あらすじ:就職活動の情報交換のため集まった大学生の拓人(佐藤健)、光太郎(菅田将暉)、瑞月(有村架純)、理香(二階堂ふみ)、隆良(岡田将生)。海外ボランティアの経験や業界の人脈などさまざまな手段を用いて、就活に臨んでいた。自分が何者かを模索する彼らはそれぞれの思いや悩みをSNSで発信するが、いつしか互いに嫌悪感や苛立ちを覚えるようになる。そしてついに内定を決めた人物が出てくると、抑えられていた嫉妬や本音が噴きだし……。(シネマトゥデイ)
製作国:日本 上映時間:98分 製作年:2016年
監督・脚本:三浦大輔 原作:朝井リョウ
キャスト:佐藤健 / 有村架純 / 二階堂ふみ / 菅田将暉 / 岡田将生 / 山田孝之 等
人間性を炙り出す『魔の期間=就活』を描いたサスペンス!
【桐島、部活やめるってよ】の原作者である朝井リョウの同名小説を【恋の渦】の脚本や【愛の渦】で監督を務めた三浦大輔が映画化した【何者】を観てきました。原作は未読。途中からネタバレしてます!感想は、
そこまでエグられる事は無かったけど、面白かった!
その人の生き方や本性が炙り出される『魔の期間 = 就活』を、今や当たり前ように使われているツール:ツイッターを交えながら描いた青春サスペンス!
思い返すと、就活の時期って劇中でも「視野を広げるために〜」なんて言ってるのにも関わらず、
無意識に人生の中で最も視野が狭くなる時期なのかな。
別に死ぬ訳でもないのに『内定』を取ることが全て!になって、内定を取れるか取れないかで己の価値が決まるかのような感覚に陥いったり、周りのガムシャラさに引きながらも焦り、友達の不採用に少し安堵し、周りから人から受けた会社や説明会の数・インターンに行ったなどをドヤ顔で報告され、それを死んだ顔で聞いたりと…
そんな否応無く浮足立たされ、様々な思惑やストレスが渦巻く『就活の苦さ』や、誰もが(自分が)ちょっと嫌なヤツになる『就活時期のあの独特な空気感』をフラッシュバックさせる作品でした。
と言っても、自分は映画の登場人物みたいに「みんなで協力して就活頑張ろっ!」なんてテンションではなく、そんな人たちと少し距離を取っていた。強いて言うなら岡田将生演じる隆良に近いマイペースなスタンス。
隆良みたいに名刺作ったり意識高い系では無かったし、就活にがむしゃらだった訳でも無いけど、それでもどこかしらに『内定』を貰えるまでは、常に頭の片隅に『就職』の2文字がこびり付いた日々を過ごしていたし、あの時期に戻るのは二度と御免被りたい。
この作品、観る人が観たら吐いたりするんじゃないかな?! 就活期間特有の周りの人との距離感や、ちょっとした言い回しに「うわ〜 うわ〜」と苦さの連続でした。
登場人物と役者陣のハマりっぷり
この物語は下記の5人の就活生をメインとし、そこにプラスαの2人がちょこちょこと絡みを見せる。
- 自分が就職活動を1番俯瞰した視点から見れていると思い込んでいて、Twitter依存気味な分析家の拓人(佐藤健)
- 就活に対してのアンテナは弱いが、持ち前の人当たりの良さが売りの光太郎(菅田将暉)
- 留学経験のありで、自分に自信無さげな真面目系丸顔女子の瑞月(有村架純)
- 留学経験ありで、フランク且つグイグイな行動派タイプの理香(二階堂ふみ)
- 就職に疑問を抱きながらも、人一倍負けず嫌いな意識高い系の隆良(岡田将生)
この5人が就活対策本部なる理香の部屋に集まり、就活に対する分析や意見交換など、個々の胸の内とは裏腹に表面的でどこかくすぐったいコミュニケーションを繰り広げる。
誰かが部屋から出て行った瞬間、そいつの事話すみたいな『あるある』も散りばめられている。それぞれのTwitterのアイコンにも注目すると面白い。
「こういうヤツいるな〜」とついつい共感してしまう、それぞれタイプの異なる登場人物とそれを演じる役者陣が、すごくナチュラルにマッチしたナイスなキャスティングでした。
特に、主人公の拓人を演じた佐藤健が良かった。【るろうに剣心】よりも【バクマン。】で感じた、元々持っている『目付きの悪さ』が上手く活かされていた。
同じ目で言うと『空虚な目』演技がより一層板に付いた有村架純の使い方も良いし、菅田将暉・二階堂ふみ・岡田将生はいつも通りの安定した演技を見せる。
プラスαの2人↓
- 拓人にやたらマウントとりたがりな達観したサワ先輩(山田孝之)
- 就職活動をせず、自らの夢を叶えるために演劇の脚本家の道に進んだ烏丸ギンジ(役者不明)
【桐島、部活やめるってよ】の桐島みたいに顔を見せない、5人とは別の価値観で動く烏丸ギンジを泳がせることで、拓人や物語を外部からチクチク突くキーパーソンとして上手く機能させていた。
山田孝之は... さすがに老け過ぎじゃない?先輩よりも大学の先生に見えてしまう。
急展開を見せる終盤の『舞台劇』※ここからネタバレ注意
拓人のTwitterの『裏アカウント』の存在が示され、グっとサスペンス度が増すクライマックス。拓人のみんなを見下す『裏アカ』のツイートが回想として舞台劇で見せられる展開があるんだけど、
あれは『就活』の他にもう1つ本作のテーマである『SNS(Twitter)』のあり方というか怖さを、拓人の青春であり未練の残る『舞台劇』を媒介として見せた面白い演出でした。
演じている人の向こう側には沢山の観客がいる舞台劇と、携帯からツイートとして飛ばす自らの言葉の向こう側には、それを見る不特定多数の人間がいるTwitterとを重ね、ある意味『晒されたように大勢の観客の前に立つ拓人 = 裏アカがバレ、ひた隠しにしてた拓人の人間性が露呈した瞬間』を可視化したシーンなんじゃないかな。
そんな観客の中にいる瑞月は微笑んでくれているけど、現実はそう甘くない。拓人が想いを寄せる瑞月もまた裏アカの存在を知っているという事実を、拓人には知らされず観客にだけ見せる切ないシーンがより彼のドン詰まり感を引き立てていた。
その前から観ている間、頭によぎっていた「いくらなんでも面接先の人事が見る可能性があるTwitterでみんな色々とつぶやき過ぎじゃね?」とか「人に教えるアドレスで裏アカ登録するかね?」とか気になる部分はあったけど、
それはその通りで『所詮そこまで気が回らない連中の話』として狙って描いているように見えた。それがまさに最初の方で書いた『無意識に視野が狭くなる時期』の就活生の姿でもある。
ここが良かった!&もしやな真相
冒頭で、グレーから黒に変わるグラデーションのポロシャツを拓人に着せることで『拓人 = 腹黒』と暗に臭わせる伊賀大介さんの遊び心あるスタイリングは、ネタバレ気味ではあるけど、あぁいう臭わしは個人的に好きでした。
あと映画のタイトルが出るところでの群衆が、京都の三十三間堂に見えたのは置いといて… あのオレンジの色味からして群衆は、後に出る舞台劇の観客だったのかな?
個人的な願望で言えば、光太郎の「俺って就活が上手いだけなんだよな...」的な発言は、どうせだったら「俺って何だかんだ手に入っちゃうんだよなぁ〜」みたいな発言の方が瑞月の事も含んだ意味になって、意地悪で良かったのに。それはさすがに意地悪過ぎかw
拓人が『就職浪人で就活2年目』という真相を知った後だと、タクシーでの光太郎の発言は、完全に嫌味でしかなかったな。
いや、寧ろ理香が「メールアドレスからTwitterのアカウントを検索してコンタクト取ってる」って話した日から、ひょっとして理香だけじゃなく、みんな拓人の裏アカの存在を知っていたのかもね。
気付いた理香がみんなにチクった可能性もあるし、それを受けての光太郎のタクシーでの拓人を哀れむ同情の発言であって、裏アカの存在を知ってた瑞月のシーンにも繋がる。
『拓人がみんなを見下してたんじゃ無く、拓人をみんなが見下してた』構図の方がより怖いし、哀れな拓人を見る事で残りの4人が『なんとか自我を保ちながら就活に励むことが出来ていた』という方が筋が通っていてグッと来るけどな。それこそサスペンスを通り越し人間のエグ味出まくりなホラーだよ!
逆に瑞月がいち早く裏アカに気付いて、みんなにチクっていた『瑞月極悪説』はさすがに無いか。
自身の辛い『就活』の経験と重ね合わせたり、これから就活を控える学生が免疫をつける為に観ておいたり、
他に似たような作品は思いつかないけど『現代を色濃く映した就活映画』として面白かったです。
まとめ
良かった点
- あの息苦しかった『就活時期』を思い起こさせるリアルな空気感
- 役のイメージに合ったナイスなキャスティング
- 終盤展開される舞台劇の演出
- サスペンスというより、もはやホラーな結末
悪かった点
- 予告の印象に比べて、思ったより恋愛要素&絡みは弱め
評価:★★★★ 結構良かったぜ!
人見知りのせいもあって『人脈』『コネ』などのワードに思わず拒否反応が出てしまった。学生の頃から上手い人は上手いし、不器用なヤツは不器用なんだよな。
WEBテストとかグループディスカッションとか経験ないので、いわゆる『THE就活』をやって来た人ほど刺さる作品なんじゃないかな!
[ 予告編 ]
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