最高なNulbarichと「J-FUNK」ムーブメント
柴那典(以下、柴) 前回から3ヶ月ぶりくらいになりますけど——
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今回は宇多田ヒカル、PPAPと、話したいこと盛りだくさんですよ!
柴 ですね。まずは、最近グッときてる曲を紹介していきたいなと。
大谷 いいですね! いっぱいありますよ!
柴 お、では大谷さんからお願いします。
大谷 そうだなあ、柴さん、Nulbarichって知ってます? 最高っすよ!
柴 おっ、知らなかった。格好いいなあ! ジャミロクワイとかマルーン5みたい。どんなバンドなんですか?
大谷 もともとソロアーティストだったJQって人が組んだバンドで。自分の頭の中で鳴ってる音をやりたいって言って、このプロジェクトになったらしいんですよ。5人編成だけどメンバーは流動的で。
柴 Suchmosもそうだし、こういうオシャレな音楽をやる人たちって、どんどん増えてますよね。ファンクや黒人音楽を根っ子に持つグルーヴィーなポップスというか。
大谷 そうそう。Nulbarichもそうですけど、今の音楽シーンにきてるこの流れをわかりやすく「J−FUNK」って呼び名で言い表したいと思っていて。
柴 確かに「J-FUNK」かも。実際、去年に星野源さんの『YELLOW DANCER』が出てから、明らかにシーンの風景が変わった気がしますね。
大谷 そうなんですよ。そこから、こういうテイストがシーンの真ん中に来てる。彼ら、タワーレコードですごい売れてるんですよ。その場で視聴して買っていく人が多い。そこから口コミが広がっていくのも90年代っぽい感じ。
柴 では、僕からはこの流れでLUCKY TAPES! 彼らにはもっと売れてほしいな。今年出た中では抜群にセンスがいいし、色気がある。
大谷 最高ですよね! 作品出すたびにどんどん良くなる。本当に好きですよ。
柴 この曲、何がいいって、後半で「♪デデッ、デデデデ〜」ってレッド・ツェッペリンみたいなヘヴィなギターリフになるところがあるんです。メンバーみんながヘドバンして、ライブでもそこが一番盛り上がる。
前はインディー界隈だと、もうちょっとストイックに内に向かう表現が多かったような気がするけど。
大谷 今の若い人たちはみんな、いろんなレイヤーがあることをわかった上で、フラットに音楽を楽しんでるんですよ。昔はそういう振り付けっぽいことをちょっとやったら、外野から「セルアウトしてる」とか言われて「あれ? こうじゃいけないのかな」ってなってたかもしれないけど、そうじゃない。
柴 楽しんでるもん勝ちな世の中になってますよね。ひょっとしたら音楽以外もそうかもしれない。映画でも応援上映みたいに一体感を楽しむものが増えている。
大谷 そう! 本当にそうですよ。
柴 もはやオタクコンテンツもリア充化してるんですよね。ちょっと前は「オタクVSリア充」みたいな対立構造があったじゃないですか。リア充は外でウェイウェイして、オタクはそれを嫌って家で引きこもってる、みたいな。今って、そういう対立がなくなってる感じする。
大谷 そうそう、現場にあるのは完全にそういう雰囲気です。オタクだって、非マッチョの文系だって、普通にそうやって楽しむでしょ!? みたいな流れになっている。だから僕はBRADIOに関しても完全に肯定派なんです。
柴 BRADIOもまさに「J-FUNK」のバンドですね。かなりコテコテの。
大谷 BRADIOは僕がやってる野外フェスの「マグロック」に出てもらったんですけど、実は目の前のお客さんを一番盛り上げたのは彼らだったんですね。正直、フタを開ける前は誰も期待してなかった。でも、KANA-BOONとか他の出演者もみんな彼らのファンになっちゃった。
柴 ライブもちゃんとショーとして楽しめるものになってるんですか?
大谷 そう。ちゃんとステップ踏んだりしてね。彼らはユーモアやコミカルなエッセンスを織り込んで、エンターテイメントの度合いを上げているんです。そういう人たちが現場でちゃんと受けてる。
K-POPではない韓国のポップ
大谷 そうだ、柴さん、韓国のスルタン・オブ・ザ・ディスコってバンド知ってます?
柴 知らないです。どんな人たちなんですか?
大谷 今年のサマソニにも出て、12月には日本デビューも決まった。
柴 へー! BIGBANGみたいな、よくあるK-POPグループの感じとは全然違いますね。
大谷 ずいぶん前から噂は聞いてたんです。どうもスクービー・ドゥーが韓国に行ったときに対バンしてたらしくて。向こうに格好いいバンドがいる、と。しかも80年代のディスコのフレーバーを今風にアップデートしてやってるって。
柴 じゃあスクービー・ドゥーとは相性バッチリですね。彼らこそ20年以上ずっと日本でディスコ・ファンクをやってきたバンドだから。
大谷 スルタン・オブ・ザ・ディスコもエンタメ志向が強いんですよ。それを現場でつちかってる。サマソニでも、初見の人がすごい盛り上がってた。
ちなみに日本のデビュー盤は「オリエンタルディスコ特急」っていうミニアルバムなんですけど、表題曲の日本語詞を綾小路翔さんが書いてる。だから来年の氣志團万博にも出るかもしれない。
柴 正しいセレクトだなあ!
大谷 韓国って、5年くらい前から渋谷系っぽいサウンドがすごく流行ってたんですって。だから実は今の日本ともちゃんとシンクロしてる。あの感じが、隣の国にもちゃんと伝染してるんだなって。
柴 ですよね。実は僕がオススメしようと思ってたのも、まさに韓国のバンドんですよ。hyukohって書いて「ヒョゴ」っていう4人組。彼らも今年のサマソニに出てた。
大谷 ヒョゴね! 最高ですよね。もうチケットもとれなくなってる。
柴 やっぱり彼らもセンスがいいんですよね。Suchmosもそうだけど、どういう音を鳴らしてどういうことをすれば格好いいのか自然体でわかってる。洗練されてるというか。
大谷 ペトロールズにも近い、背筋が伸びちゃう感じの格好よさというかね。
柴 ヒョゴを聴いて思ったのは、ブラック・ミュージックをアジア人がやると、日本人も韓国人も実は似たアプローチになるのかもしれないっていうことで。憧れがあるけど、黒人そのものにはなれない。
ヒョゴも、歌詞に韓国語と英語が混じってるんですよ。これもJ-POPで日本語と英語が混じってるの同じだと思う。
大谷 そうそう。だからメインストリームのK-POPがアメリカのサウンドをそのままやるのとはちょっと違うんですよね。一回咀嚼して、そこで特異なアレンジが入る。それがすごくおもしろい。
柴 ね! 僕、やっぱりおもしろいものは「憧れ」から生じると思うんです。憧れてるけど、その本物にはなれない。だからジャンプする。その飛躍から面白い表現が生まれる。それをヒョゴもやってる気がする。
大谷 しかも、そうやって本物に憧れて、その好きなエッセンスだけを取り入れて作っていると、それって、いつか別のオリジナルになっちゃうんですよ。
音楽も映画も憧れから新しいオリジナルになる
大谷 最近、黒沢清監督と話したんですけれど、黒沢監督がやってるのも間違いなく新しいオリジナルで。
北野武監督もそうですけど、あの人はもともとすごい映画オタクで。もともとVシネマを撮ってた時代から、自分の好きな映画のエッセンスをいろんなところに拡大解釈して入れていた。それが今、フランスですごい人気がある。
柴 タランティーノもそうですよね。
大谷 日本ではすぐに「パクリ」って言われるけど、そうじゃないんですよ。エッセンスだけを抽出すれば、それが世界で通用する。超オリジナルになる。共通言語になるわけだから。
柴 世界で通用するって言えば、yahyelもすごいですよね。日本のグループだけど、全然日本っぽくない。今まで出てきたバンドとはちょっと毛色が違うけど、完全にワールドクラス。
大谷 出た! 彼ら、相当ウワサになってますよね。僕もこれ聴いたときはマジで驚きましたよ。
柴 彼らはファンクと言うよりは、ここ数年のインディーR&Bとか、カニエ・ウエストやフランク・オーシャンあたりの流れにある音楽性なんですけど、やっぱり声に色気があって、そういうところがすごく格好いい。
大谷 すごい時代になりましたよね。あと、TOYOMUっていう人が作った「印象III : なんとなく、パブロ」ってのが超おもしろくて。
柴 なんですか?? これは。
大谷 今年の3月、カニエ・ウェストの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』が一回リリース延期になったことがあったじゃないですか。その時に、「俺が思うカニエ・ウエストの新作」を勝手に妄想で作って発表しちゃったんですよ。そしたら、ビルボードとかピッチフォークみたいな海外のメディアが食いついて記事にしてくれた。
柴 へー! どんな人なんですか?
大谷 京都に住んでる宅録ミュージシャンなんです。岡崎体育と同じエリアにいる人ですね。そういうやつが、別の曲では星野源の『YELLOW DANCER』を勝手にリミックスしている。ヤマハCS1xっていう、90年代の安いシンセサイザーを使ってチープに作って、あえてカセットテープに録音してたりする。
柴 すごいな、不思議な時代になってますね。
大谷 彼が11月に『ZEKKEI』っていうEPを出すんですけど、それはレイ・ハラカミさんみたいな感じで普通に格好よくて。
柴 でも、yahyelも当たり前にイギリスとフランスをツアーしてるし、TOYOMUも日本より先に海外のメディアが食いついてるし、時代は変わりましたね。
大谷 ほんとそうなんですよ。どんどん国境がなくなってる。逆にスルタン・オブ・ザ・ディスコとかヒョゴみたいに、我々リスナーの側も海外の音楽をフラットに見て、おもしろいと思ったら飛びついたほうがいい時代になってる。
柴 ね! だから、今の時代、もう「海外進出」っていう言葉を使ってるのが一番時代遅れだと思うんです。もう海で隔てられてないわけだから。
大谷 そう! じゃあ次回はピコ太郎のPPAPの話をしましょうよ——。
構成:柴那典