帝京大学の医師らで構成される研究グループが、子宮頸がんワクチンに関する報道を検証した結果、2013年の朝日新聞による報道を契機に、子宮頸がんワクチンに対する報道の内容が逆転し、ネガティブな内容が前面に出るようになったとする研究結果を発表した。研究成果は、米国の感染症学会の専門誌に掲載された。研究を主導した医師は、「報道が、有益性とリスクの両面を伝えるという役割を十分に果たしていない」と批判している。

子宮頸がんワクチンをめぐる全国紙報道を研究したグラフ。2013年まではポジティブな報道が大半だったのに対し、2013年3月以降はネガティブな記事に一転した(津田健司医師らの研究グループ提供)

 研究を行ったのは、帝京大学ちば総合医療センターの津田健司医師らの研究グループ。2011年1月から2015年12月までの期間に、全国紙5紙(朝日・読売・毎日・産経・日経)に掲載された「子宮頸がんワクチン」に関する記事、1138件を検証した。

 研究によると、2013年3月8日に朝日新聞が「子宮頸がんワクチンを接種した少女に歩行障害や計算障害が生じている」と報じて以降、子宮頸がんワクチンの有害性を報じる記事が約5.5倍に増えた一方で、子宮頸がんワクチンの有効性に言及した記事は0.66倍に減少したという。医師2名が記事を別々に読み、分類・評価したところ、2013年3月以前には、ポジティブな記事が約60%を占めていたのに対し、2013年3月以降は、ネガティブな記事が約54%を占めるようになったとする。

 研究結果は、9月、米国の感染症学会の専門誌「Clinical Infectious Diseases(CID)」に掲載された。CIDは、学術雑誌の重要度を示す文献引用影響率では、感染症分野で世界で有数の権威ある雑誌とされる。

 津田医師は、「朝日新聞の報道以降、世界中の研究機関が、子宮頸がんワクチンの有効性と有害性を再検証したが、有害の証拠は見つかっていない。今回の論文が、(申請から2カ月半という)異例の早さでCIDに掲載されたのも、日本の状況に対する関心の現れではないか」と語る。