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第一王女と政策
貴族たちの間では、第二王女はただ美しいだけのお姫様と呼ばれ、第一王女はただのお飾りと言われている。
彼女たちが勉強をしているのは聞いているが、これから女王として選ぶのであればどちらでも構わないというのが本音だ。
別に馬鹿にしているわけでも何でもない。
本当の事だからだ。
嫌っている訳ではない。
むしろ好意的に見ている。
だが、国はそれだけでは成り立たないと知っているからこその、評価だった。
そんなある日、そのお飾りの王女が内政会議に参加するとの通達があった。
貴族たちは、王のその言葉に深いため息を吐いた。
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「では殿下、あなたは民に勉強というものをさせ、農業をさせる時間を奪おうというのですかな」
冷たく言い放つのは、確かベナン伯爵だろうか。
撫でつけられた髪に、でっぷりとした腹が目立つ。
「ベナン伯爵、それだとあなたは民を農業させるしか能がないとでも言いたげですね」
イルミナは酷薄な笑みを浮かべながらベナンに返す。
そうは言っていない、と憤慨するベナンに、イルミナは何も言わずに視線だけをやる。
「しかし殿下、勉強というものがいまいち把握出来ておりませんぞ、
何故そのようなことをせねばならんのです?
第一そのようなものに時間が取れる程民は暇ではないでしょう」
そう発言するのはフェルク子爵か。
「フェルク子爵、お手元の資料は何ですか?
一体何を読んでいたのですか。
もし読んでいての発言であれば、あなたこそ教育を受けられるといい」
イルミナのその発言に、フェルクは顔を真っ赤にする。
「小娘が!!
調子に乗りおって!!」
フェルクのその対応に、イルミナは更に蔑むような笑みを零した。
「それが本音ですか。
貴族ともあろうお方が・・・嘆かわしい」
そしてイルミナはフェルクに一瞥くれると、興味を無くしたように他の面々に視線を向けた。
「フェルク子爵、あなたの発言は聞くに堪えん。
少し黙っていてくれ。
・・・それで、イルミナ殿下は何をお考えなのです?
教育というものは理解出来ました。
しかしなぜそれを行なおうというのです?」
理性的に話すのはブラン公爵だ。
今日この場で集まっている者の中でイルミナに次いで権力を持っている。
しかし彼はとても理知的で、国の利益の為なら時間を惜しまないとヴェルナーから聞いている。
「ブラン公爵、この国のもっともな収入源はご存知ですよね」
「?
鉱石でしょう、あとは農業ですか?」
「そうです。
それに関しての講義も受け、なお現地に視察にもいきました」
その言葉に、何人かはぎょっと目をむく。
視察の話は聞いているが、まさか本人が行ったとでもいうのだろうか。
「そして確認した処、現在の鉱石採掘率は全盛期の8割ほどしかない様です。
それの意味する事はお分かりになられますよね?」
「————、」
その言葉に返すものはいない。
きっと知っていたのだろう。
「鉱石の作られ方をここで説明するつもりはありません。
が、このままでは我が国は一番の収入源を無くすことでしょう」
「何を小娘が!!
第一その確証がどこにあるのだ!
今まで大丈夫だったのだ!!
そんないきなりなくなるわけでもなかろう!!」
「————黙って頂けますか、フェルク子爵?」
イルミナはにっこりと微笑んで、しかし絶対零度の視線でフェルクを見た。
「はぁ・・・フェルクよ、
そのまま話しているとお前の頭の悪さが露呈するだけだぞ・・・。
もう手遅れだがな」
ブラン公爵がやれやれと言わんばかりにため息をつきながら言う。
「それで、殿下はなにを収入源としようとおいでで?」
そう発言したのはアリバル侯爵だ。
彼も国の為に物事を考えてくれる人だったはず。
そういう人がいると話が早いのに、とイルミナは考えながらも口を動かす。
「人です」
「・・・すみません、もう一度・・・」
「人です」
「・・・・・・」
ぽかんとする侯爵たちに、イルミナは畳みかけるように自分の思想の話をする。
一度こちら側に持ってこれさえすれば、話は聞かせることが出来る。
度肝を抜くような事を一言で笑顔でいう事が大切だと、ヴェルナーは教えてくれた。
「正確には、人の持つ技術を、です。
私はアウベールという村を視察してきたのですが、かの村は治水に長けている事を知っている方はいますか?
・・・結構。
私自身が確認しても、やはりその技術は国内一でした。
なら、それを何故他の村で起用しないのか。
村人たちから考えると、やはりその技術を苦労なく使用されるのはいい気分はしないものでしょう。
彼らとて長い時をかけ、苦労しながら作り上げたものですからね。
ではどうするのか・・・。
なら、売ってしまえばいいのです、技術そのものを」
一息区切って、侯爵たちを見廻す。
しっかりと聞いているようで一安心だ。
「村は、その技術を教える人がいました。
そして皆で有事の際は助け合うようにしているのです。
他にも薬草についても同様に行っていました。
貴族でもない子供たちが、下手をすると貴族より知識を持っている事だってあるのです。
なら、いっそのこと教育というものを国で運営し、水準と言うものを上げればいいのでは?
治水、建築、薬草、医療、芸術。
もし、それを生まれに関係なく才能を発揮する子供がいれば?
もし、その子が新たな技術を開発し成功すれば?」
「・・・国で運営せねばならない理由とは何ですか?」
「国が運営すれば、その才能を持つ子を発見するのも国が先になるでしょう。
数年で終わるのでは意味が無いのです。
何年もかけて行うには、国が運営するのが一番安定でしょう。
彼らの才能を活かし、伸ばし。
そしてそれを他国に売るのです」
「・・・それは・・・」
ブランが絶句する。
それを、この王女が考え付いたのだろうか。
たった、15歳にもならない彼女が?
自分の半分も生きていないような、彼女が———!?
それは、成功すれば国の繁栄を約束するようなものであった。
限りある資源ではなく、ずっと存在する資源。
そしてさらに改良が重ねられるもの。
それに魅力を感じないものはいるのだろうか。
しかし。
「殿下、それだと成功するかどうかの確立すら不確定です。
そんなものに賛成することは到底できませんな」
ブランはきっぱりと言った。
当たり前だ。
もし仮に成功するとしても、どのくらいの期間が必要なのか。
国の運営というからには資金はどこから調達するのか。
そもそも国民が、それを受け入れると言うのだろうか。
ブランの言い分は当たり前のことだった。
むしろ聞いてくれないと、イルミナはこの国の将来を本気で心配するほどだ。
想定していた内容そのままの質問に、イルミナは安堵したように微かにほほ笑んだ。
それに驚いたのは質問したブランの方だ。
「—————では、次の資料をお配りしましょうか」
そうして配られた資料に、ブランは唸った。
唸らざるを得なかった。
そこには、自分が質問したことに対する答えが書いてあった。
質問した以上の事すらも。
ブランが反論できなくなる事によって、その他の貴族たちも言葉を発する事が出来なくなる。
それすらも、彼女は見見越していたのだろうか。
それすらも、予想していたのだろうか。
視界の端では、ベナンが頭を抱えている。
アリバルは、面白そうに資料を読み込んでいる。
一体誰だ、彼女をお飾りと評したのは。
「——————むしろ鬼才じゃないか・・・」
もし、イルミナがこれを聞いていたのであれば笑い飛ばしたであろう。
イルミナは天才などではない。
ただの努力家なだけなのだ。
そのことをブランが知るのは、まだ先の事である。
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