2002年に神奈川県横須賀市で米兵に暴行され、以来、性暴力で被害にあった女性を支援する活動を続けているオーストラリア出身で東京都在住のキャサリン・フィッシャーさんが、同杉並区の久遠キリスト教会で美術展「In Our Hands」を開いている。25日まで、入場無料。傷ついた心をいやすためにフィッシャーさんが作り続けてきた作品約80点と、フィッシャーさんのもとに届いた性暴力被害者による写真数点が展示されている。
米兵に暴行されたキャサリン・フィッシャーさんが、事件直後から作ってきたアート=東京都杉並区の久遠キリスト教会で2016年10月24日、中嶋真希撮影
1980年から日本で暮らすフィッシャーさんは、02年4月、当時米空母キティホークの乗組員だった米兵にレイプされた。米兵は不起訴になったが、フィッシャーさんは損害賠償を請求する民事訴訟を東京地裁に起こし、04年に勝訴した。しかし、裁判中に米兵は除隊して帰国し、所在不明で賠償金は支払われなかった。元米兵の居場所を捜し出したフィッシャーさんは、「お金よりも、正義のために」と現地の裁判所に東京地裁判決の履行を求めて提訴し勝訴した。しかし、賠償金は1ドルだった。
事件直後から、フィッシャーさんの支えになったのがアートだ。アート展を開くのは、今回で2度目。展示されていた事件直後の作品からは、当時の苦しみが感じ取れる。「We won’t help you(助けてあげない)」「LIAR(うそつき)」……助けを求めた周囲からかけられた言葉が並ぶ。一方、最近の作品は、赤やピンク、黄色と鮮やかに彩られている。「I Am Beautiful(私は美しい)」と大きく描かれた作品には、小さな鏡がついている。「被害にあった人に、この鏡で自分の姿を見てほしい」とフィッシャーさんは話す。
沖縄で起きた米兵による性暴力事件を記した作品=東京都杉並区の久遠キリスト教会で2016年10月24日、中嶋真希撮影
米軍基地を抱える沖縄にも通う。展示では、これまで暴行を受けた被害者の歴史をアートにした作品が並ぶ。今年5月には、沖縄県うるま市で20歳の女性が元米海兵隊員に暴行され、殺害される事件が起きた。「(太平洋戦争終結から)70年もたって何も変わらない。沖縄の人々は美しい。『土人』なんて言葉を使うのは、美しい人々を傷つけたいだけ」とフィッシャーさんは言う。
アート展のタイトル「In Our Hands」は、「私たちの手の中に」という意味だ。自分たちの手で、変えられることがあるとフィッシャーさんは言う。「社会全体で沈黙を破ること。被害者は、『深夜歩いていたからだ』『露出の多い服装をしていたのでは』『酔ってたんでしょう』と非難されることが多い。そんなことを言うなんて、日本は古すぎる。化石みたい。『悪いのは加害者だ』と社会全体で声を上げることが大事」と訴える。現在は、「レイプクライシスセンター(レイプ危機センター)」を設立するため奮闘している。
アート展は、東京都杉並区阿佐谷北2の25の8の久遠キリスト教会地下1階ホールで25日午後4時まで。問い合わせは、同教会(03・3338・0600)。【中嶋真希】