ヤングアニマル誌上で90年代後半から10年間にわたって連載し、人気を博した『エアマスター』。
未読の人は、絵からしてギャグと思いがちではあるが、実は違うのだ。
これを機会にきちんと読んでみて欲しい。
主人公の相川摩季は女子高校生であるが、複雑な家庭の事情の、一種の不良である。
元は体操選手として有望視されていたのだが、母の死をきっかけに体操を辞め、目標も最愛の人も失った喪失感から逃れられずにいる。
また女癖の悪く粗暴な父は次々と女を変え、摩季と父はどちらからかは不明だがお互いに距離を取り、摩季は一人暮らしをして生活費だけを父からもらっている。その疎遠さは作中で小学生の異母妹の存在も小学生高学年になるまで知らなかった程。
また、摩季は粗暴な父に似て、言葉よりも先に手が出る乱暴な一面もある。
そんな中、摩季は夜な夜な街を徘徊しては適当な男を見つけ、交わると言う退廃的な生活を送っていた。
人並みに楽しみ、イベントを謳歌しつつもやはり夜の徘徊はやめられず、土木作業員、オタク、同級生など様々な相手と関係を持つ。
また、摩季が相手にする男達は女性の摩季に対しても暴力を振るうような粗暴な人間がほとんどで、そのトラブルに友人達が巻き込まれることも多く、不良集団と揉め、友人が拉致される等の事件にも発展したりする。
中盤からは、摩季をカメラを持って追いかける偽名の男〈深道〉と、摩季に執着する本名不詳のストーカー〈坂本〉が話しの中心になっていく。
深道は、摩季に次々と男(時には女も)をあてがい、その様子を撮影して映像を販売するような人間で、彼に報酬を提案されるが、摩季は拒否する。
しかし、深道の哲学的な一面に対してか、縁を切りきれずに、終盤でも呼び出して二人で会ったりしている。
一方、摩季をストーキングする坂本は、延々と摩季を追い続ける。終盤で摩季はついに坂本に組み伏せられ強姦されたあげくに妊娠してしまう。
この二人と摩季の関係が後半の見所で、物語自体は、摩季と将来生まれるであろう娘との精神世界での対話で終わる。
結局、摩季は家庭を破綻させた父と距離を取りながら、同じような男達に惹かれ、摩季自身も性格に難のある男達に愛される。
しかし、この漫画を通読すればみんな、なにがしかを考えられずにはいられないだろう。
読んだことの無い人には是非『エアマスター』を読んで欲しい。