2016-10-23
■[本]『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』
紹介を読んですぐにKindleで買いました。非常に勉強になったし,何より読んでいて面白いと思えるところが優れた本だと思います。題名には煽りがあるし,力み過ぎてるところもあると思うし,また内容についても鈴木先生じゃない人が見たらそんなにいいもんじゃないと別のことをいう可能性はあるかもしれません。でも,鈴木先生は特別顧問を務められた間での行政や地域の政治過程というのをよくご覧になっていて,非常に体系的な形でまとめられているなあという印象を受けました。知らないことばかりで驚きも多かったですが,個人的に特に面白かったのは,警察の話が出てくる16章と,まちづくり会議をやっている18章です。あと,あいりん総合センターの移設検討のときに,初めての検討会の直前で毎日新聞がリーク記事を発表したという話(のちに訂正があったとか)。
一貫して本当にすごいなあと思ったのは,関係者の信頼関係がなんとなく浮かんでくるところ。たぶん規制改革会議などでの発言から,鈴木先生と言えば相当尖った物言いで,言い出したら自説を曲げない困った人,みたいなイメージがないわけではないと思うのですが,本書での議論の進め方はそういう印象とは違います。実際それだけの人だったら,多くの関係者を巻き込んでいろんな意思決定を進めることは絶対できないと思うし,少なくとも西成でのとりくみを一緒に進めている方々からは信頼されていなくてはいけません。ただその信頼っていうのは,人格的に立派とかいうことでこの人がいうことを疑わないっていうタイプのものではなくて,まあ少なくとも人を陥れるようなウソはつかないとお互いに認め合っているような感じの信頼という印象を受けました。実際政治の場面で約束したことを全て守るというのは簡単なことではないでしょうし,約束を守れないこともあるはずです。そこで約束を守ったと強弁するのでも,守れなかったからといってお互い切り捨てるのでもなく納得してやっていくという姿が浮き彫りになっているような気がしました。実際,本書20章でも「人々の信用を得るために」という節があって,いくつかの心がけが書かれています。
本当に組織間調整は大変だ(大阪市は縦割りがきつくてほぼ組織間調整になってるようなので)ということですが,やはり思うのは,鈴木先生のような研究者がやるべきなんだろうかというところ。もちろん鈴木先生に限らず,大阪市大の水内先生をはじめ,登場している先生方みなさんそうです。上の「心がけ」のところでも書かれてますが,中立を旨とする有識者が持つアドバンテージはあるわけですが,実際ほとんど給料というか報酬は払われていないようですし,そういった人々を確保するのは本当に容易ではないでしょう。もちろん,それでこそ信頼されるところがあるし,中立を保てるし,公的な利益のために邁進するべきだというのはよくわかるわけですが*1,あまりに個人にかかる負担が大きすぎるのではないか。逆に言えば大きすぎるからこそ,そういった人たちを調達するのがほとんど不可能になっているんじゃないかという印象を受けました。できるものならば,そこにこそ地方議員の役割があるのではないかという気がします*2。地方議員は政党色がついてるから中立ではないということになるんだと思いますが,完全な中立というのはあり得ないし,鈴木先生が橋下市長とパイプを持っていたように,政治力も必要になるわけです。たとえば小選挙区で選ばれていれば,政党所属していても地域の代表という立場を持つはずだし,比例制で選ばれている場合は複数代表がいるわけで,そんなに極端に偏るということもないと思いますし。
単に政策過程を動かすことの難しさを学ぶだけではなく,研究者として公共政策にかかわる意味も考えさせられるよい本だと思います。そういう関心のある方はぜひ。
- 作者: 鈴木亘
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2016/10/07
- メディア: 単行本
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