自衛隊という密室 – いじめ・暴力・腐敗が蔓延、自衛隊員の死因トップは自殺

(※2009年11月に書いた記事です。私たち国公一般にも自衛隊員や防衛省職員から、いじめ・パワハラ・セクハラなどの労働相談が寄せられています)

「平和の棚の会」が主催したジャーナリストの三宅勝久さんと斎藤貴男さんのトークセッション「自衛隊という密室――自衛隊員の死因第1位は自殺、いま現場で何が」(2009年11月6日開催)に参加しました。三宅勝久さんのお話の一部要旨を紹介します。

「平和を、仕事にする」――自衛隊員募集ポスターのキャッチフレーズです。私は自衛隊員の自殺問題を取材する中で、こうした理想とは裏腹に、自衛隊の現場では人権を無視した残酷ないじめや暴力事件が蔓延していることを知りました。

私が自衛隊の取材を始めたきっかけはサラ金の取材でした。みなさん、自衛隊とサラ金とはまったく関係ないと思われるでしょうが、今から5年前、私がサラ金問題を取材していたとき、サラ金の多重債務に苦しむ自衛隊員のあまりの多さに驚いたことが自衛隊員の問題を取材するきっかけになったのです。

国から衣食住が保障されている自衛隊員がなぜサラ金で借金を重ねるのか? 疑問に思った私が取材を進めると今度は自衛隊員の自殺が多いことに気づきました。

1994年から2008年までの15年間で、1,162人もの自衛隊員が自殺しています。2004年度が100人、05年度101人、06年度101人と3年続けて過去最悪を記録し、2006年度の10万人あたりの自殺率は38.6で、一般職国家公務員の自殺率17.1の2倍以上にあたります。

また、2007年度の数字を見ると、暴力事件での懲戒処分80人。わいせつ事件での懲戒処分60人。脱走による免職326人、そのうち半年以上も行方が分からず免職になった自衛隊員は7人。病気で休職している自衛隊員は500人にのぼっています。

私は『自衛隊という密室――いじめと暴力、腐敗の現場から』(高文研)という書籍の中で紹介しましたが、取材を進める中で自衛隊というのは「暴力の闇」の中にあると感じています。男性の自衛隊員から殴打も含む虐待を受け、声を出すこともできなくなり自殺に追い込まれた女性自衛隊員。異動のはなむけとして15人を相手に格闘訓練と称したリンチを受け亡くなった自衛隊員。先輩の暴行を受け左目を失明した自衛隊員。自衛隊員の自殺の原因に、日常的な上官らのいじめがあったとして遺族が提訴しているケース。守るべき一般市民を自衛隊員が襲った連続強姦事件。上司からセクハラされた上に退職強要を受けた女性自衛官の裁判闘争。自衛隊員へのアンケート結果によると、女性隊員のうち18.7%が性的関係の強要を受け、強姦・暴行および未遂は7.4%にものぼり、自衛隊全体で700人以上が強姦・暴行および未遂の被害を受けているのです。その上、“臭いものにフタ”をして隠蔽する組織の取材を続けているうちに私は「死は鴻毛よりも軽し」という言葉が浮かびました。

また、制服幹部一佐の年収は1,000万円以上、退職金は4,000万円。そして納入業者に役員待遇で再就職。防衛省との契約高15社に在籍しているOBは2006年4月に475人もいて、三菱電機98人、三菱重工62人、日立製作所59人、川崎重工49人などとなっています。2008年度の1年間で、防衛省と取引のある企業に再就職した制服幹部一佐以上は80人。三菱重工と防衛省との年間契約高は2,700億円にのぼっているのです。

こうしたいじめ、暴力、汚職などが蔓延する職場が自衛隊という密室なのです。そうした職場のストレスから酒やギャンブル、女遊びにはまって借金を作り、身動きがとれなくなる人は後を絶たず、自殺者も続出しているのです。

そうした職場の歪みから来るストレスに加えて、屈強、精強なはずの自衛隊員を自殺に追い込む大きな矛盾が背景にあるのではないかと私は思っています。それは、「旧日本軍」と「自衛隊」の矛盾、言い換えれば「軍国主義」と「民主主義」の間の迷走です。かつて他国の人々と日本の国民を脅かした「旧日本軍」のあとを今現在の「自衛隊」が追うという矛盾のなかに「兵士」の苦悩や多くの問題が隠れているのではないかということです。

2007年度の1年間で、海上幕僚長の行った20回の訓示の中には、「帝国海軍」「海軍兵学校」などという「旧海軍」を讃える発言が15回もあるなど、いま現在も自衛隊そのものの中に「旧日本軍」が脈々と生きているのです。「旧日本軍」のように、他民族の命を抹殺できるようになるには、他民族への蔑視、他民族への人権侵害などの点でも「旧日本軍」のあとを追うことにならざるを得ません。他民族に対する蔑視や人権侵害を行おうとする組織において、その組織内部においても人権侵害が横行するであろうことは容易に想像がつくでしょう。

「旧日本軍の伝統を、陸海空自衛隊はそのまま引き継いでいます」と言ってはばからない田母神俊雄・元航空幕僚長の姿に、「軍隊あって国家なし」のようだった「旧日本軍」への憧憬を見出すのです。国民の生命・財産を守るはずの自衛隊は、かつて国民を苦しめたこの「旧日本軍」の背中を追いかけようとしているのではないでしょうか。

井上 伸月刊誌『KOKKO』編集者

投稿者プロフィール

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『KOKKO』(堀之内出版)編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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