ピクサーの中庭は野生の鳥やリスが棲息し、サンフランシスコエリアの喧噪とは全く異なるゆったりとした雰囲気がある。これがGoogleやFacebookなどの企業であれば、いたるところにMacbookをもったエンジニアがいるはずであるが、映画スタジオのピクサーは雰囲気が少し違う。どちらかというとテーマパークにいるような雰囲気だ。

もともとは技術の実験として作られたトイ・ストーリー

ピクサー・アニメーション・スタジオが1986年に始まった当初は映画の会社ではなく、ハードウェアとソフトウェアの会社でした。実際映画を作り始めたのは、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターが自分達の技術を見せびらかすために、シュートフィルムの映画と広告を作ったのがきっかけでした。それが発展して出来上がったのがあの「トイ・ストーリー」です。

もともと技術が強い事業にアートを加えるという、スティーブ・ジョブスがMacを作る際にも使ったお家芸をピクサーでも行ったような形になります。この技術とアートを組み合わせてイノベーションを起こすという考え方は日本企業に欠けているポイントであり、ピクサーの企業文化を知ることは、日本企業には大いに参考になると思います。

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 ハリウッドとは一線を画すカルチャー

グラント氏にピクサーとは何かと聞いたところ、間髪を入れずに「家族のようなもの」との応えが返ってきた。キャンパス内には誰も急いでいる人はおらず、カフェで社員がどうすれば良い映画を作れるか話し合っていたり、外でスポーツをしたりしていた。そうすることで、社員はほとんどの時間を同僚と過ごすことになり、チームを超えた家族のようにお互い感じるようになると言う。

映画と言えばハリウッドを想像する人が多いですが、ピクサーやルーカス・スタジオはサンフランシスコ・ベイエリアに位置します。それが一般的なハリウッドとは異なる企業カルチャーからユニークな作品が生み出されていると感じます。

ピクサーは家族のようなもの

ピクサーの社員は毎朝、おなじみのピクサーと大きく書かれたゲートをくぐり抜け、映画の冒頭にいつも出てくる電気スタンドの巨大モニュメントを横切り、自分の個室へと向かう。このモニュメントの前でスタッフとすれ違う頻度が多く,社内のコミュニケーションを促進しています。

オフィスとなる個室は入社初年度から与えられ、自分の好きにデコレーションすることができます。昼になり、オープンカフェテリアでランチを食べ、屋上のテラスから緑で囲まれたキャンパスを見渡しながらコーヒーで一息つく。

そこからはキャンパス内にあるアトリウムや200人座れる円形劇場を見ることができます。キャンパス内には他にもプール、バスケットボールコート、サッカー場と様々な設備が整っていて、退社する前には庭に植えられたハーブや果物を採って夕食のために持ち帰ることもできるんです。

非ハリウッド型チーム編成

例えばハリウッドだと多くのスタジオが点在し、多くの作品が速いスピードでリリースされます。短期的にプロジェクトベースで採用を行います。映画に関わる人達も多く存在しているので、チームは作品ごとのプロジェクト単位で編成され、プロジェクト終了とともに解散になるケースが一般的です。フリーランサーとして働いている人達も多く存在しています。その不安定な環境故に、社員は強いプレッシャーを感じることが多いのです。

一方で、ピクサーは敢えてロサンゼルスから遠く離れたエメリービルに拠点を置き、長期的な視点で社員雇ういます。スタッフは作品を作成中はもちろん忙しく働きますが、作品と作品の間の、いやゆるダウン・タイムと呼ばれる”暇”な時期でもスタッフとして自由な活動が可能になります。学校に行って新しい技術を身につけるも良し、課外活動で社会に貢献するも良し、その辺は個人の判断にゆだねられています。

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最高峰の会社でも人材流出は常に大きな課題

一方で、なんと驚くべきことに、アニメーションスタジオとして最高峰とも思えるピクサーですら人材の保持が大きな課題だと言う。特にテクノロジー部門では周辺のスタートアップ企業からのヘッドハンティングも多く、一つの悩みになっている。ピクサーはサンフランシスコからもシリコンバレーからも近いので、エンジニアはより高給なオファーがたくさんあるのだ。

社員を退屈させてはいけない

ピクサーは優秀な社員の離職を少しでも減らすために、敢えて利益追求型の企業にはならない文化を作っています。経営理論的には授業員にそれぞれ役割を与え、それだけをさせればコストと効率面で最大化が計る事ができます。しかし、その一方で、スタッフはどんどん退屈になっていき、クリエイティビティがそがれるのです。

ピクサー社員はピクサーユニバーシティーという教育を受けることができます。このプログラムでは、絵の描き方や彫刻の仕方から、映画の取り方まで無料で学ぶことができうるんです。クリエイターが進行中のプロジェクトが無い時期に、このプログラムで新しいスキルを身につけたりしています。

今まで経験したことの無い分野の学習が推奨されており、社員の視野を広げている。忙しく無い時にもピクサーユニバーシティーで勉強させて雇用し続けるこの制度は、日本のアニメーション業界とは異なり、余裕に溢れていると感じた。

仕事の善し悪しをどのように評価しているのか

映画はデザインよりもアート。だとするとそれぞれのスタッフの仕事内容の評価が非常に難しくなるのではないだろうか?その辺についてもすこし聞いてみた。

「ストーリーこそがキング 」

それは明確に評価出来ますよ。「ストーリーこそがキング」なのです。作品内に登場するキャラクター、オブジェ、アニメーション、特殊エフェクトにいたるまで、それが「ストーリーにふさわしいかどうか」が判断基準になるのです。たとえどんなに美しいCGを作成しても、ストーリー的にNGになる事もあります。

物語・キャラクター、そしてそれらを作り出す世界観がピクサーにとって最も重要であり、コンピューターアニメーションに革命的な最新技術を導入してきてはいるものの、それは最重要事項ではないのです。だからこそ、キャンパスに遊び心を入れ創意工夫を凝らし、どのようなストーリーこそが技術にマッチするのか、を正しく選択できるようにすることを日頃から重要視ししています。

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想像力はどこからくるのか

ピクサーを常に革新的にし、最先端の技術を毎年生み出せている秘訣は何なのかその辺についても聞いてみた。

クリエイティブな環境とカルチャーの両方が必要

秘訣の1つはキャンパスのレイアウトです。ここは広々と空間を使っており、競争を感じさせず、リラックスできる雰囲気で溢れています。例えば、スティーブ・ジョブズ・ビルディングでは、ジョブズは意図的にエンジニアとアニメーターが交流できるようにしています。建物の右側にクリエイティブ系のオフィス (右脳), 左側に技術系のオフィス (左脳) を配置し、その中心にカフェテリアを設ける。これにより部門を超えてお互いの知識を共有するようになり、新しいアイディアが生まれるのです。

しかしキャンパスだけが想像力を引き出す全ての要因ではありません。映画業界は次回作が出る度に大きな期待が寄せられ、公開日の締め切りに追われています。実際に「トイ・ストーリー2」を制作していた際には、ある疲れ果てた社員が自分の赤ちゃんを車内に置きっぱなしにしてしまう事件がありました。幸運にも赤ちゃんは大事に至らなかったが、この事件以降、ピクサーは育児休暇や、土日の仕事禁止、期限に追われていても働き過ぎないこと等のサポートをするようになりました。

このような「人」を大切にするカルチャーもクリエイティブな作品を作り出す一つのファクターになっているのです。

世界で認められるには異文化を理解すること

ピクサーが想像力を維持しているもう1つの秘訣は、世界中の異なる文化を深く理解しているところにあります。ピクサー本社のクリエイターは各国にあるローカルチームから、その国の笑いのツボは何なのか、よくある名前は何なのか、トレイラーを公開するタイミングと見せ方などといった細かいアドバイスを受けます。例えば、イギリスでは週末が晴れた場合には誰も映画館にいかない。そのまま試写会をしたら誰も見に来ないので、天気が悪い日まで試写会の日を伸ばしたというエピソードもあるんです。

もともと異文化を理解しようとする姿勢は、共同創業者であるジョンの異文化研究が始まりででした。「カーズ」を制作していた際には、クリエイターは実際にクラシックカーレースのイベントに参加したりしています。この経験で車を運転することの難しさを知るだけでなく、車体の形がどのように見えるかなどをより正確に知ることができ、車オタクですら「この映画、車のことよく分かってるじゃん」と言わせるほどのクオリティとなりました。その国や分野の文化を理解することで、本物とそっくりな描写ができるようになり、アメリカ以外の国の視聴者でも、ホームのような感覚で映画を見ることができるのだ。

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日本の文化とアニメ業界に関しての印象

グラントは子どもの頃から日本のアニメに憧れ、現在でも大の日本ファン。すでにシン・ゴジラも鑑賞済みで、日本のアニメや映画作品が彼の大きなインスピレーションにもなっているという。そんな彼から見た「日本」の印象を聞いてみた。

日本のクリエイターは少し可哀想

日本には本当に多くの優れたクリエイターがいます。僕も本当に多くの作品と作った方々を尊敬しています。しかし残念な事に、彼らが置かれている労働環境が非常に可哀想にも感じるのです。彼らは朝から晩まで仕事をし、仕事以外の社会生活がほとんど無い人もいるとききます。また、僕が知り合ったとあるアニメーターは非常に優秀で、才能に満ちあふれているのですが、人とのコミュニケーションを嫌い、あまり表には出てきません。これは非常にもったいない事だと感じています。

例えば、秋葉原のようなオタクの楽園の様な場所もありますが、日本のアニメ業界の人達は総じて内にこもっている印象を受けます。アメリカではクリエイターもアニメーターも高いコミニュケーション能力が求められ,あるいみ「リア充」である必要があるのです。また、こちらではチームワークを重要視しているのに対して、日本のこの業界では、トップのクリエイター+アシスタント集団という感じで、組織の構成が違います。恐らくそれが理由でクリエイターのスピリットが反映された、かなりユニークな作品が作り上げられているとは思いますが、環境としてはあまりよく無い気もするのです。

もし日本でスタジオをやるなら東京は選ばない

そして、東京という街にも少し余裕の無さを感じます。例えば炎天下の夏に満員電車で通勤するだけでもクリエイティビティがそがれる気がするのです。僕がもし大好きな日本でスタジオをオープンするのであれば、都心ではなく郊外、もしくは他の田舎の県を選びます。そうする事でリラックスした大自然の環境の中でゆっくりと仕事に集中出来るし、クリエイティブな発想も生まれるような気がします。

もともと日本は交通の便がよく、コンビニも充実しているので、郊外でも生活に支障は無いと感じています。

ピクサーも中身は意外とカオス

でも実はピクサーも入る前と入った後では少し印象が違いました。小さい頃から「どんなに凄いところなんだろう」と憧れていたこの会社は、まだまだカオスなところも多いです。映画産業はリスクも高く、何があたるか分かりません。そんな中で、個々で働くスタッフも暗中模索の中から最善の作品を作り出しています。社長や経営陣も迷いの中から答えを出します。僕たちも間違える事もたくさんあるし、全てに対して自信があるわけでもないのです。これまでは上手くいっていますが、これからも油断は出来ないと思っています。

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インタビューを終えて

チームでクリエイティブさを維持するのは難しい。キャンパス内のあらゆる工夫で、ピクサーは協力性と想像性を促進し、チーム全体をイノベーティブにしている。私たちがクリエイティブになるためにピクサーから学べることは何なのか。

グラント氏によるとピクサーを特別なものにしているものは、お互いに強く信頼し合っていることだ。日本のアニメーション業界ではセンスがあり優秀な1人が引っ張ることが多いが、こちらではあくまでチームで作品を作り上げる。

特に上司の部下に対する心の広さが大切である。一般的に上司は部下が行っていることを全て把握したがるが、グラント氏によると、それは意思決定の速度を遅める原因になっているとのことだ。社員はある程度の自由がある時により仕事のやる気が上がるものだ。

例えば、グーグルではプロジェクト間の異動を認めている。チームメイトに会社全体を見渡す自由を与えることで、社員を退屈させずにやる気を出させている。自分は会社の歯車の1つでは無く、大きく貢献しているんだと思わせることが必要なのである。

仕事意欲を引き出し、クリエイティビティを極める

チームの個人にとって最も重要なことは、プロジェクトなどに対しての貢献をしているという実感を持つことで、「チームの一員であり、ピクサーのクリエイティビティの一部であり、そして映画に使われている技術の一部であることを意識することができる」とグラント氏は語る。

ピクサーは部署間を超えた信頼を生み出し、またチーム内でそれぞれがピクサーのクリエイティビティに貢献している。これこそがまさに過去30年間で映画史に残る伝説を残し続けてきているピクサーの、明るみに出ない秘訣なのかもしれない。

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