世界経済の重病患者の一人が健康回復に向かう兆候を見せている。この10年間、控えめに言っても経済政策の質が一定しなかったユーロ圏だが、ここに来て、いくらかの勢いをうかがわせる確かな回復を生み出している。最新の朗報は24日、ユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)が大きく上昇し、特にドイツで高い伸びを見せた。
■ユーロ圏の景況感は今年最高に
もちろん、イタリアの銀行問題と憲法改正をめぐる国民投票、選挙前のフランスとドイツの政治的不透明感など、脅威は依然残っている。潜在成長率もさえないままだ。だが、このユーロ圏の回復は、需要不足を抱える経済に成長を生み出す金融・財政政策の力の証しだ。
ユーロ圏全体の製造業とサービス業を合わせた10月の総合PMIは、景気横ばいを示す50を大きく上回る53.7で今年最高となった。ドイツのPMI速報値は、ユーロ圏最大のドイツ経済が今年10~12月期に加速することを示唆している。
確かに、予想される国内総生産(GDP)の拡大はめざましいものではなく、ユーロ圏全体の10~12月期の予想成長率は約0.4%だ。債務危機で改革圧力を受けた周縁諸国に一部例外はあるものの、これまでユーロ圏は、潜在成長力の押し上げに有効な供給側の改革をしていないことがしばしば懸念されてきた。例えば、フランスのマクロン前経済相がまとめた自由化策のパッケージ「マクロン法案」は、政治的な反対で大部分がつぶされた。
だが、この回復の兆しは、潜在成長率が低い場合にも金融・財政政策が力になりうることを示している。量的金融緩和策とマイナス金利を含む欧州中央銀行(ECB)の一連の大胆な行動が、信頼感の高まりを呼び景気拡大を促しているようだ。その一方で欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会の当局者は何もできないことに歯ぎしりしているかもしれないが、財政引き締めが成長にさらなる打撃を及ぼす事態を避けて財政目標未達のスペインを懲らしめなかったのは妥当な判断だ。
■財政政策の継続が必要
実際、ECBが切迫感を強めながら合図を送っているように、短・中期の成長促進には財政側のさらなる行動が求められる。ユーロ圏の財政スタンスは昨年の時点で引き締めから大まかな均衡、あるいは穏やかな刺激へとわずかに変わったにすぎない。ユーロ圏内の財政計画はまだら模様で、ドイツとイタリアが来年は緩和の方針であるのに対し、フランスやベルギーは引き締めの公算が大だ。
EU予算を欧州投資銀行(EIB)経由でよりリスクの高い投資の支援に充てる「ユンケル・プラン」も、行われていた事業以外への投資につながっていることを示す確証はなく、おそらくほとんど効果を生んでいない。特にドイツなど、財政支出拡大の余地があるユーロ圏諸国はスタンスをさらに緩める責務がある。
ユーロ圏は慢性的病状から脱したわけでは決してない。病状は低成長と高債務、それに銀行同盟のあまりの不完全さだ。だが少なくとも、ユーロ圏は財政と金融の投薬によって重症患者の病棟を離れ、快方に向かい始めた。患者がまた倒れないよう、特に財政の医師が気を配らなければならない。
(2016年10月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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