「希望が持てない…」うつ病ロボットが人間に教えてくれたこと
2016.10.21 |- WRITER:
- hi666666
ロボットがうつ病になる―こんな発見をしたのは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の銅谷賢治教授です。銅谷教授は、数理モデルとロボットを用いて人の心を解明しようとする計算論的神経科学の第一人者。
でも、感情がないロボットが「うつ病」になるなんてことがあるのでしょうか?
希望が持てない―ロボットが示したうつのメカニズム
ロボットにうつ的症状が見られたのは、強化学習の実験中のことでした。
強化学習とは、ある環境に置かれたロボットが自分の状態を把握し、採るべき行動を選択する、という学習方法です。特定の行動を選ぶことで報酬が与えられ、「これを選ぶと良いことがあるんだな」と少しずつ学んでいきます。
あるとき、銅谷教授はネズミ型ロボットで強化学習の実験を行いました。内容は単純で、ねずみがえさである電池パック(報酬)を探して動き回る、というものです。途中には障害物があるため、ねずみ達は上手に障害物をよけながら、えさへと向かわなければなりません。
研究を続けているうちに、遠くにえさがあっても取りに行かない、無気力なねずみが出てきました。その様子は、さながらうつになった人間のよう。
銅谷教授が早速そのねずみのプログラムを見てみると、すぐに得られない報酬を極端に低く評価するようになっていました。そこで教授は考えます。「うつになった人間も、将来的な報酬を辛抱強く待てないのではないか?」
そこで今度は生体を使って同様の実験をしたところ、うつ病に関係するセロトニンが減少すると、良い結果のために待つことができなくなることがわかりました。つまり、ロボットが示した行動は、人間のうつ状態と同じだったのです。
次なるプロジェクトは「自分で考えるロボット」
2016年10月、OISTでは銅谷教授を中心として、新たな研究がスタートしました。それは「人間のように応用力のある強化学習アルゴリズムの開発」です。
従来、ロボットの強化学習においては、設計者があらかじめ特定の情報を与えておかなければならないなど、応用力に欠ける側面がありました。例えば、「対向者が来たら避けないとぶつかる」と学べば、人間は斜めから人が来た時も、横から自転車が来た時も、同じように避けることができます。スクランブル交差点やラッシュ時の駅を思い出すと分かりやすいでしょう。しかし、ロボットではある程度のパターンを教え込まないと上手に障害物を避けることができません。
そこで今回の研究では、人の手による調整をせずに、自分で学んでいけるAIの制作を目的としています。この研究が進めば、自分で経験に基づいて考えるロボットを作り出すことが可能。つまり、ロボットに人間のような「頭脳」を与えることができるのです。
ロボットを人に近づける過程で、人間の脳科学も解明される―科学は奥が深いですね
ソース・画像:OIST