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梔子のなみだ 作者:水無月
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第一王女と視察



ごとごとと、馬車が揺れる。

イルミナは、初めて見る外の景色をじっと見つめていた。








**************




「今回、殿下が行かれるのはアウベール村の視察です。
 理由はお分かりに?」

イルミナとヴェルナーは、今回の視察前に復習をしていた。
今回の内容によっては、これからイルミナが進むべき道が、決まる可能性があるからだ。

「鉱石ミスリルと、治水技術」

アウベールは、高い生活基準を持つ村として有名だ。
そして高級鉱石であるミスリルの発掘もある。
しかし今回、イルミナが欲しているのはそちらではなかった。

「正解です、今回殿下にはミスリルの発掘状況と治水技術を視察して頂きます」

ヴェルムンドは、長い歴史を持つ国の一つだ。
しかし、その生活水準が全てにおいて高いかと問われれば違うと答える。
ヴェルムンドは山に囲まれた国で、そのおかげが鉱石と言う恩恵にあずかっている。
しかし、無限ではない。

それは城お抱えの研究者も発言している。
しかし、今はまだ大丈夫だからと暢気に構えているのが今の国の現状だ。

しかし、それではダメになるとイルミナは考えている。
鉱石ばかりに頼っていては、国はいつか収入を無くし豊かさを無くす。
そして民は飢え、消えてゆく。
直ぐに起こるわけではない。
しかし、いつか起こり得る未来なのだ。

それを、イルミナは勉強している間どうにかせねばと思った。
しかし、他の特産が何なのかを良く知らない。
というより、何が特産となれるのか誰も知らないのだ。

それを探すために、視察から始めた結果が今だ。
そしてイルミナは何が何でも見つけなくてはならない。

他の国に負けないような、長期的な特産物を。

今まで視察した場所には見つからなかった。
だからこそ、このアウベールの視察はイルミナにとって期待を寄せる一つとなっているのだ。






「第一王女殿下、到着いたしました」

馬車の揺れが止まったかと思うと、外から声を掛けられる。
どうやらようやくついたようだ。
およそ2日間。
馬車に揺られているだけの時間は苦痛だったが、誰もいないのでここぞとばかりに色々な案件を紙面に書き出すことが出来た。
まぁ、字が揺れているのは仕方ない。

開かれた扉から、今回ついてきてくれた護衛の手を借りて地面に降りる。
今回は護衛騎士が7人ほどついてきてくれている。
本来の王族であればありえないほどの少なさだ。
それ以前にメイドの一人もつれていない事自体が問題だが。
それでも、今のイルミナには十分な数であった。

「第一王女殿下の、イルミナ・ヴェルムンド様ですな・・・
 わしはこの村の長、タジールともうします」

出迎えてくれたのは、長と名乗った老人だった。
白とグレーの混じった髪に、髭。
しかし彼の鋭い視線と少しの動作はとてもではないが老人には見えなかった。

「初めまして、タジール長殿。
 私はヴェルムンド国第一王女のイルミナと言います。
 この度はお時間を頂きありがとうございます」

そういって礼をするイルミナに驚いたのはタジールだった。

「ひ、ひめさま?
 そのような礼など・・・」

「?わざわざ時間を頂くのです。
 礼をするのは当然ではないのですか?」

イルミナはまさかアウベールには独自の礼儀作法があるのかと考えると、長は慌てて首を横に振った。

「わしらのような平民に王族が頭下げることはないですぞ」

その言葉に、イルミナはむっとする。
それを思っている人がいるのは確かだろう。
でも、イルミナはそうは思わない。
しかしそう考えているのが当然だと言わんばかりのタジールの対応には納得は出来ない。

「タジール長殿、そのようなことを言わないで下さい。
 たまたま王家に生まれただけのことでしょう、それにあなた方がいて、初めて王家は生きるのです。
 そのような大切な方々に偉ぶる事を私は望みません」









正直、タジールは驚くほかなかった。

今回、第一王女が視察に来たいと言って面倒くさいの一言がまず出た。
当たり前だ。
なぜ王族がこんな辺鄙な村に来たがるのだ。
右も左も知らない嬢ちゃんが来れば、その分誰かが対応せねばならない。
こちらはお城と違って皆仕事があるのだ。
お姫様みたくお茶を飲むのが仕事なわけがない。

本当は、断ってしまいたかった。
しかし、相手は王族。
平民の自分たちが少しでも間違えれば、相手は何をするのかわからないのだ。
本当に嫌々、了承の手紙を送って数日もしないうちに向かうとの返信がきた。
その対応にも驚いたが、来るのが第一王女となってはこれ以上驚くことなどないと思っていた。

第一王女の噂は聞いていた。
黒い髪に紫の瞳。
冷たく見える美貌に、にこりともしない薄い唇。
妹姫と比べてなんと可哀想に、と言われていると。
見た目はその通りだった。
しかし、彼女の表情を見てどこに冷たさがあるのだろうと思った。


タジールはこの村で生まれ、そして長となった。
村はミスリルのお陰か、稀にだが取引をしようと言う貴族がやってくる。
彼らは、馬鹿の一つ覚えの様に使ってやるからありがたく献上しろと馬鹿な事を言ってくる。
断われば、無礼なと叫んで暴れる。
子供と変わらない、正直面倒な生き物だと思った。
だからと言っては何だが。
正直、国の姫ともなればもっとたちが悪いのだろうと考えていた。


しかしそれはいい意味で、裏切られた。


―――それにあなた方がいて、初めて王家は生きるのです。

その一言が、どれだけの民の心に響く事か。
自分たちを、人として見てくれる。
同じ人間だと扱ってくれる。
そんな貴族や王族が、どのくらいいるだろうか。
そして、それを当然のことのように言える彼女が、どれだけ貴い存在であるか。

タジールは、その瞬間彼女にちゃんとした対応をしようと思った。
自分の感は当たる。
それをするだけの価値が、きっとあるだろうと、そういっているのだ。

「嬉しい事を言って下さるのぅ、殿下。
 どうぞ、なんもないですがわが家へご案内しましょう」


そういうと、彼女の目元が緩んだ。
一体、誰だ。
彼女が冷たいなんて言ったのは。


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