強いストレスは、時に仕事の妨げにもなる。その一方、ささいなミスが命の危険につながるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員――特に宇宙飛行士は、仕事で成果を出し続けているように思える。
高いストレス環境下でも結果を出すチームは何が違うのか。ビジネスリサーチラボがJAXA職員に行ったインタビューから、民間企業にも役立つ“良質なチームの条件”が見えてきた。
高ストレス環境下でも、そう感じないのはスーパーパーソンだから?
インタビューを行ったビジネスリサーチラボ・神谷俊さんによれば、宇宙飛行士候補者は「死ぬかもしれない」という緊張感と戦わねばならないにもかかわらず「新しいことへの挑戦にわくわくして」おり、これといった「不安がない」「弱音や愚痴を吐くことがない」など「日々の訓練を楽しんでおり、特別なストレスを感じていない」と答える傾向があったという。
その理由は、もともとストレスをものともしないスーパーパーソンばかりを採用しているからなのだろうか。
JAXAで採用を担当する宇宙医学生物研究グループ主任開発員によれば、採用時に着目しているのは「宇宙に行ってみたいという気持ちの強さや意志の強さ」。筆記試験では、「得点の高い人というより平均的に点数を取れる普通の人」を選んでいる。こうしたことからも、スーパーパーソンばかりを選抜しているわけではないことがうかがえる。
ただし、ストレスを緩和・除去する「コーピング」行動のバリエーションが少ない人では、心に負荷がかかって“お休み”をしてしまう可能性が高いと、先の採用担当者は語る。そのためJAXAでは、3ステップの中でそのような応募者を落とし、1000近いエントリーの中から最終的に2人に絞り込んでいく。
いわゆる“普通の人”がどのような経緯で高ストレス下で成果を出すようになるのだろうか。
それは彼らが、「ありえないほどの不具合」「軌道上はそんなことは起こらないと言われる程の不具合」を経験するよう、宇宙飛行士の訓練過程に組み込んでいるからだ。
そこで重視されるのは「イレギュラーな問題に“チームとして”いかに対処するか」ということ。その結果、(1)想定外の事態が生じても対処可能と認知して解決行動に向かう姿勢が得られ、(2)どうすれば解決できるかという関与領域のレパートリーが増え、(3)ロール&レスポンシビリティ(チーム内での各メンバーの役割と責任)がしっかりと見えるようになるため仲間への信頼感が増し、(4)冷静に対処できるようになっていくという。
「個人」ではなく「チーム」を主語にする意味
JAXAの職員が問題対処について語るとき、「自分が」または「わたしが」という表現をせず「チームが」「仲間が」という具合に、個人ではなくチームを主語にするという。これは個人でできることには限界があるため、個人の露出をできるだけ避け、チーム一丸となって解決するのが当たり前という認識に基づいているために出てくる表現だ。
また宇宙飛行士は訓練期間中に、イレギュラーな問題をわざと起こして、たくさんの失敗を経験し、何が起きても冷静に対応できるようにしているという。ミスを犯してもそこから学び、二度と犯さないようにすればよい、というのがJAXAという組織の考え方なのだ。
もちろん、その情報は共有され、問題にはチームが一丸となって対処する。それこそが、JAXAが高い負荷がかかっている中でもパワーを発揮する秘訣だったのだ。
JAXAから学んだ高ストレス下でも機能するチームの条件は、以下の8項目。
- 明確な責任分担
- メンバー同士の相互理解
- 情報・意見の積極的な共有
- 助け合いの規範
- 主体としてのチーム意識
- 強い信頼関係
- メンバーへの目標浸透
- 問題解決規範の浸透
日ごろから自分の役割をチームメンバーに見えるようにして信頼関係を培い、決してあきらめずにチームで問題に当たる――そのようなチーム像がここから見えてくるのではないだろうか。
高まる個人主義を見直し、日本本来の強みであった“チームワーク”を取り戻そう
現在、多くの企業が求めているのは、高いパフォーマンスを発揮できる“個人”であり、「即戦力となる人材」。スマートデバイスを用いた“リモートワーク”と称してバラバラに働かせ、目標や勤務状態を管理する。ところが、いざ問題が生じたとなると放置し、対処するのは個人任せ。イレギュラーな問題に対応できず、ストレスに耐えきれなかった場合は、産業医に相談させたり、ひどい場合は「お休み」という処置を取ったりし、個人を切り離してしまう。
しかし、成果を出しているJAXAの強みは、決してスーパーパーソンによるものではなく、以前から日本人が強みとしていた“チームワーク”。もし、企業がストレスの多い環境にあっても成果を出していきたいと願うのであれば、スーパーパーソンを採用したり、ましてや弱い個人を排除したりするのではなく、良質なチームに求められる8つの条件を満たしていく必要があるのだ。