2016-10-22 松崎いたる板橋区議の裁判に関して日本共産党への要望
半年経ちましたが返事が貰えない状況なので、ここに公開したいと思います。
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2016年5月17日
日本共産党中央委員会 自治体局 殿
私は法政大学教職課程センター教授の左巻健男(さまきたけお)と申します。
隔月刊の理科の雑誌、『RikaTan(理科の探検)』誌編集長もしています。この『RikaTan(理科の探検)』誌の毎号の広告をしんぶん赤旗に出しています。
しんぶん赤旗に水曜エッセイで「ニセ科学の正体」を連載し(2014年9月、10月)、その連載を読んだ新日本出版社編集者から依頼されて『ニセ科学を見抜くセンス』という本も出しています。
専門は、理科教育および一般への科学啓蒙です。理科教育を専門とする私にはニセ科学が学校にまで影響を及ぼしていることに危機感をもっていますので新聞赤旗の連載や本で問題にしました。
ニセ科学にはどんなものがあるでしょうか。細かく見て行くといろいろありますが、大まかにいくつかを列挙してみましょう。この中に今回問題にするナノ銀除染も入れています。(『ニセ科学を見抜くセンス』新日本出版社の前書きから引用)
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がんが治る・ダイエットができるとするサプリメント・健康食品の多く、健康によいとする水、ホメオパシー、経皮毒、デトックス、血液サラサラ、着けると健康によいというゲルマニウムやチタン製品・トルマリン製品、ゲーム脳、「人間の脳は全体の10%しか使っていない」「右脳人間・左脳人間が存在する」などの神経神話、水からの伝言、マイナスイオン、EM菌、ナノ銀除染、フリーエネルギー、血液型性格判断、「知性ある何か」によって宇宙や生命を設計し創造したとするインテリジェント・デザイン説、アポロは月に行っていなかったとするアポロ陰謀論、人口減少させるために何者かが有毒化学物質をまいているとするケムトレイルなど。
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さて、板橋区議会議員の松崎いたるさんからは、「ナノ銀除染というインチキ科学を批判したら元板橋区職員阿部宣男氏から訴えられた」と聞き、一緒にニセ科学批判をしている研究者らと松崎さんから相談をうけていました。
3.11の福島第一原発の事故以降、ニセ科学側は「○○で放射能除染ができる」と称して福島にいろいろなかたちで入り込みました。ナノ銀除染もその一つです。
そのニセ科学性、インチキ性については、科学的な立場から、『Rika Tan 理科の探検』2016年4月号に「ナノ銀除染のニセ科学」というテーマの記事を天羽優子山形大学理学部准教授に書いて戴きました。そのコピーを添付しますが、科学的な方法で結果を出していない(記事では科学では不可欠な「対照実験が皆無である」の項参照)、原子力開発機構による追試でも阿部宣男氏の主張は完全に否定されています(第三者機関による追試の項参照)。不破哲三さんがよく述べていた科学の目で物事を見ることができる日本共産党なら何が正しいかはすぐに見抜けると思います。
今回、松崎さんから「共産党中央委員会から、ナノ銀除染をインチキと批判したことについて、地方議員にあるまじき市民道徳と社会的道義に反する行為だといわれてしまった」と聞き、たいへん驚いています。 『ニセ科学を見抜くセンス』新日本出版社の中にも書きましたがニセ科学は「科学的な思考を麻痺させ、思考停止にし、国民を非科学の方向にいざなう」ものです。科学と無関係でも、論理などは無茶苦茶でも、科学っぽい雰囲気をつくられれば、ニセ科学を信じてしまう人たちもいます。こうしたニセ科学を放置することです。信じてしまった人たちは効果のない商品に散財してしまったり、健康に関するニセ医療などでは命にかかわることにもなりかねない危険なことです。
ナノ銀除染は国民的に関心が高く、みんなが不安を感じている放射能汚染の問題で、その不安に付けこんだニセ科学です。放置することは許されないと思います。
日本共産党の皆さんには、こうしたニセ科学に対する意識を強めていただき、国民が被害にあわないようにしていただきたいと願っています。私がしんぶん赤旗の連載のテーマにニセ科学を選び、新日本出版社から本を出したのも、共産党に期待しているからです。
しかも、松崎さんを提訴している阿部宣男氏は、ご自分のブログの「謹賀新年 不滅の法灯」2014/01/01に「平成二十六年・西暦2014年・皇紀2674年・午年」と書くような右翼的な人です。
阿部氏は特攻隊を賛美するブログを書いていました。→
http://web.archive.org/web/20150719212959/http://hotaruabe.blog72.fc2.com/blog-entry-17.html
またナノ銀除染は、「日本海軍史に燦然と輝ける日露戦争において、「各員一層奮闘努力せよ」という意味が込められました。日章旗、旭日旗とともに、日本再興にふさわしい旗、それがZ旗です。」という右翼的なZ旗新聞に好意的に取り上げられています。
松崎さんが、区議として堂々とインターネットでナノ銀除染やその他のニセ科学を批判していることを見ていて頼もしく思っていましたし、相手から嫌がらせの裁判を仕掛けられても、受けてたち闘っている姿を応援してきました。
しかし、党の一部は、まったく逆の立場だと聞き、がっかりしているところです。
「インチキ」という言葉が問題になっているとも聞いていますが、ニセ科学を批判するうえでは問題にはなりませんし、わかりやすさという点では、むしろ必要な表現でもあります。
私自身は「ニセ科学」という言葉をつかいますが、人によっては「疑似科学」「似非科学」という言葉も使われます。「インチキ科学」もアメリカの有名なサイエンスライターであるマーティン・ガードナーの本のタイトルが「インチキ科学の読解法」であるようにまったくふつうの言葉です。
科学知識に詳しくない一般の人たちが、自分の興味をひいた事柄や商品をニセ科学かどうかを見分ける有効なひとつの方法は、インターネットでその事柄や商品の名前のあとに「トンデモ」「インチキ」などの言葉を付け足して検索することです。公表されているニセ科学なら、ほとんどの場合、ネットで批判されているからです。
ナノ銀除染のような、新手のニセ科学の場合は、それに最初に気づいた人の発信がとても大切です。誰かがインチキをインチキだと指摘しなければ、正しい情報は伝わりません。
松崎さんが実名と区議としての立場を明らかにしてナノ銀除染のインチキ性を告発したことは、市民道徳に反するどころか、社会的な意義をもつものです。
共産党にはこれからも国民を守るためにも、教育・科学の振興のためにもますますがんばってほしいと思います。そのためにもニセ科学とたたかう松崎さんを党としても支えていただきたいと思い、意見を述べさせていただきました。
法政大学教職課程センター教授 左巻 健男(さまき たけお)