管理人です。
三浦弘行九段のソフト不正(いわゆるカンニング)疑惑の時系列まとめ記事その3です。
これまでの記事(その1、その2)と重複する部分も多いですが、本記事だけ読んでもだいたいの流れがわかるようにしました。
この記事の目的
2016年10月20日発売の週刊文春によって、本疑惑における日本将棋連盟(常務会)側の主張が見えてきました。
前回の記事(その2)は、文春の発売直後で、三浦九段の反論文書2が出ていない時点のものでしたので、やや三浦九段側にとって不利な印象になってしまったかもしれません。
その後、三浦弘行九段側も21日に2度目の反論文書を発表しました。
連盟側は顧問弁護士らによる調査チームを立ち上げ調査に入りますが、事態が膠着してしばらく進展しない可能性もあるため、ここで今一度事の経緯を時系列でまとめておきます。
時系列が必要ではなく、それより疑惑の論点を、という方には連盟側と三浦九段側の主張の食い違いを整理した記事(随時更新)もありますので参考にして下さい。
また、報道各社(ソース)の立場については、記事の後半に書きます。
(記事中、同じ情報が2回書かれている箇所がいくつかありますが(出来事の発生時点と、その出来事の報道時点)、記事を部分的に閲覧する方のためにそうしています)
疑惑の発覚まで
7~8月頃。この頃から三浦九段の離席が多くなったと報道されている。
7月11日。竜王戦決勝トーナメント、三浦九段vs郷田真隆王将。新潮の報道によると、この対局で敗れた郷田王将が三浦九段の処分を連盟に求めている(あるベテラン棋士の証言)。
7月26日。竜王戦挑戦者決定トーナメント、三浦九段vs久保利明九段。
三浦九段とソフト(技巧)との「一致率」が高いとされる4局のうちの最初の1局。この対局での三浦九段の離席が特に多かったとされる。三浦九段の終盤の踏み込みが鋭く、将棋プレミアムで解説していた村山慈明七段は「衝撃的な勝ち方」と評した。観戦記によると、終局後、敗れた久保九段は「信じられない」といった様子で言葉少な。
文春によると、久保九段は相手がカンニングしているという感覚があり、知人との検証を経てそれを確信したが、疑惑を告発した張本人ではない(本人の証言)。新潮では、久保九段が告発したと書かれている(ベテラン棋士の証言)。
三浦九段は反論文書1で、離席が多かったのはこの日特に体調が悪かったためだとしている。
7月下旬。東京新聞によると、連盟は「三浦九段が不自然な離席を繰り返している」という指摘を(棋士から?)受けたとされる。
8月上旬。上記を受け、連盟は全棋士に対して不必要な離席を避けるようにとの文書を送付。
竜王戦挑戦者決定三番勝負へ
8月頃。三浦九段の反論文書2によると、三枚堂達也四段が遠隔操作アプリ(TeamViewer)を使っているのを見た三浦九段が、どうやってるのかと聞いた(詳しい日付は不明)。しかしアプリの詳しい説明はされてないしインストールもしていない。
三枚堂四段は「私が教えたのはアプリの存在自体」と文春のインタビューに応えている。教えた時期は書かれていない。
8月15日。竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局、三浦九段vs丸山忠久九段。丸山九段が勝利。本局は疑惑に含まれていない。
8月26日、9月8日。竜王戦挑決三番勝負第2局、第3局。一致率が高い4局のうちの2局目、3局目。東京新聞によると、連盟理事らがこの三番勝負で三浦九段の頻繁な離席を確認したという。
ただ、対局相手の丸山九段は後日朝日新聞の取材に「不審に思うことはなかった」と発言。また第2局の観戦記者である元女流棋士の藤田麻衣子さんもインタビューで「むしろ丸山先生の離席が多かった」「感想戦も不自然さは感じませんでした」と。
この2局を連勝した三浦九段は、竜王戦七番勝負の挑戦者に決定。
9月19日。NHK杯テレビ将棋トーナメントの収録、三浦九段vs橋本崇載八段。後に橋本八段は三浦九段の疑惑に「1億%クロ」とツイッターで言及している。新潮の報道によると、橋本八段も連盟に処分を求めている(ベテラン棋士の証言)。
A級順位戦、渡辺明竜王vs三浦弘行九段とその前後
9月26日。所属棋士約60人が参加した連盟の月例報告会。執行部はここで電子機器の規制に関して棋士の意見を聞いた。文春によると、久保九段が電子機器の持ち込み禁止等を提案。三浦九段は「賛成です。でも私はやってません」と唐突な発言。
10月3日。三浦九段の処分前最後の対局。一致率が高いとされる4局のうちの4局目。第75期A級順位戦の対渡辺明竜王戦で、三浦九段が勝利。観戦記には終局後「渡辺の言葉は歯切れが悪かった。終盤の感想戦は一切なし。形式的に一礼を済ませると、渡辺はぶぜんとして対局室を立ち去った」と。
後に出る文春によると、渡辺竜王は終局後は「研究にハマって負けた」と思っていたが、この対局を見ていた棋士が三浦九段の手のソフトの推奨手との「一致」を渡辺竜王に知らせたことで、事が動くことになる。後に渡辺竜王は、三浦九段の自身との対局および過去の対局も調べ、指し手の一致、離席のタイミング、感想戦での読み筋などから「間違いなくクロだ」と確信。
また、文春はこの頃には疑惑の取材を始め、大手新聞社も疑惑を把握。
新潮の報道でも、この対局が疑惑のきっかけとなったとされている(ベテラン棋士の証言)
三浦九段は、後に出る反論文書1で、一致率について「最善手を指せばソフトと一致するのは不自然なことではない。連盟は資料を開示しておらず、どの手についてのことかわからない」としている。
「一致率」については、後に何人かの棋士の棋士がツイッター等で言及していますが、特に渡辺正和五段は「プロ棋士として言える事は、三浦九段は事前の研究をしっかりしていたから一致率が高くなるのは当然」と発信。
ただ、文春では渡辺竜王が、一致率の高さだけが問題ではなく「一致率が40%でも急所でカンニングすれば勝てる。離席のタイミングとあわせて考えれば、プロならわかる」とも述べている。
10月5日。連盟は棋士に対する「対局室へのスマホ等の電子機器の持ち込み禁止および対局中の外出禁止」を定めた新規定を発表。施行は12月14日。
それに先立つ竜王戦七番勝負では金属探知機の導入も決定。サンスポによると、この金属探知機の導入は渡辺竜王の提案。
10月7日。竜王から島朗理事へ電話
文春によると、この日に渡辺竜王が島朗九段(連盟理事)に電話。
産経新聞によると、おそらくこの時期に渡辺竜王は「疑念がある棋士と指すつもりはない。タイトルを剥奪されても構わない」と対応を強く求めた(連盟会見)。
10月10日。極秘会合
文春によると、この日に渡辺竜王、島理事に加え、羽生善治三冠、佐藤天彦名人、谷川浩司九段(連盟会長)、佐藤康光九段(棋士会長)、ソフトに詳しい千田翔太五段の7人が、島理事宅に集まり極秘会合。久保九段は電話で参加。
渡辺竜王の説明に対してシロを主張する棋士はいなかったという。
毎日新聞によると、渡辺竜王は「不正を行った三浦九段と対局するつもりはない。常務会で判断してほしい」と要求。
島理事は三浦九段に連絡し問いただすも三浦九段は不正を認めず。
10月11日。常務会で三浦九段への聞き取り調査
朝。文春によると、羽生善治三冠が「限りなく黒に近い灰色だと思います」と島朗理事にメール。
ただし羽生三冠は後にご夫人のTwitterで、文春の記事に誤解を招く表現があったとして「灰色に近いと発言をしたのは事実です」「今回の件は白の証明も黒の証明も難しいと考えています。疑わしきは罰せずが大原則と思っています」と表明している。
同日、常務会による三浦九段への聞き取り調査。渡辺竜王、千田五段も参加。連盟の会見によると、ここで三浦九段が休場を申し出たという。しかし三浦九段は反論文書1で「一方的に処分された」、NHKでもインタビューで「辞退するわけがない」としている。
新潮によると、三浦九段が使用したソフトは「技巧」だと特定され、終盤における三浦九段の手と技巧の手との一致率は93%というほとんどありえない数字だったという(連盟幹部の証言)。
文春によると、会の前には三枚堂達也四段を呼び出し、三浦九段に「スマホでPCを遠隔操作するアプリTeamViewer」を教えたとの証言を得た(前述)。渡辺竜王は三浦九段の希望により同席。会で三浦九段は疑惑を否定。会の後に連盟職員が三浦九段と一緒に自宅に行き、その場でPCなどを確保。スマホ提出は拒否。
一方で三浦九段の反論文書2によると、三浦九段が遠隔操作アプリを知った経緯は、8月頃に三枚堂四段が使っているのを見て「どうやってるの」と聞いて教えてもらっただけで、詳しい説明はされていないしインストールもしていない(これも前述)。渡辺竜王は会に呼ばないようにと伝えたはずだった。PCは自主的に提出。スマホは提出を拒否したわけではなく、そもそも求められなかった。
10月12日。処分の発表
日本将棋連盟から、三浦九段の年内出場停止処分と、竜王戦七番勝負の挑戦者が丸山忠久九段に変更されたと発表された。
連盟から公式サイトを通じて発表されたのは、処分と竜王戦挑戦者変更の事実だけ。
代わって挑戦者となった丸山九段は「連盟の決定には賛同しかねる」とのコメント。
処分理由は発表されていないが、連盟の会見の内容が、その後数日間にわたり大手報道機関各社によって伝えられた。ただ、処分理由は2つの説があり「休場届の不提出」説と「休場届の不提出を含む一連の疑惑に対するもの」説。詳しくはその1を参照。
三浦九段は取材に対し「ぬれぎぬです。不正行為はしていません。弁護士と相談して行動する」。また、処分の撤回を求めるとの弁護士の発言が報道された。
渡辺竜王はブログで、「大変な事態になってしまいましたが、引き続き将棋界へのご声援を」とコメント。詳細は報道に任せるとした。
10月13日。発表翌日
連盟が二度目の会見。
東京新聞に渡辺竜王のコメント掲載「残念です。(将棋ソフト問題で)疑わしい要素がいくつか出ている状況で、やむを得ない措置ではないかと思う」
橋本崇載八段が疑惑について「1億%クロ」とツイート。
将棋フォーカスの再放送が、竜王戦特集回から、かりんさん実力テスト回に、差し替えられた。
竜王戦七番勝負第1局
10月14日。竜王戦七番勝負第1局前夜祭。金属探知機で対局者が調べられた。
10月15日。竜王戦七番勝負第1局初日。代わって挑戦者となった丸山九段が、前述のA級順位戦(渡辺竜王vs三浦九段)における三浦九段と同じ仕掛け(▲4五桂)を選んだ。渡辺竜王もそれを誘った。
10月16日。竜王戦七番勝負第1局2日目。渡辺竜王が第1局を制した。68手という短手数で、2日目の午後のおやつ前に終了という短い対局だった。
10月18日。三浦九段が反論文書1を発表
渡辺竜王がブログで「ブログはしばらく対局のことだけにします」と書くなど、棋士、女流棋士らが発言を控えるムードに。
渡辺正和五段のツイッターによると「棋士が意見を言わないように一方的なお願いが来ている」。
夜。三浦九段が「対局中のソフト使用は一切ない」「連盟に一方的に処分された」などとする反論文書1を発表。
同日、三浦九段がNHKのインタビューで「竜王戦は将棋界最高峰の棋戦ですから、辞退するわけがない」などと反論。
連盟はこれまで「これ以上の調査はしない」としていたが、この反論を受け「調査を続ける」とコメント。
10月19日。文春WEBに竜王のインタビュー
週刊文春がWEBの速報で渡辺竜王のインタビューを報じる。渡辺竜王は「指し手の一致、離席のタイミング、感想戦での読み筋などから「間違いなくクロだ」」「最悪のシナリオは『疑惑を知りながら隠していたという事が発覚する事だ』と判断した」などと応えている。
10月20日。週刊文春が発売
前述の、羽生善治三冠が「限りなく黒に近い灰色だと思います」と島朗理事に送ったメールから始まる、我々将棋ファンにとってみれば重苦しい記事が4ページにわたって週刊文春に掲載。
週刊新潮も発売された。こちらは匿名の棋士や連盟幹部の話が中心。三浦九段の師匠である西村一義九段のインタビュー(「信じられない」として三浦九段の人柄を説明して「疑いを晴らして立ち直ってくれることを願います」といった内容)も掲載。
10月21日。処分の説明会と三浦九段の反論文書2
連盟が、一連の経緯について所属棋士・女流棋士向けに説明会を開催。
この会の模様について、朝日新聞やスポーツ報知は「処分については棋士から賛否両論があった」と伝えた一方、サンスポは「異論少なく」と伝えた。
会に参加した田丸昇九段は週刊SPA!で「私の実感では、その場にいた棋士の多くが三浦九段に同情的でした」と話している。
丸山九段は朝日新聞の取材に「三浦九段との対局で不審に思うことはなかった。一連の経緯には今も疑問が残っている」、スポーツ報知の取材には「発端から経緯に至るまで(連盟の対応は)疑問だらけです」、処分の根拠が一致率ということに「僕はコンピューターに支配される世界なんてまっぴらごめんです」と応えている。
連盟は、顧問弁護士らによる調査委員会を発足させ、本格的な調査開始すると発表した。三浦九段にはスマホの提出を求めるとした。
同日、三浦九段が「スマホの提出を拒否していない。そもそも連盟が望まなかった」「スマホ等を(連盟ではなく)調査会社に提出して調べてもらい、結果をそのまま公表する」などとする反論文書2を発表。
竜王の責任
10月22日。渡辺正和五段がツイッターで「今まで受けた説明や報道の通りならタイトル保持者が挑戦者を変更させるように動いたという事なので渡辺竜王を失格にするべきなのかなと思います」「渡辺竜王の発言とされるものは将棋連盟定款第9条に該当し、渡辺竜王が除名になるべきものです」と、棋士として初めて渡辺竜王の責任に直接言及。
同日、渡辺竜王がブログを更新。「今回の件、遅かれ早かれこの話が世に出た時には今と同じを立場を取っていたと思います。(棋譜を調べた観点から) 調査中ということもあり、ここでは多くを語れないことをご了承下さい」
10月23日。NHK杯で、疑惑の渦中にある三浦九段と疑惑を1億%クロと断言した橋本八段が対局(収録は9月19日)。波乱はなかった。
この記事は2016年10月25日20時時点の情報に基づき書かれています。
新しくわかった情報は、私のツイッターでお知らせしています。よろしければフォローよろしくお願い致します。何か情報があれば教えてください。よろしくお願い致します。
ソースについて
各報道期間(ソース)について、私の認識を書いておきます(食い違い整理の記事と同じ内容)。
1.週刊文春は、渡辺明竜王をはじめとした実名の棋士数名のインタビューを掲載、ほんの数人の棋士や連盟幹部でしか知り得ない情報を掲載するなど、連盟側に立ち、その立場を説明するような報道をしていると認識しています。
2.週刊新潮は、匿名の棋士や連盟幹部の話を掲載しており、連盟側に近い気もしますが、三浦九段の師匠である西村一義九段のインタビューも掲載しています。
3.読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞、産経新聞は、連盟の棋戦の主催社でもありますが、基本的には連盟の会見や三浦九段の公式な反論文書をもとに報道していると認識しています。これらのソースのうち2つ以上から報道されている内容については「連盟の会見」で出た情報として扱います。ただ、朝日は会見に加えて独自に取材している感じです。読売は問題の舞台となっている竜王戦の主催社です。
4.NHKは、棋戦の主催社でもあります。三浦弘行九段の単独インタビューを唯一報道しています。
5.サンケイスポーツは、匿名の棋士の話として、三浦九段側に不利な証言を掲載している感じがあります。
6.サンスポ以外のスポーツ新聞はよく分析していません。わかりません。すみません。
過去の記事
この記事だけでも状況はわかると思いますが、過去の記事にはより詳しい状況(当時の臨場感とともに)を掲載しています。
第一報~大手報道機関の報道が出揃った10月15日時点の状況を時系列でまとめた記事。事実上のその1。
将棋ファンから見た三浦弘行九段のソフト不正使用疑惑と竜王戦の挑戦者交代
文春発売日の10月20日、午前9時までの状況を時系列でまとめた記事。
三浦弘行九段のソフト不正使用疑惑の経緯をまとめた記事(その2)
また、以下の記事は、連盟と三浦九段の主張が食い違っている点だけを列挙して整理した記事です。随時更新します。
ソフト不正疑惑について日本将棋連盟と三浦弘行九段の主張の食い違いを整理する(随時更新)
コメント
報道機関の分析について。
三浦九段は計2回、声明文を発表しています。2回目の声明文の全文を掲載した報道機関は、たぶん毎日新聞だけではないかと。私が軽く検索をかけた範囲では、毎日新聞以外見つけることができませんでした。
まとめ、その3、ありがとうございます。
9月26日の三浦九段の唐突な発言。
私も唐突と思いましたが。
ニコニコ生放送のユーザー番組で松本博文氏が
「三浦九段は既に自分が疑われていることを知っていたので、あの様に発言した」
と証言していました。
これならば、あの発言の背景として納得できました。
番組のURLはウェブサイト欄に書きました。
情報ありがとうございます。
もし覚えておられたらでいいのですが、どのあたりの時間帯の発言だったでしょうか。前半とか後半とか、誰々戦を検討中とか、ざっくりした情報でもいいのですが、もし覚えておられたらで構いませんので教えてください。
私も番組はところどころ見ていました。科学的(統計的)な検証をするのかと思ったらそうでもなかったため、途中で離脱してしまいました。私が観た時は、松本氏が三浦九段に電話したが、出てくれなかったというくだりがあって、松本氏がどこから入手した情報か知りたいのです。
繰り返しになりますが、覚えておられたらで構いません。