あらすじ:人気小説家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)の妻で美容院を経営している夏子(深津絵里)は、バスの事故によりこの世を去ってしまう。しかし夫婦には愛情はなく、幸夫は悲しむことができない。そんなある日、幸夫は夏子の親友で旅行中の事故で共に命を落としたゆき(堀内敬子)の夫・大宮陽一(竹原ピストル)に会う。その後幸夫は、大宮の家に通い、幼い子供たちの面倒を見ることになる。(シネマトゥデイ)
製作国:日本 上映時間:124分 製作年:2016年
原作・監督・脚本:西川美和
キャスト:本木雅弘 / 竹原ピストル / 藤田健心 / 白鳥玉季 / 堀内敬子 / 池松壮亮 / 黒木華 / 山田真歩 / 深津絵里 / 松岡依都美 / 岩井秀人 / 康すおん / 戸次重幸 / 淵上泰史 / ジジ・ぶぅ / 小林勝也 等
ある男の足りない『何か』と、死の受け入れ
どうも、アバウト男です!
【ゆれる】【夢売るふたり】の西川美和監督最新作の【永い言い訳】を観てきました。と言っても観てからだいぶ経つので… 記憶を思い出しながらになるけど感想は、
余白やホラー的な毒っ気こみで、ゾッとするのと同時に面白かった!!
妻の突然の死に泣くことも悲しむことも出来なかった幸夫が、同じくバス事故で妻を亡くした陽一とその子供達と知り合い、子守を理由に交流を重ねることで、次第に彼の『何か』が変わってく物語。
今回はなんとも言葉にし難い『ほわっとした作品』だったので、パズルのピースを拾っていくような感覚で、オチまでは書きませんが、ちょこちょこネタバレしつつ綴って行きます。
本木雅弘ことモックンが演じた幸夫は、トータルで見れば共感しづらいダメ中年なんだけど、どこか同じ男として嫌いになれない不器用な魅力を持っていた。
幸夫は妻が突然この世から去ってしまったことに戸惑っているというよりかは、妻が死んだのに泣けない・素直に悲しめない自分自身に戸惑うような男だ。
多分、幸夫は『何か』が根本的に不足している。それが俗に言う欠点であり人間味でもあるんだろうけど。
妻の死後冴えない生活を送る幸夫は、同じ遺族として出会った大宮陽一とその子供らとの交流を通し、自らの戸惑いから目を背けるように、不思議な擬似家族として充実した日々を送る...
本作は、幸夫の自分の中の足りない『何か』探しと、知ってるようで知らなかった『妻』の事を知り、その『妻の死』を受け入れる物語なのかなと。
全体を通して小出しに見せられる妻の夏子を演じる深津絵里の存在感はやはりさすが!
脱線しちゃうけど、黒沢清監督作【岸辺の旅】では、逆に夫の死の妄念に取り憑かれた妻を深津絵里が演じるという、本作とは逆の立ち位置だったりするのも面白い。
他者との交流から見えてくる妻の存在
家族との交流を楽しむ幸夫に向かって、マネージャーに「いまやってる事は逃避」だと言われてしまう。確かにそれはあると思う。
けど、子供達との交流を通して、幸夫は夏子の死がなければ生まれることのなかった『幸せ』を実感していのも確か。
ただその『幸せ』は皮肉にも、もっと妻のに向き合っていたら、本来そこに誰1人欠けることなくあるばすだった幸せでもあって。そんな幸せの光景を幻想シーンとして幸夫と観客に突きつける
出た〜、そこにあるべきはずだった幻想シーン!
やめてくれ… 個人的に幻想シーンにはめっぽう弱い!取り返しの付かない現実の手前に、もしかしたらあった『幸せの光景』がポスターの写真に使われている。
幸夫が感じた『幸せ』は、今まで考えもしなかった親として子を見守る生活であり、根本なところでは他者との交流であり、他者を想う心。
幸夫に足りなかった『何か』とは『他者に興味を持つこと』=『思いやり』なんだと思う。
ナルシストで自分にしか興味のない男が、他者との交流で『思いやり』を知り、一周して妻のことを想い返す。その流れの行く突く先は『妻の死の受け入れる』ことに繋がる。
男の懺悔と女の怖さ
そんな幻想として妻の笑顔を見た矢先、壊れた妻の携帯に残された「愛してない、ひとかけらも」のメッセージを見る幸夫。
妻を今になって受け入れようとする幸夫が、妻から死んでもなお突き放される… ゾッとするホラー展開。これが夫婦なのかと震える。
ラストにも『ある物』で夏子の隠れていた姿がまた1つ明かされる似たような展開があるんだけど、一見『物』として怖くない分、そこから浮かび上がる思いが強烈に幸男と観客を襲う。まさに女性監督特有の怖さ!
死んだ妻のある種の呪縛と、今までのしっぺ返しかの如くそれを『懺悔』として受け入れる男を、毒っ気を混ぜつつも優しいタッチで描いた作品として感慨深かった。今の時代の皮肉りも入った監督の意地悪さが上手く出てました。幸せな夫と書いて『幸夫』って!主役の名前からして意地悪ですね〜。
個人的には最後、幸夫は夏子を想って泣いて欲しかったな。それが『妻の死』から来る悲しみじゃなくて、自らの罪悪感や後悔の念であっても。
『泣くことができる強い男』に証である幸生の泣くシーン見せない辺り、まだ幸夫の物語は続いているんだろうな。トイレで泣いたのは違う意味の涙だったからな。
是枝さんの影響と西川監督の持ち味
大部分をしめる子供との交流における日常生活描写や、子供のナチュラルさからも見て取れるように、本作では師匠でもある是枝裕和監督をわりと意識した要素が入っていた。
交流を持つ大宮家が住んでいるのが『団地』だったり、マネージャーを演じた池松壮亮が自分よりも年上のダメな中年を諭す場面は是枝監督作【海よりもまだ深く】とダブっている。
あと、これは個人的な見方だけど、長女の灯ちゃんがやたら樹木希林に見えてしょうがなかった!樹木希林の幼い頃ってこんな感じだろと思ってしまう雰囲気の子で。このキャスティングはわざとでしょ?!そう言えばモックンの義母が樹木希林だったな。
幸夫とは対照的な陽一を演じた、元野狐禅の竹原ピストルは言うまでもなく美味しい役で、その存在感や雰囲気がすごく役にハマってました。
良いヤツ演技が演出含めちょっと過剰だったけどね。それと長男の真平が若干後半から子役演技臭ったのも残念。
その代わり、黒木華の意外なエロさもちょい役ながら良かった!黒のパンティーが太ももに引っかかっているエロさは【君の名は。】で浴衣から見える奥寺先輩の黒ブラに匹敵するエロさでした。胸をなぞるシーンとか、コラ!
比べてどっちが上とかは別にないけど、西川監督が撮った本作は、是枝監督作よりも多めに『余白』を取っている印象。観る人によって若干捉え方が変わったり、それこそ男女でもそうだし。「こう!」って決め打ちで見せられるよりも、独特なぼや〜っと感が余韻に繋がって味わい深かったです。
まとめ
良かった点
- 憎めない中年男のもがきっぷり
- 微笑ましい幸男と子供達との交流
- 中盤の幻想シーン
- 毒っ気のあるゾッとするシーンや味わい深い余白の多さ
悪かった点
- 終盤の真平の子役演技臭さ
- 幸夫には泣いて欲しかった
評価:★★★★★ 最高!フォーー!
最初観たときのインパクトはそこそこだったけど、思い返すと余白がある分、色々見え隠れする部分もあって面白かった。全体的に重すぎず、笑える部分とのバランスも取れてる作品です!
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『夫婦映画』として、これとセットで観るのも面白い。