19/31
第一王女と城への帰還
久々と言うほどでもないが、戻ってきた城は、帰ってきたとは感じさせなかった。
イルミナの中にあるのは家に着いた安堵ではなく、むしろ僅かではあるが緊張感だ。
それを感じると、まだ自分はここに居場所を作れていないのだなと感じる。
しかし、きっとそんな遠くない未来に、ここが私の住む場所だと胸を張って言えるようになるとイルミナは信じて疑わなかった。
**************
久々に自室に戻ったイルミナは、まず陛下に挨拶をしようと面会の許可を取るようメイドに指示した。
いくら陛下と言えど、視察に10日も城を空けた娘に時間が取れないなどと言わないだろうと思っていた。
「失礼いたします、陛下が今は時間が取れないので後日にとのことです」
「・・・え?」
始め、メイドが言っていることを理解できなかった。
しかし、かみ砕く様に理解すると、擦れたみっともない声で了承の旨を伝えた。
そんな事があるはずがないと考えていた自分は、どうやら村での優しい対応に漬かりきっていたようだ。
そうイルミナは考える。
そうだ、今までだって、何もなかったではないか。
例え、昨日が自分の誕生日だとしても。
回らない頭のまま、部屋の備え付けのテーブルに足を向ける。
「・・・?」
ふと卓上を見ると、封筒が置いてあった。
いったい誰だろうか。
中を見ると、そこからほんのりと華の香りがした。
一枚のカードが入っていた。
『お姉さま、お誕生日おめでとう!』
「・・・リリアナ」
それは妹からのバースデーカードであった。
パステルカラーの可愛いカード。
香水でもかけたのだろうか、開くと更に濃い華の香りがする。
訳もなく、イルミナは泣きたくなった。
嬉しいはずだ。
悲しくなんか、無いはずだ。
だというのに、この気持ちは何と表現すればいいのだろうか。
「っ・・・、」
溢れそうになる涙を、必死に堪える。
今、泣いてしまったら戻れないような気がするから。
ひくつきそうになる喉を、無理やり抑え込む。
まだ、大丈夫。
そう、言い聞かせる。
イルミナは、深く息をつくと次に会うべき人物に伺いをたてるようメイドに指示した。
*************
「お帰りなさいませ、殿下」
いつかの四阿に行くと、そこには既にアーサーベルトとヴェルナーがいた。
呼ばれてすぐに来てくれたのだろうか。
「戻りました、変わりないですか?」
「何もありませんよ」
ヴェルナーが苦笑しながら返す。
アーサーベルトも同じように笑っている。
「なら良かった、
早速ですが今回の視察についての報告です」
イルミナはそう言いながら持ってきた書類の束を2人に渡した。
あれからすぐに清書をしたが、やはり粗いところが目立つ。
しかしまだ公的なものではないのでいいだろう。
「ふむ・・・」
ヴェルナーは時折頷きながらぺらぺらとめくる。
本当に読んでいるのか疑るところだが、彼は宰相補佐だ。
それくらい出来て当たり前なのだろう。
「殿下、よう調べられましたな」
アーサーベルトは目元を緩めながらイルミナを誉める。
齢14の女が書いたとは思えないほどの出来だ。
「・・・それで、殿下はどうお考えでしょうか」
読み終わったのか、ヴェルナーが書類から視線をイルミナに移す。
彼に渡したのはあくまでも報告書のみだ。
政策案件などは別紙に纏めている。
「これを」
渡された二人は、無言のままそれを読んでいく。
そして目を見開いた。
読む手は早くなり、あっという間にすべてを読み終える。
「殿下・・・まさか」
ヴェルナーが信じられないものを見るかのような視線を向けてくる。
アーサーベルトも似たような視線だ。
「私は、教育という機関を作ろうと思います」
イルミナは言葉にした。
言葉にすることで、ぼんやりとしたものから少しだけ形作るような気がしたのだ。
「・・・それはどのようなものでしょう?」
ヴェルナーの言葉に、イルミナは説明しだした。
・人を雇い、彼らが他の人に教育をすること
・薬学、発明、政治などの分野を作ること
・誰でも利用出来る事
他にも色々提示する。
「そんなことが可能なのでしょうか」
ヴェルナーは懐疑的で、アーサーベルトは以外にも乗り気だ。
「できれば国の識字率を上げたいのです。
そしてこれを一番最初に実行する場所は決まっています」
「・・・アウベール村ですね」
「はい、あそこは既に地盤が出来ています。
それを利用しない手はありません。
そして実績を生んだ時点で貴族の承認を得て、国管轄で行う予定です」
言うだけなら簡単な事だ。
しかし実際に行うとなると途方もない時間と金がかかる。
それでも、彼女ならできると思ってしまうのはなぜだろうか。
「とりあえず今度の議会で発表はします、
そして貴族の出方を様子見をして、それからまた対策を練ります」
「わかりました、ではそのように手配を進めます
しかしまだ甘いところがあるようですので時間を作って煮詰めますよ」
ヴェルナーが書類を纏めながら言う。
彼女の案は素晴らしい、そう思う。
しかし、今のままでは夢物語で終わってしまう。
そうしないためにも、ありとあらゆる対策を考え、実行しなければならない。
自分も、アーサーもまだ、彼女の傍にいる事は出来ない。
イルミナが、自身でその力を手に入れなければ。
種は蒔いていた。
彼女を鍛え、毒に耐性をつけた。
これから、イルミナは狙われ始めるであろう。
それを全て躱して、そこで初めてイルミナは立ち位置というものを得られる。
それが得られないのでは、ただの王族の一人でしかない。
代わりの利かない、皆に必要とされる存在になるためには。
「殿下」
話し合いが終わり、解散しようとしたところで、ヴェルナーに呼ばれる。
「はい?」
ヴェルナーは、彼にしては珍しく歯に何かを詰めたような変な顔をしている。
思えば、彼が表情をこのように変えるのは珍しい事だ。
「・・・これを」
そういってヴェルナーは包みをイルミナに渡した。
アーサーベルトも何かを用意している様だ。
「?なんですか?」
イルミナは受け取るも、中身が全く予想できない。
勉強用の本にしては重すぎるし、だからといってサイズは小さめだ。
「・・・お誕生日おめでとうございます」
ヴェルナーは苦虫を噛み潰したように言った。
アーサーベルトはそんなヴェルナーを見て苦笑している。
「おめでとうございます、殿下。
これは私からです」
アーサーベルトはにこにこと笑いながら包みを渡してくる。
「え、あ・・・ありがとう、ございます」
喜びとかよりも、戸惑いの方が大きかった。
誕生日には、何かをもらえるものなのだろか。
両陛下から、何かをもらった記憶がないのだが、これが普通なのだろうか?
「殿下、親しい人の誕生日に、何か贈り物をすることはよくある事です」
ヴェルナーは、イルミナの戸惑いに気付いたのか教えてくれる。
「そう、なんですか・・・ありがとうございます」
中を見ると、そこにはガラス細工の花と、お菓子がそれぞれに入っていた。
ヴェルナーが細工物で、アーサーベルトがお菓子だ。
「どうぞ、文鎮にでも使ってください」
「殿下、こいつそれを選ぶのにすごい迷っていたんですよ」
「黙れ」
二人が言い合っているのをぼんやりと見た。
そして視界が歪んでゆく。
「殿下!?」
アーサーベルトが慌てた声を出す。
その隣のヴェルナーは目を見開いて完全に停止している。
「どうしたのですか?」
そこで、イルミナは自分が泣いている事に気付いた。
アウベールでも泣いたというのに。
「、ありがとうございます、本当に。
あなた方がいるから、今の私が、います」
感謝の言葉以外、出なかった。
それくらい、二人には感謝していた。
イルミナは決意を新たにする。
必ず、二人が誇る女王になろうと。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。