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第一王女と開く道
宰相補佐であるヴェルナーは、イルミナを憐れに思った。
アーサーから話を聞く前から、正直それは思っていた事である。
王家には公費がある。
それらは各貴族たちが、定期的に献上しているものだ。
その徴収方法は特定のものに決まってはおらず、基本的には民から集めている。
使い道は王族のための公費のみではなく、整備や防衛にも使用され、国の運営にも必要なものだ。
本来それは、しっかりと分割されており、イルミナにもリリアナにもほぼ同額ある。
しかし、今回のパーティーには、姉であるイルミナの公費も使用されている。
あと半年もすれば長子であり、次期女王になるはずの彼女の14歳の誕生日が来るのに。
それを祝うためのパーティーすらも開けないほど、彼女の公費は妹に使用されている。
正確には、開けないわけではない。
しかし、リリアナのあとの開くものとしてはあまりに質素になってしまう。
それならいっそ開かない方がましだと言うくらいの分しか、残っていないのだ。
本来、それは宰相や陛下達が気付かなくてはならない。
しかしそれに気づかないのだ。
勘定方が困惑した表情で見積もりを持ってきた日は、さすがに頭を抱えた。
見積書には既に宰相と陛下のサインがある。
それの意味することは、彼らがそれを了承したという事だ。
今迄は、質素ながらも姉殿下の誕生祝が行われていた。
しかし、今年はどうやっても開けそうにない。
開くことで、イルミナを傷付ける可能性があまりにも高いからだ。
だからと言って、その為に他の公費を使うことは許されていない。
ヴェルナーはため息を深く吐きそうになった。
イルミナにそのことを話し、了承を得ねばならない。
宰相も、陛下も。
誰も彼女の誕生日の事を気にしていない。
だからと言ってあまりな対応だと思う。
嫌な役回りだと、ヴェルナーは再度出そうになるため息を飲み込んだ。
**********
「どうぞ、殿下」
離れの四阿屋は、先々代の王妃が作らせたもので質素ながらも品のいい場所だった。
しかし大勢で休むためのものとしては作られておらず、少人数で談話するのを目的で作られたようだった。
「ありがとうございます、クライス宰相補佐殿」
イルミナは進められるがまま、備え付けられている椅子に腰かける。
「申し訳ありません、殿下。
何か飲み物でも用意ができたらよかったのですが・・・」
申し訳なさそうに言うヴェルナーに、イルミナは首を横に振る。
「いいえ、城の皆がリリアナを祝いたいのですから。
私は気にしません」
「そういって頂けるとありがたいです」
「それで、宰相補佐殿。
私に用とはなんでしょうか」
イルミナは単刀直入に切り出す。
正直、ろくに話したことのない彼がイルミナに用無く時間が欲しいと言うわけがない。
彼は無駄を嫌うのだから。
あまりの唐突さに、ヴェルナーのほうが驚く。
「その、ですね・・・」
言い惑う彼に、イルミナはヴェルナーの言いたい事の予測が当たったことを感じた。
「私の公費の件でしょうか。
知っているので結構です」
「!!」
イルミナは無表情のまま言い放った。
「ご存知でしたか・・・」
「はい。
勘定方が話されているのを聞きました」
ヴェルナーは、言わなくて済んだはずなのに後味が悪かった。
彼女は、既に知っていて何も言わないのだ。
見る限り、悲しんでいるようにも怒っているようにも見えない。
ただただ、事実としてとらえているのだ。
「申し訳ありません、殿下・・・」
お門違いだと分かっていても、謝罪の言葉が口から出る。
「?なぜあなたが謝るのですか?
リリアナの為ならば仕方のない事でしょう?」
イルミナは淡々と言う。
「・・・殿下は、アーサーから訓練を受けているとお聞きしましたが」
ヴェルナーは、いきなり話の方向を変えた。
イルミナは怪訝に思いつつも肯定する。
前に比べて回数は減っているが、それでも時たま行っている。
「なぜ、そのような事を?」
「アーサーベルト団長から聞いていないのですか」
「聞きました、
でも私は、あなたの口から聞きたいのです」
イルミナは正直不思議に思った。
何故、彼が自分の事を知ろうとするのだろう。
そのような事をして、彼に利でもあるのだろうか。
「・・・私は強くなりたいのです。
私の居場所を作るために。
そろそろ私も公務に参加させていただけるよう陛下に打診しております。
しかし私には騎士もメイドもいません。
なら、私は私自身を強くし守らねばならないのです。
知っている事でしょう?」
うっすらと浮かぶ微笑は、ひたむきさと寂しさを湛えていた。
ヴェルナーは、息を飲む。
「私は、居場所が欲しい、
必要とされたい、
長子として、姉として不出来なのは知っています。
だからこそ、力が欲しい。
力を手に入れれば、国の為に何かできるかもしれない。
そうすれば、誰かが私を必要としてくれるかもしれない。
私が、何かをすることで救われる誰かがいるのだとしたら、それこそが私の救いとなるのかもしれない
だから、私は変える力が欲しい」
虚空を見つめながら思いを吐くイルミナに、ヴェルナーは言葉を失った。
ぞわりと、背筋に何かが走る。
アーサーの言っていたことは、嘘では無かった。
そうと分かれば。
「殿下、力が欲しいのですか?」
その言葉に、イルミナは言葉を発さずただヴェルナーを見据えた。
その視線に、何故、アーサーが彼女に力を貸したのかが分かった。
アーサーベルトという男だって、慈善事業で人を鍛える事はしない。
その彼が、彼女に力を与えようとした。
そして、その気持ちはヴェルナーにも理解できた。
「殿下、あなたのお気持ちはよく分かりました。
不肖、このヴェルナー・クライス。
あなたの力となりましょう」
ヴェルナーのその言葉に、イルミナは目を見開く。
言われると思ってもみなかったようだ。
「しかし、アーサーも言った通り、辛い道となります。
あなたは独り、茨の道を裸足で歩くようなことをせねばなりません。
正直に、下手をすれば命すら落とす事もあり得るでしょう」
ヴェルナーには分かっていた。
そんなことで、彼女が引くことしない事を。
それでも。
「・・・私には、それが、必要です」
イルミナは、決めていた。
どんな道であろうが、本当に欲しいものの為になんでもすると。
そのために、怖気づいている場合ではないのだ。
自分で、自分の道を歩くために。
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