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村人と護衛騎士
「今回は本当にお世話になりました」
イルミナは予定通りの視察の日程を終え、今日ついに村を発つことになった。
あの後も、非常に興味深いこと聞き続け、イルミナは満足感と軽い疲労を覚えながらタジールたちに挨拶をした。
程よい疲れが、イルミナの全身を包む。
でも、それ以上に今回の視察には収穫があった。
ミスリルの採掘状況も確認し、治水に関することも視察できた。
そしてなにより、村の教育というものを知れたことはイルミナにとって非常に大きな収穫であった。
「なんじゃ、もう帰ってしまうのか」
タジールは少しだけ寂しそうに微笑みながら微笑む。
たった5日間ほどしかいなかったが、イルミナの存在は村の人たちにとっても大きなものとなっていた。
「今回の視察は本当に有意義なものとなりました。
これを持ち帰って国の発展に役立てたいと思います」
イルミナは、うっすらと微笑みながらタジールに返す。
「殿下、これ私が作ったんですけど宜しければ召し上がって下さいな」
アイリーンはそういい、バスケットをイルミナに渡す。
中身はどうやらサンドイッチのようだ。
「アイリーンさん、ありがとうございます」
「いいのよう、それにしても!
グイードのおバカさんはどこに行ったのかしら!」
アイリーンは腰に手を当てながらため息をつく。
今朝から、グイードはその姿を見せていなかった。
イルミナは、ここ数日間ずっと案内をしてくれた彼にお礼を言いたいが、見当たらないのであれば仕方がない。
探しに行きたい気持ちもあるが、そろそろ戻らねばならない。
「グイード殿にも本当にお世話になりました。
また来た際はよろしくお願いしますとお伝えいただければ」
「わかりましたわ、殿下。
道中お気をつけてくださいね」
アイリーンは、微笑みながらイルミナに言う。
すると、リタや村の人たちがやってくるのが見える。
「なぁんだい、あんた、もういっちまうのかい」
「リタ!
口が悪いわよ!」
「ねーねー、おひめさま、もう行っちゃうの?
もうあそべないの?」
「なーなー、今度剣教えてくれよー」
わいわいと囲む皆に、イルミナは驚きを隠せない。
今まで、このように囲まれたことなど一度もないから。
「ほら、あんたたち!
殿下が驚いてるだろう!」
アイリーンが一声言うと、みんなが次々に文句を言う。
「だって!!
村長はいいじゃないか!ずっと泊まってたんだから!
あたしらだってお話ししたいのに!!」
そーだそーだ、と他の村人も声を上げる。
そんな彼らに、イルミナはどうするのが正解なのか分からない。
でも、正直に嬉しいと思った。
リリアナがいないからこうなっているだけなのかもしれないか、それでも。
今は皆、イルミナという存在を認めてくれているような気がして。
「ま、また、今度来るので」
「ほんとー!!」
「次はおれたちと遊んでなーー!」
喜びで跳ね回る子供たちに、イルミナは頬を緩ませた。
「殿下、気にされなくていいんですからね、
お忙しいの分かっていますから」
「いいえ、アイリーンさん。
私の方がここに来たいと思っているのです」
イルミナのその言葉に、村人たちはほっこりする。
最初は、王族なんて碌なものじゃないだろうとほとんどの者が思っていた。
しかし実際に会ってみたら想像とかけ離れた人だった。
傲慢にしているわけでもなく、ただただ知識を求める。
その為に礼をいう事を欠かさないその姿は、村人たちには非常に良く映った。
そんなわいわいとみんなで騒ぐ姿を、遠くから見ている人物が二人ほどいた。
「――――、あれが、第一王女・・・?」
男は食い入るようにその姿を見ている。
彼女が笑う姿など、一度として見たことがなかった分、今の彼女の姿は驚きを禁じ得なかった。
「そうだよ、あれが、あんたたちのオヒメサマの一人だよ」
その男を責めるように言葉を放ったのは、グイードだ。
グイードは、イルミナに会う前に護衛騎士であるハザに会っていた。
本音を言えば、グイードはハザが気に入らない。
いや、本音じゃなくとも気に入らない。
彼女の傍にいて、守ることが出来るのにそれをしない彼が、嫌いだった。
「あの方は、何をしようとしているのだ」
ハザのその言葉に、グイードは失笑を禁じえなかった。
「本当に、お前なんも知らないのな」
グイードにそう返され、ハザの頬に羞恥の熱が上がる。
騎士である自分が、農民にそのような事を言われるなど想像もしなかっただろう。
しかし、何も知らないということは、本当なのだ。
自分は、何も知らない。
・・・いや、何も知ろうとしていなかったのだ。
「イルミナは、国を変えようとしてんだよ。
いい方向にな」
「国を、変える・・・?」
「そ。
そのために、色んな勉強して、国の小さな村の事も知ろうとしてる。
知って、それで良くすることが王族のやらなきゃなんないことだって知ってんだよ。
見た感じ、他の王族はやってないみたいだしな」
「それは不敬ととるぞ」
「ちげーよ、お前頭悪いんだな。
別に今のオウサマたちが悪いなんて言ってねーよ。
でもな、こんなちっさな村じゃ王が誰かなんてどうでもいいんだよ」
その言葉は、ハザにとって衝撃を与えるものでしかなかった。
誰が王でも構わない?
「当たり前だろ?
オウサマは、俺たちに何をしてくれたんだよ?
見たこともねーのに、なんで信じられてるって、崇拝されてるなんて考えられるんだ?」
それは、当たり前のこと過ぎてハザは反論の言葉が出なかった。
顔も見たことがない、生活が変わるわけでもない。
なら、いてもいなくてもいい存在だと言っているようなものだ。
そして、それは事実でもあった。
あの城にいて、この村のことなど知らない者のほうが多い。
この村だけでない。
紙の上で、数字としてしか記されていない。
城では、村に住んでいる人は人ではなく、数字として数えられているのだ。
そこに生きている人のことなど、城にいるものは誰一人として何も知らない、知ろうともしないのだ。
「だから、イルミナは名を残す偉大な人になるってじじぃが言っていただろう。
あいつは、きっと人を人として見てくれるんだよ」
それが、どれだけ難しいことか、きっとこの騎士は知らないだろう。
「わ、わたし、は・・・」
戸惑うハザに、グイードはやってられないとばかりに首を振る。
「ま、お前は今回の事踏まえてイルミナにしっかりと話を聞いた方がいいぜ。
今回の視察で何を見つけたかとかさ」
「な、んで・・・わたしに・・・?」
グイードは、その言葉を聞いた瞬間初めて怒りを露わにした。
「俺は、お前たちが嫌いだ」
「!?」
「アイツが、毒に耐性をつけなきゃ生きてられない場所なんか、嫌いだ」
そしてぎりりと歯を食いしばった。
「なにより、あいつを守れる立場にいない俺が大っ嫌いだ」
そういい捨てると、グイードはその場を離れた。
本当は、殴ってやりたい。
なんでと、どうしてなんだと、詰め寄ってしまいたい。
でもそれをすれば、きっとこの先自分はイルミナの傍にいることができなくなってしまうだろう。
だから、しない。
「・・・アーサーベルト様・・・」
残されたハザは、迷子のように崇拝する上司の名を口にした。
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