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【社説】

自民党憲法草案 「封印」とは言うけれど

 自民党が、野党時代の二〇一二年に作成した憲法改正草案を「封印」することを決めたが、撤回したわけではない。憲法に関する基本姿勢を改めない限り、改憲論議に踏み出すことは許されない。

 旧民主党の〇九年衆院選マニフェストの例を出すまでもなく、野党時代に作成したものは、どの政党のものでも、あまり出来がよくないということなのだろう。

 自民党の保岡興治憲法改正推進本部長が十八日、同本部の全体会合で、一二年草案について「草案や一部を切り取ってそのまま国会の憲法審査会に提案することは考えていない」との「本部長方針」を明らかにした。

 一二年草案を、一九五五年の結党当初から世に問うてきた「公式文書の一つ」と位置付けることで事実上、封印するものである。

 民進党の野田佳彦幹事長は審査会での議論を進めるに当たり、一二年草案の撤回を求めていた。

 自民党総裁でもある安倍晋三首相は在任中の憲法改正を目指す。自民党は今国会中に改憲論議を始めるため、野党側に一定の配慮を示す必要があったのだろう。

 遅きに失したとはいえ、一二年草案を審査会に提案しないとの方針は、当然と言えば当然である。

 そもそも一二年草案は、天皇の元首化や国防軍の創設など国民主権、平和主義の観点から問題が多い。全国民に憲法尊重義務を課すなど、国民が憲法を通じて権力を律する「立憲主義」に反する内容が盛り込まれている。

 家族の協力義務を定めるなど、復古的で時代にもそぐわない。

 封印したとはいえ、一二年草案の内容や考え方が再び表舞台に出ることはないのか、私たち国民も厳しく監視することが必要だ。

 憲法論議自体は封じるべきではない。改憲しなければ、国民の暮らしが著しく脅かされる事態が想定され、国民から改正を求める意見が湧き上がっているのなら、改正を堂々と議論すればいい。

 しかし、今、そのような差し迫った状況でないことは明らかだ。にもかかわらず、改憲論議を強引に推し進めるのなら、「改憲ありき」との批判は免れまい。

 国会の憲法審査会では、そもそも憲法とは何か、現行憲法の各条文にはどんな背景があり、どんな思いが込められているのか、委員間で議論を深めたらどうか。

 現行憲法の理念を再確認し、個人の権利よりも公益や公の秩序を優先する「一二年草案もどき」を二度とつくらせないためにも。

 

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