THE ZERO/ONEが文春新書に!『闇ウェブ(ダークウェブ)』発売中
発刊:2016年7月21日(文藝春秋)
麻薬、児童ポルノ、偽造パスポート、偽札、個人情報、サイバー攻撃、殺人請負、武器……「秘匿通信技術」と「ビットコイン」が生みだしたサイバー空間の深海にうごめく「無法地帯」の驚愕の実態! 自分の家族や会社を守るための必読書。
October 20, 2016 08:30
by 江添 佳代子
vDOSの首謀者だった2人の青年が逮捕されてから2日後の9月10日、Krebs on Securityに新たな記事が追加された。この記事の中で、クレブスは今回の事件を改めて報じると共に、「9月9日以降、Krebs on Securityは深刻なDDoS攻撃を受けている」と伝えた。
その攻撃パケットには、ご丁寧にも『godiefaggot(死ね、カマ野郎)』というメッセージが埋め込まれていたという。攻撃のタイミングや幼稚なメッセージから想像するに、「お気に入りの玩具(vDOS)を取り上げられたスクリプトキディたちが腹を立てて一斉攻撃を起こした」と解釈するのが自然だろう。もちろん、過去にクレブスから煮え湯を飲まされた別のサイバー犯罪者や、あるいは何らかの意図を持った組織が、この騒ぎに便乗して攻撃に参加した可能性も考えられるのだが。
このときクレブスは、自身が受けているDDoS攻撃に関して「大規模かつ継続的であり、ピーク時には140 Gbpsに及んだ」「この攻撃によってKrebs on Securityは一時的にアクセスできなくなった」「現在はProlexic(Akamaiを母体とするテクノロジー企業)とAkamaiによって守られている」と説明していた。
しかしその後も、彼のサイトを標的としたDDoS攻撃の勢いは増していった。vDOS首謀者の逮捕から2週間後にあたる9月21日、ついにクレブスは「自らが受けているDDoS攻撃」をテーマとした新たな記事を掲載した。その説明によれば、Krebs On Securityは9月20日の夜に「とてつもなく大きなDDoS攻撃」を受けたという。
こういった執拗な攻撃から私のサイトを保護しているAkamaiの技術者たちが力を尽くしてくれたおかげで、その攻撃は失敗に終わった。しかしAkamaiによれば、その攻撃は「過去に彼らが見た最大の攻撃」のほぼ2倍にあたるサイズで、また「これまでインターネットが経験したものの中で、最大の攻撃のひとつ」であるという。
その攻撃は9月20日の午後8時頃から開始され、最初の報告では「665 Gbps」と示された。さらなる分析の結果は「620Gbps」に近い数値となったが、いずれにせよ、それは「通常、ほとんどのウェブサイトをオフラインにするために必要となるトラフィック量」とは桁違いの規模だ。
Akamaiのシニアセキュリティ・アドボケートのMartin McKeay,によれば、同社がこれまでに見た最大の攻撃は、今年前半に記録した「363Gbps」だったという。
クレブスは翌22日の朝にも、彼のブログに対するDDoS攻撃が続行していることをTwitterで伝えつつ、彼の支援者に感謝を述べるという余裕を見せた。しかし同日の午後に事態は急変する。その攻撃の規模があまりに大きすぎたため、有料顧客にも影響が及びはじめていることを危惧したAkamaiは、もはや彼のサイトを守り続けることができないと判断し、Krebs On Securityへのサービス提供を中止することを決断した。
thanks to all of you who've expressed support and solidarity. yes, the attacks are ongoing. stay tuned.
— briankrebs (@briankrebs) 2016年9月22日
支援と連帯感を表現してくれた全ての皆さんに感謝したい。そう、いまも攻撃は続いている。今後もご期待を。
It's looking likely that KrebsOnSecurity will be offline for a while. Akamai's kicking me off their network tonight.
— briankrebs (@briankrebs) 2016年9月22日
どうやら、しばらくの間KrebsOnSecurityはオフラインになりそうだ。Akamaiは今夜、同社のネットワークから私を追い出そうとしている。
So long everyone. It's been real.
— briankrebs (@briankrebs) 2016年9月22日
それではまた。楽しかったよ。
そしてクレブスは、そのホスティングプロバイダに今後の攻撃の矛先が回ることがないようにするため、Krebs On Securityを「127.0.0.1」(ループバックアドレス)にリダイレクトするよう依頼した。こうしてKrebs On Securityは一時的な閉鎖を迎えることとなった。このとき、クレブスのツイートには「あんまりな話だ」「Akamaiには失望した」「ブロガー一人すら守れないAkamaiに、世界中の有名企業が守れるのだろうか」などのコメントも寄せられた。しかしクレブスは、その後のTwitterやKrebs On Securityで繰り返しAkamaiを擁護している。
i can't really fault Akamai for their decision. I likely cost them a ton of money today.
— briankrebs (@briankrebs) 2016年9月22日
彼らの決定について、あまりAkamaiを悪く思うことはできない。おそらく私は現在、彼らに甚大なコストを負担させている。
Before everyone beats up on Akamai/Prolexic too much, they were providing me service pro bono. So, as I said, I don't fault them at all.
— briankrebs (@briankrebs) 2016年9月23日
皆さんはAkamai/Prolexicを過剰に叩いているが、今回のことが起こるまで、彼らは私に無償でサービスを提供していた。だから先述のとおり、私はまったく彼らを咎めるつもりはない。
誤解のないよう、はっきりと言わせてほしい:私はAkamaiの下した判断に関して同社を責めてはいない。私は最初から無償でサービスを受けている顧客で、Akamaiとその姉妹企業Prolexicは過去4年間に渡り、無数の攻撃を受けてきた私の味方をしてくれた。( 9月25日の「Krebs On Security」より抜粋)
このようにして一時的な活動中止を余儀なくされたクレブスだったが、彼は翌24日の夕刻、早くもKrebs On Securityが徐々に再開へ向かっていることをTwitterで告知した。
Working on getting the site back up today, hopefully. Thanks to all who've expressed support, concern and solidarity.
— briankrebs (@briankrebs) 2016年9月23日
その告知の翌日にあたる9月25日、Krebs On SecurityはGoogleの「Project Shield」に守られたサイトとして無事に復活を遂げた。再開後のKrebs On Securityに初めて掲載された記事の中でクレブスが訴えたこと、そして彼のサイトを襲った甚大なDDoS攻撃について明かされはじめた事実などについては、次回以降にお伝えしたい。
(その5に続く)
1
ハッカーの系譜⑧ノーラン・ブッシュネル (6) 家庭用ゲーム機の元祖「アタリ2600」を発売
October 18, 2016
2
全自動ハッキングシステム同士の対決!? DEF CON 24 CTF & CGCレポート
October 14, 2016
3
ブライアン・クレブスを襲った史上最大級のDDoS攻撃 (3) 2年間で62万ドル稼いだ2少年
October 19, 2016
4
Torユーザーの匿名性を脅かす「DNSトラフィックのモニタリング」
October 19, 2016
5
諜報機関のためにメールをスキャンするツールを米Yahoo!が極秘に構築
October 17, 2016
6
ハッカーの系譜⑦ビル・ゲイツ (6/7) シアトルに移転、そしてIBMとの交渉
September 1, 2016
7
ハッカーの系譜⑧ノーラン・ブッシュネル (4/8) 「ポン」で成功をつかんだアタリ
October 11, 2016
8
ハッカーの系譜⑧ノーラン・ブッシュネル (5/8) スローガンは「懸命に働け、もっと懸命に遊べ」
October 13, 2016
9
ダークウェブとアノニマス(下) 匿名ハッカー集団の誕生
August 2, 2016
10
ハッカーの系譜⑦ビル・ゲイツ (7/7) ハッカーをやめたOSの帝王
September 6, 2016