「頑張ることが尊い」と思っている日本人に伝えたいこと 起業家・柴田陽氏【後編】
- 飯髙悠太
- 2016年10月20日
- マーケティングジャーニー
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Founding Editor
これまで広告代理店、制作会社、スタートアップを経験。複数のWebサービスやWebメディアの立ち上げに関わる。ferret立ち上げにあたり参画。
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「旅するマーケター」西井敏恭が、マーケティング分野で注目の人物にインタビューをする連載企画。
第5回は、お店に行くだけでスマホポイントが貯まる日本初のO2Oサービス「スマポ」、バーコード価格比較アプリ「ショッピッ」などを立ち上げたアントレプレナー、柴田陽氏にお話を伺いました。
前編では柴田氏が今までに作り上げてきたサービスと市場の見極め方を伺いました。
今回の後編では、渡米を通じて感じた日本社会に対する考えをお話し頂きます。
5年後に来るトレンドは何か考えている
西井:今気になっていることはありますか?
柴田:アメリカに行って思ったことがありまして。僕が今までやってきたスタートアップは、1、2年後に流行ったらいいなっていうタイムスパンでやっていたんです。
それは、トレンドがそれくらいで来るだろうなっていうのから逆算して、今やっておけば1、2年後にブレイクするだろうと。
これはいいんですけど、これをやると、日本では一番になれるかもしれないですけど、世界で一番になるというのは難しいというのが僕の仮説です。
なぜなら、2年後ブレイクしました、日本で一番になりましたというとき、周りを見ると、中国ではこの会社が一番です、韓国ではこの会社が一番ですという感じで、国ごとに旗が立った状態になっている。
そこを攻めて取りに行くにしても、削り取るという作業になるので、難しいですよね。
西井:5年経ったりすると、逆に海外のほうが入ってきてなくなっちゃう可能性がありますよね。
柴田:難しいですよね。できれば先回りをしたい。
アメリカに行って思ったのは、2年のスパンでやっているスタートアップも当然たくさんあるんですけど、もうちょっと長いスパンでやっているスタートアップもあるなと。
例えば5年後にしか来ないであろうトレンドの準備をしているとか、もしくは火星に人を送るみたいに、20年後でしょうみたいなことに向けて準備をしているとかですね。
お金がたくさんあるというものそうだし、人がもっと自由な発想を持っていて、同調圧力が低い。
例えば、「僕は昆虫食のスタートアップやってます」って言っている人がいるわけですよ。
日本で僕が今ここで、僕は次に昆虫食やりますって言ったら、気が狂ったと思われるわけですよ(笑)。
西井:一人知り合いでいますよ(笑)。でも、昆虫食も人口爆発が来れば。
柴田:来るかもしれないじゃないですか。10年後とかに。来たときにやっても遅いわけですね。
そういう多様性みたいなものがあって。そういうものでもチームに人が集まるし、お金もなんとかやっていけるくらいは集まる。
西井:なんで日本だとできないんですかね。
柴田:日本は、同調圧力が強いというのがすごく大きいというのはありますね。
例えば、今ならAIとか、フィンテックとか、ヘルステックとか。良くも悪くも熱しやすく冷めやすいというか、トレンドの焼畑農業みたいなことをやっていく文化性というか国民性なんですよね。
西井:それはなんなんでしょうね。
柴田:そういう社会なんだと思うんです。同調圧力が強いので、稟議でこれはフィンテックの新規事業って書くといいんじゃないかってなって、よくわからないけど稟議が通るという。
それに乗っかるというのはひとつの戦略としては正しいので、それはいいんです。しかし、それをやっていると短期的なサイクルになるので、5年後10年後に一番になるサービスを仕込むというのは、なかなかやりづらくなるんじゃないかなと思います。
今来ているトレンドじゃなくて、5年先くらいに来るトレンド。それでも近いのかもしれないんですけど、とりあえず5年後くらいというのをひとつのスパンにして、なんかトレンドはないかなと思って考えています。
西井:それはアメリカに行って気がついたことなんですよね。
柴田:アメリカに行って初めてそう思ったんですよ。
それまでは、日本にいるとこれをやったらこれくらいには行くだろうけど、それで世界を取れる感じはしないなという、閉塞感みたいなのがあったので、単に知識が不足しているだけなんじゃないかと思って、アメリカに行っていろいろなスタートアップの話を聞いていたんです。
日本で知られてないサービスが向こうでとても流行っているという話はまったくなくて、あまり変わらないなというのが正直な印象です。しかし、何年後に向けて仕込んでいるかというところに焦点を当てると、それは結構ばらついていて。
日本だと結構手前に集まっているけれど、アメリカだと手前にもたくさんあるけれど、その先の部分にも結構たくさんいるというのは思いました。
残業続きでも「今回っているからいいや」と考えるのが日本の経営者
西井:アメリカに行って、次の事業のアイデアは浮かんだんですか?
柴田:真剣に悩んでいて、決めきれていないんですよ。
世界中の人に使ってもらえるサービスをやりたいなとは思っています。日本のITサービスにはないので。
西井:ないですね、今のところ。
柴田:ニッチなマーケットにすらないんですよね。
西井:柴田さんは、時代の読み方が秀逸だなと思うのですが、そもそもアメリカに行った目的は?
柴田:アイデア的な、トレンド的な見ている視野の閉塞感みたいなものがあったので、視野を広げたいなと思って。
西井:こんな人が視野を広げたら、みんなどうしたらいいのでしょうね(笑)。
柴田:今だにわかってないんで。少なくても、長めに仕込むということが大事だと言うのは気づきました。
日米の違いはほかにもたくさん気づきましたけどね。例えば、市場がでかいんですよ。でかいというのは量的な意味でもでかいんですけど、多様性という軸でもまたでかいんですね。
いろんな人が住んでいて、いろんな階層の人がいるので。
町内会のお祭りに屋台を出すときと、幕張メッセのイベントに出展するときは、当然メニューを変えるじゃないですか。町内会のお祭りにすごく尖ったメニューを出しても、別に誰も喜ばない。
西井:町内会のお祭りでタイ料理を出しても人気が出ないけど、逆に幕張メッセで出したときはってことですよね。
アジア料理にするにしても、アフリカのなんか知らない料理だと微妙だしみたいな。だけど、市場が違うとそのアフリカ料理が人気になる場合もある。
柴田:それはありますよね。
西井:Facebookの起業の話を聞いていてもそうですもんね。
柴田:もともと内輪受けですよね。
西井:内輪受けがみんなに受けちゃったみたいな。
柴田:アメリカの話では、日本の消費者は保守的だという話につながるかもしれないんですけど。アメリカにMindbody, Inc.という会社があって、ヨガ教室向けに決済サービスのSpuareと予約管理ツールのオープンテーブルを足したようなサービスを提供しているんです。レジ管理と会員管理と、クラスの予約とか。
その会社の時価総額が、700億円(2016年10月時点)くらいあるんですよ。事業としてはそれだけなんです。日本で考えると、そういうスタートアップがあったとしても、時価総額1億円にもならないと思うんです。
日本とアメリカでは、ヨガ教室の数はそんなに違うと思えないんですよね。このサービスは月額1万円から始まって標準的なARPUが2万円くらいなんです。
やはり、お金を払って外部のサービスを使って、それで受付のレセプショニストが何人か削れるんだったら、そっちのほうが効率いいじゃないか、だから導入しようという感じなんでしょうね、アメリカの経営者は。
一方日本の経営者は、今回ってるからいいじゃないか、なんで変える必要があるんだと考えるんです。いや、みんな残業してヒイコラ言ってますけど。
そういうことの積み重ねが結構生産性を左右するのではと感じました。
西井:すごく心が痛い(笑)。例えば、経営会議で、生産性を上げるために不要なことを辞めましょうということになって、今やっている作業でいらないと思うものを出してください、それをやめるからという話をしたら、あまり出てこないんですよ。
なんでかというと、自分の仕事がなくなるとやばいじゃないですか。これは経営者も同じで、この仕事がなくなると、担当している社員の仕事がなくなる。受付の子をクビにするとか難しいじゃないですか。
柴田:公共事業のような作業、ありますよね。
西井:アメリカだとすぐクビにしちゃうじゃないですか。
日本の外資系企業とかも、コールセンターは非効率だから辞めます。全員明日から来なくていいですみたいな話ありますけど、日本企業だと絶対あり得ないし。
コールセンターの部長とか、絶対自分のポジション死守しますよね。そうしたらお客さんどうなるんですかみたいな。
柴田:結局経営者次第ですよね。
日本は「頑張ることが尊い」と思っている
西井:難しい問題ですよね。柴田さんが1万人の会社の社長だったらどうしますか(笑)。



