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梔子のなみだ 作者:水無月
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第一王女と騎士団団長




イルミナは、一度だって、不満をもったことはなかった。
全てを、仕方ないの一言で終わらせることが、彼女にとっての処世術だったから。

リリアナには専属のメイドがいて、イルミナにいないのも。
リリアナには専属の騎士が居て、イルミナにいないのも。

全ては仕方のない事だった。

だって、リリアナはか弱いから。
リリアナは、あまりにも美しいから。

だから仕方のない事。

両陛下が、リリアナに愛情を傾けることも。
城の皆が、リリアナを常に気にしている事も。

全部仕方のない事。

リリアナに悪い所なんて一つもない。
いつでも不出来な姉を慕ってくれる。
そんな彼女を、どうやって嫌えばいいのか。

だから、仕方のない事なのだ。

自分が、もっと頑張らなくてはいけないだけ。

姉として、長子として。

せめて、少しでも立派な王族の一人になる。

それがイルミナの望みであり、希望であった。

その為なら、何でもできる。









***********







「騎士団長どの」

ヴェルムンド国騎士団団長であるアーサーベルトは、背後からかけられる声におやと思った。
アーサーベルトは、齢30にして国の防衛の要となる重要な人物だ。
しかし、そんな彼に女性が声を掛けてくることは少ない。

見た目が怖かった。
三白眼の目に、鍛えられ隆々とした筋肉。
それに額から左の眼尻にかけて切り傷の跡がある。
優男という言葉からほど遠く、王に至っては熊男とすら彼を呼んでいた。

「これは、イルミナ殿下・・・如何されました?」

そんな彼に声を掛けてきたのは、この国の第一王女殿下であるイルミナであった。
まだ10歳の彼女は、その年にしては身長が高めだが、それでも幼い顔立ちをしている。

アーサーベルトは、彼女を見ると、なぜか胸中に苦い思いが走る。
いや、なぜかなんて本当はわかっているのだ。

彼女は、この城で蔑ろにされている存在だという事を知っているのだから。

「騎士団長どの、おねがいがあるのです」

イルミナは、唇を真横に結んだままにこりともせずに言った。
その言葉に、アーサーベルトは驚いた。
彼女が、お願いという言葉を知っていたことに。

アーサーベルトは、知っていた。
イルミナがいつもお願いされる立場であることを。
そして、我慢をするように両陛下から教育されていたことを。

それもこれも、第二王女殿下のために。

だからこそ、驚いた。

「この私に出来る事であれば、なんなりとどうぞ」

だからこそ、彼女のお願いを聞いてあげたいと思った。

別に、第二王女殿下が嫌いというわけではない。
むしろ彼女の愛らしさが人をそうさせてしまうのも頷ける。

しかし、だからといって第一王女を蔑ろにしていい理由ではないとアーサーベルトは、考えている。
この城に、彼女の事を知っているものは少ない。
イルミナが何を好きなのか、答えられるものは一人としていないのだ。
もちろん、アーサーベルトを含めて。

しかし彼は騎士団団長。
その身分からおいそれを彼女に近づいていい存在ではない事も、彼は良く知っていた。
だからこそ、驚いたのだ。

「わたしに、剣を教えて下さい」

「・・・は?」

その言葉の意味が理解できなかった。
彼女は、何を言ったのだろうか。

「な、なぜ・・・?」

アーサーベルトは、困惑を隠せずにイルミナに問うた。
王女という身分で、なぜ剣など習おうというのか。
騎士が彼女につくはずではないのか。

「リリアナに、騎士がつくことになりました。
 だから、剣を教えて下さい」

「!!」

まさか、そんなはずは・・・。
つい小声で漏らしてしまう。
それほど、有りえない事であった。

第一王女に騎士が付かないまま、第二王女に騎士が付く。

それは、本来であればあってはならない事だった。
リリアナはまだ10にもなっていない、そんな彼女に騎士が付くこと自体、異例でもあった。

「、陛下には・・・」

国王陛下が知らないはずはない。
しかし、それでもイルミナにつけないでリリアナにつけようとしているのだろうか。

「陛下が、決めました。
 リリアナは身体がよわいから、先につけると」

イルミナのその言葉に、アーサーベルトはぐぅと唸る。
そうだとしても、それでも第一王女殿下にする対応ではない。
せめて一緒につけることは出来ないのか。
国王陛下は何を考えておられるのか・・・。

「べつに、強くなりたいわけではないのです。
 ただ、自分の身くらい守れるようになりたいのです」

そうじゃないと、リリアナも守ってあげられないから、と続ける彼女に。
アーサーベルトは心が痛む。

本来、王女殿下という身分の彼女であれば、そのようなことは考えなくてもいいと言わなくてはならない。
その身分ゆえに、彼女は守られるべきなのだから。
しかし、アーサーベルトにはどうしてもそれをいう事が出来なかった。
もし、彼女がこのまま蔑ろにされ続けたら?
騎士がいつまでたっても付かなかったら?
いったい誰が彼女を守るのだろうか。

だからと言っては何だが。

「本当に、よろしいのですか」

別に強くするつもりはない。
それでも、訓練をするという事は辛い思いをしなければならない。

「お願いできますか」

ひた向きな彼女の表情は、一切の笑顔を見せない。
というより、殆ど表情が動いていないような気すらする。

「わかりました、時間はあまり取れないかもしれませんが、出来うる限りお力になりましょう」

そういうと、イルミナはほっとしたように息をついた。

「ありがとうございます、騎士団長どの」


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