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中国人芸術家 蔡國強が天に描く燃える梯子 ドキュメンタリー「空のハシゴ」

美術 映画 NETFLIX

蔡國強と名前を言って通じる人はそこまで多くない。
蔡國強、花火と言うと通じる人が増える。
さらに蔡國強、花火、オリンピックと言えば空に打ち上がった花火が足跡を描くところを連想する人も多いかと思う。
2008年、北京オリンピックの開会式。
そこで芸術家蔡國強は花火による演出を担当。花火によって空高く巨大な足跡を作り印象深い演出をしてみせた。



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蔡國強

蔡國強は1957年 中国福建省産まれ。
66年から始まる悪名高き文化大革命の時代に幼少期を送る。

蔡國強は絵画に火薬を使った。
爆発と火をコントロールして絵画を書き上げ、そこから発展してインスタレーションのアート花火に繋がる。
蔡國強がこだわるのが天にかけるハシゴ……sky ladder。

巨大な気球ではしご状のロープを立て、それにそって無数の花火に点火。
地面から空に向けてハシゴが伸びていく。

過去に何度か行おうとしたものの許可が降りなかったり、取り消されたり、天候に恵まれなかったりしてかなわなかった作品。
そんな大規模な天にかけるハシゴSkyLadder製作過程の裏側に密着したドキュメンタリー。



(先日、日本で行われた個展の宣伝映像)

蔡國強のアートは大きく二つに分かれる。
一つは火薬の力を使い焼け焦げを紙につけることで描く絵画。
そしてもう一つが花火を使ったもの。
その中でも花火を使い観客に見せるエンターテイメントなパフォーマンスも蔡國強の得意なものの一つ。
オリンピックの開会式も後者に入るだろう。

空をキャンバスに見立て、その場限りの絵画を描くという発想は確かにアートに分類されるかと思う。



花火を使い夜空に虹を描く。



こちらは青空に黒い虹。

APEC

ドキュメンタリーの中で蔡國強が中国で行われるAPEC式典の花火演出を担当する場面がある。
しかし中国政府はさまざまな規制をかけてくる。
政府の都合で自由が奪われる蔡國強。

自分の手で作品のレベルを下げ続けている感じだ。
フラストレーションがとても大きい。

最初には存在したはずの芸術性は失われ、花火ショーに変わった。

同じAPECの総合演習を担当した映画監督チャン・イーモウはこう言う。

アートには自由が要る。
だがこの種の仕事では政治的な要求を受け入れるしかない。
私はこういった環境に慣れきっている。
中国政府絡みの仕事はなかなか大変だ。
だが西洋の自由な国で育った芸術家たちはそのことが理解できない。
彼らのことが心底うらやましいが、私たちに今の状態を変えることはできないんだ

中国政府と芸術家の関係は微妙で複雑。

たとえば西洋文化の洗礼を受けたアーティストのアイ・ウェイウェイは「鳥の巣」と呼ばれるオリンピックスタジアムのデザインに協力したことでも有名だが、中国政府を何度も批判し投獄されたりもしている。
これに関しては映画「アイ・ウェイウェイは謝らない」に詳しい。

azanaerunawano5to4.hatenablog.com

花火には許可が必要。
各国の政府や現地住民と協力して初めてパフォーマンスを行うことができる。
だから蔡國強は、政府寄りにならざるを得ない部分もある。

芸術家が自国の政府に協力しても当然だ。
蔡國強はそういうが、他の政府ならそこまでは言われない。
だとすればやはりそこにはその政府が持つ性格が強く現れているとしか言えないと思うのだが(文革に少年時代を過ごした蔡國強がそれを考えないわけもないが)。

空に向けてハシゴをかけ、それを祖母に見せたいと願う蔡國強。
中国人芸術家という難しさもよくわかるNETFLIXドキュメンタリー。
一見の価値ありの一本。

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