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「ワイヤレス給電」ってどういうこと? ー非接触充電が変える家電の未来ー

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モバイル機器への充電や家電を動作させるには「電気」が欠かせないが、毎日何度もコンセントやコネクタの接続をするのは面倒なもの。WiFiのようにワイヤレス化すれば便利なのだが……。そう、電力も無線で供給する「ワイヤレス給電」が注目されるのは当然で、研究開発が進んでいるのだ。今回は、「ワイヤレス給電」(=非接触給電)の現在と未来を紹介しよう。近い将来、我々の生活は劇的に便利になる!?

ワイヤレス給電の基本とメリット

まずは、ワイヤレス給電のメリットを実用化されている製品を例におさらいしておこう。最も身近で長い歴史を持つのは「電動歯ブラシ」と言ってよいだろう。すべての製品ではないが、コネクタを接続する必要が無く充電器に電動歯ブラシを乗せるだけと手軽だ。また、金属製の接点を無くすことで防水性能を確保し易く、水回りに設置してもショートの心配が少ないので、安心して利用できるのも大きなメリットと言える。

筆者愛用のPhilips電動歯ブラシ。金属の接点を用いない非接触方式で充電できる

筆者愛用のPhilips電動歯ブラシ。金属の接点を用いない非接触方式で充電できる

こうした“離れ業”を可能にしているのは、中学校で習ったはずの「ファラデーの電磁誘導法則」。家電の場合、充分に近づけた一対のコイルを用意し、一方のコイル(送電側)に電力を与えて磁界を発生させ、もう一方のコイル(受電側)がその磁界を受けて電力を発生し、無接点で電力が伝送される。

CEATEC2016会場にて、TDK社の展示より。電力を送受信する部品(コイル)

CEATEC2016会場にて、TDK社の展示より。電力を送受信する部品(コイル)

非接触給電のメリットは、水や汗に触れやすい腕時計型の情報端末、活動量計などのウエアラブル機器などにも有効で、採用する製品が増えつつある。

CEATEC2016会場にてTDK社の展示より。スマートウォッチ製品のイメージ

CEATEC2016会場にてTDK社の展示より。スマートウォッチ製品のイメージ

近年の好例としては、アップル社の「Apple Watch」がある。毎日充電しなくてはならないという不便さも、コネクタの接続を不要にしたことで幾分緩和できているように感じる。

ワイヤレス給電のデメリット

現時点で製品化されているワイヤレス給電の多くは、正確には非接点給電と呼ぶに相応しいもので、送電がと受電側の距離は数mmの距離内で、前後左右の位置合わせもシビアと制約が多い。また、伝送できる電力量が、ケーブル接続に比べて少ないのもデメリットだ。具体例として、スマートウォッチの場合、非接点とは言っても専用のクレードルに乗せる必要があり、さらに充電は夜間の睡眠中を想定せざるを得ない。また、機器と充電器が一対で汎用性に欠けるケースも多い。

過去、汎用性問題を解決べく登場した国際標準規格「Qi」(チー)は記憶に新しく、カフェなどに充電器が設置するなどの活動が行われたが、位置合わせの問題は概ね解決していたものの、急速充電性能が不十分で、普及には至っていない。

2012年、パナソニックのQi利用イメージ資料写真。Qiの普及に向け、カフェに給電ユニットを設置する活動を行っていた

ワイヤレス給電の「今」 「磁気共鳴」方式で急浮上

ワイヤレス給電は理想であるが、まず超えなくてはならないハードルは「給電量」と言える。ワイヤレス給電の方式は主に2つあり、旧来の電動歯ブラシも採用してきた「電磁誘導」方式と、近年実用化された「磁気共鳴」方式である。磁気共鳴方式は磁気の共振という新しい原理を応用し、1m程度の距離を置いても電力の電送効率が高い画期的な技術だ。
ワイヤレス給電が最近再び話題になっているのも、この磁気共鳴方式の登場が切っ掛けと言える。

先述の普及が頓挫しているQiも磁気共鳴方式を規格に採り入れて進化の兆しが見えてきた。例えばカフェなど、充電器を内蔵したテーブル上で、高さ数cm程度の距離なら、急速充電できる可能性も出てきた。端末を手にしたまま、気が付けば充電が出来ていた…という場面に遭遇する日も近いかもしれない。

ほか、「磁気共鳴」方式なら、理論的にはテレビや冷蔵庫といった大型家電の動作も可能で研究が進んでいる。だだし、扱う電力が大きくなると、人体への悪影響や、思わぬ家財の発熱などが心配され、実用化にはもう少し時間がかかりそうだ。

最新の「磁気共鳴」方式を採用した家電の例。筆者所有のパナソニック音波振動歯ブラシ「ドルツ」(EW-DE24)。「磁気共鳴」方式で送電効率を高め、従来17時間かかっていた充電時間を1時間に短縮。また、2分の充電で1回(2分)の歯磨きが出来る急速充電能力を持つ

ワイヤレス給電の未来

充分な量の電力を、数メートル以上も安全にワイヤレス給電できる技術が実用化されると我々の暮らしも大きく変わりそうだ。「磁気共鳴」方式では1m離れた場所にも実用的な効率で電力を伝送できるとされ、2017年には対応するスマートフォンやウエアラブル機器が登場するとの噂もある。給電設備が充実した暁には、スマホは、自宅、オフィス、カフェ、移動する電車、バス、車の中、エレベーター、エスカレーターなどで絶え間なく充電でき、バッテリー残量を気にする必要が無くなりそうだ。また、常に充電が行えるようになると、スマホに内蔵するバッテリーも小容量で済むので、端末がより小型軽量になる可能性もある。10年後は超薄型のお洒落なスマホ、20年後は人体に埋め込むようなデバイスに進化しているかもしれない。自宅のテレビもコンセントに接続する必要が無くなれば、設置や移動も楽々になる。

現在、充電や航続距離がネックと言われる電気自動車も、道路からのワイヤレス給電で問題を解決する研究が進んでいる。そう遠くない未来、高速道路などで登場する可能性は高そうだ。

さいごに

電力のワイヤレス伝送は研究がさかんで、マイクロ波やレーザー光を利用して大きな電力を扱い、宇宙空間で太陽光発電した電力を地球に伝送する「宇宙太陽光発電」というアイデアも浮上している。家電に欠かせない電気。ワイヤレス給電の進化が、家電の未来、我々の快適な生活や環境保護に大きく関わるのは間違いないだろう。

鴻池賢三

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。

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2016.10.24 更新
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