循環論法について
循環論法とは一般的に, ある事柄の説明やある命題の証明の中に, 前提としてその事柄, 命題自体が使われていることを言います. 有名な例では, ある国語辞典で「右」を引くと”左の反対”と書かれていて, 「左」を引くと”右の反対”と書かれている, というものがあります. これでは結局「右」が何なのか分かりません. このように, 説明や証明が循環論法になっていると, それは意味を成しません.
数学の証明問題を習いたてのときに証明すべき事柄を証明の中で使ってしまう人がいますが, それをすると循環論法になってしまいます.
循環論法の例
高校数学の中にも循環論法があります. 置換積分を習った時に一度は計算する円の面積ですが, 計算に使うテクニックを元へ辿っていくと円の面積を利用しているのでは, というものです. 以下, 実際にたどってみます.
円の面積を求めるには
(1)
の積分をしますが, この計算はとおいて置換積分します. 実際に置換すると,
なので,
(2)
と面積が求まるのですが, ここで使っている三角関数の積分は, 三角関数の微分公式
からきていて, この公式は微分の定義によって,
(3)
と導かれ, この計算では, 極限の公式
(4)
を用いています.
これは, 上の図で
扇形OAB
が成り立つことを利用して
(5)
を導き,
(6)
と変形してはさみうちの原理を用いることで示されます.
さて, ここで扇形の面積を使ってしまいました. 循環論法になっています!
では, 循環論法でなく円の面積を求めるにはどうすればよいのでしょうか.
(5)の不等式を図形の面積からではなく, 微分を用いて示せば, と思いますが, 三角関数の微分をつかうとまた循環論法になってしまいます.
結論から言うと, 高校内容ではありませんが, ロピタル(l’Hopital)の定理を用いて(4)の公式を
(7)
と求めることで循環論法が解消されます.(もしかしたら高校内容できちんと示せるかもしれませんが).
最後に
以前東大で三角関数の加法定理の証明が問われたときに, 回転行列を用いた人が多数いてそれが循環論法なのでは, という問題がありました(実際は回転行列を加法定理に依らず示すことができるらしく大丈夫だったようですが).
このように入試などの問題で, 普段当たり前のように使っている定理や公式の証明が求められることがありますが, 循環論法になっていないか気を付けましょう.