2016年10月21日/久保田明
東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)に、その催しが追い風になって国内のテレビ受像機数が1,500万台を突破。日本はイギリスを抜いて世界第2位のテレビ王国となった。
当然それはコンテンツの充実に跳ね返るわけで、このあとの数年間はその後映画化された作品も多い米英のテレビドラマ・シリーズ放映の黄金期となる。
小型アンテナの向きを変えながら、ガチャンガチャンとチャンネルを回していた洟垂れ小僧の時代を懐かしく思い出す向きも多いと思うので、この時期に我が国に紹介された人気番組をいくつか書き出してみよう。
▼1964年(昭和39年)
『バークにまかせろ』『アウター・リミッツ』『ブラボー火星人』『逃亡者』『原子力潜水艦シービュー号』『プレイハウス90』
▼1965年(昭和40年)
『ナポレオン・ソロ』『0088/ワイルド・ウエスト』『FBI・アメリカ連邦警察』
▼1966年(昭和41年)
『ハニーにおまかせ』『それ行けスマート』『奥様は魔女』『アイ・スパイ』『バットマン』『宇宙家族ロビンソン』『わんぱくフリッパー』『ギリガン君SOS』『ラット・パトロール』
▼1967年(昭和42年)
『タイム・トンネル』『スパイ大作戦』『チック・タックのフライマン』『インベーダー』『グリーン・ホーネット』『ザ・モンキーズ』
▼1968年(昭和43年)
『特攻ギャリソン・ゴリラ』『マニックス』『アダムズのお化け一家』『コロネット・ブルーの謎』『キャプテン・スカーレット』
▼1969年(昭和44年)
『スパイのライセンス』『モッズ特捜隊』『鬼警部アイアンサイド』『巨人の惑星』
だはは。どれも懐かしい。全録機もない時代にこれらを片っ端から観ていたのだから、それなりにテレビっ子だったのだなあ。
とりわけ好きだったのは『0088/ワイルド・ウエスト』や『それ行けスマート』などの(構成がしっかりとした)フザけたもので、音楽ヴァラエティ番組の『ザ・モンキーズ』も毎週楽しみだった。
ヒット曲"モンキーズのテーマ"と彼らのチョコマカとしたダンスはいまも人気で、「ミニオンズ」(2015年)でもケビンやボブが歌い踊っていたっけ。
ハリケーンの被災地救済のため開催されたチャリティ・コンサートの裏表を記録した「121212 ニューヨーク、奇跡のライブ」(2013年)では、ポール・マッカートニーが楽屋からステージに向かう場面であのトボけたダンスを披露していてうれしくなった。
さて、およそ半世紀前。1969年の4月から日本テレビ系で放映がスタート(アメリカでは1966年からNBCで)したのが『宇宙大作戦』(STAR TREK)だった。
ロサンゼルス市警の警官だった原案、製作総指揮者のジーン・ロッデンベリーが夢見たのは、欠点も少なくない登場人物たちが、宇宙のさまざまな事象から刺激や気づきを受けながら成長してゆく知的なSFシリーズ。アプローチが堅すぎるとパイロット版がお蔵入りになったりもしたが、番組はなんとか船出をする。
お馴染みのクルーたちなので普通に眺めてしまうけれど、1960年代中葉のテレビ界で、アメリカ人、アフリカのバントゥー族、アジア人、ロシア人や女性、それに奇妙な髪型のバルカン人と地球人のハーフらがメインキャラとして活躍するドラマはほかにはなく、彼らの個性と呉越同舟が人気の一因となったのは間違いのないところだろう。カウンター・カルチャー=新たなる地平を意識したSFドラマだったのである。
これらの魅力は、2009年にJ・J・エイブラムスによってリブートされた「スター・トレック」と続篇の「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(2013年)にも巧みに受け継がれることになった。
共にある種の青春映画、青の時代の物語といえる作品で、ケンカをして鼻血を出したカーク(クリス・パイン)は両方の鼻の穴にティッシュを詰めてるし、離婚して全財産を失ったドクター・マッコイ(カール・アーバン)は酒浸りでヤケクソになってるし。少年スポックは、仲間から母親が地球人だといじめられていたし。「イントゥ・ダークネス」の超人類カーン(ベネディクト・カンバーバッチ)にも青の時代の鬱屈があった。
新旧テレビシリーズのファンからも拍手をされたJ・J版2本だけれど、ぼくは“でもさ、これ、すぐ地球に戻ってきちゃうし、「宇宙大作戦」ではないしスペースオペラでもないじゃん”と口走って顰蹙を買っていた。
なんというか、映画化第一作のロバート・ワイズ監督版(1979年)にあった広大なランドスケープを見たかったんだよねえ。
脚本が機関士スコッティを演じる才人サイモン・ペッグと『コンフィデンス』(2003年)のダグ・ユングに代わり、演出に『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年)などの台湾系アメリカ人監督ジャスティン・リンを迎えた第3作『スター・トレック BEYOND』。
ありゃ。おっもしろいじゃん、これ! ひとことで言えば“USSエンタープライズmeetsガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”。
スター・トレックでこんな猛進をやらなくてもよろしい、という声も聞こえてきそうだけれど、なによりずっと宇宙にいるのがいいし、過去2本とは比べものにならない数の異星人たちが出てくる。
“深宇宙にいると一日の始まりと終わりがわからない”というカーク船長のモノローグで幕を開け、映画の冒頭と最後に“迷子”(LOST)という台詞が置かれた冒険篇。
シリーズの創始者ロッデンベリーの最初のイメージは、西部の荒れ野を行く幌馬車隊だったといわれるが、ならばこのイケイケ篇もスター・トレックの心棒からそれほど外れていないのでは、と思えるのだ。
途中でカーク船長&航宙士のチェコフ(アントン・イェルチン。この6月に交通事故で他界した)、マッコイ&スポック(ザッカリー・クイント)、スコッティと異世界の女性戦士ジェイラ(『キングスマン』で黒髪の殺し屋を演じたソフィア・ブテラ)、囚われの身となる操舵手のスールー(ジョン・チョウ)と通信士のウフーラ(ゾーイ・サルダナ)らにチームが分かれ、それぞれのキャラも立っている。
ヒカル・スールーの中古宇宙船USSフランクリン号の離陸テクは『ハドソン川の奇跡』のトム・ハンクスよりすごいし、カークはビースティ・ボーイズの“サボタージュ”を“Let’s makes some noise!”(でっかく鳴らせー)とか煽ってるし(笑)
まあなんというかこれ、“スター・トレック”としては邪道なのかもしれない。でも燃えるんだよ。過去の2作ではそれほどでもなかったエンタープライズ号の描写もたっぷり。美しく、かつ悲惨なフォルムがいいんだよ。
腕白カーク船長の、誕生日まで2日間の物語。ドルビーアトモス音声搭載。IMAX3D、4DX上映などもあるので、近所の映画館をチェックして深宇宙での冒険に出かけよう!
「スター・トレック BEYOND」作品情報
監督:ジャスティン・リン
製作:J・J・エイブラムス
脚本:サイモン・ペッグ/ダグ・ユング
出演:クリス・パイン/ザッカリー・クイント/カール・アーバン/ゾーイ・サルダナ/サイモン・ペッグ/ジョン・チョウ/アントン・イェルチン/イドリス・エルバ/ソフィア・ブテラ
原題:STARTREK BEYOND
2016年/アメリカ/シネスコ/ドルビーSRD/2時間3分
配給:東和ピクチャーズ
10月21日(金) 全国ロードショー
(c) 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. STAR TREK and related marks are trademarks of CBS Studios Inc.
映画ファンから絶大な人気を誇った伝説の情報誌「シティロード」の編集を経て、フリーランスに。以後さまざまな媒体に登場し、その深い考察で読者を唸らせている。小社では月刊HiViのソフトページ「VIDEO SOFT VIEW」コーナーで、LD時代から20年以上にわたり活躍中。
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