千利休のおもてなしの心 : 膳 神田西口駅前店

食べログはお客が失敗しないためのお店選びをするためにあるのだと聞きます。
私のレビューはその主旨を実現するために作成しています。

神田周辺の居酒屋巡りをしておりました。神田駅西口商店街は粋な街と聞きますので地元に根付いた居酒屋であればさぞ素晴らしいのであろうと想像し、少しうらびれた店を探して歩くことに。多少酔ってはいましたので、細かいことは気にしない大らかな心で望みます。
駅西口・南口付近は近年道路が整備され、非常に広く明るい場所になりました。多少、黒服の姿が目立っていかがわしくもありますが、活気があるのはいい事です。商店街の入口に進むと、早速居酒屋の呼び込みのお出迎えです。交差点を渡れないほど熱心に声掛けをしてきます。その中で、地元で古くからやっている店で、口コミサイトの評価も高い優良店ですという声掛けに関心を持ちました。

日本酒の前掛けをしたお兄さんは、非常に流ちょうな日本語で説明をしてくれます。
「掘りごたつ形式の部屋でくつろげる料亭のような店です。今ならドリンク10％割り引くのでとてもお得です」
一見の客である私たちにも、热烈欢迎の気持ちが伝わります。おもてなしの心はサービス業にとって欠くことはできません。一旦は謝辞したのですが、店前まで随伴してくれた上、ここで決めてくださいと強く断言する、まるで友人のような接し方に心が揺さぶられ、試みに入店してみることにしました。

当店【膳】は雑居ビルの3・4階の２フロアにあって、入口は3Fだけにあるとのことでエレベーターに乗るよう案内されました。ちなみに写真にあるように、案内表示には同じ３・4階に「なべ蔵」という和の匠を感じさせる手作りの看板もあったため、客引きさんに入口は一緒みたいだけどちらの方の店なの？と聞いて確認をしました。すると「どちらも入ったら同じ店です。安心しておくつろぎください」との趣旨の説明です。なるほどと思いましたが、（食べログでどちらの店の口コミか書く時困るから）案内された店名を確認すると、「なべ蔵」ではなくて「膳」だとの返答でした。

店内は確かに、かつては料亭だったような非常に古式な空間が広がります。入口右側には石灯篭、ビール瓶の空きケース、ビニール傘、を使用した間接照明がモダンアートを感じさせます。念のため言いますと、訪問前３日間に関東に雨は降っていませんので、お客様の忘れ物ではないと思います。
私たちは靴を持って階段を使って４階に上がるように指示されました。板張りの階段と廊下を歩くと、足底にネチャッとした粘着的な感触があります。一歩ごとに小さくキュッと音をたてるようで、二条城のうぐいす張りの廊下を思い出しました。階段もスベーラーズで安心ですね。

４階に案内されると掘りごたつ形式の大部屋がありました。こちらにどうぞと案内された端の席は、写真のように座るところの木材（膝裏の部分）に若干破損があり、一つ開けて座ることに。また、足元を入れる堀の部分をよく見ると細やかな仕掛けが。
千利休の有名な逸話です。
庭の落ち葉を掃除していた千利休が綺麗にはき終えた庭にパラパラと葉っぱをまいた。その姿を見ていた弟子が、「せっかくはいたのになぜですか？」と尋ねると「秋の庭には少しくらい葉っぱが落ちている方が自然でいい」と答え、人を唸らせたという。
凡人には分からないおもてなしの心。飲食店を経営するプロにはこういった感性が必要とされるのかもしれません。私は思わず姿勢を正してしまい、とても堀に足を踏み入れる気にはなれませんでした。そいうえば席間にある畳も、長い間放置して苔がむしたような独特の色合いを出していて、恐らくは20年以上のヴィンテージでしょう、わび・さびがあります。同僚は畳だと気付かなかったよと感嘆の息を漏らしたほどです。

スタートの注文はお新香と塩辛が品切れだったのでキムチを頼みました。残念ながら辛さが一般向けではなく、個人的感想ながら口に合いませんでした。半分残したと思います。申し訳ありません。
乾杯はビール（580円）で。これは順当な味だったと思います。続いてレモンサワーを注文します。写真の通り、これまでの呑兵衛人生の中で最も小さいジョッキ（まるでグラス）でいただきました。希少部位を使用した焼酎なのでしょうが注文数（おかわり代金）がかさんでしまうのが残念ですね。

その後の料理は刺し盛３種盛を注文しました。生の臭いのきつい甘海老・イカ・サーモンで1280円外税になります。高級食材で知られる海鮮珍味３種盛に、思わず刺身のツマにあった玉葱スライスから完食してしまいました。続いて少しは腹を満たして帰ろうと、豚バラレタス炒飯（680円外税）も頼みましたが、水分たっぷりの脂ぎったご飯に、両者の間で謙譲の美徳の応酬です。

さて、楽しい時間もあっという間に過ぎ、残念ながらお勘定の時間になりました。明細をいただくと食べた覚えのないお通し500円の表記があって、同僚の鋭い視線とつぶやきに何かを感じたのか、直ぐに新しい明細を持ってきてくれました。お客様への配慮を常に怠らない接客魂を感じました。

総評として当店【膳】は売上という一つの目標に対して、全ての従業員の意識がまとまっている気がします。お客様に入店に対する対価を如何に気持ちよく払っていただくか、、、に腐心する姿勢は感動するほどです。当店に対し高評価するレビューがたくさんあるのも、そういった意識に同調したものなのかもしれません。

正直、こういう書き込みをするとかなり落ち込みますが、実際に訪問して嫌な思いをした方はもっとたくさんいるはずです。めげずに真実のレポートをしていきたいと思います。