14/31
村長と護衛騎士
信じられない思いと言うのは、きっとこういう事を言うのだろう。
タジールは、イルミナが部屋へと上がるとグイードを呼んだ。
「なんだよ、ジジィ」
「ちょっくらわしに付き合ってくれ」
タジールは有無を言わさずグイードを連れて外に出る。
外は夜の帳が降りてきており、その色を暗く染めている。
「ジジィ、どこに行くんだよ」
「黙ってついてこい」
その言い方に、グイードは不信感を覚える。
自分の祖父は、基本的に本気で怒ったりすることが無い。
その祖父が、今は苛立ちを隠そうとしないでいる。
グイードは大人しくついて行き、そしてその理由を知った。
「おや、これは長ではないですか。
このようなところに何用でしょう?」
タジールが向かった先は、イルミナの護衛達の野営地だった。
そこには、和やかに談笑する男たちが火を囲んでいる。
皆が皆、がっしりとした体格を持っており、グイードが束になってもかなう事は無いだろう。
「団長殿、話がしたいので時間をいただけるかの?」
タジールはにこやかに笑っているように見えるが、グイードにはわかった。
祖父がものすごく怒っていることを。
「・・・えぇ、もちろんですよ」
団長も、そんな祖父に気付いたのか、一瞬目を細めるとにこやかに対応した。
そんな二人を見るグイードは、今すぐ逃げだしてしまいたいと思った。
「何故、殿下をお守りしないのじゃ」
団長は、タジールとグイードを馬車の一つへと案内した。
聞かれて困るような話ではないが、聞いていて気分が良くなる話でもない。
そう団長も気づいていた。
だからこそ、2人をそこへ案内したのだ。
「・・・お守りしていますよ?」
団長、ハザはそう答えた。
黒の短髪に精悍な顔つきの彼は、その年にしては強く今回の護衛も、団長であるアーサーベルトから直接指示されたものだった。
そのくらい、彼には実力があった。
しかしそれを、タジールたちは知らない。
「あれでかのぅ・・・。
毒味もしない、宿泊先に護衛がいない。
それで殿下をお守りしている?」
グイードは、そこでようやくなぜ祖父が怒っているのかを理解した。
彼は、イルミナを心配しているのだ。
「毒味に関しては、出遅れた部分はあります。
しかし護衛に関しては王女殿下からの要望にございますので」
ハザは冷静にそう返した。
実際そうだからだ。
「おかしいじゃろ。
本来の王族にする対応じゃないとわしは思うんじゃが?」
「そういわれましても。
第一王女殿下は、毒に耐性があるそうですし、我が騎士団団長に手ほどきを受けていたようですから」
ハザのその言葉に、2人は絶句した。
王女ともあろう彼女が、毒に耐性がある?
そして団長から剣の指南を受けた?
笑える冗談であればこれ以上秀逸なものはない。
しかし、それが本当の事だと、2人には分かってしまった。
「それで、はいそうですかと、お主らは引くのか・・・!」
タジールの言葉の端々から、抑えきれない怒りを感じる。
それは、グイードもそうだ。
こいつは、何を言っているのだろう。
「第一王女殿下は、リリアナ王女と違ってお強いそうですから。
今回も本当に気休め程度で同行して・・・」
「バカ野郎!!!!」
ハザのあまりの物言いに、グイードは怒鳴った。
その言葉に、ハザは眉根を吊り上げる。
「・・・君にそれを言われる覚えはないのだが?」
「お前は、何も、知らないんだな・・・!」
グイードは、それだけ言い捨てると馬車を乱暴に降りる。
そんな彼に、ハザはため息をついた。
何故、自分があのような事を言われなければならない?
今回の事だって団長から言われているから渋々来ているだけなのに。
「ハザ、と言うたかね」
「・・・なにか」
タジールは、先ほどの怒りを全て抑え込んで静かな瞳でハザに声を掛けた。
「第二王女様がか弱く美しいのは、こんな辺境の村でも知っていることじゃ。
じゃがの、それにもましてイルミナ殿下は貴いということを、わしらは知っておるのにお主らは知らないのじゃな」
タジールの瞳に怒りは既になく、代わりに哀れみの色が浮かぶ。
ハザは、それに対してカっとなりそうになる。
「あなた方こそ、何を知っている。
こんな片田舎の住人の分際で、あのお方の何を知っていると言うのだ」
イライラと言葉を吐くハザに、タジールは静かな湖面のような声音で言う。
「知らぬよ、お主の言うあのお方とやらの事はの。
しかし、きっとわしはお主よりイルミナ殿下のことを知っておるぞ」
だからどうしたと続けようとしハザに、タジールは畳みかけるように言葉を連ねる。
「知らぬのなら、いい。
しかし、殿下はきっと名を遺残す名君となられよう。
それを、いつか身をもって知る事にならんといいな、小僧」
タジールはそう言うと、そのままさっさと馬車から降りた。
「・・・なんだっていうんだ・・・ちくしょう・・・」
ハザは、同じような事を団長に言われていた。
今回だって、しっかりとお守りし、その目で殿下を見て来いと言われ叩き出されたのだ。
正直、納得していなかった。
自分は、第二王女であるリリアナの近衛となりたくて頑張ってきたのに。
だからと言って、団長のもとにつけたことを後悔している訳ではない。
彼の元で学ぶことは非常に多かった。
しかし、団長は第二王女よりも第一王女を気にかけている。
それが悪いとは言わないが、それを押し付けようとするのは止めて欲しいとハザは思う。
今回だって、王女の酔狂でここまで来させられたんだ。
何をしたくて来たのかまでは知らないが、迷惑だけはかけてくれるなと思う。
何かあれば、責任を逃れることは不可能だ。
だからと言って、要らないと言われた護衛を付けるのもなんだかと思う。
彼女は非力なわけではない。
そう団長から聞いている。
毒に耐性があって、あの人のしごきを耐えたのだ。
そんな女性が、か弱いわけないだろうと思う。
それに比べて、リリアナの美しくか弱き事。
ハザは深く息をつくと、意識を切り替える。
あまりやる気がないのには変わらない。
好き放題言われたことに関して苛立ちはするが、ここにいるのだってそんな長いものではない。
今はとりあえず、団長に言われた任務を遂行するのみなのだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。