ライトノベルについては以前からその取扱いの判断が分かれているという話は聞いていました。ある程度小中学校図書館の受注状況を見ることができる立場から言うと、まず小学校からライトノベルの発注はほとんど来ておらず、個々の中学校の学校図書館の予算もかなり小さいという前提がありますね。ざっと見た感じ最近のトレンドはほとんど論じられていなかったと思うので、その少ない予算の中で中学校の学校図書館は近年どんなライトノベルを購入しているのか、今回はその傾向をざっくりとではありますが書いてみたいと思います。
まず15年1月から~16年のここまでに刊行されたアイテム、同期間でそのアイテムの中学校図書館受注数を抽出しました。全ての学校図書館を対象としたデータではありませんが、ある程度傾向はつかめるだけの母数はあります(具体的な数は公表できなくてすいません)。また集計対象を広く取ったのは小中学校の受注が全体としては毎年5~7月あたりにピークを迎え、そこで直近1年間で刊行されたもののなかから発注をする学校が比較的多いためです(通年で買っているところもあります)。集計期間の区切り方次第で本来もっとポテンシャルのあるアイテムもあるとは思いますが、今回は全体の傾向を見ることを目的とした集計なのでその点は予めご了承ください。
【集計対象レーベルと点数】
電撃文庫(含むゲーム文庫)311点
富士見ファンタジア文庫(含むDB)/284点
MF文庫J/217点
ファミ通文庫/164点
角川スニーカー文庫/146点
KCG文庫/12点
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GA文庫/186点
講談社ラノベ文庫/131点
ダッシュエックス文庫/127点
HJ文庫/112点
ガガガ文庫/109点
オーバーラップ文庫/95点
ぽにきゃんBOOKS/93点
モンスター文庫/84点
ヒーロー文庫/71点
一迅社文庫/62点
このライトノベルがすごい!文庫/14点
集計期間中2216点が刊行されていますが、うち中学校で受注があったのは753点です。またKADOKAWAからの出版は1122点で全体の50.6%を占めます。
※単行本は抽出定義が難しいので、今回集計対象から外しました。
【中学校図書館で売れているライトノベル文庫上位50】
(集計期間15/1/1~16/10/23に刊行され同期間中に受注が多かった順)
1.カゲロウデイズ 6(じん/KCG文庫)
2.SAO 16(川原礫/電撃文庫)
3.キノの旅 19(時雨沢恵一/電撃文庫)
4.SAO 17(川原礫/電撃文庫)
5.カゲロウデイズ 7(じん/KCG文庫)
6.バケモノの子(細田守/スニーカー文庫)
7.SAO 18(川原礫/電撃文庫)
8.SAOプログレッシブ 4(川原礫/電撃文庫)
9.魔法科高校の劣等生 15(佐島勤/電撃文庫)
10.SAOGGO 2(時雨沢恵一 川原礫/電撃文庫)
11.バカとテストと召喚獣 12.5(井上堅二/ファミ通文庫)
12.デュラララ!!SH ×3(成田良悟/電撃文庫)
13.終わりのセラフ 5(鏡貴也/講談社ラノベ文庫)
14.魔法科高校の劣等生 16(佐島勤/電撃文庫)
15.SAOGGO 3(時雨沢恵一 川原礫/電撃文庫)
16.君の名は。(新海誠 加納新太/スニーカー文庫)
17.魔法科高校の劣等生 17(佐島勤/電撃文庫)
18.ミカグラ学園組曲 6(Last Note./MF文庫J)
19.新約とある魔術の禁書目録 12(鎌池和馬/電撃文庫)
20.カゲロウデイズノベルアンソロジー(じん/KCG文庫)
21.新約とある魔術の禁書目録 13(鎌池和馬/電撃文庫)
22.終わりのセラフ 6(鏡貴也/講談社ラノベ文庫)
23.魔法科高校の劣等生 18(佐島勤/電撃文庫)
24.やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 11(渡航/ガガガ文庫)
25.カゲロウデイズノベルアンソロジー 2(じん/KCG文庫)
26.SAOGGO 4(時雨沢恵一 川原礫/電撃文庫)
27.進撃の巨人 下(諌山創 川上亮/講談社ラノベ文庫)
28.やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 10.5(渡航/ガガガ文庫)
29.アクセル・ワールド 18(川原礫/電撃文庫)
30.魔法科高校の劣等生 19(佐島勤/電撃文庫)
31.デュラララ!!SH ×4(成田良悟/電撃文庫)
32.ただ、それだけでよかったんです(松村涼哉/電撃文庫)
33.新約とある魔術の禁書目録 14(鎌池和馬/電撃文庫)
34.ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 7(大森藤ノ/GA文庫)
35.SAOGGO 5(時雨沢恵一 川原礫/電撃文庫)
36.六花の勇者 6(山形石雄/DX文庫)
37.アクセル・ワールド 19(川原礫/電撃文庫)
38.はたらく魔王さま! 13(和ケ原聡司/電撃文庫)
39.ミカグラ学園組曲 7(Last Note./MF文庫J)
40.ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 8(大森藤ノ/GA文庫)
41.はたらく魔王さま! 12(和ケ原聡司/電撃文庫)
42.新約とある魔術の禁書目録 15(鎌池和馬/電撃文庫)
43.はたらく魔王さま! 14(和ケ原聡司/電撃文庫)
44.ノーゲーム・ノーライフ 7(榎宮祐/MF文庫J)
45.Re:ゼロから始める異世界生活 6(長月達平/MF文庫J)
46.ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 9(大森藤ノ/GA文庫)
47.キノの旅 20(時雨沢恵一/電撃文庫)
48.薬屋のひとりごと 3(日向夏/ヒーロー文庫)
49.薬屋のひとりごと 2(日向夏/ヒーロー文庫)
50.Re:ゼロから始める異世界生活 7(長月達平/MF文庫J)
以下
【各レーベル状況とアイテム点数、受注冊数構成比】
・電撃文庫(含むゲーム文庫)311点(受注冊数構成比46.8%)
「SAO」「キノの旅」「魔法科高校の劣等生」「SAOプログレッシブ」「SAOGGO」「新約とある魔術の禁書目録」「デュラララ!!SH」「はたらく魔王さま!」など比較的安定しているタイトルが多く、他のタイトルも他レーベルに比べると相対的には売れています。
・KCG文庫/12点(12.7%)
意外なポジションにきたのがKCG文庫ですが「カゲロウデイズ」が突出。あとは同じ著者さんのメカクシ団ものがぼちぼちというくらいです。
・MF文庫J/217点(7.7%)
一般的には人気シリーズも多いですが、売れているのは「ミカグラ学園組曲」。あとは「ノーゲーム・ノーライフ」と「Re:ゼロから始める異世界生活」くらいですが、この辺はおそらくアニメ化の影響ですね。
・スニーカー文庫/146点(6.8%)
映画化があった「バケモノの子」「君の名は。」それとアニメ化の影響か「この素晴らしい世界に祝福を!」あたりが少し売れています。
・ファミ通文庫/164点(5.8%)
「バカとテストと召喚獣」最終巻は売れていました。あとは「下読み男子と投稿女子」、少し落ちて「モンスターハンター」「艦隊これくしょん」「アオイハルノスベテ」といったあたりですね。
・ガガガ文庫/109点(4.1%)
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」は売れていて、あと「二度めの夏、二度と会えない君」「あの夏、最後に見た打ち上げ花火は」あたりが少し売れているくらいですね。
・GA文庫/186点(3.8%)
ここは「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」くらいです。
・富士見ファンタジア文庫/284点(3.7%)
かろうじて売れていると言えるのは「デート・ア・ライブ」「東京レイヴンズ」くらい。その冊数も決して大きくはなく、刊行点数が多いためこの位置に来ていますが、レーベルの規模から考えるとあまり重視されていないといえるでしょう。
・講談社ラノベ文庫/131点(3.6%)
「終わりのセラフ」が売れているのはアニメ化の影響かと。それ以外は「進撃の巨人」のノベライズくらいです。
・ヒーロー文庫/71点(2.2%)
ここは「薬屋のひとりごと」「異世界食堂」。納得のラインナップではあります。
・ダッシュエックス文庫/127点(2.0%)
ここはアニメ化があった「六花の勇者」とオリジナルストーリーの「テラフォーマーズTHE OUTER MISSION」くらいですね。
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※このあたりは学校図書館では現状ほとんど売れていないレーベルです。
・オーバーラップ文庫
・HJ文庫
・ぽにきゃんBOOKS
・モンスター文庫
・一迅社文庫
・このライトノベルがすごい!文庫
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売れているものをざっと眺めてみると、全体としては妥当と思えるセレクトであることが伺えますが、市場規模として小さく、そもそも予算的に厳しくてライトノベルが選択肢に入ってこない学校図書館も相当数あることは留意すべき点です。また現実問題として1年間というスパンで網羅性のある体系的な検討リストを作成するのも、なかなか大変な作業だったりします。
ライトノベルが好きな人から見るとこういうシリーズもという意見はあろうかとは思いますが、少ない予算の中で1年間刊行されたもの全体から必要なものを選書していくことを考えると、その中でライトノベルの優先順位がどうなのかという前提は、まず考慮しならないのかなとは考えるところです。
また公共図書館は予算規模としては相対的に学校図書館よりも大きいですが、それでもライトノベルを購入できるほど予算が潤沢な図書館、収集している図書館はかなり大規模な図書館に限られます(傾向として学校図書館との差異はありますが、全体の傾向としては学校図書館とそれほど遠くないです)。その辺りも機会があったらまた書いてみたいと思います。