白金ちな



こんにちは、白金ちなです。もうすっかり秋ですね!

11月に投票ということもあり、日本のメディアでもアメリカ大統領選が取り上げられる機会が増えてきました。

「異端のトランプ氏vs女性初のクリントン氏」という構図は、一種の格闘技を見ているようで楽しくはあります。でも、多くの日本人にとってアメリカ大統領選は、「関心はあるが、関係はない」、そんな話題なのではないでしょうか。

しかし、アメリカは世界の超大国であり日本と同盟関係にある国なので、大統領が誰になるかは、私たちの身近なことにも影響してきます。

たとえばTPPです。あれだけ盛り上がっていたTPPが、大統領選後に無くなってしまう可能性が高いことをご存じでしょうか?クリントン氏はグレーな部分があるものの、基本的に両候補者ともTPPには反対姿勢を示しています。アメリカがTPP合意ならワインやチーズ、牛肉の値段が2~3割安くはずだったのですが‥

というわけで、大統領選後に最終局面を迎えるはずのTPPは日本の消費者にどのような影響があるのか、なぜ米国大統領選後に無くなる可能性が高いのか、くわしくご説明します。

米大統領選で日本人の生活に影響するのはTPP

アメリカ大統領選の論点で、日本が関係して日本の生活者である私たちに直接影響があるのは、「TPP(環太平洋経済連携協定)」です。TPPは太平洋に面する国々が協力して経済活動をおこなうために作られた協定で、参加12か国間の関税をなくし、貿易ルールを統一しようという試みです。

TPP加盟交渉国

日本 アメリカ オーストラリア ブルネイ カナダ チリ マレーシア メキシコ ニュージーランド ペルー シンガポール ベトナム

関税が撤廃されるとどうなる?

関税とは、国内で売られる外国製商品にかかる税金です。たとえば以下のような商品がお店で並んでいたとします。

  • 国内産みかん 120円
  • 外国産みかん 120円(うち関税30円)

どちらも同じ値段ですが、関税がなくなるとこうなります。

  • 国内産みかん 120円
  • 外国産みかん 90円

値段だけで言うと、外国産の方が有利になりますね。このように、関税が下がると輸入品の価格が下がります。これまでは国内の農家を保護するために関税が設けられてきましたが、関税を取り払うことで外国との取引を活発化しようというのがTPPのねらいです。

外国からモノが入りやすくなる一方で日本製を海外で売りやすくなるので、生産者の方にとってはピンチともチャンスとも言えます。そして、消費者にとってはモノの値段が安くなることが期待されます。

米大統領選とTPPの関係とは?

TPPで関税が下がるとモノの値段が下がるということですが、それがなぜアメリカ大統領選に関係するのでしょうか?

TPPでは各国代表の話し合いで関税は撤廃することで合意されています。しかし、実際に適用されるには各国が国内の議会で承認を得なければなりません。現在のオバマ大統領の任期中に批准(ひじゅん:国家が条約に同意して加盟すること)するのは議会の反対で難しいとされているので、次の大統領がどうするかにかかっています。

つまり、次期アメリカ大統領がTPPに賛成すると輸入品価格は下がり、反対するとそのままである可能性が高いのです。

TPPで大幅に価格が安くなる品目

では、具体的にどんな商品の値段に影響するのでしょうか?TPPで関税が撤廃または軽減される品目について見ていきましょう。

TPPといえばコメや牛肉、乳製品ばかりが注目されていますが、農林水産物の82%にあたる2135品目、工業製品の99%もの品目で関税が撤廃されるというのですから、いかに範囲が広くインパクトも大きいかが分かります。

関税の引き下げのタイミングは、品目によって発効後すぐまたは数年後と決まっています。特に多いのが「即時」「6年目」「11年目」です。タイミングごとに代表的な品目を一覧にしてみました。

●即時に関税が撤廃される品目

品目 現在の関税率
ぶどう 最大17%
ひじき 17%
くるみ 10%
寒天 10%
コーヒー 12%
にしん(気密容器以外) 11%
かつおの加工品(缶詰など) 9.6%
主な繊維製品(布、織物、服など) 最大14.2%
化学製品(プラスチック原料など) 6.5%

TPPが発効すると、すぐに関税がなくなる品目です。「現在の関税率」が発効直後ゼロになります。果物、野菜、魚介類、魚の加工品、アパレル関係など、多くの品目が対象です。

そのまま店頭にならぶ食品だけでなく、加工食品や工業製品の原料となるものも含まれるため、国内の商品のあらゆる分野で価格が下がる可能性があります。

●6年目に関税が撤廃される品目

品目 現在の関税率
緑茶 17%
紅茶 12%
さくらんぼ 8.5%
グレープフルーツ 10%
柑橘類の果実 23.8%
柑橘類のジャム 16.9%
トマトジュース 29.8%
ぶどうジュース 29.8%
ビスケット・クッキー 15%
マーガリン 29.8%
落花生 23.8%
ワイン 112円/L
ラード 8.5円/kg

6年目には高関税率品を含めた多くの品目の関税が撤廃されます。フルーツやフルーツ加工品、果汁、ワインのほか、これまでなかなか関税を下げられなかった落花生も含まれています。

●8年目に関税が撤廃される品目

品目 現在の関税率
オレンジ(生果) 最大32%
天然はちみつ 25.5%
朝食用シリアル 11.5%
スパークリングワイン 182円/L
グレープフルーツジュース 23%

注目のオレンジは、8年目に関税が完全に廃止になります。はちみつも高関税品目でしたが、ここで撤廃されます。

●9年目に関税が撤廃される品目

品目 現在の関税率
パスタ 30円/kg
ピザ 24%
ワッフル 18%

9年目はそれほど対象品目が多くありませんが、小麦を使った食品の関税が撤廃される時期なので、影響は少なくありません。

 

●11年目に関税が撤廃される品目

品目 現在の関税率
革製品(なめし革、靴、バッグなど) 30%など
うなぎのかば焼き 9.6%
りんご 17%
牛タン 12.8%
トマトケチャップ 21.3%
葉巻たばこ 16%
ビーフン 27%
バナナ 20%
ぶとう糖 29.8%
テキーラ 17.9%
清酒 70.4円/L
焼酎 16%
チューイングガム 24%

TPP発効後11年目には、ほとんどの品目の関税がなくなります。特に注目は「皮製品」で、レザー製品の原料となるなめし革、革靴、レザーバッグ、革製の衣類は軒並み30%の関税がなくなります。

ブランド品などの高級品は革製品を扱っていることが多く、価格がぐっと下がることが期待されます。それ以外にも、牛タン、酒類、調味料など、幅広い品目も対象となります。

●16年目に関税が撤廃される品目

品目 現在の関税率
牛肉 38→9%
フレッシュチーズ 22.4%
プロセスチーズ 40%
63,750円/頭
19,508円/頭

TPP発効後16年目には、重要品目である牛を含めた肉類が対象となります。牛肉に関しては16年目以降も関税9%が維持されますが、それ以外は撤廃されます。チーズ類の下げ幅が大きいのが特徴です。

ここでご紹介しているのは、ほんの一例です。個別の品目について知りたければ、農林水産省の「TPP協定における農林水産物関税について」および経済産業省の「TPP協定における工業製品関税」でみることができます(ただし膨大です)。

これらの商品はTPP発効後関税がなくなることが決まっていますが、先ほども述べたようにアメリカが反対したらこの話はボツです。次期大統領候補の2人は、TPPについてどのように考えているのでしょうか?

 

大統領候補は2人ともTPP反対

これまでのTPPに関する2者の発言をまとめるとこうです。

トランプ氏:
-『TPPは狂気の沙汰だ。合意は支持されるべきではないし、実現されてはならない』フォーブス

-「TPPは米国の製造業を破壊するだけでなく、米国を外国政府のルールの下に置くものだ。そんなことは起こらせない」産経


クリントン氏:
-『今も反対だし、大統領選後も反対する。大統領としても反対だ』産経

-『雇用喪失や賃金引き下げにつながる、いかなる貿易協定も阻止するというものだ。これにはTPPも含まれる』AFP


・・・ふたりとも競うように反対を表明しています。

これにはワケがあります。実はいまアメリカの中では反グローバリズムが拡がっていて、「他国とうまくやるよりも自国を優先しよう」という気運が高まっているからです。高い失業率や広がる格差が原因と言われています。

世論調査では「TPP協定から撤退し米国内の雇用を優先すると公約した大統領候補に投票する」という人が54%を超えていて、これから選挙で勝たなければならない候補者にとっては無視できる意見ではありません。

クリントン氏勝利ならTPP批准の可能性が少しある

ではどちらが大統領になってもTPP反対で違いはないのではと思ってしまうところですが、実は2人の反対の内容には微妙な差があります。

トランプ氏は支持者が労働者層であり本人も保護主義的な考えの持ち主なので、TPPには一貫して反対してきました。むしろ関税はもっと上げろと主張しています。一方で、クリントン氏はもともとTPP推進派です。彼女はオバマ大統領のもと国務長官としてTPPの重要性をアピールし、過去には「TPPは自由貿易のゴールデン・スタンダード(黄金律)になる」とまで言っています。

TPP反対理由も「協定内容は雇用を創出し、賃金を上げ、安全保障を増進するものでなければならない」としており、裏を返せばそれを満たせば批准してもいいとも取れます。

白金ちな


クリントン氏の反対表明は選挙に勝つためのポーズではないかと言われており、次の大統領選でクリントン氏が勝利した場合、トランプ氏よりもTPP批准の可能性が高いと見られています(本人は否定していますが)。

選挙前に本来の政治理念とはなれた主張をするのはどこの国の政治家にもよくあることで、当選後に態度を変えることも十分に考えられます。

よって、トランプ氏なら絶望的ですが、クリントン氏なら批准の可能性もあると言えます。

日本かアメリカ、どちらか1か国でも批准しないとTPPは失効

「アメリカが反対しても、他の国との合意があればアメリカ以外の国々とTPPをすすめられるのでは?」という疑問が起こるかも知れません。

それができないのです。TPP発効の条件は、

・参加する12の国すべてが議会の承認など国内手続きを2年以内に終えれば発効

↓※2年以内にできなかった場合

・GDP(国内総生産)の85%以上を占める少なくとも6か国が手続きを終えれば発効

となっています。

日本のGDPは17.7%、アメリカは60.4%なので、2か国だけで合計78%に達します。GDPで大きな割合を占める日本かアメリカのどちらかが欠けると、他の国と合わせても85%に達することはかなり困難です。つまり、日本とアメリカの両方が批准しないことにはTPPは失効、関税がなくなる話もナシ、7年越しの合意は幻となります。

そもそも何のためにTPPを進めるの?

日本でも、TPPに協議に参加する際は賛成派・反対派がはげしく対立しました。国内生産者は安い外国産が入ってくることで生活が脅かされる恐れがありますし、海外で勝負したい企業は参入障壁をできるだけ低くして外国企業と対等に勝負したいと考えています。

これはどの国にもみられる現象で、合意した12か国でも国内では賛否に分かれます。それでも、各国および日本政府はTPPを推進することを決めました。それはなぜでしょうか。

仲良しグループを作って経済的に有利になるのが目的

国と国が取引をする時、関税を含めた貿易ルールを取り決めます。これをFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)といいます。しかし取引相手が増えてくると、相手によってルールがバラバラだとややこしくて活発に取引をしたいと思いませんよね。

そこで、グループを作ってルールを統一しようという流れが生まれます。TPPは太平洋に面する12か国で運営するグループ版FTA・EPAなのです。TPP以外では、EU(欧州連合)、ASEAN(東南アジア諸国連合)、NAFTA(北米自由貿易協定)などが有名です。

TPPは各国の担当大臣が7年間にわたってケンケンガクガクの議論を交わしてきました。会議は毎回難航を極め、国内からも海外からもいろんな意見が飛び交い、心労のせいか甘利担当大臣は髪が真っ白になってしまいました(笑)。それでもどうにか、今年2016年2月に合意にこぎつけました。

結果は「やってみないと分からない」

皆さんもご経験があるように、誰かと一緒に何かしようという時には、必ず問題が発生します。共通ルールがどの国にも納得がいくものであればいいですが、オリンピック競技のように、ある人(国)には有利で、ある人(国)には不利、という事態がどうしても出てきていまいます。

TPP発効か失効かによって、それぞれ以下のような流れが想定できますが、実際の影響はやってみないと分かりません。

トランプ氏勝利の場合

TPP失効
・関税すえおき
・ルール変更なし 
・国内生産者影響なし
・輸入品価格そのまま
・海外でのチャンスを失う?

 

クリントン氏勝利の場合(もしかしたら?)

TPP発行
・関税の撤廃
・貿易ルールの統一
・輸入品が安くなる
・輸入企業の利益拡大
・国内生産者に打撃?

 

各国の進捗状況、今後の見通し

TPPにおける合意内容を参加国がそれぞれの国内で議会の承認を得たら、TPPは発効します。参加国は日本、アメリカ、オーストラリア、カナダ、メキシコ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ニュージーランド、ペルー、チリ、ブルネイの12か国です。ところが、合意から半年たっても、国内の議会で批准されたところはありません。

最も可能性が高いと言われている日本では閣議決定はされていて、国会の承認を待っている状態です。安倍総理大臣としては秋の臨時国会中(9月26日~11月30)に決めたい意向です。

アメリカではオバマ大統領が来年1月20日までの任期中に承認を目指す方針ですが、議会多数派の共和党の反対が根強く、成立のめどはたっていません。オバマ大統領任期中に成立しなければ次の大統領に持ち越しになりますが、候補であるトランプ氏、クリントン両氏は、TPP反対を表明しています。クリントン氏が選ばれればTPP批准の可能性が残されますが、どうなるかはまだ不透明です。

まとめ

白金ちな


白金ちなとしては、TPPに賛成でも反対でもありません。しかし、アメリカ大統領が誰になるかで近所のスーパーのチーズの値段が大きく変わるというような、風→桶屋の現象はすごく面白いなと思います。

結果次第で日本でのモノの値段が2割も3割も変わると思えば、アメリカ大統領選も身近に感じられませんか?

クリントン氏が当選すれば自宅での晩酌代が少し安くなるかも知れませんし、トランプ氏が当選したら生産者の方は安心して眠れるかも知れません。

どちらを好むにせよ、投票は11月8日、翌年1月20日には新しいアメリカ大統領が誕生します。