銚子「市民のつくった文化のまちづくり提言」のページ


(写真:左〜市役所正面の宣言垂幕。右〜こじんまりした?市図書館)

◎このページは、提言全文(策定中。完成次第掲載)と、それまでの活動経過(更新順=時系列逆順)の記録で構成されています。
◎目次: 提言全文○文化都市批判○私の文化論○文化5件・市長と語る会報告・集い結成

08.4.26更新。
◎銚子市民のつくった「文化のまちづくり」提言(案)・2008.5.1
  文化のまちづくりを考える−ミュージアム推進の集い:代表−関源五郎
《目次》はじめに−提言をなぜつくったか・趣旨
本論−銚子の文化が当面する問題
 1.銚子の文化白書 (1)文化と行政の実態 (2)近隣3市と比べる
 2.銚子の文化はなぜ立ち後れたか−原因を考える
 3.文化のまちづくり提案 (1)市政に望むこと(2)市民としての努力
総論−文化のまちづくりを考えるに当って
 1.銚子の文化−その歩み・文化略史
 2.銚子の文化行政−基本構想・計画の検討
 3.文化都市づくり理念と施策の「法的側面・あり方」
 4.文化政策・行政を考える
資料篇−1有識者アンケートのまとめ・2市公開資料・3参考文献

《はじめに》◎提言をなぜつくったか・趣旨
 銚子市は昨07年12月、「健康スポーツ文化都市」を宣言しました。私たちはこれを憲法第25条「健康で文化的な生活」を目指すものとして共感します。私たち国民・銚子市民には基本的人権としての「文化権」がある、というのが、この提言の基本的な立場です。そこで文化活動に関わるものとしては、とくに「…文化都市」づくりを、市がどのように考えているのか、ぜひ知りたいと思いました。また早急な取り組みが求められている、美術・博物館建設(以後、ムュージアムといいます)、旧瑞鶴荘遺構を文化財として保全する問題を、「文化都市」としてどうするのか。そこで昨年暮、市長さんとこれらの件で話し合いました。
私たちはまず、市長さんに宣言のもとになるお考えをお聞きしました。しかし「地域の文化伝統を活かし文化活動を促進すると市基本計画に示してある通り」、とメモをもとに述べられるだけで、説得力のある生まのお考えを聞くことは出来ませんでした。同席した担当者からも、文化施設の現状や今後の充実計画など、宣言を実現するための方策は示されず、残念というほかはありません。
 私たちの人権である「…文化的な生活」を支える憲法規定のもと、文化財保護法、文化芸術振興基本法など、文化に係る法律や基準が定められています。行政がそれを守り、実行する責務があることも当然です(総論参照)。私たちは宣言実行の第一歩として、そのことをお願いしました。せっかくの宣言が、市役所玄関に大きな垂れ幕を掲げただけで終わってほしくないからです。
 市の理念・構想も、実態調査も施策も、今のところはっきりしません。宣言を空文にしないよう、市民の手で銚子の「文化のまちづくり」を提言しよう。私たちの「銚子の文化とまちづくりを考える−ミュージアム推進の集い」は、その課題に取り組み始めています。それは市長さんの「市民、行政が一体となって進む」(就任挨拶)方針に沿った、宣言実現の道ではないでしょうか。
 文化国家建設を掲げてスターとしたこの半世紀、「文化のまちづくり」は私たち市民の悲願でした。市民の文化活動や有識者たちの、熱心な努力が積み重ねられてきました。歴代市政も「文化産業都市」「歴史と文化を大切にするまち」などを掲げ、文化人を自称する市長さんもおられました。しかしそれがキャッチフレーズに終わった感はなしとしません(総論参照)。
「文化」がいつ迄も市政のお飾りであっては困ります。有言実行を期待します。
 さて、この提言はその趣旨を述べた「はじめに」、つぎに市の文化実態の分析−白書と提案をまとめた「本論−銚子の文化・当面の問題」、さらに提言の背景となる理念を述べた「総論−文化のまちづくりを考えるに当って」「資料篇」の4部から成り立っています。とりあえず各論に当る実態分析−白書と提案を読んでいただき、総論としての理念的部分を後に回すという構成です。その点をご理解のうえ、ご検討と率直なご意見を期待いたします。

《本論1》 ◎銚子市の文化実態1−文化と行政の現在
 提言の基礎資料として、まず下記のような文化に係る情報公開と説明を市に請求し、下記の開示と説明が、2月5日市生涯学習課からありました(担当2名・集い代表ら2名出席)。その要点を報告します。まず公開請求書の項目に沿って、市の説明(口頭&文書)の要旨をA〜でまとめてあります。つぎに公開資料などをもとに、実態の補足をまとめました。

□市文化行政に係る情報開示と説明のお願い08.1.10&市の回答08.2.5
 上のことに関し、下記の事項についての情報開示と説明を、よろしくお願いします。ここでいう「文化」領域は、学校教育・体育スポーツを除いた分野とご理解ください。なお行き違いを避けるため、資料開示及び文書による説明をお願いしたく、文書化しにくいもの等は口頭でも結構です。
1.「…文化都市宣言」に係る、市基本計画以外の、地域文化全般の振興等に関する条例・計 画・指針・要綱等、およびその基礎的実態調査資料。ない場合、今後の立案・調査等予定の 有無。
 A〜とくにありません(今後の立案、調査も含めて)
2.直近10年間の、市民から寄せられた、文化(行政・施策等)に関する、市または市議会 への請願・陳情・要望・意見書などのリスト。
 A〜○市長宛10件。内訳は美術・博物館2件、美術館3件、個人や市議団の市政要望項目 中に含まれる案件5件。○市議会宛4件。02年銚子の自然を楽しむ会−博物館建設請願。 04年郷土博物館をつくる会−美術・博物館建設要望。06年銚子自然保護協会他−瑞鶴荘 跡の自然・文化財保全請願。07年郷土博物館をつくる会他−美術・博物館建設約束の実行 要望。
3.市民の文化活動への奨励・助成制度。賞・表彰・助成金など。
 A〜○銚子賞:補助金交付要綱&まちづくり活動の支援に関する規則(文書)。銚子賞には 文化に係る規定はないが、支援に関する規則で「ア地域の伝統文化、芸術等の振興に資する 活動」も対象と定めてある。
4.地方自治法第二条3−5等にある下記の文化施設のうち、本市にあるものについて
 ※この項のAは、施設一覧(文書)により各()に記入してあります。空欄は記載にない施 設となります。
 1)名称・公私の区分・規模の概要(分館等も含め、下記にご記入ください。資料でも可)
 a研究所(
 b試験場(
 c図書館(市立公正図書館※規模・比較資料等は後日図書館に説明要請。
 d公民館※1(市民センター・延床面積3110平米
 e博物館(市文化会館郷土&考古学資料室。社法−灯台資料展示室。独法−新国立劇場舞台  芸術センター。私−犬吠埼マリンパーク(類似施設)。私−外川ミニ郷土博物館。
 f美術館(私−思咢庵
 g物品陳列所※2(私−銚子ちぢみ伝統工芸館
 h劇場&音楽堂※3(市文化会館大ホール
 iその他※4(市−地球の丸く見える丘展望館
 ※1〜市民センター&ホール、公会堂などを含む。2〜物産館を含む。3〜ステージ・楽屋  等を備え、舞台芸術の上演が可能な施設。4〜児童館・水族館など、文化に係る施設。
 2)上の施設に係る、国の設置・評価基準。また全国平均値及び旭・匝瑳両市との比較資料。 A〜国基準は後日連絡。その他資料はなし。
 3)上の施設に係る、今後の設置計画または見通し(国・県の計画等)
 A〜とくにありません。
5.文化財保護法第二条の定める下記対象その他で、指定済みを除く本市域の文化財に関し、
 ア保護すべきものと評価される本市文化財の調査資料。または今後の調査・リスト化計画。
 A〜正式資料はないが、33件を調査中で(件数のみの文書)、古文書は05年から着手し ている。リスト公開については前向きに検討したい。県も文化財実態調査をほぼ定期的に実 施し累計104件(同上)となっているが、市にはその資料は来ていない。
 イない場合、現時点で保護すべき対象と判断される具体的事例(下記欄に記入可)。
 ※上に同じ。
 ウ指定文化財の保全状況とその評価資料。
 A〜国・県指定文化財については国・県が調査しているが、市に資料は来ない。
 ※以下、対象項目を列記。なお市回答では下記項目別の記載はないので、質問項目だけを列 記した。
 1)有形文化財 a建造物 b絵画&彫刻 c工芸品 d書跡&典籍 e古文書 f考古資 料 gその他
 2)無形文化財 a演劇&音楽※台本&楽譜を含む
 3)民俗文化財 a風俗慣習 b民俗芸能 c民族技術※衣服、器具、家屋等の物件を含む
 4)記念物 a貝づか b古墳 c都城跡&城跡 d旧宅 eその他の遺跡 f庭園 g橋 梁 h峡谷&山 岳 i海浜 jその他の名勝地 k動物 l植物 m地質鉱物※k&l& mでは生息・繁殖・渡来・自生・ 生態系・土地を含む
 5)文化的景観※地域の生活、生業、風土等により形成された景観地
 6)伝統的建造物群※環境と一体で歴史的風致を形成する伝統的建造物群・街並み
 エ産業文化財※農・漁・水産加工・造船・醸造&関連手工業・製瓦など。調査資料&リスト
 A〜市として調査・資料はないが、県が近現代の文化財として86年から調査している。 
 オ私蔵の文化財コレクションで保全価値のあるもの※調査資料&リスト
 A〜個人情報・財産権との関係もあり、資料化はしていないが、担当として一定の情報は把 握している。
6.本市域の文化&歴史に係る、明治以降の一般出版物、および市教委の刊行物のリスト。
 A〜一般出版物の資料はない。市教委発行資料は7点、うち埋蔵文化財発掘調査報告書が1 6種ある(リスト文書)
7.本市の文化行政の機構(統轄責任者・関連分野・領域と所轄など)
 A〜統括者・教育長のもと、生涯学習課・文化班が主体となり、社会教育班も担当が重なっ ている。課内の市民センター・公正図書館・青少年文化会館の各担当も、所管の運営にあたっ ている。(文書)
8.文化に関連した直近の市予算額または決算額の概要。
 A〜06年度決算額で9247万2千円(総額の0.4%)。但し生涯学習課の文化班及び 上記3館に係る支出。(文書)
《コメント》市の文化行政と施策全般については、市基本計画に係るそれを含めて別に検討することとし、ここでは上記の質問と市回答について整理しておきます。
 今回の「…文化都市宣言」に係る理念・構想、実現の計画体系とその土台となる実態調査資料などはなく、今後もその予定はないことがわかりました。半ば予想はしていましたが、失望するほかはありません。宣言について庁内では「健康がメーンで、そのためにスポーツと文化の充実が大切」という受け止め方のようです。文化は刺身のツマ程度ということでしょうか。それが回答で示されたというわけです。文化関係費も市総額の0.4%(06年度)で、その額も年々減っています。
 この10年を見ても、市・議会への文化に係る市民の要望は、ミュージアム建設に集中してます。使途の決まった8億円をどうすべきかは自明でしょう。しかし文化施設について、法の基準を満たしていないことへの認識・自省も充足計画も市はもっていないようです。
 文化財対策で目立つのは、縦割り行政で国・県の調査資料が地元に報告されないこと、国・県・市の資料・情報が市民レベルに届かず、説明責任が果たされていないこと、調査・保全対象が明治以前の埋蔵文化財に片寄り、近現代にいたる総合的視野に欠けることなどです。機構としては、生涯学習課の課長以下、本庁勤務者数名が担当していますが、文化行政・施策・予算など全般は、荷が重すぎるようです。文化都市づくりに相応しい機構・人員・予算が必要とされます。根本的には、そのことも含めた「行政の文化」化、「国民の文化権」の深い自覚が、官民ともに求められています。

□市回答文書資料による補足を、上の質問書項目順に整理します。
3.A(助成)について後日確認したところ、銚子賞補助は3年の期限切れで現在停止、教育 功労者表彰制度の文化関係者への適用は、前例がなく今後も考えていないとのこと。結論的 には、文化関係への市助成・褒賞施策は、現時点では皆無、ということになります。
4.C:図書館に係る整理と近隣各市との比較は、次項で述べます。
5.(1):文化財調査の件では、後日県・市の調査資料要旨が開示されました。それによる と、県は独自に1985〜07年計10回にわたり、本市の社寺・祭と行事・近代建造物と 遺跡遺産・集落と街並み・和風建物・文化的景観などを調査しています(資料2)。
  市では1991〜07年計17回の調査で25件、地質系記念物1件の他は、近代以前の 各有形文化財〜絵画・古文書・彫刻・歴史資料・建造物が対象となっています(資料2)。
  県調査は保護法が定義する全般的視点で、近代の各遺産を調べていますが、市への調査結 果の提供はありません。市調査は近代以前の有形文化財に限られ、消滅に瀕している民俗文 化財〜風俗慣習・芸能・技術やその記録資料などへの目配りが欠けています。また瑞鶴荘遺 構については、県・市ともなぜか無視したままです。保全責務の自覚に立った総合的視点と 協同が求められます。
6.A:本市縁りの出版物に係るリスト・資料は市図書館にもなく、今後の課題とされます( 市刊行物は資料2)。
7.A:文化行政等に係る生涯学習課所管11項中7項は社会教育関連で、文化に係る4項に は文化的インフラ−施設計画に関する項はなく、その立案権限は企画課にあると見られます。 文化に係る基本計画・施策を総合的に統括する部署(例えば教育長)の確立が必要でしょう。8.A:文化費の実態は下表の通りです。その評価は次項に述べます。
 年度 a文化費※  b市決算総額※ a/b比 ※単位千円
 04(平成16)年度 112580 28305054 0.4%
 05(  17) 110297 28206583 0.4%
 06(  18)  92472 21843733 0.4%
 07(  19)

○生涯学習課の文化関係に係る仕事を、「生涯学習ガイドブック2007(まとめ・同課編集) 」で整理しました。
  施設等及び事業ガイドによると、市民センター(公民館)は中央(小畑)と6地区(分館) があり、26事業の窓口となっています。
  また青少年文化会館は26、図書館は6事業を受け持っています。
 課は「ふれあい講座」22を担当し、また市民要望に対応し学習アドバイザー50名を斡旋 しています。課がコンタクトする文化関係市民サークル・グループは70団体あります。ち なみに市史などによってその推移を見ると、1973年〜85、78年〜148(以後資料 なし)となっており、減少傾向が見られます。課の担当行事としては06年度舞台公演&コ ンサート8、各種イベント15が実施されています。

□民間インフラも、市の文化実態を考える上で大切です。
  映画館は、70年代の全盛期には6館ありましたが、08年現在は0となっています。
  書店は、市中心街でピーク時には8店ありましたが、現在は4店に減り、量販店型の店舗 に入れ替わっています。数店あった古書店も、現在は閉店状態です。
  画廊・写真等の常設展示施設は従来から0のままで、公私の展示場を使った短期の展覧・ 展示が随時開かれています。最近開設した外川の私設博物館が、独り気を吐いています(そ の他の施設については、資料篇)。
  千葉科学大学も、巨額の血税で誘致した文化的施設の一面をもちますが、その文化的貢献 の如何は、市と約束した「8億円資金による文化的施設の実現」がその試金石として注視さ れます。
  これら民間文化インフラの衰退は、総論・市文化略史で述べたように、戦後の映画館・書 店全盛時代から、60年代以後のテレビ時代・大衆化社会、さらに90年代からの電子機器 時代・情報化社会へと変容してきたマクロな時代背景と、地方切捨て政策による地域の経済 的・文化的衰退という、この国の基本的なあり方の問題でもあり、その再生を含めて、極め て深刻な事態といわなくてはなりません。

《本論1−2》 ◎銚子の文化実態2・近隣3市と比べる
 実態を客観的に評価するため、身近かな近隣の旭・匝瑳(旧八日市場)・香取(旧佐原)各市と本市の、市文化費支出と主なインフラ、国基準が比較的明らかな図書館について調べました。文化費については、比較条件的に妥当な合併前の旧市時代・04年度の、各市決算額を各市に電話で照会し、回答資料を入手。その際、文化費を本市と同じく教育・体育関係、および施設の維持管理・事務的経費を除いた額と定義し、公開を求めました。ただし若干の会計処理上の違いもあり、100%正確とは確言できません。異論があれば、さらに精査をお願いしておきます。また図書館関連は、市公正図書館の資料等に拠りました。
 まず文化費をみると、まず市民一人当り額について、銚子市1490円を1とすると、旭市3.2(倍。以下同じ)、八日市場3.9、佐原5.6。また総決算額に占める比率では、本市0.4%を1として、旭3.5倍(1.3%)、八日市場4.6倍(1.8%)、佐原5.6倍(2.3%)という、驚くべき落差が明らかになりました。
 インフラの現状では、「文化の核」(後出)とされる公設ミュージアムは銚子が0。旭では大原幽学記念館・歴史民俗資料館(飯岡)の2館、八日市場0(私設松山庭園美術館あり)、佐原では伊能忠敬記念館と県立博物館大利根分館の2館。音楽堂(ステージ付ホール)は銚子・八日市場・佐原各1に対し、旭は県東総文化会館(2。大&小)・市民会館・海上市民館・飯岡ユートピアの合計5施設があり、次の図書館2館を含め、インフラの格差が際立っています。
《表1》文化に係る主な指標・近隣各市の比較・04年度決算
 市      銚子市   旧旭市  旧八日市場市 旧佐原市 備考 
人口     75565   40881   32268   47468    人 
a総決算額 2830505 1399503 1023914 1405442 万円  
 同一人当り 37.5   34.2    31.7    29.6   万円 
b文化費   11258   19249   18718   32323 万円  
 同一人当り 1490   4709    5800   6869    円  
 同対銚子比 1      3.2      3.9    4.6  倍 
b/a比     0.40   1.38    1.83   2.30    %  
 同対銚子比 1      3.5      4.6    5.6  倍 
※他3市平均:一人当り文化費=5793円(銚子市の3.9倍) 
文化費比率b/a=1.84%(銚子市の4.6倍)
 文化施設数(08年現在)
 博物館    0       2      (1私設)     2
 公設ホール 1        5        1       1
 公民館※   1       2        2       2
 ※中核的施設(中央センター・コミュニテイホーム・触れあいセンターなど)

《図1》文化に係る主な指標・近隣市比較・04年度
 市 文化費/人※1 同左対銚子比 文化費比率b/a 同左対銚子比
 銚子 ○○○     ●         □          ■■

 旭   ○○○○    ●●●       □□□       ■■■■
     ○○○○                        ■■■    

 八日 ○○○○○○ ●●●●    □□□□     ■■■■■
 市場 ○○○○○                      ■■■■

 佐原 ○○○○○○ ●●●●●  □□□□□    ■■■■■■
    ○○○○○○                     ■■■■■
    ○○

 備考 ○=500円 ●=1    □=0.5% ■=1 各単位毎四捨五入
  ※1〜各項目の意味は、表2を参照してください。

□公立図書館はミュージアムとともに、地域「文化の核」であり、図書館法と設置等基準※によって比べやすいので、文化レベルの指標として取り上げました。
 05年度近隣4市の、市民一人当り図書費(雑誌代を除く)をみると、銚子市の105円を1として、旧旭市1.5倍(158円)、旧八日市場市3.5倍(372円)、旧佐原市1.1倍(116円)となっています。旭市では、県立東部図書館の主な利用者が旭市民であることからすれば、これを加えると一人当り銚子の10.1倍(1063円)・床面積で2倍・蔵書数で4.5倍となります。
《表3》銚子市公正図書館の概要と、国基準※との比較
 指標/区分  a銚子市   b国基準   充足率a/b 単位等
 延べ床面積  1420    2937     0.48   面積=平米
 蔵書数     113142  306302   0.37   冊
 年受入れ数  3500    22191    0.16   冊   
 図書費※2  105     700       0.15   円
 職員&司書数 19(11)   人。括弧内は司書数
※公立図書館の設置と運営に関する基準・00年の施設設備等「数値目標例」人口3〜7万  人の項による。 ※2〜一人当り。雑誌代を除く。

《図2》銚子市公正図書館と国基準−国基準を20□とした場合の充足比■
 延べ床面積   ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□
 蔵書数      ■■■■■■■■□□□□□□□□□□□□
 年受入れ冊数  ■■■□□□□□□□□□□□□□□□□□
 図書費      ■■■□□□□□□□□□□□□□□□□□
 職員数      ■■■■■■■■□□□□□□□□□□□□

《表4》近隣4市の図書館概要の比較・05年決算額による
 指標/各市   銚子市    旧旭市     旧八日市場市  旧佐原市   備考
 名称       公正図書館 旭市図書館 八日市場図書館 中央図書館
 人口       75665   40881    32268      47468 人。04年値 
延べ床面積   1420     404      3937       1206   平米
  同一人当り  0.05    0.01      0.12       0.03   平米
  同対銚子比  1       0.2       2.4         0.6
蔵書数      113142  82643     187789     96358 冊
  同一人当り  1.5     2.0        5.8        2.0 冊
  同対銚子比  1       1.3        3.9        1.3
図書購入費    800     646       1200        550 万円
  同一人当り  105     158        372        116 円 
  同対銚子比  1       1.5        3.5        1.3
 ※県立東部図書館:床面積=3590平米。蔵書数=194589冊。図書費=3700   万円。旭市合算値:床面積=3994平米−0.1平米/人−対銚子比2倍。蔵書数=2  77232冊−6.8冊/人−対銚子比4.5倍。図書費=4346万円−1063円/  人−対銚子比10.1倍。

《図3》近隣4市一人当り図書館概要の比較。05年決算による。各項とも銚子を1とする。 
指標/各市  銚子市     旧旭市  旧八日市場市    旧佐原市      備考※
延べ床面積   ○○○○○  ○     ○○○○○○    ○○○        ○0.01平米   
                        ○○○○○○  
 ・同対銚子比 ●●●●●  ●     ●●●●●●●   ●●●       ●〜0.2
                        ●●●●●●●
蔵書数      □□□    □□□□ □□□□□□□  □□□□      □〜0.5冊
                         □□□□□□□
 ・同対銚子比 ■■      ■■■   ■■■■       ■■■        ■〜0.5
                        ■■■■
図書購入費   ◎◎      ◎◎◎   ◎◎◎◎       ◎◎         ◎〜50円
                         ◎◎◎
 ・同対銚子比 @@      @@@   @@@@       @@         @〜0.5  
                         @@@
 ※各記号単位は、それぞれ四捨五入または二捨三入してあります。正確には表ご参照を。

□コメント:これらデータによる限り、文化費と図書館など文化的インフラでみる、銚子市と近隣3市の格差は誰の目にも歴然としており、これで「…文化都市」を宣言する資格があるのか、疑問を抱かざるを得ません。文化費とインフラについてはもちろん、図書館の水準は、床面積を除く主な指標で、近隣3市にも遅れをとったままです。その点で旧八日市場市の充実ぶりが目立ちます。特に旭市には県の文化施設が集中し、近隣との文化格差が深まっており、銚子市政と地域選出議員らの、これまでの怠慢が問われるところです。さらに税金による公的施設の公正な配置という視点からも、県文化行政のあり方への批判は免れません。

《本論2》◎地域文化の停滞と格差−その原因を考える
○本市の文化実態を、市の公的資料と近隣各市との比較によって検証した結果は、前章で明らかにしたところです。それをみる限り、「…文化都市宣言」とはウラハラに、このまちの文化的な停滞と、近隣各市との歴然とした格差は、否定すべくもありません。それはまさに「文化的骨ソショウ症」(地域文化の骨組−インフラが弱い)とでもいうべき状況です。それを宣言にふさわしい文化的なまちに、いわば健康回復を図るためには、なぜそうなったかという、「病気の原因」をまず明らかにする必要があります。それを踏まえた的確な診断書−「文化のまちづくり提案」が次の課題となります。なお原因究明には、総論の「文化の歩み−市文化小史」「文化に係る市構想・計画の検証」が有力な手がかりとなるでしょう(ご参照下さい)。
 根本的には、この国の国家的目標と政策が、経済・開発優先で文化が軽視され、後回しにされてきたという背景があります。それはグローバル化という世界的な流れとも連動して、地域の活力と文化的個性を蝕みつつあります。画一的な情報化、マンガ文化の洪水などの影響も無視できません。文化軽視は、国の文化予算が他の先進諸国より一桁低いこと、代表的な文化的景観−鞆の浦が道路計画で破壊されようとしていること、公立図書館の司書定員が、財政的理由などから未だに棚上げされていることなど、例証には事欠きません。それとの関わりで、地方切捨てによる地域の経済的・文化的衰退も深刻化しています。県・市なども大勢としてこうした国の路線に巻き込まれてきた実態があります。また国民・市民サイドでも、市民社会の未成熟とも関わる、「文化権」の自覚と実現への努力が足らなかったことは、反省されなくてはならないでしょう。

○本市の歴代市政が、一時の例外はあるものの、他力本願的な開発路線をとりつづけ、文化充実への一貫した理念によるまちづくりの構想・計画を欠いてきたことも、大きな要因です。総論で検証しているように、市の公的まちづくり計画である、各基本構想・計画では、市民要望をある程度反映して、目標・大綱など総論的部分では「教育文化都市」などを掲げてはいますが、それを担保すべき各論や財政面の裏づけが弱く、結果的には空文に終わっています。とくに地域文化の核であり土台である、施設面でそれがあらわです。具体的には、法が例示する文化的インフラのシビルミニマム(最低基準)を実現すべき、責務の自覚と系統的努力を、歴代にわたってなおざりにしてきた結果が、近隣各市との格差を生む要因となりました。研究機関やミュージアム立地などの打診への消極姿勢も、それに加わりました。文化財保全の面では一定の成果が見られるものの、法の趣旨に立つ総合的視点が弱く、また開発優先市政のもと、瑞鶴荘(歴史遺構)、川口〜黒生海岸(地質鉱物)、大谷津(食虫植物群落)などの貴重な文化財の消滅を許してきました。
 それらは、歴代市長・教育長、各級議員・市議会などリーダー層の殆どに、文化的な識見と高い理念が乏しく、行政の人材面でも文化のエキスパートが育たなかったことの結果といえます。早い話が「文化じゃ食えない」と公言する首長、文化人を自称しながら文化財を開発対象にするトップのもとで、まともな文化行政が育つはずはありません。

○銚子市民は文化活動などを通じて、市政に「文化のまちづくり」を求め続けてきました(総論)。とくにこの半世紀前半を振り返ると、文化国家建設という時代背景のもと、地域文化の振興を目指した、活発な活動が盛り上がりました。有識者グループは市政にも発言し、また私財を投じてさまざまな分野での文化振興にちからを尽くしました。しかし82年「文化運動の功績を称える会」の慰霊祭を境に、文化的リーダー層が相次いで世を去ったまま、有力な後継層が続かず、全国的な市民運動停滞期のなかで、本市の文化運動も市政への影響力を低下させ、現在に至っています。「文化権」の自覚に立つ活動とその力不足が、市政の文化軽視を許してきたことも、反省しなくてはなりません。

○文化的インフラについては、充実のチャンスがなかったわけではありません。その一つは70年代の地方財政に比較的ゆとりがあった高度経済成長時代です。本市にも県立博物館、国の研究施設、私立大学などの進出話がありましたが、企業誘致に目を奪われた当時の市政は、結局見送りました。もう一回はバブルとその直後の時期で、崩壊後の不況対策に、国は地方債による公共事業・施設づくりをテコ入れしました。本市でも「市民ミュージアム建設の検討」が基本計画に盛られましたが、実現せずに終わりました。
 いま、国も多くの自治体も、自ら招いた「財政危機」とその解決を最優先させ、それを口実に憲法第25条の空洞化−健康と安全、福祉と教育・文化の切り詰め・軽視を進めています。もともと一貫した文化充実への高い理念と計画性を持たない本市も、その例外ではありません。その本質を見極め、「文化権」の自覚と実現に向けた市民の文化活動の高まりこそが、これからのカギといえます。

《本論3》◎市民のつくった「文化のまちづくり」提案
1.提案の基本的なスタンス
 私たちは銚子市の「健康スポーツ文化都市宣言」に共感し、前向きにとらえます。それはこれまでにも述べたように、「健康で文化的な最低限の生活」を保障すると定めた、憲法第25条に沿った方針と考えるからです。国民・市民・そして人間としての「文化的な生活」権−文化権は、基本的人権として世界人権宣言(1948)にも明示されたところです。
 憲法の上記規定と、それを受けた諸法の文化に係る定めの実現は、自治体の責務に他なりません。地方自治法(第二条3項五)の例示する文化施設(この提言では文化的インフラ※とします)、文化財保護法の趣旨(第二条定義・第三条責務。以下、「保護法の趣旨」とします)、文化芸術振興基本法の各規定、都市計画法の規定等がそれです(総論)。それらの誠実な履行、とりわけ近隣各市との文化格差の早急な是正が求められます。
 私たち文化向上を願う市民は、戦後半世紀以上にわたり、さまざまな活動を通じて、国・県・市に対して「文化のまちづくり」を強く求め続けてきました(総論)。しかし歴代市政は文化に係る理念と系統的な施策を欠き、市民の願いは実現されぬまま現在に至り、「…文化都市」を宣言した今も、明確な理念と実効ある施策を示していません(直近施政方針等)。
 そこで私たち文化に関わる市民有志は、先人諸賢の努力を受け継ぎ、市民の望む「文化のまちづくり提言(案)」をまとめ、市と各界、市民の皆さんに広くご検討をいただき、ともにその実現を目指したいと願う次第です。そのため、あえて(案)として提示しました。この提案は「市民 行政が一体となって進む(市長就任挨拶)」道であると確信します。また「文化のまちづくり」は、「訪れて楽しい街(同前)」の魅力を高め、新たに文化産業を興すなど、まちの活性化に貢献する道でもあると考えます。
 この提案部分は、□市政に求めたいこと □市民として努力したいこと の2つに分け、それぞれ ○当面の課題 ○持続すべき取り組み について整理してあります。その区分は機械的なものではなく互いに関連しており、また「当面」と「持続」では、早急に取り組むべきことと、同時に取り組みつつ継続して追求すべき問題として、連続的に考え、構成してあります。なお以下の提案部分では、文体を簡略化してあります。ご了承ください。
※インフラストラクチャー(基幹施設)。この提言では法例示施設を本市規模の場合のシビル ミニマム(必要最低限の基幹施設群)としています。

2□市政に求めたいこと※
○当面の課題
a格差是正:近隣3市との文化格差を早急になくすことを目標に、文化費とインフラを3市平 均レベルにまでアップすること(実態2)。
b計画づくり:その実現のため、早急に「文化都市づくり」の計画を策定し、または次期基本 計画へ盛り込み、実施すること。とくにインフラのシビルミニマムを明確にすること。
c文化の核:その試金石として、「文化の核」※であり、市と学園の約束であるミュージアム、 瑞鶴荘遺構の保全を実現すること。※08.2文化財保護法改定に当り日本学術会議は「文 化の核となる自然系博物館の確立を目指して」と題する報告書を公表した。
d総合調査:文化財と文化的インフラの総合調査を、保護法の趣旨に沿い、国・県とも情報交 換と連携を密にして実施すること。
 *その際消滅が危惧される無形文化財−民家・古文書・視聴覚&民俗資料、産業文化財、動 植鉱物などを網羅すること。また市内各校の標本・コレクション・資料類を把握すること。 *インフラについては、転用可能な校舎など公共・民間の土地・建物の実態を把握すること。 *調査に当っては、研究者・市民ボランティアの協力体勢づくり、有志への委託、データの 情報公開などを配慮すること。
e助成褒賞制度:市民文化活動をさらに活性化するため、助成・褒賞制度を確立すること。銚 子賞助成金制度の復活と対象の拡大、教育功労者表彰の要綱中「芸術文化の向上発展につい て功績が顕著であったもの(第2条3)」の活用と適用の拡大を図ることなど。
f文化イベント振興に向け、市主催※&後援の公演を盛り上げる工夫と努力、自主公演の支援 体制を強めること。※市主催クラシック公演等での多数の空席は、文化都市としていかがな ものか? 解消の工夫と努力が求められる。
g文化市民会議(仮称※)を設け、文化振興に関し「行政と市民が一体となって進む」市民参 加体制をつくること。文化財審議会については、上記会議との密接な連携を図り、また審議 会招集・議題への発議権、自主的調査権を認めるなど権限を強化すること。※原則公募制。

○持続すべき取り組み
A路線転換:文化都市宣言を今後の市政の基本路線とし、これまでの開発優先姿勢の転換を図 り、「健康で文化的な生活」実現−健康と安全・福祉と環境・教育と文化を柱とした基本方 針を確定すること。
B条例制定:A項定着のため「文化都市基本計画※」、さらには「文化都市づくり条例※」を 策定して「…文化都市宣言※」を担保し、その理念と構想の明確化と、今後のまちづくり基 本方針の確定を図ること。※仮称。
Cインフラ充実:地域文化の核であるシビルミニマム施設の実現を、基本計画さらに条例で責 務と位置づけること。とくにミュージアム・物産陳列所(物産館。犬吠駅など既存施設の活 用、道の駅との併設なども一案)・小中規模音楽堂(300〜500人規模のステージ付ホー ル。既存施設の改装も検討)・研究所&試験場の立地促進などを図ること。
D文化財保全:保護法の趣旨に沿い、総合的視点に立った市の独自計画を策定して持続的に取 り組み、老朽化または消滅した重要財は修復、復元に努めること。
 *前項d(調査)を踏まえ、市指定文化財の拡大とそれら区域・面積、各分野の検討対象を 明確にしつつ、関係者の積極的協力を得ること。とくに下記の対象を重視すること(指定済 みを除く)。
 *有形文化財:常灯寺など主要社寺・長屋門・代表的民家(茅葺家屋・漁家とくに納屋など) ・灯台施設と霧笛・道祖神&水神&主な湧水・市関係代表的画家&作家の作品確認(代表作 目録づくり)・古文書(滑川家文書・名主宮川家の家録と家財・各地検地帳・玄蕃日記原本 の確認)・考古学コレクション(所在&所蔵品確認)・銚子に係る文学作品と銚子出身者の 著書&地域文化に関する出版物など(後出。リスト作成と収集)。
 *無形文化財:死んだ海3部作戯曲。「春一番の人−関寛斎小伝」戯曲。「澪つくし」ドラ マ台本・交響詩「海響」総譜・市内各校新旧校歌(楽譜&録音資料など)。
 *民俗文化財:民謡&囃&踊り&祭礼&民間行事など各分野視聴覚記録資料(新規作業も含 む)・大漁旗・万祝・冠婚葬祭&農漁作業等に係る衣類。  *記念物:瑞鶴荘遺構・中島城趾(史跡公園化)・幕末砲台跡・太平洋戦争遺跡・各海浜( 海鹿島・君ケ浜・酉明浜・長崎〜外川・屏風が浦・通蓮洞)・利根川船入場(10ケ所)& 渡船・妙福寺藤棚・化石&琥珀産地(標本と記録)・ヒヌマイトトンボ&ゲンジボタル&ト ウキョウサンショウウオ&食虫植物群(生態系&環境保全)など。
 *文化的景観:地球展望台・犬吠埼・犬若ほんけのでい(本家の台。屏風が浦を含む)・利 根川対岸からの市街地景観など。    
 *伝統的建造物群:外川&長崎の漁家集落街並み・西部農家集落(三崎・猿田・岡野台・中 島・宮原など)
 *産業文化財:漁船&漁具&船内雑具(模型も含む)・網小屋&干鰯場・在来水産加工施設 (粕焚竈&搾油機など)・舟曳場(ウィンチ・しらなど)・造船所(とくに和船)・醤油醸 造(従来式工場&用具等・製樽工程など関連産業も含む)・水飴製造所・農業用具&日用雜 具類・水利施設(逆川など)・富川取水場(忍川)・カキ殻採取船&製造所・黒生瓦製造所・ 銚子縮&砂染&藤製品&竹籠(海上)各工房など
E図書館基本計画を策定し、国基準の充足と内容充実を図り、市民要望に応えること。
 *新・増設・移転、既存官民施設の転用も視野に入れ、床面積の確保を図ること。 
 *蔵書充実のために、広く寄贈・基金を求め、その名を記した文庫の創設、寄贈本への記名 なども検討すること。
 *郷土資料室充実のために、近隣市町村史の整備、銚子文庫創設(仮称・後出。本市出身者 の著書等&銚子に関する蔵書リストの整備)、市公文書類・地域文化資料(視聴覚記録を含 む)などの整備を図ること。
 *図書館市民委員会(仮称)を設け、市民参加で図書館運営と利用の活性化を図ること。
 *千葉科学大学図書館との連携を深め、相互の交流と利用を盛んにすること。
F行政の文化化:この項「市政に求めたいこと」の実現を担保する、文化行政の総合化を図る こと。統括者として教育長、所管の文化課を置き、文化行政に関わりある各課とも、 必要 に応じプロジェクトチームを組むなど、総合性と機動性を発揮すること。
 *市史編さん室を常設し、必要資料の収集・管理を図ること。
 *広く文化に関心をもつ有識者・市民有志に協力をもとめ、ボランティアとしてもその人的 能力を活用すること。
※この項でいう計画はいわばマニフェストとして、必要な数値目標・達成期限と工程表・手法・ 予算措置・政策評価等を備えたものを求めています。

3□市民として努力したいこと
 豊かな地域文化を支える主体と土台は、「文化権」を自覚した市民の文化活動にあります。
市宣言を踏まえ文化行政にも積極的に提案し協同しつつ、次のような主体的努力を重ねます。
○当面の課題
a格差是正の要望を、各文化団体の共通認識とし、また世論に高めつつ、市に提起すること。 そのことを請願・陳情・要望・座談会・情報発信などの、さまざまな形や機会でアピール  すること。
b文化の核としてミュージアムを位置づけ、瑞鶴荘遺構の保全とあわせて、宣言の試金石とし てその実現活動を広げ、強めること。
c文化活動の強化を目指し、各分野のテーマをさらに創造的に追求するとともに、「文化のま ちづくり」を目標として共有し、協同すること。例えば音楽・演劇・芸能団体による「小ホー ル」実現運動、歴史研究各団体による「中島城趾公園化」運動、古文書・史跡調査での関係 団体の連携など。
 *音楽・演劇・芸能の公演活動を振興し、行政にも要請して支援態勢づくりを進めること。
 *文化サークルのレベル向上、例えば自然・社会科学・文学系や研究型団体の設立につとめ、 それを促進すること。また市内各学校の文科系クラブ活動を支援し、それと連携すること。
d文化市民会議(前出)を実現させ、各団体が積極的に参加し、文化に係る要望の市政への反 映・実現を図ること。

○持続すべき取り組み
A文化都市宣言を担保する基本計画・条例などの、まちづくりの枠組み実現を目指し活動を広 げ強めること。
B「文化のまち」具体化に向け、まちづくり全体構想との整合を図りつつ、新旧各分野での文 化産業化による、まちの活性化を図ること。
 *文化的インフラ(次項)、有形無形の文化財(次項)の活用、文化情報の充実と発信など により、観光分野での新しい起業・物産化など、文化産業化を図ること。
 *産業文化財※の掘り起こしにより、伝統技術・生産の再生で地場産業の活性化と文化産業 化を図ること。※前項産業文化財の事例を参照。
Cインフラの整備・充実に向け、行政とも協同してシビルミニマムを実現すること。
 *ミュージアムを、公設を核とし文化・産業各分野での開設を促進するとともに、内容充実 に協力すること。外川資料館・銚子縮伝統工芸館・思咢庵美術館などの私設ミュージアム方 式を、伝統産業・商店(街)・写真館・社寺・コレクターなど各分野有志にも広め「街角ミュ ージアムネットワーク」運動化すること。
 *映画館※・書店・古書店等の復活・振興の支援とその態勢づくりに努めること。市と共同 しての古書マーケットの常設。※旭市 に最近新しいタイプの映画館がオープンした。
D文化財の調査と保護の自主的活動を、行政とも連携しつつ進めること(その分野・対象につ いては、前項Dで列挙したので省く)。
 *そのための有志プロジェクトをつくり、またそれに参加すること。
 *伝統芸能等の保存と再生に向け、行政とも連携して支援活動を進め、また公演の場を設定 すること。例えば大漁節全国コンクール・郷土芸能コンクールの開催、各種イベントへの招 請、後継者の計画的養成などに努めること。またその記録・資料づくりを進めること。
E地域文化史資料の整備に努めること。
 *銚子文庫(仮称)の設立に向け、当面銚子出身&在住者の、直近30年の著書を収集し、 郷土資料館で公開する。また学校図書館での活用、市内書店での展示販売を要請するなど、
 その普及を図ること。
 *銚子出身の著名人※1、地域文化の振興に貢献した先人※2のリストをつくり、略伝をま とめ顕彰する。※1〜明治以後、市史記載者以外とする。※2〜鈴木文史朗・和歌森太郎・ 尾張穂草・宮崎丈二・濱口陽三・渡辺学・明石哲三・常世田忠蔵・杉山俊光・滝田正俊・ト ネタカオミ・越川芳麿・松本昌夫・土手貴葉子・常世田令子   以上

《総論1》◎豊かな文化のまちを目指して−銚子の文化略史

○戦争一色から文化国家へ。敗戦後から現在にいたる、銚子の文化に関わる歩みを振り返ってみます。温故知新(古きを尋ねて新しきを知る)、新しくは「過去に目を閉ざすものは現在(将来も※)に盲目となる(ワイツゼッカー)」という視点に立って。なお、市の文化行政・方針と施策との関連については、それを検証した別項(総論2)をご参照ください。
 まず公的記録である市史を見ると、続編   が戦後史に当てられています。文化問題も記述されていますが、文化行政の記録と検証はなされていません。
  と は、1945年から78年までを対象に18章からなり、第5章文化148頁がそれに当てられています(全頁の6%)。6節構成で、文化運動・文化財保護・中島城・植物・記念碑・市民生活が記述されており、運動の項では当時の市政要覧の記録が転載され、戦後初期の文化運動の内容が注意を引きます。施設面では4章教育−社会教育の節で、公正市民館・同図書館・文化会館が列挙されていますが「その後市による新しい施設の設置はなかった」(p434)とあり、それが現在に至っていることが分かります(83年・市図書館増改築)。
  は75年から02年まで。前編と同じ構成で、5章文化34頁(同3%)にわたり、市民文化活動・文化財保護の2節ですが、施設など条件整備には触れていません。なお、市史の文化に係る記述の比率は、市政のなかの「文化」の比重と無関係ではなさそうです。これら市史記述の詳細は、原典に譲ることにします。
 市史以外に、銚子の戦後文化史に係り、それを論じた文献は見当たりません。唯一「もう一つの銚子市史−戦後の民衆運動五十年史※」が、市民の文化運動を中心に系統的に論じ、記録しています。以下、それによって「歩み」のあらましを辿ることにします。なおこの文献(この項も)では、行政の指導・援助と関わる文化団体・活動の分野は、広範囲にわたることもあり、対象外としています。(この分野については、文化実態の項参照。また伝統芸能活分野も重要ですが、記録・資料が無いため今回は触れませんでした。以下、敬称は略してあります)

○最初に文化の灯を掲げたのは、敗戦直後の1945年秋、越川芳麿らによる「咢堂会※」の再開でした。人びとの新しい目標は「文化による国の再建」でした。越川ら有識者は46年「銚子文化会」を発足させ、48年には文化祭を開催、49年の銚子文化史刊行提言へと活動します。※尾崎行雄の号。憲政の神様と呼ばれた戦前政治家で、信奉者が多かった。
 そのころ、地域では労働組合の結成がつづき、リーダーたちは活動の一つとして文化運動にも熱心でした。映画・演劇・文学・ダンス・レコード鑑賞などのサークルが生まれ、働く人たちが主導する文化運動の流れが、48年「銚子文化協会」結成に至ります。

○文化と科学・平和のコラボレーションが、49年滝田・渡辺学ら有識者グループによる考古学同好会、自然科学同好会の発足で始まりました。彼らは遺跡の発掘と保存、地質や化石の研究、食虫植物群落の発見などで成果を上げ、54年の自然科学列車運行などへと発展します。54年には常世田忠蔵らの郷土文化遺跡顕彰会が設立され、独歩碑を初めとする文学碑建立事業が進められました。これら有識者たちの活動は、56年銚子市史、65年の「銚子の自然」刊行、渡辺学らによる「銚子の自然を守る会」発会(後出)へと続きます。
 52年、山口雄基ら学生たちによる「原爆の図」展を皮切りに、平和グループが核となり、53年には原水爆禁止署名運動をベースに、全市挙げての「銚子平和祭」が開かれました。これは市民文化祭でもあり、51年結成の日曜会などによる演劇、「原爆許すまじ」の合唱、大漁節他の民謡踊り、映画と講演の夕など、平和をテーマとした多彩な催しでした。54年には、これらを契機に、歌声運動「こだまコーラス」が、現在に至る合唱運動の流れをつくります。

○多彩な文化交流もこの時代の特徴でした。各文化団体などが主催する講演会・演劇公演が相次ぎ、48年の八木秀次、52年大山郁夫、53年蝋山政道・阿部行蔵、54年羽仁五郎・矢内原忠雄、56年神近市子らの錚々たる人たちが来銚しています。芸術家としては、51年のチャーチル会一行や日本画家の野間仁根・堅山南風、57年土岐善磨、61年鈴木信太郎らが訪れ、また同年濱口陽三が帰銚しています。
 劇団公演は49年前進座「イワンの馬鹿」が最初で、同座の歌舞伎公演は54、55年と続きました。52年の新協劇団「死んだ海」初演は、外川漁民活動の戯曲化を銚子出身の俳優・岡田英次が作家村山知義に提案した結果の舞台で、その3部作は、銚子の誇るべき文化財といえます。

○文化を市政へ求めることは、当時も文化運動にとって切実で当然の流れでした。51年に成立した嶋田市政は、その反映として文化費を増額し、出版や文化・平和活動への支援、69年の精神衛生都市宣言などでも前向きでした。有志の多額寄付など、市民要望の強い博物館は予算・用地も手当したのに、建設一歩手前でなぜか挫折しました。高度経済成長期を迎え、市政はもう一つの支持勢力である商工界に軸足を移し、61年には犬吠埼へのKホテル進出などの開発優先に転換します。58年渡辺学・越川芳麿らはこれを「文化じゃ食えねえ市政」と批判、市政と文化との短い蜜月時代は終わりました。

○文化じゃ食えねえ・開発優先の時代が、それ以後続きます。60年「所得倍増計画」以後、文化から経済へと流れが変わり、テレビ文化全盛がそれと重なって、生活と文化も様変わりしていきました。銚子もその流れに巻き込まれ、64年の市広報は「高度成長に取り残されるな」とまで書きました。しかし世論の強い文化的要望は無視できず、69年市文化財保護条例策定、73年市基本構想の目標「教育文化都市」、青少年文化会館開設などに、その反映がみられます。一方で路線転換は深く静かに進められ、名洗開発と有料道路による景観破壊、瑞鶴荘の転売などが相次ぎ、「教育文化都市」とはウラハラな、高校進学率目標値が77%などが、強い批判を受けました(当時の県平均値は89%。市は市立西高増設を余儀なくされる)。この後も「文化」のタテマエと実態の乖離(かいり)は解消されないままです(総論2)。
 例外は市民要望に耳を傾けた大内市政時代で、懸案の市図書館改築・83年、公正市民館の保全、しおさい自然公園計画による景観保全などに実績を残しました。

○持続する文化運動をさらに辿ります。新しい動きとして、68年銚子よい映画演劇をみる会の鑑賞・講演会活動、青年労働者有志による69年銚子学習協会設立、72年の「公害から銚子を守る市民の会」青年部による「ディスカバー青春」文化イベントと、市民の会と日本科学者会議共催の「自然・文化財保護シンポ・関東」、79年発足した「郷土博物館を作る会」の請願運動などが発展しました。
 文学・出版活動については、48年の松岸詩話会発会と詩人高橋新吉ら来銚の記録があり、のちの黄瀛詩碑建立(2000年)へと引き継がれます。63年堀龍之助の教育記録「てんでんしのぎ脱出」は広く反響を呼びました。その流れを受けた戸石「女子高校生の四季」は72年、銚子文学が発刊されたのは76年で、この会は現在も会誌発行・創作や独歩顕彰などに活動しています。79年崙書房「ふるさと文庫シリーズ」発刊のなかでは、金井「河童考」・佐久間「高神村一揆」・片山「イワシの歌」その他・戸石「故郷を守り抜いた人々」その他・後の鈴木「大船頭の銚子イワシ話」など、貴重な地域文化の記録が本になりました。これらの出版記念会は、その以後も恒例となり、文化関係有志の貴重な交流の場となっています。
 常世田令子は以前から独自の語り口で、郷土の伝承を一連の著作により世に問い、桑原千代子の「わがマンロー伝」も注目されました。93年には郷土史談会(73年発会)が「銚子の歴史と伝説」を出版しています。97年の阿部明他「中島城趾と平胤方以後」は貴重な記録です。「千葉のわらべ歌(84年)」編集に加わった永沢謹吾は、郷土史家として多くの出版物・資料・テレビ番組作成などに関わり、また語り部として現在も活躍中です。県文化行政にも携わった大木衛は、講演・論考など郷土史家としても貢献し「銚子半島の歳事風俗誌」(00年)などを出版しました。岡見晨明「銚子と文学」(01年)も貴重な記録です。
○関寛斎記念行事は、生誕150年を期して80年催された、全市的イベントでした。評伝「関寛斎−最後の蘭医」出版を機に、市長や所縁ある有識人らが発起人となり、渡辺画伯の記念講演「地域と文化」、創作戯曲「春一番の人」日曜会公演、清水義雄作曲「関寛斎の詠める歌より」の西明美(二期会)による独唱などが文化会館大ホールで展開され、全国からも参加者が集まりました。さらに寛斎が開祖である北海道陸別町からは教育長一行が出席、感銘して翌年日曜会と清水夫妻らが陸別に招かれ、公演が再現され、文化交流は現在に引き継がれています。これらには、銚子の自主的・創造的な文化活動の頂点、という評価も聞かれました。戸石の上記著書は84年「吉野せい文学賞」を受けています。

○大内市政と文化活動について見ると、83年「非核平和都市宣言」要請の運動が起こり、小田実・西田勝の講演会や学習会、空襲原爆展、ハダシのゲン映画会・コンサートなどのイベントが開かれ、翌年宣言が実現しました。有識者による房総文化人懇談会は85年に結成され、それを母体とした「大学をつくろう会」は某私大進出の具体化に漕ぎつけましたが、市長交代で実現に至らず、会はその後、自主的な市民大学設立を目指しますが、行政の協力を得られず、これも日の目を見ずに終っています。市政交代後も89年教師・父母有志による「東総」教育と文化の会」が、講演・学習会など広域的に活動しました。またユニークなテンプルコンサートやアジア各地との文化交流行事、劇団公演、自主映画会なども相次ぎました。90年以後続けられている、日曜会女性有志によるヒロシマ鎮魂劇「この子たちの夏」公演、98年発会した鑑賞団体「銚子ハーモニー」の活動も注目されます。しかし82年の慰霊祭が称えた「文化運動の功績者」たちが相次いで世を去ったのを境に、それらを継承する人材が乏しいまま、その後市政への文化面での影響力が低下したことは否めません。

○文化に回す金はない、という風潮は90年バブル崩壊後あらわになりました。不況対策として国は地方にハコモノづくりなどを押しつけ、本市でも博物館や研究施設誘致が計画されましたが、それさえも実現されませんでした(総論2)。それ以後、財政難のツケが文化予算にしわ寄せされる時代が続きます。マンガ・映像全盛で、文化の流れも大きく変容しました。
 バブルの余波で、90年代には犬吠埼や地球展望台周辺に、高層リゾートマンション計画が相次ぎ、景観と地域の生活が破壊されるとし、全市的な反対と景観条例制定運動が起きています。93年には不十分な内容ながら、県下初の市景観条例が成立、「文化財としての景観」という考え方が浸透しました。95年「房総文化懇談会」と改めた有識者の集まりが、懇談会や提言活動をつづけ、銚子かっぱ村主催の「河童水の祭典」は全国からも参加者があり、それを受けた諸行事や調査・提言は「水の文化」への目を開かせるものでした。
 02年、銚子再生のラストチャンスと、大学誘致を掲げ発足した野平市政は、市費92億円を投じて開学を強行。これを多数市議・地元有志らが強く批判し裁判を提起すなどの末、約22億円を大学側が市に返還することになりました。04年、市長はこのうち約8億円でミュージアムをつくることを、大学・学園側と約束したと公式に表明。「文化に回す金がない」中の「ヒョウタンから駒」ですが、郷土博物館をつくる会は有識者40名連名で、市・議会・学園に約束実行の要望書を提出し、運動を続けています。大学がこの件を含め、誠実に地域への文化的貢献を果たすかどうかが問われます。それは「…文化都市」を宣言した現市政の連帯責任でもあります。
 
□まとめ:文化のまちづくりは、一貫した市民の願い
 文化のまちづくりに関わる提言を記録で辿ると、51年金芳啓祐の「黒潮のまち・街並景観づくり」提案、有識者らによる「美しい銚子をつくる…座談会」、蝋山講演での「研究施設、ミュージアム建設が本市の発展につながる」との示唆、その後の路線変更に対する58年渡辺「文化じゃ食えねえ」市政批判、61年越川の「美しい郷土をバイエンの街にするな」論説などに先見の明を見ます。それらの意見は67年「銚子の自然を守る会」が県・市に出した陳情書で「銚子は人心、景観ともに文化的豊かさをもって発展しなければならない」と明確化されました。これは後に、都市問題の専門家・宮本憲一が来銚講演で述べた「まちづくりの最終目標は文化であり、まちの良さは結局そのまちの文化に係っている」(73年)との理念に通ずるものでした。その道は、80年銚子市委託の市勢振興調査報告書が基調とした、内発的開発路線でもあります。しかしこの時期前後の市政は、大勢として大型開発に頼る外発路線をとり続けました。渡辺が痛烈に皮肉った「文化じゃ食えねえ」がホンネの、安易な姿勢だったといえます。
 70年代から、市民運動はまちづくりの対案を、機会あるごとに公表してきました。74年市長選挙では、市民派候補は「明るい銚子市政」プランで、市民の「健康で文化的な生活を保障する目安」として、文化施設などのシビルミニマムを提起しています。この理念と構想は、その後の市長選ごとに公表した「市民によるまちづくり提案」にも、一貫して継承されてきました※1。これら運動50年の総括として、「もう一つの銚子市史」は、それを「地道な地域文化創造活動も、経済至上の裏側としての『新しい貧困※2』を克服する努力…健康で文化的な生活、生命・幸福追求などの憲法理念実現の運動だった」と述べています。
 このように、私たちのまとめた「文化のまちづくり」提言は、市宣言に対する場当たり的な批判ではなく、戦後半世紀以上にわたって、先人たちと現在の私たち市民が、人間らしく生きる「文化権」として追求し市政に求めてきた、切実で真摯な声の集大成であることがわかるはずです。私たちはそのことを改めて確認し、確信するものです。
※1〜もう一つの銚子市史資料集成・市郷土資料室。なおこの本の巻末年表は、記号による各分野の検索も可能で、△印を辿れば文化史年表となる。※2〜高度成長期以後の経済学的概念。文化的貧困も含まれる。

《総論2》◎銚子市の文化に係る基本理念と計画を検証する

□銚子市基本構想・基本計画の文化に係る方針と施策
 市町村は上の事務処理に当たって、総合的で計画的な行政運営のため、基本構想・基本計画を定めるよう地方自治法が規定しています(2条 )。銚子市の現行基本構想・基本計画から、文化に係る部分を見ることにします。これは本来、法令に準ずる位置づけと拘束力があるはずです。
○基本構想は25年を期間とし、現行「銚子ルネッサンス2005」第1編は01年〜25年間のまちづくりの基本構想・理念とされています。その現況と課題・将来像・理念・施策大綱・リーデイングプラン各章を通じ「文化」を冠した項目は、理念−2に「歴史と文化を大切にするまちに」、施策大綱−2「…人づくり」に、「伝統文化の保存・継承、文化創造の環境づくり、文化活動育成」などと記され、それを受けて「伝統工芸・芸能の継承(概況)」「歴史と文化を大切に(理念&リーディングプラン)」などの記述が散見される程度の位置づけとなっています。施設など「文化権」保障のための条件整備の方針は見当たりません。
○基本計画は、構想の具体化として5年単位で策定されますが、現行(第1次計画)は市長選などもあって期限が過ぎたまま、本年度末に第2次計画が策定されるとのことです。これは未公表ですが現行の「微調整(企画課説明)」とされていますので、現行のものを検証します。
 ここでは第3部各論5で「伝統文化の保存・継承と市民文化の創造を促すために」の項が設けられ「生活に潤いや心の豊かさを求める時代(現況と課題)」として2つの施策が掲げられています。その1「市民の芸術・文化活動を盛んにする」での「取り組み」3点では、活動の促進・拠点整備・イベント開催が挙げられ、その2「伝統文化や文化財を保存し継承する」での基本方針・取り組み・主な事業でもそれが繰り返され、特に具体的な方針・施策は示されていません。なお各論3「生涯学習社会を実現するために」では、市内の各社会教育関係施設等の「現況と課題」と、3施策が述べられていますが、美術&博物館・中ホールなどの施設新設計画などへの言及はありません。
 また各論4「スポーツ・レクリエーション活動をより活発にしていくために」も、スポーツ文化という観点からは、文化行政に関わる領域といえます。ここでは普及と育成に重きがおかれ、施策3「スポーツ施設の環境を整える」でも、既存施設の整備充実対策にとどまっています。
○基本構想&基本計画の策定が、地方自治法改正で1978年から開始されました。その経過に沿って「文化」施策がどう位置づけられ、上記の現行施策に至ったかを見ることにします(一覧表参照)。
 本市の最初の基本構想(第1回とします。以下同じ)は、嶋田市政により78年策定された本文4ページの文書で、その理念・目標である「将来像」として「住みよい豊かな文化産業都市」とすることを明記しています。それを受けた基本施策の一つ「教育文化都市」では「すぐれた教育文化施設を有し」とありますが、以下の施策にその具体的プランは示されていません。 第2回構想は85年大内市政のもとで策定された本文9ページのもので、将来像に「いこい楽しむことのできる都市−スポーツや文化を楽しめる都市」を掲げています。施策大綱3「楽しめる場づくり」では市民&地域文化振興策として「現施設の整備充実・芸術文化の鑑賞・文化財&郷土芸能の保存伝承」、重点事業として「文化施設の整備」などが挙げられ、83年には現公正図書館が開設されました。
 第3回は初めに記した「ルネッサンス2025」計画の総論として、大川市政が01年に策定した構想で、理念の一つに「歴史と文化を大切にするまち」を挙げています。
 これら構想は、理念・目標のなかに「文化」的な都市の将来像を描いています。反面、行政の責務である文化的施設づくりなどの、プランの裏づけに欠けていることも共通していますが、それは構想の性格・限界かも知れません。問題はその補強・具体化を受け持つべき基本計画5年間の内容ですが、そこを次に検証してみましょう(下図参照)。

《図4》基本構想・計画の、「文化」を冠した各項目(○印)分布図。○欠印の内容は下記本文ご覧を。
 ※構想=回、計画=次、数字は各年。施設新設は全て実現せず。
 構想・計画   総論−目標 同大綱 各論−章 同節 同項 施設新設   市政
 第一回73〜84   ○     ○     ○    ○   欠    欠    嶋田〜大内
  一次73〜77    ○     ○     ○    ○   ○   欠     嶋田
  二次78〜82    ○     ○     欠    ○   ○    ○    大内
 (2年空白)
 第二回85〜00   ○     欠      ○   ○    ○   欠    大内〜佐藤〜大川
  三次86〜90   欠      ○     欠    欠   ○    欠    佐藤
  四次91〜94   ○      ○     欠    ○   ○    ○    佐藤
  五次95〜00   欠      欠     ○    欠   ○    ○    大川
 第三回01〜25   ○     欠     ○    ○    欠         大川
  六次01〜08   欠      欠     ○    ○   欠         大川〜野平
  七次09〜10   欠      欠     ○    ○   欠         岡野

○次に基本計画の歩みですが、構想具体化のための、ほぼ5年間を区切る施策の体系となっています。その構成は一定ではありませんが、総論的部分でその目標と基本施策が、標語的に示され、各論はそれを受けた各章〜各節〜各項…の順で、施策が展開されているのが一般的です。ですから、「文化」に係る施策がどの段階で提示されているかが、その時々の市政と施策体系での、位置づけの指標と見做してよいでしょう。ここでは基本構想&基本計画の施策系が定着した、1973(昭和48。以下略)年から、文化に係る施策の位置づけを追って、構想とも関連づけた図(上図)にしてみました。なお、各計画の名称も統一されていないので、ここでは時系列の数字で示し、構想を含め「基本」を略してあります。
 1.第1次計画。73年第1回構想に沿い策定。目標に「…教育文化都市」、大綱に「教育文化水準の向上」、各論でも章に「教育文化の向上」、節に「市民文化の振興」を謳っていますが、施策に新規施設計画などの裏づけはありません。
 2.第2次計画78年策定。目標・大綱とも前計画をほぼ踏襲、各論では節に「…市民文化
の振興」が記され、施策に「総合会館建設・市民交響楽団育成」などが挙げられています。但し前者は実現せず、後者は発足後しばらくして休止されています。
 3.第3次計画は3年間の空白を置き、86年に第2回構を受けて策定。目標に「文化」が消え、大綱で「スポーツや文化が楽しめる都市」との表現に変わっています。各論の章・節にも「文化」が姿を消し、項に「市民・地域文化の振興」などと記され、施設等の新設は見られません。空白についての市の説明では、次期構想策定の猶予期間ではなかったか、とのことです。なおこの間、83年には現市公正図書館が開設されています。
 4.第4次計画90年策定。目標に「…地域文化の醸成」という新表現が見られますが、大綱は「…文化を楽しめる都市」のまま。各論では節で「市民・地域文化の振興」、項では「県立海洋博物館・学術研究機関の誘致」施策が注目されます。しかし博物館は安房に、水産工学研究所は波崎に立地という結果になりました。
 5.第5次計画は95年に策定。ここでは総論から「文化」表現が消え、各論の章に「教育文化の振興」がきますが、節に「文化」はなく、項で「地域文化の振興−市民ミュージアム建設の検討」が注目されますが、具体化を見ずに終わりました。
 6.第6次計画は01年、第3回構想(ルネッサンス2025)の各論として策定。(上記参照)。市長交替がらみで、期間が2年延長される結果となっています。
 7.第7次計画は08年策定、10年までの3年計画となり、内容も前計画の「微調整(市説明)」ということで、新味はありません。
○最後に、これら構想・計画は国・自治体とも、議会の議決を必要とせず、またマニフェストのような数値目標・達成期限・予算・事後評価等を要件としない、いわば机上プランになりがちです。本市でも1983〜85年3年間は、基本計画が空白のままであり、01年からの5年計画は、7年までそのまま延長されました。ここにも行政実態のなかでの、構想・計画の「軽さ」が伺われ、また図で見るように文化の理念・施策に定見がないことと併せて、「文化」の位置づけの「軽さ」という評価にならざるを得ません。

《総論3》◎文化都市づくり理念と施策の「法的側面とあり方」

□憲法と国際法
○憲法第25条は国民に「健康で文化的な最低限度の生活」つまり「文化権」を保障しています。また13条「幸福追求権」、19条「思想及び良心の自由」、21条「表現の自由」、23条「学問の自由」なども、文化権に関わる規定とするのが定説とされています。これら総体が人間文化としてのまとまりである、というのです。
○国際的には、人権に係る歴史的な総括としての世界人権宣言1948年が、第27条で「自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し…科学の進歩とその恩恵にあずかる権利」つまり文化権を保障しています。さらに66年の国際人権規約の社会権規約第15条が「文化への権利」として「文化的生活に参加する権利」など3項を定め、批准国にその保障を義務づけています。また89年「子どもの権利に関する条約」は、文化権が子どもにも及ぶこと(第31条)を確認しています。これら国際条約・規約・宣言は、憲法第98条3で「確立した国際法規」として、国と行政が遵守すべき責務であると規定しています。
○なお憲法は、世界人権宣言に先立って制定された事情もあり、文化権とその内容についての踏み込んだ規定には至っていません。それは国民・地域住民の「不断の努力」によって豊かにされ、具体化されるべき領域といえます。

□文化を冠した基本法と関連法
○文化芸術振興基本法が01年に成立し、日本の文化政策の基本とされています。自治体に関しては第4条で「自主的かつ主体的に」地域の特性に応じた施策を展開していく責務が規定されています。基本理念としては、第2条で8項にわたり、国と自治体の基本的責務が示され「環境の整備(3)」「多様な文化芸術の保護及び発展(5)」「各地域の歴史、風土等を反映した特色ある文化(6)」「広く国民の意見が反映されるよう十分な配慮(が不可欠。8)」などの規定が注目されます。また第三章は、国と自治体がカバーすべき文化芸術領域を「芸術」「メディア芸術」「伝統芸能」「芸能(※漫才や歌など)」「生活文化(※茶華書道など)」「文化財」などと示しており、さらに施設面で25条「劇場、音楽堂」、26条「美術・博物・図書館等」の設置と充実を求めています。
○文化財保護法は1950年成立後、改正を重ねて現行に至りました。その第3条は、文化財に係る国と自治体の責務を「その保存が適切に行なわれるように、周到の注意を持ってこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない」と定め、保存すべき文化財を第2条で次のように定義しています(条文の一部省略)。1有形文化財〜有形の文化的所産(土地その他の物件を含む)、その他の価値の高い歴史資料。2無形文化財〜無形文化的所産で歴史上芸術上価値の高いもの。3民俗文化財。4記念物〜旧宅その他の遺跡…庭園その他の名勝地で…鑑賞価値の高いもの…動・植・地質鉱物で学術上価値の高いもの。5文化的景観〜地域の風土により形成された景観地。6伝統的建造物群〜歴史的風致を形成している価値の高いもの。さらに第4条は「文化財の所有者その他の関係者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存する」よう、努めなければならないとしています。
○関連した法規には、社会教育法・図書館法・博物館法などがあり、自治体文化行政の指針となっています。
□地方自治法・都市計画法の文化に係る規定 
○地方自治法は第二条 で地方自治体の基本原則を定め、責務とする事務22項を例示しています。文化に係る事項としては、5−「学校、研究所、試験場、図書館、公民館、博物館、体育館、美術館、物品陳列所、公会堂、劇場、音楽堂その他」の文化施設等の「設置・管理」などとその事務、14−「建造物、絵画、芸能、史跡、名勝その他の文化財を保護し、または管理」することを定めており、自治体が直接これらの責務を負うことは言うまでもありません。
○都市計画法は第二条の基本理念で、健康で文化的な都市生活の確保−(そのための)適正な制限 土地の合理的な利用などを明示しています。

□千葉県・銚子市の文化に係る条例等
 県・市とも、「文化・芸術」を直接掲げた条例等はありません。
 それぞれ文化財保護条例が、文化財保護法の定めに従って制定されています(以下、それぞれ条例という)○県条例は第1条で、目的として保護対象を国指定以外の県内にある「県にとって重要なものについてその保存及び活用のため必要な措置」をとるとし、文化財の定義は法に準ずる(2条)と規定しています。
○市条例も県に倣って、目的・対象を国・県指定以外で区域内にある「重要なもの」とし、保存活用に必要な措置を講ずること(1条)、定義は法の定めによること(2条)、関係者の財産権尊重とともに「文化財の保護と他の公益との調整に留意」すること(3条。県条例も同じ)などを規定しています。
 市の関連条例としては、市民センター、図書館、文化会館の設置・管理に関するものがあります。

□銚子市の現行基本構想・基本計画の文化に係る方針と施策
 市町村は上の事務処理に当たって、総合的で計画的な行政運営のため、基本構想・基本計画を定めるよう地方自治法が規定しています(2条 )。銚子市の現行基本構想・基本計画から、文化に係る部分を見ることにします。これは本来、法令に準ずる位置づけと拘束力があるはずです。
○基本構想は25年を期間とし、現行「銚子ルネッサンス2005」第1編は01年〜25年間のまちづくりの基本構想・理念とされています。その現況と課題・将来像・理念・施策大綱・リーデイングプラン各章を通じ「文化」を冠した項目は、理念−2に「歴史と文化を大切にするまちに」、施策大綱−2「…人づくり」に、「伝統文化の保存・継承、文化創造の環境づくり、文化活動育成」などと記され、それを受けて「伝統工芸・芸能の継承(概況)」「歴史と文化を大切に(理念&リーディングプラン)」などの記述が散見される程度の位置づけとなっています。施設など「文化権」保障のための条件整備の方針は見当たりません。○基本計画は、構想の具体化として5年単位で策定されますが、現行(第1次計画)は市長選などもあって期限が過ぎたまま、本年度末に第2次計画が策定されるとのことです。これは未公表ですが現行の「微調整(企画課説明)」とされていますので、現行のものを検証します。
 ここでは第3部各論5で「伝統文化の保存・継承と市民文化の創造を促すために」の項が設けられ「生活に潤いや心の豊かさを求める時代(現況と課題)」として2つの施策が掲げられています。その1「市民の芸術・文化活動を盛んにする」での「取り組み」3点では、活動の促進・拠点整備・イベント開催が挙げられ、その2「伝統文化や文化財を保存し継承する」での基本方針・取り組み・主な事業でもそれが繰り返され、特に具体的な方針・施策は示されていません。なお各論3「生涯学習社会を実現するために」では、市内の各社会教育関係施設等の「現況と課題」と、3施策が述べられていますが、美術&博物館・中ホールなどの施設新設計画などへの言及はありません。
 また各論4「スポーツ・レクリエーション活動をより活発にしていくために」も、スポーツ文化という観点からは、文化行政に関わる領域といえます。ここでは普及と育成に重きがおかれ、施策3「スポーツ施設の環境を整える」でも、既存施設の整備充実対策にとどまっています。

□コメント
○「法律規則の定めが、あるから実施する…許可する。ないから(対策などを)やらない、やれない」というのがお役所の決まり文句です。その法律によれば、国民・地域住民には基本的人権としての「文化権」があり、自治体はそれを保障する責務があること、それが理念として、また具体的なかたちとして示されていることが明らかです。国際的な規定を含めて、これらの法体系からは、私たちが銚子の「文化都市宣言」「文化のまちづくり」を考えるときの理念、「各地域の歴史、風土等を反映した文化」の輪郭が浮かび上がってきます。市が「文化都市」を宣言したことは評価できますが、市が行政としての責務を法的にも自覚し、地域の文化的な(貧しい)実態を踏まえて、何をすべきか、何を守るべきかの文化的施策を「自主的かつ主体的に」明らかにしてほしいものです。
○自治体がカバーすべき文化行政の領域は、単なる文化財保護にとどまらず極めて広いこと、また保全すべき文化財の法的定義を見ても、埋蔵文化財にとどまらず、有形・無形の歴史的価値の高い旧宅などの遺跡、庭園から文化的景観に及ぶ対象が「周到な注意をもって」適切に保存されるべきことが求められているのです。当面の課題である美術・博物館建設、瑞鶴荘旧宮邸遺構の保全問題への対応も、これら法の本旨からすれば、自ずと明らかなはずです。
○市長の唱える「文化都市」宣言の理念と施策は、これら基本構想・計画のそれとの整合性が問われます。また上に述べた諸法規を踏まえ、市民の文化権と自治体の責務、とくに文化に係る環境・施設整備についてのグランドデザインが示されてしかるべきです。宣言については今後の課題ですが、構想・計画にはそのことへの言及がありません。「現況と課題」という項目があっても、国などが示す設置基準や他市との比較で銚子市の文化諸施設の具体的実態を自己点検し、今後の課題と計画を明らかにするのが、構想・計画の本来のあり方なはずです。それなしに市民の活動推進だけを強調するのでは、責任回避との批判を免れません。
※市公開資料&HP等により作成。

《総論4》◎文化政策・行政を考える−後藤和子編「文化政策学」※書評を兼ねて
 市が「…文化都市」を宣言した機会に、自治体の文化行政のあるべき姿を、市民の立場で基本から考える必要に迫られました。後藤和子編・文化政策学−法・経済・マネージメント※と題したこの本は、「まちづくりなどの視点も盛り込み…持続可能な総合政策を実現する理論的な内容」のテキストだとしています。4人の専門家による各論を、後藤が編集しており、文化政策(学)とは何かの枠組みでもある、次の各章〜序章.文化政策とは何か(以下、章及び表題「文化政策の」を略し…で示す)。1.…歩み 2.…理論的基礎 3.…法的枠組み 4.…マネジメント 5.…評価 6.地方自治体による文化政策 7.まちづくりと文化政策 8.文化産業の発展 展望…研究の国際的動向という構成です。以下、体系的ではないが参考となる論点などをメモしておきます。(数字は上の各章を示す)
 序章は総論であり、文化政策は「文化を対象領域とした公共政策」で、有形の芸術文化から個人の生活の質、まちづくりや地域の産業創出などに関わる領域が対象であるとし、文化とはアートart−人間の技術全般(人の創造的な営為)を意味し、ネイチャー(自然)の対概念である、と定義されます。最近の流れとして、国際的には、国民の文化権のため国には質の高い文化的環境の積極的な保障の責務があり(スエーデン)、また「都市や産業の発展にとって、文化は重要な社会基盤」とされているとのこと。日本では文化権の明示がなく、文化活動の奨励的なスタンスが目立つようです。文化予算でも日本は欧米よりも一桁低い、とされ、文化(政策)のレベルを示すものといえるでしょう。文化政策のあり方として、編者は ○地域にねざした総合性○文化資源を地域発展に活かす視点○市民への質の高い人生設計の支え、の3点を挙げています。
1.文化政策が歴史的に確立するのは、意外にも第2次大戦後だという。ナチスや日本の国家的文化統制への反省もそれを促しました。欧米ではそれまでパトロン−王侯貴族、教会、資産家などが文化を社会的に支えてきました。日本でも、皇室と公家、将軍や大名、寺社、富裕町人層がその役割を担った歴史があります。やがて市民社会と市場の発展が、文化的需要と人々の文化的権利の目覚めを促し、公共的な政策が必要とされる時代となりました。この間欧米では民間財団や公共的支援のシステムが発達しましたが、明治以後の日本では発達不全のまま戦後に至ったようです。
 文化国家建設の目標が、所得倍増という経済至上主義へと切り替えられ、その記憶は未だに新しいものがあります。高度経済成長期には伝統的・地域的文化と文化財の消滅が進み、画一的で無国籍な大衆文化がこの国を覆いました。その実態分析がもう少し欲しいところです。欧米では80年代以後、文化は波及効果を生む創造的産業群でもあり、「持続的な都市づくり」のなかで、人々に豊かさを保障する社会政策として、明確に位置づけられるようになりました。この点での日本の立遅れは否めません。
2.理論的基礎となった歴代経済学者や思想家の系譜が辿られています。柳宗悦ら民芸運動も影響を受けたW.モリスの「生活の芸術化」論などは、今も新鮮です。彼は実用と芸術性を兼ね備えた手作り製品の産業化を実践し、地域の活性化を図りました。それは日本の各地域で、固有の資源と技術を文化資本と捉え、まちづくりに活かす試みにも通底しているでしょう。
3.法的枠組みに関し、現況については別稿で述べました。先進国は、芸術の本質からも、文化権を思想・良心・表現の自由を含む権利として、憲法・文化法で保障しています。日本国憲法の「健康で文化的な生活」の権利は、文化性が「経済的側面」に限定されてきたが、経済発展のマイナス面である自然・文化・都市環境破壊や過密労働などによる、「現代的文化的貧困」が深刻化し、人間らしさの全面的な復権が強く求められるようになりました。裁判などを通じて、文化権を広く文化財享有権・文化的環境権・スポーツ権・(文化的生存権としての)教育権・生涯学習権・余暇権などに関わる権利とする流れも生まれました。文化財保護法の定義も、動植鉱物から景観など広範囲な対象に及んでいます。
 まちづくり関連の法と条例も、地域文化の保全と創造に大きく関わります。「健康で文化的な都市生活」と活動を確保すべき(第二条)、とする都市計画法と建築基準法を踏まえつつ、「美の原則」を定めた真鶴町条例、湯布院の「潤いある」まちづくり条例、町の責務として文化活動促進や景観形成を課した安土町文化振興条例などが紹介されています。
4.…マネージメントとは、文化政策の管理−実施に関わる過程です。ここでは、主体である行政、専門家と団体、市民とNPO、企業の役割と連携について述べられており、とくに行政担当者に学んでほしいノウハウといえます。
5.…評価に関しては、政策一般を含め日本の行政にとっては遅れた領域といえるでしょう。歴史的な評価として、68年文化庁発足で一応一元化され、文化財保護と文化振興が施策の柱とされてきました。70年代に入り革新自治体による「文化の時代」の掛け声のもと、「文化によるまちづくり」を、首長直轄の文化課が推進する例も現れましたが、バブルとともにハコモノづくりに流れる傾向も見られました(ふるさと事業・自治省80年)。文化庁は98年「文化振興マスタープラン−文化立国に向けて」と「アーツプラン21」を策定し、政策の統合を図りました。しかし文化に係る国の予算は、欧米各国の一桁下のレベルが続いています。また大都市と地方の「文化格差」も未解決の問題とされます。
6.地方自治体による文化政策のポイントは、「木を見て森を見ない」関係者らに、法律の及ばない文化領域と市民ニーズに応える「行政の文化化」であると指摘します。それに必要なのは、文化行政を「総合的に」検証する組織(文化アセスメントも実施)と、市民参加です。その具体化として、法律の及ばない「文化領域」を視野に入れた、「文化振興条例&マスタープラン」の制定で、東京都を先駆とし、秋田市・津市・横須賀市・太宰府市・熊本県・北海道などの例があります。日本の法や条例での「文化権」規定は不明確ですが、北海道条例にはそれが明示されており、太宰府条例では「行政の文化化」規定があります。
7.まちづくりと文化政策は不可分であり、国際的には91年ユネスコ「我々の創造的多様性」レポートでは「文化権」を生活の質から再定義し、社会と都市の「持続可能な発展」のなかで実現しようとしています。その例として先ず、邦人芸術家などによるノルマンデイでの「林檎の礼拝堂」づくりが、さらに内外の先進例が紹介されています。「文化は腹の足しにならない」どころか、地域にねざした文化産業が、まちづくりの核となる時代だといえます。化学・自動車産業に替わり、美術・音楽・デザインなどの文化産業で活性化したケルン、カールスルーエなど、産業遺産を活かした新居浜や小坂、3M運動(ミュージアム・マイスター・モデルショップ)墨田区などに、学ぶ点は多いはずです。文化は地域振興にとっての資本であり資源でもあるといえます。これからのまちづくりでは、自然・環境と福祉、文化を柱とし、住民の生活の質を豊かにすることが目指されるべきでしょう。
8.文化産業の発展、文化の産業化によって、重厚長大型産業や開発事業に替わる、新しい価値を創出し、地域の持続可能な発展を図る−その新しい価値には、地域伝統文化(財)の再評価と活用、生活の芸術化による芸術作品や手作り製品など有形無形の文化産業財、それによる新たな物流や観光、さらには情報化の進展に伴うマルチメディア産業なども含まれます。そうした時代と社会の動向を、文化行政と市民は的確に掴み、具体化することが求められるでしょう。展望と題したあとがきで、編者が指摘するところでもあります。
○感想として、文化を柱にした国づくり・まちづくりでは、欧米先進国が歴史的にも実績を積み上げ、日本は遅れをとっていること、銚子はさらに遅れていることを再認識させられます。理念としては、先進諸国は国民・市民の「文化権」を、憲法・文化に係る諸法令などで明記し、文化政策・行政がそれを踏まえて展開されていますが、日本ではそれが未だにアイマイにされ、「文化的な生活」の保障が後回しにされているのが実感です。銚子では言わずもがなでしょう。これまでの市の基本計画などを調べても、残念ながら文化行政の影は薄く、文化に係るシビルミニマム(最低限の文化的施設とその計画)も見当たりません。それらについての、市長の理念と構想をぜひ聴きたいものです。※有斐閣コンパクト・¥2000

《資料1》◎文化のまちづくりアンケート・回答の整理

 市文化財審議委員&有識者、集いメンバー各位宛に、提言に活かす趣旨で、要旨下記項目のようなアンケートをお願いし、項目に沿ってご回答を整理しました。その結果は「提案」にも十二分に活用させていただきます。なお前文(趣旨説明)は省いてあります。

「文化のまちづくり」に係るアンケート・ご協力のお願い 08.1.20
   銚子の文化とまちづくりを考える−ミュージアム推進の集い:代表.関源五郎
1.地方自治法第二条 −5等にある下記の文化施設のうち、本市にあるもの、今後必要なも のについて、ご意見・ご要望など。(回答・意見はカッコ内)
a研究所(千葉大学臨海研究施設の正式名称・現況などの確認。
b試験場(漁業・水産加工・資源保全研究等の施設が必要。
c図書館(増設・移転・転用・分館・有休ビル活用などで拡充すべき。公文書・近隣市町村史・ 視聴覚記録資料等の収集・整備と展示。千葉科学大学図書館との連携強化。
d公民館※1(
e博物館(ミュージアムは不可欠。社教センター・文化会館内での独立室設置も一案。刊行案 内所とのリンク等の工夫。
f美術館(同上。
g物品陳列所※2(活性化のため不可欠。道の駅を実現、併設も。
h劇場&音楽堂※3(ステージをもつ中小規模ホールが必要。既存施設の改装でも。
iその他※4(学芸員・司書など専門職を置くべき。これら施設は最低限必要であり、設置す べき。)※注記は省略しました。
2.文化財保護法第二条の定める下記対象その他で、指定済み※を除く本市域の文化財に関し、 ※市教委発行・銚子の文化遺産の「指定文化財一覧」表  保護すべきものと評価される本  市文化財の、調査・リスト化の必要性
  A必要 B不要 □その他&ご意見(必要あり。
  現時点で保護すべき対象と判断される具体的事例(下記欄にご記入を)。
  指定文化財の保全状況とその評価についてのご意見(同上)。
 ※以下、 を一括したご意見・ご回答の整理。調査・保全対象とすべき文化財リスト。 *有形文化財:常灯寺本堂の本格的修復・主要社寺・長屋門・代表的民家(茅葺家屋・漁家  とくに納屋など)・灯台施設と霧笛・道祖神&水神&主な湧水・市関係代表的画家&作家  の作品確認(代表作目録づくり)・古文書(滑川家文書・名主宮川家の家録と家財・各   地検地帳・玄蕃日記原本の確認)・考古学コレクション(所在&所蔵品確認)・銚子に   係る文学作品と銚子出身者の著書&地域文化に関する出版物など(後出。リスト作成と収  集)。
 *無形文化財:死んだ海3部作戯曲。市内各校新旧校歌(楽譜&録音資料など)。
 *民俗文化財:民謡&囃&踊り&祭礼&民間行事など各分野視聴覚記録資料(新規作業も含  む)・大漁旗・万祝・冠婚葬祭&農漁作業等に係る衣類。  *記念物:瑞鶴荘遺構・中島城趾(史跡公園化)・幕末砲台跡・各海浜(海鹿島・君ケ浜・  酉明浜・長崎〜外川・屏風が浦・通蓮洞)・利根川船入場(10ケ所)&渡船・妙福寺藤  棚・化石&琥珀産地(標本と記録)・ヒヌマイトトンボ&ゲンジボタル&トウキョウサン  ショウウオ&食虫植物群(生態系&環境保全)など。   
 *文化的景観:地球展望台・犬吠埼・犬若ほんけのでい(本家の台。屏風が浦を含む)・利  根川対岸からの市街地景観など。
 *伝統的建造物群:外川&長崎の漁家集落街並み・西部農家集落(三崎・猿田・岡野台・中  島・宮原など)
 *産業文化財:漁船&漁具&船内雑具(模型も含む)・網小屋&干鰯場・在来水産加工施設  (粕焚竈&搾油機など)・舟曳場(ウィンチ・しらなど)・造船所(とくに和船)・醤油  醸造(従来式工場&用具等・製樽工程など関連産業も含む)・水飴製造所・農業用具&日  用雜具類・水利施設(逆川など)・富川取水場(忍川)・カキ殻採取船&製造所・黒生瓦  製造所・銚子縮&砂染&藤製品&竹籠(海上)各工房など
4.ご意見を自由にお書きください。(3.本市文化・歴史に係る出版物、著名人の項に関す  るものも含めてあります。順不同)
 *市史編さん室を常設し、必要資料の収集・管理を図ること。
 *広く文化に関心をもつ有識者・市民有志に協力をもとめ、ボランティアとしてもその人的  能力を活用すること。
 *宣言を有名無実に終わらせないよう、計画や条例の裏づけが必要。近隣との格差是正の要  望を、各文化団体の共通認識とし、また世論に高めつつ、市に提起すること。そのことを  請願・陳情・要望・座談会・情報発信などの、さまざまな形や機会でアピールすること。
 *文化活動の強化を目指し、各分野のテーマをさらに創造的に追求するとともに、「文化の  まちづくり」を目標として共有し、協同すること。例えば音楽・演劇・芸能団体による「  小ホール」実現運動、歴史研究各団体による「中島城趾公園化」運動、古文書・史跡調   査での関係団体の連携など。
 *音楽・演劇・芸能の公演活動を振興し、行政にも要請して支援態勢づくりを進めること。
 *文化サークルのレベル向上、例えば自然・社会科学・文学系や研究型団体の設立につとめ、  それを促進すること。また市内各学校の文科系クラブ活動を支援し、それと連携すること。 *文化市民会議※を実現させ、各団体が積極的に参加し、文化に係る要望の市政への反映・  実現を図ること。※仮称。公募を原則とし、文化財審議委員会とも連携する。
 *インフラの整備・充実に向け、行政とも協同してシビルミニマムを実現すること。
 *ミュージアムを、公設を核とし文化・産業各分野での開設を促進すること。外川資料館・  銚子縮伝統工芸館・思咢庵美術館などの私設ミュージアム方式を、伝統産業・商店(街)・  写真館・社寺・コレクターなど各分野有志にも広め「街角ミュージアムネットワーク」運  動化すること。
 *映画館※・書店・古書店等の復活・振興の支援と、その態勢づくりに努めること。※旭市  に最近新しいタイプの映画館(旭サンモールシネマ)がオープンした。
 *文化財の調査と保護の自主的活動を、行政とも連携しつつ進めること。そのための有志プ  ロジェクトをつくり、またそれに参加すること。
 *伝統芸能等の保存と再生に向け、行政とも連携して支援活動を進め、また公演の場を設定  すること。例えば大漁節全国コンクール・郷土芸能コンクールの開催、各種イベントへの  招請、後継者の計画的養成などに努めること。またその記録・資料づくりを進めること。
 *地域文化史資料の整備に努めること。
  銚子文庫(仮称)の設立に向け、当面銚子出身&在住者の、直近30年の著書を収集し、  郷土資料館で公開する。また学校図書館での活用、市内書店での展示販売を要請するなど、  その普及を図ること。
 *銚子出身の著名人※1、地域文化の振興に貢献した先人※2のリストをつくり、略伝をま  とめ顕彰する。※1〜明治以後、市史所載者以外とする。※2〜鈴木文史朗・和歌森太郎・  尾張穂草・濱口陽三・渡辺学・明石哲三・常世田忠蔵・杉山俊光・滝田正俊・トネタカオ  ミ・越川芳麿・松本昌夫・土手貴葉子・常世田令子    以上

 ◎文化のまちづくり 提案」に係るアンケートのお願い.08.4.20
 文化のまちづくりを考える−ミュージアム推進の集い(代表.関源五郎)
 過日はご多忙中にもかかわらず、本会アンケートにご回答戴き、有り難うございました。そのまとめ資料をもとに、「文化のまちづくり提言」全文試案を作成・同封いたしました。ご検討のうえ、その核となる「提案骨子」についての第2次アンケートへのご協力を、重ねてお願いいたします。この「提案」部分は、広く皆様のご意見をもとに、良識ある市民の声として策定すべく、前回まとめ資料と今次アンケートをもとにまとめたいと考えております。再々お手数ながら、以上の趣旨のご理解とお力添えをいただきたく存じます。
※下記の各項目は、前回アンケート結果を参考にしておりますので、ご了承ください。今次アンケート用紙にご記入のうえ、折り返し同封郵便書簡(切手不要です)に折 り込み、お送り願います。
○記入は各項どれか1つに○、ご意見があればその右空欄にお書きください。

◎文化のまちづくり提案骨子についてお伺いします。
1.提案の構成を □市に求めたいこと □市民として努力したいこと の2部とし、さらに 各部を ○当面の課題 ○持続すべき取り組み の2項建てとすることについて
(  )よいと思う−
(  )賛成できない−
(  )その他のご意見−
※以下、質問各項の回答欄は同形式なので省略します。
2.市に求めたい当面の課題として a近隣市との文化格差の是正(本論実態2.近隣4市の 比較参照) b市次期基本計画への盛込み cミュージアム実現・瑞鶴荘遺構の保全 d文 化財等総合調査 を挙げることについて
3.(上に続いて) e文化への助成褒賞制度 fイベント振興 g市民参加組織(仮称文化 市民会議等) を求めることについて
4.市に求めたい、持続すべき取組みについて A文化優先の市政 Bその計画と条例 C文 化施設充実 を挙げることについて
5.(上に続いて) D文化財対策強化 E図書館基本計画 F文化行政重視 を求めことに6.市民として努力したい、当面の課題として a近隣格差是正の要望 cミージアム・瑞鶴 荘遺構保全の要望 c自主的文化活動の強化 を挙げることについて
7.(上に続き)持続すべき努力として A文化都市宣言の実現要望 B自主的文化財調査と 保護 C地域文化資料の整備 を挙げることについて
8.提言全文の構成・内容のあらましについて
9.提案および提言全文、またこの運動などについて、ご意見・ご提案などがあればご自由に お書きください。
□今後とも提言づくりと運動へのご理解・お力添えをよろしくお願い致します。
※本件の連絡・照会先:略

《資料2》市文化関係公開文書:略

《資料3》主な参考文献・資料 ※〜文化&文化財各分野を示す

維持可能な社会に向かって・宮本憲一・岩波書店
文化政策学・後藤和子・有斐閣コンパクト
千葉県海上郡誌・海上郡教育会※全般
銚子市史&続市史各篇・銚子市※全般
もう一つの銚子市史−戦後の民衆運動五十年史・戸石四郎・なのはな出版※文化史
銚子の歴史と伝説・銚子市史談会・秀英社※全般
銚子の自然誌・同編集委員会・たけしま出版※記念物
銚子半島の歳事風俗誌・大木衛・東京文献センター※民俗文化財
銚子と文学・岡見晨明・東京文献センター※文学
とっておき、銚子散歩・稲葉豊和・アクセス出版※全般
銚子の民俗と方言・戸石四郎・崙書房※民俗文化財
千葉のわらべ歌・尾原昭夫・柳原書店※民俗文化財
千葉県の戦争遺跡をあるく・千葉県歴史教育者協議会・国書刊行会※記念物
銚子市社会教育資料・市教育委員会・※全般(リストは資料2)
銚子市文化行政関係資料・(本論1&資料2参照)※全般
銚子市公正図書館郷土資料室資料(文化&文化財に係る個別研究・調査報告書類)※全般
HP:文化庁・千葉県・銚子市・ウィキペディア等各文化関係資料

《注》このリストは、銚子の文化問題を論議する上での、基礎的資料の一部です。今後いっそ  うの充実が求められます。 以上(提言全文)

□連載・私の文化論 (HP各号より転載)
 文化のまちづくり提言を有志でつくった機会に、これまで雑誌などで発表した、文化のあり方についての私論を、時系列で振り返っておきたいと思います。市民運動が、まちづくりと結びつけて文化問題を追求してきたことを、ご理解頂けたら幸いです。08.5.20
1.方言と地域文化(拙著・銚子の民俗と方言・むすびの言葉の一部。1981年3月)
 ふるさとの言葉を大切にする、とはどういうことでしょうか?言うまでもなく、言葉は生活と地域に深く根ざしています。たとえば、先にあげた漁師たちの味わいのある浜言葉にしても、海上労働という、一つ間違えば生命にもかかわりかねないきびしさのなかでの、海や自然への鋭い深い観察と経験、そして愛着から生み出されたものですし、農家の人々の暖かい物言いの根底には、ゆい(田植の共同作業)などのなかで培われた共同体意識の伝統があるといえるでしょう。
 従って私たちは、方言や民俗を単なる物珍しさや懐かしさから扱うのではなく、それを生み出した地域の生活や生産労働、その土台としての自然や文化伝統と結びつけて理解しなくてはならないでしょう。もちろん、古いものをすべて佳しとするものではありませんが、私たちは今、方言や民俗、文化を形成してきた地域というものをもう一度見直し、再評価して、伝承し発展させるべきものは何なのかを明らかにする必要に迫られています。漁業について言えば、近年進められた漁業「近代化」は、重油や資材、漁場と資源、流通等の面から早晩破局を迎えるであろうことは自明であり、今後はむしろ以前の沿岸漁業のような、自分たちの庭先と同じ接し方で漁場や魚を大切にし、それに見合った多様な漁法を駆使する、手づくり的漁業を見直すことにならざるを得ないでしょう。農業にしても、お米を作るのに三倍、温室キュウリやトマトに十倍もの石油を消費するような「構造改善」は果たして農業の進歩と言えるのか、という原点から、もっと自然の力や営みを合理的に利用する方向へと再転換し、日本の自然によく適合した水田耕作を、文化や環境の保全という視点からも再評価しなくてはなりますまい。
 再言すれば、私たちは方言や民俗を、土台から切り離された切り花のように扱うのではなく、それを培ってきた地域の、農業や漁業、醤油業などの郷土産業、さらにはその母胎としてのふるさとの自然、文化を含めて見直し、大切に守り育てていくべきなのでしょう。それは、明日ではもうおそすぎるように思われてならないのです。
《追記》この小文の基本的視点は、文中の「方言と民俗」を「地域文化」と置き換えれば、今も変わらない。なお拙著「銚子の民俗と方言」は、銚子市図書館で閲覧できる。また全拙著(一覧リストは、サブページ−プロフィール)は、地域文化に関わるテーマ・題材で一貫している。
□銚子の民俗と方言・戸石四郎&戸石芳江著・崙書房:目次紹介
まえがき
第一部 銚子の民俗
 漁業と人びとのくらし:いわし漁業と八手網・漁師のくらし・漁師と食生活(郷土料理の原型−料理紹介)
農家のくらし:稲作り覚え帳・農家の年中行事・人の一生−通過儀礼
醤油づくりあれこれ:生きた醤油博物館・(工程と用具紹介−略)
銚子の伝承−民謡と民話:銚子の人々が謡い継いできたもの(民謡〜歌詞と採譜−略)・民話説話をたずねて
第二部 銚子の方言
銚子方言の特色私見
懐かしい言葉−方言語彙:自然と生きものたち・物にかかわる表現・人々とそのくらし・人さまざま・
参考−銚子の自然:半島の形成・むかしの銚子・近世の銚子・今日までの銚子・銚子の自然の現状
あとがき・参考文献・索引(銚子の方言1237項目を収録) 

2.足もとを耕す(千葉教育誌特集−郷土の文化に親しむ・81年7月号から転載)
 房総の育んだ名医関寛斎の事績をたずねて、昨夏北陸路の金沢や白川郷、飛騨高山を歩きました。夏休みのせいもあり、どこも人々であふれ、とくに若い女性たちが目立ちます。やはり私たち日本人の胸には、このような心の故郷と文化への憧れが息づいているのでしょう。明治の頃、この路をたどった老寛斎にも、同じ想いがあったのかもしれません。それを大切にしたいものだと思いました。
 しかし、日常のくらしに戻ってみるとき、私たちのまわりが、郷土の個性、とでもいうベきものを、余りにも失いすぎているのに気づかざるをえません。たとえば、寛斎が住んでいた幕末のころの銚子の、繁昌した港や町並みの面影は失われ、銀座原宿まがいの没個性的な商店街に、やはり日本中同じような竹の子族的ファッションの若者たちが、ハンバーガーをぱくつきながら奇声をあげています。彼らは、海の彼方のロック歌手の名などは驚くほど詳しいのに、銚子の大恩人ともいうべき関寛斎、濱口梧陵の名すら知りません。でも、それは彼らの責任というよりは、文化の価値をしっかりと伝えていない私たち大人や教師がより多くの責めを負うべきでしょう。そんなつもりで、「ふるさとを守り抜いた人々」「蘭医・関寛斎」「銚子の民俗と方言」のふるさと文庫シリーズを書きました。
 私たちにとって心の故郷とは、京や奈良、金沢や高山だけではなく、当然のことながら私たちが生まれ、育ち、暮らしているこのまちに他なりません。豊かな伝統と文化をもつ都市では、住民たちが生活の便利さを犠牲にし、目に見えない苦労と努力を積み重ねてそれらを保ち育ててきています。私たちもまた、自分たちのまちで、そのような努力をすべきではないかということを、人々の「伝統的文化への憧れ」の心情に訴えたかったのです。
 よく言われるように、文化とはカルチュア、つまり「耕す」ことがその本来の意味だとすれば、郷土の文化、という場合、何よりもまず地域の人々が自然とかかわり、働き、生産してきた地場産業の歴史を抜きにしては語れません。「銚子の民俗と方言」のはじめに、漁業、農業や醤油業のことを取り上げたのは、民俗や方言も含めて、地域の有形無形の文化が生産の営みを土台として形作られてきたことを考えてみたかったからです。それらの総体が、その土地の自然や社会の諸条件に深くねざしているのを知ることは、単に文化的興味の問題ではなく、これからの郷土の産業や文化をどう発展させるか、という展望にもつながります。
 「耕す」ことが自然との深いかかわりで成り立つことはもとより、郷土の文化の形成のうえで、自然の役割を無視することはできません。郷土の自然は、生産や生活の様式、さらには人々の性格や心情に強く影響し、長いあいだの有形無形の営みを刻みこんでいる点で、郷土文化の大切な要素です。江戸から明治にかけて、犬吠埼を核とする銚子の海岸は「銚子磯めぐり」の名で多くの画家に描かれ、文人墨客に愛され、その作品にも投影していることはよく知られています。郷土文化のかけがえのない一部としての、銚子海岸の自然を守ることの大切さを、心ある人々とともに考え実践した記録が「ふるさとを守り抜いた人々」であり、方言などに刻まれた、文化としての自然のすがたに注目したのが「銚子の民俗と方言」の一つの視点です。
 「耕す」ことはまた、創りだすいとなみにほかなりません。今の時代は、文化の面でも、うっかりすると画一的で消費的な、受け身の立場におかれがちです。金沢や高山に群がる若者たちも、ある意味ではそのような文化の「消費者」であるのかも知れません。一流のクラシック音楽やお芝居を、東京まで見に行くのも文化的営みには違いありませんが、ドボルザークやスメメタナ、シベリウスなどの音楽やバレー白鳥の湖などの古典の多くが、それぞれの民族や風土に根を下ろしたフォークロアを養いとして育まれたことを抜きにしては、文化を論ずることはできないでしょう。よそ様の華麗な花園をうらやむ前に、まずささやかでも私たちの足もとの花園を「耕す」ことから始めよう−そんなことを考えながら、戯曲「春一番(やまぜ)の人」・関寛斎小伝」を書きました。幸い地元で三十年も演劇活動を続けてきた劇団日曜会の友人たちが「よし、やろう」と言ってくれ、地域の素材をテーマにし、地元の人々の協力で創りあげた舞台が実現したわけです。嬉しいことには、このような趣旨に、地元在住の第一級の芸術家の方々が賛成し協力してくださったのです。郷土の自然と人を一貫したモチーフとされてきた創画会の渡辺学画伯は、すばらしいポスターを製作、また音楽家の清水義雄氏は「関寛斎の詠める歌より」を作曲され、夫人の二期会・西明美さんが夫君の伴奏で独唱、というように、私たちの花壇にも、郷土文化の美しい花が開きはじめました。「蘭医関寛斎」は単なる書斎での筆のすさびということではなく、手づくりの郷土文化創造への、ささやかなアプローチのつもりでとりくんだわけです。
 「耕す」ことは、骨が折れるには違いないが、やはり楽しいことというべきでしょう。関寛斎の取材に前記の北陸路や北海道、いわき、徳島などを探訪し、その土地の自然や文化にふれる喜びや、郷土の民俗・方言について地元の色々な方々と接するなかで、得たものは計り知れません。また、耕すなかでの、思いがけない「掘り出しもの」の発見の喜びも捨てがたいものです。
 文化というとき、何かそれは日常のくらしを超えた高いもの、遙か山のあなたのもの、と考えられがちですが、むしろ文化とは、人間としての、人間らしいくらしそのものとして、日常的で身近かな存在です。古の賢人は、旅に渇いた人に「足下を掘れ。そこに泉湧く」と教えたといいます。私たちにとって、郷土の文化とは、まさに汲めども尽きぬ「足下の泉」ではないでしょうか。私はそんなつもりで、これからもこつこつと、足下を耕して行きたいと思っています。

3.銚子で文化を考える−地域にこだわって 95年12月
 原文は下記の会事務局長の故小足武司氏が、テープから起こされたものです。記して故人を心から偲びたいと思います。銚子文化懇談会発会の席での卓話(会報第2号)を、前2稿との重複を避けつつ要約し、論旨に沿って若干加筆したものです。08/7.1記。
1.私と銚子との関わり(略)
2.地域と文化考
 まず「地域」という言葉の意味ですが、一般的には一定の空間的広がりを指す用語です。ですから、特定の区域ではなく相対的な概念で、例えば世界に対してアジアや日本は地域、日本のなかで千葉県も地域ということになります。しかしここでは、普通の市民の生活圏である、市・町などの行政区域という意味でお話しを進めたいと思います。
 地域の意味合いと特性を踏まえ、その個性と普遍性を考えるとき、それは排除の関係ではなく、地域の個性さらには民族性などの特殊性のなかに、普遍性をもって広く共感と感動を呼ぶものが、優れた芸術・文化ということになろうかと思います。ビゼーのカルメンをはじめ、例には事欠きません。
 しかしこの国や地域の、今の文化を考えると、その点に疑問が湧きます。福沢諭吉の欧化論以来、結果として伝統文化は無国籍・無個性なそれに席を奪われ、国内でも東京・銀座的な中央指向が幅を利かせ、日本の文化伝統や地域の個性は軽んじられてきたように思います。
 また自然と景観も文化であるはずなのに、これも軽視されてきました。欧米の都市や田園の多くは、個性豊かに維持されていますが、この国では街並みも里山も特色を失い、金太郎飴状態です。銚子も例外ではありません。「ことば」も、公的文書も含めて和製英語が氾濫し、若者の歌や踊りの無国籍化も感心しません。早い話、銚子の人が他処でのパーテイで、大漁節などの郷土の歌を、堂々と披露できるかという問題でもあります。
3.銚子ならではの文化とは
 文化の画一化は、大量生産の近代工業化、さらにはグローバル化と切り離せません。量産される生活用品や食品、住宅などまでが、規格化されて流通し、風土や伝統の個性を失いつつあります。ユネスコの「文化の多様性」理念※は、それへの憂慮と批判に他なりません。
 文化はカルチュア(耕す)といわれるように、地域文化の土台には、伝統的な地場産業の営みがあります。その土壌を守り豊かにすることを抜きにしては、個性ある文化は育たず花も開かないでしょう。その土壌の掘り起こしは、地域の再生と活性化とも連動します。私事になりますが、20年ほど前に建てたささやかな我が家は、東総地域の典型的な民家造りにしました。屋根は黒生瓦にしたかったのですが、残念ながら廃絶しています。和室に暖炉を手作りしましたが、炉の石材と石組は、鰯の粕焚釜づくりの技術を活かしました。地元の石屋さんが知っているのです。醤油に関しては、市内小浜に、伝統的な手工業で造っている工場が現存します。また三門町の逆川は、江戸時代からの水利施設であり、これらは産業文化財としても見直されてよいでしょう。
 これらを活かした、銚子ならではの個性的なミュージアムをぜひ実現したいものです。また地場産業とその文化の結晶である地元産品の物産館づくりは、行政と経済団体の課題です。
 文化的イベントの開催や文化情報の発信も大切ですが、それには豊かな地域文化の蓄積が前提でしょう。それを踏まえて、どんな視点で、何を発信するかも自問されるべきです。それなしでは、単なる自己満足の文化イベント屋で終わりかねません。また受け手の信頼と尊敬も得られず、徒花(あだばな)に終わるのでは残念です。つまり文化的催しなどの見事な花を咲かせるには、つねに地域文化の土壌を地道に耕すことが不可欠だ、ということになると思います。 この集まりを機に、そのような努力がさらに積み上げられることを期待します。
※この理念は72年世界遺産条約に示されていますが、05年「文化の多様性の保護及び促進に関する条約」 で、より明確にされました。また国は景観法に続き、08年5月「歴史まちづくり法」を制定し、地域の文化的個性への認識と保全に踏み出しています。

《熊ん蜂》□呆れた文化都市:市の宣言が「ドンダケェ」のものか、有志で実態を調べ
た。まず足下からと、近隣3市と比べてみて、あまりの結果にアゼンとせざるを得なかった。 まず文化費をみると、市民一人当り額について、銚子市1490円を1とすると、旭市3.2(倍。以下同じ)、八日市場3.9、佐原5.6。また総決算額に占める比率では、本市0.4%を1として、旭3.5倍(1.3%)、八日市場4.6倍(1.8%)、佐原5.6倍(2.3%)という、驚くべき落差が明らかになった。下図を見ていただきたい。
 インフラ(文化施設)の現状では、「文化の核」とされる公設ミュージアムは銚子が0。旭では大原幽学記念館・歴史民俗資料館(飯岡)の2館、八日市場0(私設松山庭園美術館あり)、佐原では伊能忠敬記念館と県立博物館大利根分館の2館。音楽堂(ステージ付ホール)は銚子・八日市場・佐原各1に対し、旭は県東総文化会館(2。大&小)・市民会館・海上市民館・飯岡ユートピアの合計5施設があり、次の図書館2館を含め、インフラの格差が際立っている。(以下の図は、提言本文参照。略)
これらデータによる限り、文化費と図書館など文化的インフラでみる、銚子市と近隣3市の格差は誰の目にも歴然としており、これで「…文化都市」を宣言する資格があるのか、疑問を抱かざるを得ない。文化費とインフラについてはもちろん、図書館の水準は、床面積を除く主な指標で、近隣3市にも遅れをとったまま。その点で旧八日市場市の充実ぶりが目立つ。特に旭市には県の文化施設が集中し、近隣との文化格差が深まっており、銚子市政と地域選出議員らの、これまでの怠慢が問われるところだ。さらに税金による公的施設の公正な配置という視点からも、県文化行政のあり方への批判は免れまい。市長以下幹部、そして市民の皆さん、どうお考えですか。(詳しくはこのHP「市民のつくった文化のまちづくり」提言ご覧を)※市民のちから08.4&5月号から転載。
《熊ん蜂》市にとっての「不都合な真実」?1:ゴア氏の著書名を借りるが、せっかく
の「…文化都市」宣言にとっても、市民の「文化のまちづくり提言」などは、どうやら不都合らしい。近隣3市との明らかな文化格差については、前号で書いた。文化都市の資格が問われる瑞鶴荘文化財保全についても、最近の市の態度は、開き直りという他はない。この件の計画審査手続きで県に最近提出した市意見書は、事前協議で出した文書と同じ「…適切な対処」を求めるとの僅か1行。市民有志が再三の請願等で、以前に市が示した「歴史的文化的遺産」との評価に基づく意見表明を求めたことも、まったく無視。その後の市長所信や市政座談会では、文化的価値には触れず、雇用増や活性化への期待を述べている。これまでの開発優先路線そのままだ。 ミュージアム問題も然り。市と大学・学園による、血税8億円で文化施設をつくる約束は、市も議会も消極的、口を開けば財政難というのに、8億円は宙に浮いたままである。学園に至っては市民の質問状にもナシのつぶて。これら当事者達には、あの約束も「不都合な真実」らしい。市は唐突に、5月の広報でまちづくり助成金を復活させ、500万円を限度に、対象となる施設に限り補助すると発表した。憶測だが、これは最近市もPRする、某ミニ博物館を想定しているようだ。民間のこの種ミュージアム活動はいいことだが、それを公約の公設博物館とスリかえられては困る。同じく広報の、地域の偉人記事も良いが、図書館にあるその評伝を紹介するなどの配慮に欠ける。どれもおざなりの感は免れず、文化行政の質が問われよう。
 文化都市宣言の足下には、市にとって「不都合な真実」がゴロゴロしているようだ。
※市民のちから08.6月号から転載。次の意見書も同じ。

意見書:銚子市民のつくった「文化のまちづくり」提言 08.5.12提出
銚子市長 岡野俊昭様:文化のまちづくりを考える−ミュージアム推進の集い.  私たち表記の「集い」は、1979年発足した「郷土博物館をつくる会」(博物館設置を市議会に請願−採択)を母体とし、2004年には有識者40余名の賛同を得て、再度博物館要望書を提出、07年にもその実現を求めて要望活動を進め、昨年秋の市「…文化都市宣言」に応える立場から、新たな有志の参加のもと、これまでの活動を継承すべく、表記の集いとして再発足した次第です。昨12月には、「集い」として、「…文化都市宣言」の理念・構想を中心に、市のお考えを伺いました。
 私たちはその内容を検討した結果、市が宣言した「文化都市の実現」を願うために、市民の立場からの「文化のまちづくり」提案を手作りし、「市民、行政が一体となって」(市長就任挨拶)目的達成を図りたいと考えるに至りました(趣旨は提言書「はじめに」)。
 現実と理想を踏まえた提言を策定すべく、まず本市の文化実態解明のため、市と市民のこれまでの歩みを踏まえ、問題点を明らかにすること(提言−本論1・2・3&総論1・2)、また文化行政と市民の責務とあり方を、法的・政策論的に吟味することに努め(総論3・4)、その上に立って「提案」をまとめました(本論3)。また広く有識者・文化関係者のアンケート等により、市民各層の意見反映を図っております。その点をご理解のうえ、真摯なご検討と、今後の施策への、最大限の反映を期待するものです。
 本市文化に係るこの種の文書は前例がなく、その点の自負はありますが、不備も多々あるものと自省しております。つきましては、この提言へのご質問・ご意見、今後の取扱いなどについて伺う機会を得たく、市長・教育長など関係各位出席による市政座談会等の、早い時期の開催を希望します。市民参加の実を上げるためにも、よろしくご配慮をお願い致します。※08.7.31現在、未開催。

08.3.1更新5件
銚子文化ニュース 7/08.2.14発行折込ビラからの転載。
◎文化都市宣言を考える
 銚子市は昨年9月、「健康スポーツ文化都市」を宣言しました。私たちはこれを憲法第二五条「健康で文化的な生活」を目指すものとして共感します。文化活動に関わるものとしては、特に「…文化都市」づくりを、市がどのように考えているのか、ぜひ知りたいと思いました。とくに、今早急な取り組みが求められている、美術・博物館建設(以後、ムュージアムといいます。左記事)、旧瑞鶴荘遺構を文化財として保全する問題(2面)を、「文化都市」としてどうするのか。そこで昨年暮、市長さんとこれらの件で話し合いました。その結果と、右の2つの課題について報告し、市民の皆さんのご理解、お力添えをお願い致します。
□「…文化都市宣言」の理念と構想は?
 私たちはまず、市長さんに宣言のもとになるお考えをお聞きしました。しかし「地域の文化伝統を活かし文化活動を促進すると市基本計画に示してある通り」、とメモをもとに述べられるだけで、説得力のある生まのお考えを聞くことは出来ませんでした。同席した担当者からも、文化施設の現状や今後の充実計画など、宣言を実現するための方策は示されず、残念というほかはありません。
□法と国の基準を満たす文化施設・施策の充実 

 私たちの人権である「…文化的な生活」を支える憲法規定のもと、文化財保護法、文化芸術振興基本法など、文化に係る法律や基準が定められています。行政がそれを守り、実行する責務があることも当然です。私たちは宣言実行の第一歩として、そのことをお願いしました。せっかくの宣言が、市役所玄関に大きな垂れ幕を掲げただけで終わってほしくないからです。
□文化都市を目指しての、これまでの歩みをふり
かえる    
 「人はパンのみに生きるにあらず」。文化は私たち人間の心を養うパンです。
 戦後の銚子でも、多くの市民が文化活動に参加し、常世田忠蔵・渡辺学・越川芳麿氏など先人の方々も、このまちの文化向上に尽力されました。それら市民や知識人が推した市長は、博物館建設にも意欲を見せましたが立ち消え、高度経済成長期には、「文化でお腹はくちくならない」とばかり、開発優先に変身していきました。
 国の研究所や県の博物館立地などの話も無視され、 瑞鶴荘は、市の開発協会が買い取りすぐに大手開発企業に転売されました。バブル時代ごろ、博物館・美術館などの「ハコモノ」づくりには批判がありましたが、銚子ではそれさえも日の目を見ないまま、現在に至ったのです。 これまでも、教育文化都市、文教のまちづくりをスローガンにし、文化人を自称する市長さんもおられました。しかし、かつての十万都市だった本市には、未だに公設の博物館や美術館もなく、図書館も国の基準を満たしていないままです。ハコモノが文化の全てではありませんが、本市の文化レベルを計る、一つの物差しといえるでしょう。文化に係る実態調査資料の公開を、市にお願いしたところ、宣言の土台となるべきこの資料は「ありません」とのことでした。 市の「文化」PRについては、流行りの「右から左に聞き流す」だけの私たちも、市民の意見を聞くべき市側も、問題をキチンと受けとめ、力を合わせる努力が足りなかったのではないでしょうか。
□市民の手で「文化のまちづくり」 提言を
 市の理念・構想も、実態調査も施策も、今のところはっきりしません。宣言を空文にしないよう、市民の手で銚子の「文化のまちづくり」を提言しよう。私たちの「銚子の文化とまちづくりを考える−ミュージアム推進の集い」は、その課題に取り組み始めています。それは市長さんの「市民、行政が一体となって進む」(就任挨拶)方針に沿った、宣言実現の道ではないでしょうか。市も当面する文化の2課題で、宣言に反しない姿勢を示してほしいものです。

銚子文化ニュース 8.08.2.10発行& 7より関係記事転載。   下記の文化行政に係る情報開示と説明が、2月5日、市生涯学習課からありました(担当2名・集い代表ら2名出席)。その要点を報告します。ニュース 5で報告した公開請求書の項目に沿って、市の説明(口頭&文書)の要旨をA〜でまとめてあります。

◎市文化行政に係る情報開示と説明のお願い1.10&市の回答2.5
 上のことに関し、下記の事項についての情報開示と説明を、よろしくお願いします。ここでいう「文化」領域は、学校教育・体育スポーツを除いた分野とご理解ください。なお行き違いを避けるため、資料開示及び文書による説明をお願いしたく、文書化しにくいもの等は口頭でも結構です。
1.「…文化都市宣言」に係る、市基本計画以外の、地域文化全般の振興等に関する条例・計画・指針・要綱等、およびその基礎的実態調査資料。ない場合、今後の立案・調査等予定の有無。
A〜とくにありません(今後の立案、調査も含めて)
2.直近10年間の、市民から寄せられた、文化(行政・施策等)に関する、市または市議会への請願・陳情・要望・意見書などのリスト。
A〜○市長宛10件。内訳は美術・博物館2件、美術館3件、個人や市議団の市政要望項目中に含まれる案件5件。○市議会宛4件。02年銚子の自然を楽しむ会−博物館建設請願。04年郷土博物館をつくる会−美術・博物館建設要望。06年銚子自然保護協会他−瑞鶴荘跡の自然・文化財保全請願。07年郷土博物館をつくる会他−美術・博物館建設約束の実行要望。
3.市民の文化活動への奨励・助成制度。賞・表彰・助成金など。
A〜○銚子賞:補助金交付要綱&まちづくり活動の支援に関する規則(文書)。銚子賞には文化に係る規定はないが、支援に関する規則で「ア地域の伝統文化、芸術等の振興に資する活動」も対象と定めてある。
4.地方自治法第二条3−5等にある下記の文化施設のうち、本市にあるものについて
 ※この項のAは、施設一覧(文書)により各()に記入してあります。空欄は記載にない施設となります。
1)名称・公私の区分・規模の概要(分館等も含め、下記にご記入ください。資料でも可)
a研究所(
b試験場(
c図書館(市立公正図書館※規模・比較資料等は後日図書館に説明要請。
d公民館※1(市民センター・延床面積3110平米
e博物館(市文化会館郷土&考古学資料室。社法−灯台資料展示室。独法−新国立劇場舞台芸術センター。私−犬吠埼マリンパーク(類似施設)。私−外川ミニ郷土博物館。
f美術館(私−思咢庵
g物品陳列所※2(私−銚子ちぢみ伝統工芸館
h劇場&音楽堂※3(市文化会館大ホール
iその他※4(市−地球の丸く見える丘展望館
 ※1〜市民センター&ホール、公会堂などを含む。2〜物産館を含む。3〜ステージ・楽屋  等を備え、舞台芸術の上演が可能な施設。4〜児童館・水族館など、文化に係る施設。
2)上の施設に係る、国の設置・評価基準。また全国平均値及び旭・匝瑳両市との比較資料。
A〜国基準は後日連絡。その他資料はなし。
3)上の施設に係る、今後の設置計画または見通し(国・県の計画等)
A〜とくにありません。
5.文化財保護法第二条の定める下記対象その他で、指定済みを除く本市域の文化財に関し、
ア保護すべきものと評価される本市文化財の調査資料。または今後の調査・リスト化計画。
A〜正式資料はないが、33件を調査中で(件数のみの文書)、古文書は05年から着手している。リスト公開については前向きに検討したい。県も文化財実態調査をほぼ定期的に実施し累計104件(同上)となっているが、市にはその資料は来ていない。
イない場合、現時点で保護すべき対象と判断される具体的事例(下記欄に記入可)。
※上に同じ。
ウ指定文化財の保全状況とその評価資料。
A〜国・県指定文化財については国・県が調査しているが、市に資料は来ない。
※以下、対象項目を列記。なお市回答では下記項目別の記載はないので、質問項目だけを列記した。
1)有形文化財 a建造物 b絵画&彫刻 c工芸品 d書跡&典籍 e古文書 f考古資料 gその他
2)無形文化財 a演劇&音楽※台本&楽譜を含む
3)民俗文化財 a風俗慣習 b民俗芸能 c民族技術※衣服、器具、家屋等の物件を含む
4)記念物 a貝づか b古墳 c都城跡&城跡 d旧宅 eその他の遺跡 f庭園 g橋梁 h峡谷&山 岳 i海浜 jその他の名勝地 k動物 l植物 m地質鉱物※k&l&mで は生息・繁殖・渡来・自生・ 生態系・土地を含む
5)文化的景観※地域の生活、生業、風土等により形成された景観地
6)伝統的建造物群※環境と一体で歴史的風致を形成する伝統的建造物群・街並み
エ産業文化財※農・漁・水産加工・造船・醸造&関連手工業・製瓦など。調査資料&リスト
A〜市として調査・資料はないが、県が近現代の文化財として86年から調査している。 
オ私蔵の文化財コレクションで保全価値のあるもの※調査資料&リスト
A〜個人情報・財産権との関係もあり、資料化はしていないが、担当として一定の情報は把握している。
6.本市域の文化&歴史に係る、明治以降の一般出版物、および市教委の刊行物のリスト。
A〜一般出版物の資料はない。市教委発行資料は7点、うち埋蔵文化財発掘調査報告書が16種ある(リスト文書)
7.本市の文化行政の機構(統轄責任者・関連分野・領域と所轄など)
A〜統括者・教育長のもと、生涯学習課・文化班が主体となり、社会教育班も担当が重なっている。課内の市民センター・公正図書館・青少年文化会館の各担当も、所管の運営にあたっている。(文書)
8.文化に関連した直近の市予算額または決算額の概要。
A〜06年度決算額で9247万2千円(総額の0.4%)。但し生涯学習課の文化班及び上記3館に係る支出。(文書)
《コメント》市の文化行政と施策全般については、市基本計画に係るそれを含めて別に検討することとし、ここでは上記の質問と市回答について整理しておく。
 今回の「…文化都市宣言」に係る理念・構想、実現の計画体系とその土台となる実態調査資料などはなく、今後もその予定はないことがわかった。半ば予想はしていたが、失望するほかはない。宣言について庁内では「健康がメーンで、そのためにスポーツと文化の充実が大切」という受け止め方らしい。文化は刺身のツマ程度ということか。それが回答で示されたというわけだ。文化関係費も市総額の0.4%(06年度)で、その比も年々減っている。
 この10年を見ても、市・議会への文化に係る市民の要望は、ミュージアム建設に集中している。使途の決まった8億円をどうすべきかは自明だろう。しかし文化施設について、法の基準を満たしていないことへの認識・自省も充足計画も市はもっていないようだ。
 文化財対策で目立つのは、縦割り行政で国・県の調査資料が地元に報告されないこと、国・県・市の資料・情報が市民レベルに届かず、説明責任が果たされていないこと、調査・保全対象が明治以前の埋蔵文化財に片寄り、近現代にいたる総合的視野に欠けることなどである。
 機構としては、生涯学習課の課長以下、本庁勤務者数名が担当しているが、文化行政・施策・予算など全般は荷が重すぎる。文化都市づくりに相応しい機構・人員・予算が必要とされよう。根本的には、そのことも含めた「行政の文化」化、「国民の文化権」の深い自覚が、官民ともに求められている。

市民のちから08年2月号《熊ん蜂》から転載
◎「…文化都市」宣言をめぐって:昨年、市は「健康スポーツ文化都市」を宣言、市役所正面に巨大な垂幕を下げた。市長は当選直後の議会挨拶で、この宣言をしたいと述べており、、その基本姿勢を公式に表明したことになる。その趣旨は「健康で文化的な生活」の権利を保証した、憲法第25条を踏まえたものとして共感できる。問題は、このまちの「文化」の現状をどう捉え、宣言をどう実現していくか、その理念と構想の中身であろう。
 これまでも、文教のまちづくり・教育文化都市などを掲げ、文化人市長を自認した人たちもあった。しかしそれらは付焼刃の空文に終わり、「文化や景色でメシは食えぬ」と放言する市長もいた。そのため心ある市民は、首長らの掲げる「文化」PRに、アレルギー反応をもつようになった。しかし市政の基本に関わるアピールを、また市民の声を、お互い「右から左に受け流す」のは善くないに決まっている。行政と市民との回路を活性化させようと、私達は市に、「市長と文化を語る会」を要望、なんとかそれが実現した。話題は、宣言に係る市長の理念と構想、当面する文化的課題であるミュージアム建設公約と瑞鶴荘遺構の保全である。しかし市の説明には失望せざるを得なかった(後出報告、その他関連記事)。次期基本計画や具体的施策に、文化行政の現状分析、理念・構想が殆ど語られていないのである。このままでは空文化の繰り返しだ。そのスキマは市民の働きかけと努力で、今後充実させていく他はない。その一歩が、有志による「市民の求める文化のまちづくり」提言づくりである。「人はパンのみに生きるにあらず」、文化は人間の心のパンなのだから。

◎市とのコンファレンス報告
1.「市長と文化を語る会」・銚子の文化とまちづくりを考える−郷土博物館推進の集いニュース 4より.08.1.5発行
 すでにお知らせした「市長と文化を語る会」が、暮の12月28日、市会議室で開かれました。そのあらましをご報告します。
 市側は、市長と関係各部課長が、集い側は代表ら有志8名が出席。市会議室で約1時間半にわたり、市長らの説明を聞き、意見を交換しました。集いは予め質問事項メモを提出、ほぼそれに沿って話し合いました。下記Qはその質問、Aは市側(長=市長、市は担当者)説明です。なお最初の市長発言は全般を一括したものでしたが、ここでは質問メモ3項に分けて整理してあります。※は当日の集い側意見、○は補足的コメントです。
□文化都市宣言に係る市長の理念と構想について
Q:理念と構想を具体的に伺いたい。
A長:理念と構想は、基本計画に地域の伝統文化を活かし文化活動を促進するなどと示してある通りである。
※:「健康スポーツ文化都市」宣言は、憲法第25条の「健康で文化的な生活」の保障規定に沿ったものと理解する。市民の願いは、それら文化権に係る、諸法規と自治体の責務を実行 してほしい、というに尽きる。市の基本計画などには、法の定める文化施設のシビルミニマ ムに基づいた施策が見られない。今後の具体的な構想を期待したい。市民側も「文化のまち づくり」提言を近くまとめ、提出するつもりだ。
○メモを見ながらの説明で、生まの率直な見解が聞きたかった。意見交換の中では、文化問題への関心の深さをアピールしていたが、その辺の実行を見守りたい。次期基本計画などでも、文化のまちづくりに係る明確な理念と構想は示されなかった。このままでは、宣言は単なる コマーシャルに終わりかねない。
□美術・博物館&瑞鶴荘遺構の保全の件は略。

市民のちから07年12月号《熊ん蜂》から転載。
◎市は基本方針の説明責任を果たせ:市は市長の強い意向で、健康スポーツ文化都市宣言を公表した。市役所玄関には、その大きな垂幕が掲げられている。大方の市民も、それには賛成だろう。問題は、その理念と具体的な施策のなかみである。文化都市づくりに関わっては、歴代市政も「教育文化都市」などなどをうたってきたが、実績には見るべきものがない。 そこで市民有志は、「銚子の文化とまちづくりを考える−博物館推進の集い」を発足させ、市政座談会開催を申し込んだ。ちなみにこの座談会は、前市長が廃止した月一回の市長相談日に替わるものとして、最近新設されたもののようだ。集いは、今回は「文化都市づくり」を重点に、市長の理念と施策、とくに当面する博物館・瑞鶴荘の2つの問題についての、市長の見解を聴き、意見を交わそうというのである。市長は公約や所信表明で「情報を包み隠さず 市民・議会・行政が一体となって進む」と述べてきた。宣言をキャッチコピーに終わらせず、誠意をもって実行すること、まず市民に対し説明責任を果たすことを期待したい(11/17)。 その後26日に、上の件で担当らと打ち合わせた。言葉の端々から察するに、文化問題について公けの席へ市長を出したくないらしい。仰々しい宣言の説明責任は、どうするんだろう。ともかく市長自身から聴くのが先決と、公開の座談会ではなく、これまでどおりの庁内での話し合いということで、一歩譲った。どんな文化論が聴けるか期待したいものだ(11/27記)

◎銚子文化ニュース 4:08.1.5発行・市長と文化を語る会報告
 すでにお知らせした「市長と文化を語る会」が、暮の12月28日、市会議室で開かれました。そのあらましをご報告します。
 市側は、市長と関係各部課長が、集い側は代表ら有志8名が出席。市会議室で約1時間半にわたり、市長らの説明を聞き、意見を交換しました。集いは予め質問事項メモを提出、ほぼそれに沿って話し合いました。下記Qはその質問、Aは市側(長=市長、市は担当者)説明です。なお最初の市長発言は全般を一括したものでしたが、ここでは質問メモ3項に分けて整理してあります。※は当日の集い側意見、○は補足的コメントです。
◎文化都市宣言に係る市長の理念と構想について
Q:理念と構想を具体的に伺いたい。
A長:理念と構想は、基本計画に地域の伝統文化を活かし文化活動を促進するなどと示してあ る通りである。
※:「健康スポーツ文化都市」宣言は、憲法第25条の「健康で文化的な生活」の保障規定に 沿ったものと理解する。市民の願いは、それら文化権に係る、諸法規と自治体の責務を実行 してほしい、というに尽きる。市の基本計画などには、法の定める文化施設のシビルミニマ ムに基づいた施策が見られない。今後の具体的な構想を期待したい。市民側も「文化のまち づくり」提言を近くまとめ、提出するつもりだ。
○メモを見ながらの説明で、生まの率直な見解が聞きたかった。意見交換の中では、文化問題 への関心の深さをアピールしていたが、その辺の実行を見守りたい。次期基本計画などでも、 文化のまちづくりに係る明確な理念と構想は示されなかった。このままでは、宣言は単なる コマーシャルに終わりかねない。
◎美術・博物館の件について
Q:前市長の本件に係る公式表明(本年着手)は承継されていると理解してよいか。
A長:現時点では、理事長名の「文化的施設づくり」の約束文書がすべてだ。維持管理費の負 担を考えると、市財政上は難しい。
Q:市長が前会で述べた「ソフトな形での学園側との交渉」の経過はどうか。
A長:11月に学園側と会い「約束」実現を要請した。
Q:次期基本計画に本件が施策化されていないのはなぜか。また今後の「ツメ」の工程は。
A市:市長説明の通り、具体化の段階に入っていないので…。
※:本件実現は市の公約であり、市政継続性の点でも努力してほしい。新規にハコモノを作れ とは言っていない。学園側への全面委任、また市内既存ビル等の活用など、あらゆる可能性 を探るべき。先進国では美術&博物館はミュージアムであり文化産業でもある。今後本件も ミュージアムとして、教育とまちの活性化に位置づけるべきではないか。
○市長と担当の消極性には失望した。ミュージアムは「文化都市」の最低要件であり、8億円 の市民血税の行方が係っている案件だ。市・議会・市民の責任と熱意が問われている。今後 美術館要望団体との共同も不可欠だろう。
◎瑞鶴荘遺構の保全の件
Q:11.30請願を「誠実に処理」する具体的措置に関し、市意見書を内容あるものに。ま た実質的内容の公聴会開催と専門委員会審査を市として要請して欲しい。
A:市意見書及び公聴会と専門委員会も、要望に沿うように措置したい。遺構保全の事前協議 も継続し適切な保全を要請しているが、法的根拠がないので最終的には事業者の意向による。※:11.6発の市意見書は本文がわずか一行。「文化都市宣言」に照らしていかがなものか。 「歴史的文化的遺産」として保全したいとの、市の立場を堂々と述べてほしい。また県景観 等アセスの不備も指摘できるはずだ(文化財の項が欠落)。専門委員会の現地視察では、遺構の本格調査も要請すべき。市は遺構保全に手を尽くしてほしい。
○請願した意見書、公聴会と専門委員会への要請については善処するとの回答で、一応の成果 と言える。市長は遺構の価値について理解を示したが、実効ある措置でそれを証明すべきだ ろう。なお市広報新年号の市長所信に、民間活力に期待、とし「犬吠スパ計画の動きにも注 目」とあるのはどういう意味か、追求する必要がある。
□総括的コメント:市長との話し合いが実現し、宣言の理念と構想、市長の文化観が聞けたこ と自体は、一応評価したい。しかし宣言を支える、中味のある理念と構想・具体的施策は聞 けなかった。ミュージアムと瑞鶴荘遺構という、差し迫った重要な文化的課題についても、 宣言に照らした誠実な対応とはとても言えない。法の定めと、宣言を発した責務を誠実に果 たしてほしいものだ。文化の充実は、市民の永年にわたる悲願であり、環境や福祉とともに、 今後のまちづくりの柱に他ならない。市議会・関係団体・市民も含めた今後の課題であろう。

◎《お誘いと提案》銚子の文化とまちづくりを考える− 郷土博物館をつくる会
推進の集い(仮称)発足のご相談
 美術・博物館及び瑞鶴荘開発に係る請願・運動への、日頃のお力添えに感謝の至りです。このまちの文化を考えるとき避けて通れない、この2つの問題は、ともにヤマ場を迎えており(下記)、的確な対応が求められております。とくにカギとなる市(市長)への働きかけを強めるため、すでにある「郷土博物館をつくる会」として、仮称上のようなグループを設け、取り敢えずスタートさせてはいかがか、ご相談する次第です。
 現市長は多忙なせいか、私たち有志が請願・要望で会うのに、半年から1年も掛かるのが実情です。そこで最近市が制度化した「市政座談会」(下記広報記事)を活用し、文化に係る上の2問題をテーマに、意見交換したいと考えますが、いかがでしょうか。そのためには、要件である「10名以上のグループ」づくりが必要です。
 皆さんのご意見により、今後さらに幅広い活動も可能な「文化とまちづくりを考える会」(仮称)への発展もあろうかと思います。ご多忙のところ恐縮ですが、ぜひご出席下さるよう、よろしくお願いいたします。
集いのあらましについて
○とき:10月20日(土)pm3〜
○ところ:シティオ2F・カフエシティオ(コーヒー店)  
○話題:□博物館の件〜経過等報告と今後の取り組み(来年4月以降に具体化の約束)   
□瑞鶴荘の件〜報告と意見書等提出の確認・調整(11月6日が期日) 
□行動予定〜*副市長への申し入れ(2問題など諸案件への対応《資料》要請)
  *市長宛 瑞鶴荘アセス市意見書&県へ公聴会等開催要請書提出の働き  かけ(請願)→文案検討
  *市政座談会申し込み→開催へ
  *大学学長への博物館推進申し入れ(日時未定)
□発足の件確認(当面の代表&事務局など)  07.10.15発《追記》集いはこの会議の確認に従い、上記市政座談会を、市所定の申込書により10.22付提出。市はその前段に11.26部長交渉を設定し、市政座談会に代える意向を見せました。集いは市長見解を聞くことを優先させ、非公開の従来形式の集まりとすることで折り合い、12.28「市長と文化を語る会」に至ったわけです(報告は後記)。この間、集いは準備を兼ねて「銚子文化ニュース」をメンバー中心に配布しました(後記)。