7/8
第六話 宴会は唐突に③
(鬼とのエピソードを)待たせたなぁ!
「普通に紹介しろバカが。ユウだ」
今回は鬼とのあれやこれやの触りだけ発覚します!
「毎度の如く、本格的なのは番外編まで待ってくれ。それでは、ごゆっくり」
あと、妖怪についてオリ設定あります!今回は特にひどいかも…
ーー 鬼。
古来より人々にその名を知られる、妖怪の母たる国日本の、本家本元の妖怪たちの中でも『最強』と謳われたものたち。その咆哮は百の民を震え上がらせ、その拳は千の家を破壊する。そんな言い伝えが残るほどの、まさに一騎当千の強者たち。
一般的な鬼ですら、1匹現れれば妖怪退治を専門とする輩が何十人と集められ、討伐に乗り出す。しかしながら、これだけの人数の差があるにも関わらず、人間側の勝率は芳しくない。それだけ、鬼が強いのだ。
天狗ほど早くない。人狼ほど狡猾でない。妖精のように自然がある限り無限に復活するわけでもない。悟り妖怪のように心が読めるわけでもない。
ただ、単純に力が強いだけなのだ。
…たった、それだけ。
それだけのことで、鬼は「最強』の名を縦にしてきた。
そのことに不服を唱える他の妖怪が、大挙して鬼の討伐に乗り出したこともあった。人狼の長が鬼の殲滅を宣言したこともあった。にも関わらず、今も鬼の血は途絶えていない。それは何故か?
簡単なことである。彼らは勝った。全ての戦いに。全ての狡猾な罠に。数の上でも決して有利では無かった鬼たちは、その拳一つで万の策謀を打ち砕いたのだ。故に、人々はそれを恐れ、彼らを『最強』と呼んだ。彼らより強い存在など、この世には存在しないのだと唱える者も少なくなかった。
それら鬼の中でも頂点に位置するものがいる。古代ならば齢五、六の子供でもその名を知らぬものはいなかっただろう。日本妖怪史上最強最悪と、時の編纂者たちは口を揃えてその名を呼ぶ。
ーー 鬼子母神、と。
曰く、10000年も昔より生きる、最古の鬼。
曰く、大和国の軍神ですら、かの鬼を相手にしては互角。
曰く、ある時には一国の軍隊の半分以上が向けられ、その殆どを屠り、なお暴れ続けた。この年、戸籍上では人口の3割が死滅した、とされる。
…曰く、人の身に余る唯一の妖怪。その存在が本当のものなのかどうかすら確認は不能。
…これほどまでの凄絶な伝説を持つ鬼子母神の側を片時たりとも離れることなく、常に守り続ける四人の鬼がいる。
存在が確認されている鬼の中では最も大きな被害を出している、酒呑童子。
酒呑童子の盟友にして舎弟とされ、かつてとある人間と争い、その右腕を失ったという伝説を持つ、茨木童子。
鬼の中では鬼子母神に次ぐほどの怪力を持ち、山の頂上から五十尺を引き剥がし、そのまま投げることで国を一つ壊滅状態にまで追い込んだとされる、星熊童子。
四鬼の中では最も若いが、その実力は都の陰陽師五十人の討伐隊を一蹴するほどのものであり、かつ『遍くものの中で最も凶暴なもの』とされた、虎熊童子。
彼らは、遥か数千年の昔より姿を帰ることなく、今の世にも生きている。かつてのように人を襲い、喰らうことはない。だが、だからと言っていなくなったわけではないのだ。
鬼の恐怖は、今もなおその伝説とともに脈々と受け継がれているのだ。
ーー それを理解しているから、こそ。
今宵、博麗の社に集い、初めてその少年を見た者たちは。
自分の見ている光景が、現実のものだと信じられなかった。
「うらあああぁっ!」
「…甘い」
「グッ!…クソ、本当に『一撃たりとも当たらない』な!流石はユウ。やっぱり私『程度』じゃあ敵わないな」
「…まあ、なあ。俺とお前じゃ、生きてきた年の数が違うさ。自分より力のある相手なんて、それこそ数えきれないくらいの数がいたよ。…そんな奴らを相手にしても俺が負けなかったのは、単純に経験の差、というやつだ」
「ハッ!経験積んだだけでその領域まで辿り着けるなら、そんなに楽なこともないだろう!なんせ、ただ生きるだけでいいんだから!…あんたは違う。どれだけ強い存在がいようとも、あんたには勝てないんだ。あんたは、有る意味鬼に似てる。万の策謀を、全力をもって拳で砕くか泰然としたままに叩き潰すかの違いだ。…だから、少なくともあんたにあらゆる面で劣る私は、きっとあんたに勝てる日も来ないんだろう」
「…珍しいな、星熊。お前ほどのものが、弱音とは」
「…そうだね。私らしくないのは自覚してる。でも、さ。私だって、完全に自分の上を行く相手に勝てる、なんて言えるほど神経太くないよ。私は鬼子母神様には絶対勝てない。その鬼子母神様は、あんたに今まで全敗。ここまでの差があって、まだなお勝ちを見出して自惚れるほど私は傲慢じゃない」
「そう思いながらも向かってくるのは、やはり鬼の性だなぁ。…そろそろ終わらないか?お前さん、もう普通に『重傷』だぞ」
…勇儀は、既に戦闘不能の体であった。両の腕は砕け、両の足は裂け、顔なども血に濡れて誰かの判別に苦労するほどに。今や勇儀の体で、血に濡れていないところを探すことは、困難を極めるというほどだった。
対して、ユウは無傷。一撃喰らえばまともに生きて帰ることすら難しいほどの勇儀の攻撃を、何度も打たれているにもかかわらず、だ。…理由は簡単である。全て、柔らかに舞うようにして逸らした。それだけである。彼は、この勝負が始まってから一度たりとも攻撃を受けておらず、傷一つない細やかな手の肌が月明かりによく映えている。
強すぎる、と誰かが言った。
あいつは何者だ、とまた誰かが言った。
何も言わず、呆然と立ちすくむ者もいた。
ユウを知るものは、ただ黙って勝負の行方を見守るのみ。
頃合いだな、と誰かが言った。
その誰かは、勇儀だった。
「…ユウ」
「どうした」
「次の一撃を、受けてみてくれ。私の、正真正銘の全力を出すから。それに、勝ってみてくれ」
「…そうか。いいだろう。その勝負、受けて立つ。…紫。結界の強化を、頼む」
「了解したわ。……OKよ。これで、おそらく大丈夫」
「ありがとう。…さて、と。来い、星熊」
「…言われずとも、だ!
四天王奥義『三歩必殺』!」
やはり、か。星熊なら、これを使ってくるだろうとは思っていたが。…細工はしてこない。これは確定だ。あいつは最初から俺に勝つ気など毛頭なかった。ただ、己の力を試したかっただけ。そして、最後に最大の満足を得ようと、今『三歩必殺』を発動した。
「一!」
地を踏み抜き、砕ける音が、鮮明に聞こえる。視界の端で、衝撃に耐えかねた小さな木が一本、倒れたのが見える。
「ニ!」
溜めの姿勢に入る。次で、星熊の本当の全力の一撃が俺を襲う。ならば、俺のすべきことはたった一つだけ。
「…さあああぁぁぁんっ!!」
ーー 今までと同じように受け流すのではなく、本気で打ち合うのがいいだろう。何と言っても、そちらの方が『らしい』しな。
そして、山をも砕く必殺の一撃は、少年を撃ち抜くべく打ち出され ーー 。
雷が落ちたかの如き爆音が、神社を包み込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…っ。あれが鬼の四天王、ね。全力の戦闘は始めて見たけど、恐ろしいほどのパワーね」
「そのパワーが、私たちでも目で追うのがやっとくらいのスピードで打ち出されて、なんであいつは避けれるんだぜ…。これは、想像以上だ。…だけど、最後のは悪手だな。まともに打ち合いに行っちまった。…躱し続けて調子に乗ったのか?」
「…最後、どうなったのかしら。砂煙で、全く見えないわ。…多分、今までと違って、ユウさんは星熊童子の一撃を正面から破りに行ったわ。いくらユウさんが神様だと言っても、怪力乱神を司る鬼に力技で勝てるとは思わない。…ユウさん、大丈夫かしら…」
「…さて、どうなったのか……え?」
「どうしたんだぜ、霊夢?鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「…嘘でしょ。そんな、ありえない」
「どうしたの、霊夢?声、震えてるわよ?」
「あの勝負、決着は付いてる。ーー アリスと、魔理沙にとっては意外な形で、ね。…ただ、私にとってもこれは予想外だわ。まさか、こんなことが現実に起こるなんて」
「…一体何があったんだぜ?お前がここまで動揺するなんて、珍しい。よっぽどのことがあったんだろーな」
「土煙が腫れてきたわ。…これで、霊夢の言っていた言葉の意味が分かる。ーー この勝負、一体どんな決着を迎えたというの?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………は、は。これは、完敗だ」
「…腕を上げたな、星熊。最後のは、普通に痛かった」
「…嫌味か、よ!最後の見たらわかるだろ。完敗だ、完敗」
「お前、変なところで謙虚だなぁ。普段はうるさいくらいに喧嘩売ってくる癖に。…まあとにかく、その傷なら死ぬことはない。後は酒も飲まず、ゆっくりしておけ。帰りは、送って行ってやるから一人で帰るなよ。今のお前じゃその辺の雑魚にも苦戦するぞ」
「…はは。泊まってくかい?」
「?そのつもりだが?」
「…え、本当に?」
「ああ、このままじゃお前さん身の回りのこととか何にも出来ないだろ。入浴とかは流石に伊吹に助け求めるけど、それ以外は俺がやるよ。流石に怪我させてハイ終わりじゃあな…」
「…ああ、そういう。全く、流石は鬼子母神様の精一杯の気持ちを天然で無視しちまう男だ。一瞬、期待してしまったよ」
「悪いね。俺は基本的に妻を持つ気は無いんだ。何たって、俺は独り身でいるほうが気楽でね」
「…かわいそうに、鬼子母神様。…まあいいや、とりあえずはお言葉に甘えるとするよ。夕飯がはんばーぐ、とやらならなお良し、だな」
「材料買えたらな。…んじゃ、俺はくらぴーと勝負してくる。…伊吹ー。星熊を頼むー」
「…はいはい。んじゃ、サクっと終わらせて宴会の続きと行こう。さっきの勝負があまりにアレすぎて、今宴会の場が静まっちまってるんだよ。辛気臭いったらありゃしない」
「その辺は紫に任せるから問題ないよ。あいつは色んな意味で空気を変えれるからな」
「違いない!…そんじゃ、さっさと終わらせてなー。私はまだ飲み足りないからな!」
「…極力頑張るよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…久しぶりに見たけど。やっぱりとんでもないわね、ユウは」
全くだ。…それにしても、あの風見幽香をして『とんでもない』と言わしめるものが、一体この世に何人いることだろう。今、私達はまごうことなき世界の頂点の戦いを見たのだ。私は別に勝負狂でもなんでもないが、あんなものを見てしまうと、やはり疼くものはある。
「…私も戦いたかったわ。あんなに楽しそうなのに。紫、今からでも飛び入り参加出来ないかしら?」
「ダメよ。そんなことしたらユウが疲れるし、第一満足にお酒も飲めないじゃないの。きっとユウ、帰ったら不貞寝しちゃうわ。だから、今は我慢よ幽香」
「…むぅ…分かったわ。ユウとはまだまだ話し足りないし、不貞寝されちゃ困るわね。…再戦の予約、しとかないと…」
やはり根底はバトルジャンキーなのであろう友人を見て、苦笑。こいつもこいつで本当に勝負を好む。それこそ、鬼に匹敵するくらいに。そして、その実力は並の鬼を凌駕する。この前は、虎熊童子と互角の戦いをしていたっけ。2人ともあまりに口が悪く、聞くに耐えない喧嘩ばかりするので、鬼子母神に2人ともシバき倒してもらって、それで幽香を連れて帰ってきたのはいい思い出だ。
そんな幽香をここまで育て上げたのは、勿論幽香自身でもあるが、やはり幽香にとってユウの存在は大きいだろう。なんたって、幽香の目標であると共に、あの幽香の『初恋の人』なのだから。カマをかけてユウが好きなのかと聞いたところ、真っ赤になってへたり込んだのは幽香にとっては黒歴史だろう。
「…紫。こっちで飲みながら見ましょ。ここからなら見晴らしが良いわ」
「…そうね」
さて、とりあえずはユウの第二戦を観戦するとしようか。相手は地獄の妖精。まあ、強いが勇儀には劣るといったところか。ユウなら苦戦することもないだろう。
「…ふふ」
幽香は、今にも鼻歌を歌い出しそうなほどに顔を綻ばせている。よっぽどユウを見られるのが嬉しいのだろう、普段のクールさからは考えられないほどに上機嫌だ。
「…一途ねぇ。私も、だけども」
「?何か言った?」
「いえ、なーんにも。…ホラ、試合始まるわよ」
「あら、ほんとだわ。…ユウー!頑張りなさいよー!負けたらボキッと逝っちゃうわよー!」
…幽香。仮にも恋してる相手にそれはダメでしょう!今、場が一瞬凍りついたわよ!?ユウだって、わりと真面目に『え、マジで?』ってなってるわよ!ほら、もっと違うこと言いなさいな!例えば、こう、応援してあげるとか!
「…じゃあ。…ユウー!腕裂かれたくなかったら頑張りなさーい!」
…幽香の初恋は、実らない。それは、決してユウの鈍感さが原因というだけではないように感じる、ある夏の夜だった。
ありがとうございました!
「…最長だな。5070文字は」
まあ、最初のアレで結構食いましたからね。私もあれは予想外でしたよ。書いてるうちに止まらなくなっちゃって。
「…次回は宴会の終わりだな。それじゃ、次回までごゆっくりどうぞ」
Twitterも宜しくね!
@ax70173517です!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。