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梔子のなみだ 作者:水無月
15/31

第一王女と薬師



――――――――だれでも、いいから


――――――――おねがい、




そばにいて






「――――、」

久々に見た夢に、悲鳴をあげそうになる。
ぱきりぱきりと、何かにひびが入っていくような。
胸が締め付けられて、息が出来なくなるような。
そんな夢。
どくどくと脈打つ鼓動を、何とか抑えようとゆっくりと息を吐く。

「―――はぁ―――」

何回か深呼吸をすると、気持ちも落ち着いた。
そしてカーテンを開くためにベッドから降りる。
冬にはまだ早いはずだが、やはり朝は寒い。
手足がじん、と痺れるように冷えていく。

カーテンを開くと、そこはちょうど朝日が昇ってきているところだった。
目に映る景色が、明るい色に染め上げられていく。
その景色を、イルミナはただひっそりと見つめた。





**************




「おはようございます」

「おはようございます、殿下」

階下に降りると、すでにそこにはアイリーンが朝食の準備をしていた。
沸かされるお湯に、何かを炒めているのか、いい香りがする。

「おお、殿下、お早いですな」

「長殿、おはようございます」

アイリーンに何か手伝う事はあるかと確認しようとすると、その背後からタジールが声をかけてきた。

「もう少しで準備が出来ますから、もう少しお待ちくださいね」

アイリーンはそう言って、どんどん一人で準備を始めていく。
あまりの手早さに、イルミナは自分が手伝わない方がいいと気付き、大人しく席に着いた。

「殿下はご自身で準備が出来るんですなぁ」

タジールは柔らかい表情でイルミナに言う。
言葉だけを取れば、馬鹿にしているとも取れない内容だが、実際王族で自身の支度が出来るのはイルミナ以外誰もいない。
そしてタジールの、まるで孫を見る祖父の様で視線のお陰で不快感など一切わかない。
始めて向けられる視線に、イルミナはこそばゆい気がした。

「はい、それくらいできないと、恥ずかしいですから」

イルミナのそれは本音で、建前だった。
リリアナが生まれてからというもの、イルミナの世話をする人は年々減っていった。
今となっては1人も残っていない。
ゆえに、イルミナは自身の準備をせざるを得なくなったのだ。

「そうですか、良い事じゃと思いますよ」

それを知ってか知らぬか、タジールは孫を褒めるように言葉を重ねる。
イルミナは、初めてに等しいその言葉に、頬が熱くなるのを感じた。

1人で着替えられるようになっても、誰も褒めることなどしなかった。
むしろそれが当たり前だと言わんばかりだった。


―――――しかし、何より辛かったのは。


一瞬湧いた感情に、イルミナは気付かないふりをした。

「今日は薬草についての講義があるのでしたね。
 どちらで行われるのですか?」

「そうじゃった、リタのおばばがやるから・・・。
 おばばの家でやるじゃろう、グイードに案内させよう」

「そこまでグイード殿にご迷惑は、」

「なぁに、あいつもいい経験じゃろうて」

タジールは豪快に笑うとグイードを呼び、イルミナをリタと言う女性の元へと案内した。




**************




「おばばー」

「おばばと呼ぶんじゃない!
 リタおばさまとお呼び!!」

グイードがドアをノックしないで入ると、中から何かが吹っ飛んできてグイードの頭に当たった。

「いってーー!!」

「ふん、レディの扱いも知らないガキが・・・おや?
 そちらのお嬢さんは?」

2人のやり取りを呆然と見ていると、リタが気づいたのかイルミナに声をかける。

「、私はイルミナ・ヴェルムンドです。
 今日ここでリタさんが、薬草の事を教えられるとの事で見学に来たのですが」

「ヴェルムンド・・・?
 あんた、王族かい!?」

リタは目をむくと、慌てて膝を折った。
そんな彼女に驚いたのはイルミナ本人だ。

「そのような礼は結構です、
 今日は視察に来ただけですから、普通にして頂けると助かるのですが・・・!」

一緒になって膝を折りそうになるイルミナに、リタは怪訝そうな顔をする。
彼女は、どうやら自分が知る王族とは少し異なるようだとも、判断する。

「・・・そうかい。
 私はリタ。ここで薬草のことを暇つぶして教えているもんだ」

リタは立ち上がると、そのまま自己紹介をした。
彼女は背こそ低いものの、ピンと伸びており姿勢が良い。
白い髪は、まとめられ後ろに流されている。
その姿は、イルミナの目に自信あふれる女性として映った。
いつか、そんな風になりたいと思いながら、イルミナは礼をする。

「改めて、今日はよろしくお願いします」





**************




夜、イルミナは一人部屋で物思いにふけっていた。
昼のリタの授業と言うものは、素晴らしいの一言に尽きた。

食べてはいけない薬草から始まり、季節ごとのもの、怪我に使えるもの、そしてその処方のやり方。
他にも育て方や、地域によって育つ植物などを口頭と絵で教えていた。
知っていれば役立つ情報が非常に多かった。
イルミナ自身、毒耐性をつける際に勉強していたが、それでも知らない薬草名があった。

それらの知識の使い方は、子供たちに任せている、そうリタは言っていた。
それを使って村を出、薬師として生きていくも良し。
新たな薬草を求めて旅出るもよし。
使わなくとも構わないのだと。
選ぶのは本人であって、先を生きたものはその知識を下に与えるのが当然なのだと。
そうやって、この村は生きているのだと誇らしそうに教えてくれた。

その考えは、昨日からイルミナに衝撃を与え続けていた。
もし、この学ぶ場を国が運営したら?
薬草だけでなく、医療、政治、発明など。
それらを国で管理すれば、才能ある子たちをそのまま引き込める。
国は、更なる発展を約束される。

しかし、とも考える。
万が一国を裏切られたら、どうするか。
それを防ぐためにはどのようにしたらよいのか。
そもそも、教える役は誰が行なう?
それに対する報酬は?

沢山の案が生まれ、却下されていく。
イルミナは感謝した。
国の未来を考えられている今の立場に。
それを実行するだけの地位がある自分に。
もちろん、簡単に行くはずはない。
しかし、それでも。

いつかは、自分がいてくれてよかったと言う人が、出来そうな気がしたから。

だから、立ち止まらない。
立ち止まるわけにはいかない。
自分がここで頑張れば、もしかしたらいつか。
この国がもっともっと繁栄しているかもしれないから。

それはたくさんの歴史書のなかでも書いてあった。
新しく始める事に、楽な方法など一つもないと。

だから、たとえこの足が血に塗れようとも、立ち止まるわけにはいかないのだ。





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