管理人です。
三浦弘行九段の将棋ソフト不正使用(いわゆるカンニング)の疑惑について、前回の記事より大幅に進展がありましたので、再び時系列で書き残しておきます。
前回の記事を読まなくても、この記事だけで流れが理解できるように書いたつもりですが一応リンクしておきます。「その1」とは書いてないですが事実上のその1です。
将棋ファンから見た三浦弘行九段のソフト不正使用疑惑と竜王戦の挑戦者交代
また、週刊文春の10月27日号(10月20日発売)もご覧いただくと良いと思います。渡辺竜王のインタビューをはじめ、この雑誌はほとんど本疑惑に関する連盟側の対場を説明する公式ガイドブックみたいなものだと思います。ただ、表現の一部について羽生善治三冠は「誤解を招く」とも述べていますのでその点はご注意ください。
週刊新潮の10月27日号(10月20日発売)にも本件に関する記事が掲載されています。こちらはソフトとの一致率や、ソフトの実力に焦点を当てた記事で、また三浦九段の師匠である西村一義九段の話も掲載されています。
疑惑の発覚から挑戦者の変更まで
あらためて、挑戦者変更までの流れを書いておきます。※は10月16日以降の報道で新たにわかったこと。
7~8月頃。この頃から三浦九段の離席が多くなったと報道されている。
7月11日。竜王戦決勝トーナメント、三浦九段vs郷田真隆王将。※新潮の報道によると、この対局で敗れた郷田王将が三浦九段の処分を連盟に求めている(ベテラン棋士の証言)。
7月26日。竜王戦挑戦者決定トーナメント、三浦九段vs久保利明九段。NHK等の報道によるとこの対局での三浦九段の離席が特に多かったとされる。観戦記によると、終局後、敗れた久保九段は「信じられない」といった様子で言葉少なだった。※文春によると、久保九段は相手がカンニングしているという感覚があり、知人との検証を経てそれを確信したが、疑惑を告発した張本人ではない(本人の証言)。一方新潮では、久保九段が告発したと書かれている(あるベテラン棋士の証言)。
9月8日。竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局で三浦九段が丸山九段に勝ち、挑戦者に決定。
9月19日。NHK杯テレビ将棋トーナメントの収録、三浦九段vs橋本崇載八段。後に橋本八段は三浦九段の疑惑に「1億%クロ」とツイッターで言及している。※新潮の報道によると、橋本八段も連盟に処分を求めている(ベテラン棋士の証言)。
電子機器禁止の新規定の制定へ
9月26日。所属棋士約60人が参加した連盟の月例報告会。執行部はここで電子機器の規制に関して棋士の意見を聞いています。※文春によると、久保九段が電子機器の持ち込み禁止等を提案。三浦九段は「賛成です。でも私はやってません」と唐突な発言。
10月3日。三浦九段の処分前最後の対局が行われています。第75期A級順位戦の対渡辺明竜王戦で、三浦九段が勝利。観戦記には終局後「渡辺の言葉は歯切れが悪かった。終盤の感想戦は一切なし。形式的に一礼を済ませると、渡辺はぶぜんとして対局室を立ち去った」と。
※文春によると、この対局を見ていた棋士が、三浦九段の手のソフトの推奨手との「一致」を渡辺竜王に知らせたことで、事が動くことになる。また、文春はこの頃には疑惑の取材を始め、大手新聞社も疑惑を把握。新潮の報道でも、この対局が疑惑のきっかけとなったとされている(ベテラン棋士の証言)
10月5日。連盟は棋士に対する「対局室へのスマホ等の電子機器の持ち込み禁止および対局中の外出禁止」を定めた新規定を発表。施行は12月14日。それに先立つ竜王戦七番勝負では金属探知機の導入も決定。※サンスポによると、この金属探知機の導入は渡辺竜王の提案。
竜王戦の挑戦者変更へ
10月7日。※文春によると、この日に渡辺竜王が島朗九段(連盟理事)に電話。
10月10日。※文春によると、この日に渡辺竜王、島理事に加え、羽生善治三冠、佐藤天彦名人、谷川浩司九段(連盟会長)、佐藤康光九段(棋士会長)、ソフトに詳しい千田翔太五段の7人が集まり極秘会合。久保九段は電話で参加。渡辺竜王の説明に対してシロを主張する棋士はいなかった。島理事は三浦九段に連絡し問いただすも三浦九段は不正を認めず。
10月11日。渡辺竜王が同席した連盟の常務会が三浦九段に聞き取り調査。※新潮によると、三浦九段が使用したソフトは「技巧」だと特定され、終盤における三浦九段の手と技巧の手との一致率は93%というほとんどありえない数字だったという(連盟幹部の証言)。
※文春によると、この日の朝、羽生善治三冠が「限りなく黒に近い灰色だと思います」と島朗理事にメール。常務会への渡辺竜王の同席は三浦九段の希望。千田五段も参加。会の前には三枚堂達也四段を呼び出し、三浦九段に「スマホでPCを遠隔操作するアプリTeamViewer」を教えたとの証言を得た。会で三浦九段は疑惑を否定。会の後に連盟職員が三浦九段と一緒に自宅に行き、その場でPCなどを確保。スマホ提出は拒否。
10月12日。日本将棋連盟から、三浦九段の年内出場停止処分と、竜王戦七番勝負の挑戦者が丸山忠久九段に変更されたと発表された。
竜王戦七番勝負第1局
メディアでこの問題が報道される中、10月15日の竜王戦七番勝負第1局初日を迎えた。振り駒で先手が丸山九段となり、戦型は角換わりとなった。
この時点までに発表または報道されたことのまとめ。メモとして書いただけですので、飛ばして構いません。
1.三浦弘行九段は2016年12月31日までの出場停止処分(連盟発表)
2.竜王戦七番勝負の挑戦者が三浦弘行九段から丸山忠久九段に変更された(連盟発表)
3.三浦九段はスマホを使って不正をした疑いがある
4.過去に対戦した5人前後の棋士から指摘があった
5.三浦九段は不正を認めていないが、疑惑の中では指せないとして休場を申し出た
6.休場届が期限までに提出されなかったため(処分理由)、処分した
7.三浦九段は「濡れ衣。不正はしていない」とコメント
8.連盟はこれ以上調査しない
9.三浦九段の手がソフトと似ていたと言われている
10.三浦九段の聴取は渡辺竜王が同席して行われた11日の常務会の場。聴取時間は約2時間
11.三浦九段の担当弁護士は処分の撤回を求めている
12.三浦九段の処分理由は「休場届の不提出を含む一連の疑惑に対するもの」である(フジテレビのとくダネ!報道)
13.出場停止期間が12月31日までという理由は「竜王戦を円滑に進めるため」(NHK)
14.連盟は継続して調査し報告する(日刊ゲンダイ報道)
ただし、6と12はやや整合せず、8と14は整合しない。ほとんどの報道は、NHK、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞等、連盟のスポンサー(棋戦の主催社)で利害関係のある大手報道機関が連盟の会見をもとに報じているもの。
他の報道と食い違いがある12(フジテレビ)と14(日刊ゲンダイ)は独自ルートで取材したのかもしれない。
10月16日。竜王戦七番勝負第1局2日目
このへんも時間がない方は次の見出しまで飛ばしてOKです。
未明、元女流棋士の林葉直子さんがブログに「三浦くんって、もともと強いんだから誰かが嫌がらせで言いふらしたんじゃないかしらん。(中略)余計なおばさん、の一言かしらんっ。ふふっ、スマホなんて考えられない、黒電話があった時代に生まれたことに笑っちゃう」などと投稿。
10時からのフジテレビの「ワイドナショー」に竹俣紅女流初段がコメントを寄せた。「報道に関して申し上げたいことや訂正したいことは多々ありますが、私は将棋連盟の正会員でもありませんし、情報も少ない状況ですので、詳しいコメントは差し控えさせていただきます。ただ、三浦先生は私の師匠と同じように尊敬するトップ棋士です。不正はないと信じています」。
竹俣紅女流はブログに暗号文も残しています。タイトル、本文の他、記事下の写真についてもメッセージ性があると教えてもらいました。北海道十勝産の小豆に「ベニダイナゴン」という品種があるとのこと。
12時前。来週10月23日のNHK杯は、予定通り三浦弘行九段vs橋本崇載八段が放送されると予告されました。(収録は9月19日であり三浦九段の出場停止処分前)。ただ橋本八段は三浦九段の疑惑に「1億%クロ」「二度と戦う気しない」などとしており2人は最後の対戦になる可能性が。
竜王戦七番勝負第1局は渡辺明竜王が勝利
15時のおやつの前。竜王戦七番勝負第1局を戦っていた丸山忠久九段が投了。68手という短手数で渡辺明竜王が勝利しています。丸山九段が▲4五桂と仕掛け、初日の昼休明けには飛車を切って攻めましたが実りませんでした。
10月18日。三浦弘行九段が反論
竜王戦七番勝負第1局の翌日17日は進展がありませんでした。
18日午前。渡辺竜王がブログを更新。いつものように対局の感想、そして今後のブログは「しばらく対局のことだけにする」と。他の棋士らも「情報が出るまで見守りたい」「コメントはできません」と発言を控える雰囲気に。
そしてこの日の夕方、三浦九段から初めて、処分を不服とする反論文書が発表されました。その要旨は。
1.対局中のソフト使用は一切ない
2.連盟にはPC4台の現物と、スマホにインストールされた全アプリの「撮影画像」を自主的に提出
3.連盟はそれを精査せず一方的に処分した
4.連盟に離席の多さや一致率の資料を求めたが開示されず
5.今後も連盟の調査に最大限協力する
19時のNHKニュース。三浦九段が単独インタビューに応じています。
1.竜王戦は将棋界最高峰の棋戦ですから、挑戦するだけで大変な名誉。辞退するわけがない
2.(離席が多かった7月26日の久保九段戦は)その日は特に体調がすぐれなかったので、休んでいる時間が長かった
3.そもそも携帯(スマートフォン)に将棋ソフトが入ってない
連盟は「調査の継続」を表明
日本将棋連盟は三浦九段の主張に対してコメントを発表。
「対局中に不自然な点が多かったにもかかわらず、合理的な説明はありませんでした」などとする従来通りのコメントに加え、「三浦九段と見解が異なる点について、調査を続けていく」としていて、これまで日刊ゲンダイだけが報じていた「調査の継続」を、連盟が公式に表明したことになります。
10月19日。週刊文春がWEBで報じる
私個人的な行動ですが、疑念が持たれた7月26日の竜王戦挑戦者決定トーナメント三浦九段vs久保九段の観戦記を取り寄せ読みました。この対局の観戦記者の大川慎太郎さんは、コンピュータ将棋を題材にした棋士のインタビュー集「不屈の棋士」の著者であり、その観戦記に今回の疑惑のヒントがあるかもしれないと感じたからです。
9月19日~26日の読売新聞朝刊に掲載された観戦記の中で、本件に関わりそうなことを列挙します。
1.三浦九段について、解説の村山慈明七段は「衝撃的な勝ち方」、大川慎太郎さんは「狭い部分の読みには超人的な力を発揮するが、コンピュータを上回るような勝ちっぷり」と評した
2.三浦九段は夕食時には「ざるそばをサッと食べて体と頭を休めていた」
3.三浦九段は順位戦が不調なのに竜王戦が好調であることについて、振り駒で先後が決まる竜王戦は、事前研究で力みすぎず、逆に開き直って対局日を迎えられると
サンスポが「ある高段棋士」の話を報道
朝、サンケイスポーツが「ある高段棋士」の話を報道。
1.三浦九段の離席が多く、棋士たちから不審との声が高まっていた
2.解析すると離席率が非常に高く離席後の悪手率ゼロ
3.不審を抱いた相手が記録係に「見てきて」と頼むと休憩室やトイレには寄らず、まっすぐ自室へ
「自室」は将棋会館5Fの「宿泊室(対局のために上京した棋士のための部屋)」のことかもしれません。三浦九段は反論文書で休憩室である4F「桂の間」などで休憩していたと書いていました。
週刊文春に渡辺竜王の独占インタビュー
夕方。サンスポの報道がアテになるのかどうなのか迷っているうちに、週刊文春がWEBの速報で渡辺竜王の独占インタビューを報じました。
三浦九段のシロクロを判定をするために集まった「極秘会合」のメンバーに羽生善治三冠や佐藤天彦名人も加わっていたとは。衝撃的な内容でした。
1.渡辺竜王は、三浦九段の自身との対局および過去の対局も調べ、指し手の一致、離席のタイミング、感想戦での読み筋などから「間違いなくクロだ」と確信
2.最悪のシナリオは『疑惑を知りながら隠していたという事が発覚する事だ』と判断
3.前述したトップ棋士による極秘会合があった
渡辺竜王は、10月12日の日本将棋連盟の「竜王戦七番勝負の挑戦者変更」のリリースの後にブログで「大変な事態になってしまいましたが、引き続き将棋界へのご声援を宜しくお願いします。詳細は各種報道に任せて、ここでは省略します。」と記していました。
10月20日。週刊文春が発売
週刊文春が発売されました。将棋界に長く語り継がれるであろう事件。永久保存版です。
羽生善治三冠が「限りなく黒に近い灰色だと思います」と島朗理事に送ったメールから始まる、我々将棋ファンにとってみれば重苦しい記事が4ページにわたって掲載されています。
「極秘会合」で渡辺竜王から説明された内容は、将棋連盟内では今回の「竜王戦挑戦者の変更」という結論を導くのに十分なものだったのだと思います。ただこれが社会一般的に、または仮に三浦九段が裁判に訴えた時などに、証拠として十分なのかはよくわかりません。
羽生善治三冠は、日付が変わって文春の発売日になった直後に、記事に誤解を招く表現があったとして「今回の件は白の証明も黒の証明も難しいと考えています。疑わしきは罰せずが大原則と思っています」と表明しています。
奥様である羽生理恵さんのツイッターアカウントを利用して表明されたもので、異例というか初めてのことです。
①こんばんは。突然にお騒がさせてしまい申し訳ありません。本日、一部報道で誤解を招くような表現がありましたのでこの場をお借りして説明をさせて頂きます。まず、灰色に近いと発言をしたのは事実です。 〜②に続く pic.twitter.com/MtqWrfZbpv
— 羽生 理恵🌸 一時 (@mau28310351) October 19, 2016
②そして、今回の件は白の証明も黒の証明も難しいと考えています。疑わしきは
罰せずが大原則と思っていますので誤解
無きようにお願いを致します。羽生善治 pic.twitter.com/Op1fHZDhaR— 羽生 理恵🌸 一時 (@mau28310351) October 19, 2016
疑惑があるまま竜王戦をやるのは連盟にとって非常にリスキーなぐらいのグレー、しかし100%クロとは言い切れず、疑わしきは罰せず、ということが三浦九段への「2ヶ月半の出場停止」という中途半端(に見える)な処分になったのかもしれません。
文春の取材に応じている三枚堂四段は、竜王戦挑戦者変更発表の翌日には「お世話になっている先輩の話題でとても戸惑っている」「ファンから、ピンチをチャンスにという言葉をいただいて、その通りだと感じている」とツイートしていました。
週刊新潮も
週刊新潮も報道。同誌のインタビューで、三浦九段の師匠、西村一義九段は疑惑を「信じられない」と話し、三浦九段の人柄を説明しつつ「疑いを晴らして立ち直ってくれることを願います」と。
また、前出のベテラン棋士の話として「三浦九段が控室で寝転がりながらスマホを操作しているのを目撃したと証言する棋士もいた」とも。
なお新潮では渡辺竜王がコラムを連載しているのですが、この週のコラムのテーマは竜王の高校生時代。中学生プロ棋士の藤井聡太新四段が誕生したことを受けてのものです。
おわりに
この記事では、本疑惑について10月20日午前9時までにわかっていることをまとめました。
三浦九段の説明と、連盟の説明(文春の報道含む)との食い違いが見られる主な点は以下と認識しています。
1.ソフト不正使用疑惑そのもの。連盟側は「クロに近いグレー」(一部棋士はクロと確信)、三浦九段は「シロ」をそれぞれ主張
2.処分に至る経緯。連盟は「三浦九段が休場(竜王戦辞退)を申し出た」と説明しているのに対し、三浦九段の説明では「連盟が私に休場届の提出を求めた」とされている
あと、三浦九段は自身のスマホに「将棋ソフトは入っていない」と主張していますが、文春や新潮の報道ではスマホの将棋ソフトではなく、PCの遠隔操作ソフトを使ってPCのソフトを操作していたとされています。
その他細かい出来事もありましたが書ききれません。私は本件について、新たな事実が判明したり報道があったりするたびにツイッターで発信しています。ツイッターにはここでは書ききれなかったことも書いてありますので、詳しくはそちらをご覧いただきますようにお願い致します。
最後までありがとうございました。
コメント
疑惑を告発している人物が想像以上にビッグネームなのに驚いた。
棋界で無視できる存在ではないし、かといってそれをもってクロと断定するのも難しい。
連盟の苦悩が良くわかった。
ただ、正直に言うと羽生さんのあのツイートは納得できないな。本来、棋界の第1人者として積極的に疑惑の解明に関与すべき方なのに、「小奇麗な正論」を述べて清い立場にとどまろうとする姿勢には不満がある。私は、泥をかぶってでも積極的に対処した竜王の方が支持できる。
あと、付け足しのようで恐縮ですが、まとめ感謝です。
参考になりました。
まことにその通りですね。
灰色に近いって言葉はおかしいです。
やってるとは思うけど証拠を掴んでないから灰色なのか
やってないとは思うけどやった可能性もある灰色なのか。
指すこと以外将棋界に関わりたくないってのがよくわかります。
その点竜王はご自分に昔からのアンチがいて理由関係無しに叩かれるのが
わかっていて将棋界の為矢面に立った。
アンチさんの言葉を借りるなら漢ですね(笑)
不正に堂々と立ち向かう竜王に将棋指しらしさを感じました。今後は不正が行われることがないようなしっかりした対策が望まれます。
下のほう、9月20日は10月の間違いだと思います
ご指摘ありがとうございます。
修正致しました。