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【社説】

一票の不平等 弥縫策を容認するな

 参院選の「一票の不平等」は「違憲状態」と「合憲」に高裁判決が分かれる。初の「合区」を設けた選挙だったが、最小限の手直しを容認する判決には納得できない。追求すべきは抜本改正である。

 合区とは隣り合う県の選挙区を統合する方法で、鳥取と島根、高知と徳島をそれぞれ一つの選挙区とした。定数も十増十減した。それでも最大で三・〇八倍の不平等が残ったのが、夏の参院選だった。一人が一票の人もいれば、〇・三票しかない人がいる状態である。

 明らかな不平等である。

 最高裁はずっと不平等を解消すべく警告を発し続けてきた。二〇一四年には「都道府県単位の方式を改める立法措置がいる」と述べていた。だから二つの合区にした改正をどう評価するかが、今回の高裁判決のポイントだ。

 全国十四の高裁・高裁支部で次々と判決が出る。既に東京高裁など三件は「合憲」、名古屋高裁金沢支部など四件は「違憲状態」である。違憲状態とは不平等が著しいが、是正に必要な期間を経過していない場合だ。いわばタイムオーバーではないという論理だ。

 違憲状態判決は、是正策を一定程度評価しても、著しい不平等状態を解消するには足りないと考える。「合区を二つにとどめるのは適切でない」と述べた裁判所もある。要するに弥縫策(びほうさく)と指摘されたのと同然なのだ。

 合憲判決は、合区が参院創設から初の取り組みであることを強調する。国会が次の参院選に向け改革の約束をしている点も重んじる。かつては五倍あった格差が三倍に縮小した現実も挙げる。「三倍超の格差は埼玉と福井を比べた場合のみ」という指摘もあった。

 この考え方はおかしい。埼玉の有権者を犠牲にするし、裁判所があたかも三倍というハードルを是認しているようにも受け取れるからだ。合憲判断は、投票価値の平等を求める憲法を直視しているとは思えない。不平等の現状を認めれば改善の原動力たりえない。

 そもそも一〇年ごろは当時の参院議長らが都道府県単位の選挙区を廃して、全国を九つのブロックに分割する試案を出した。この方法だと格差は最大で一・一五倍まで縮まる。不可能ではないのにいつしか頓挫してしまった。

 議論すべきは本来、このような抜本策である。司法が甘い姿勢なら、政治も甘える。議会制度の根本問題だから、不平等の解消にもっと真剣さが必要なのだ。

 

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