公演について


KAAT神奈川芸術劇場芸術監督として本格始動した 白井晃の野心的なラインナップ
 KAAT神奈川芸術劇場は野心的な演劇作品を次々と上演するほか、ダンスや現代美術、古典芸能とのコラボレーションも強化。2016年度もまさに複合的な創造の発信基地というアイデンティティーを強調したラインナップが続きます。2年間のアーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)としての関与から、今春正式に芸術監督に就任した白井晃が、「東京の劇場とは一線を画した、特色のある独特な劇場にできれば」という思いをひとつひとつ形にしていく挑戦が始まっています。

拝金主義にまみれた現代社会への警句、 悲しいファンタジーとしてのブレヒト作品
 現代への警句と痛烈な皮肉にあふれた問題作を白井はついに俎上に載せます。
劇作家ベルトルト・ブレヒトと「三文オペラ」での名コンビで知られる作曲家クルト・ヴァイルが組んだ「マハゴニー市の興亡」は、欲望だけが支配する街マハゴニーの隆盛と衰退を描く物語。行き場を失ったお尋ね者たちが作ったこの街は、世界の欲望を吸収して人々の夢と希望をむさぼり膨張。皮肉な繁栄の影で忍び寄る破滅への予感とともに、悲しいファンタジーが幕を開けます。ブレヒトらしい毒に包まれたこの作品は、1933年にナチスが上演を禁止し、再注目されたのは1960、70年代。
欧州では著名な作品となったこの作品も日本ではほとんど上演例がなく、今回の上演が貴重な機会になることは必至です。

劇場をまるごと一つの町に、舞台上にも参加型「市民席」
 テント芝居を見て演劇を体感し、客席に360度囲まれる青山円形劇場で俳優として育てられた白井は、「演じ手がいてそれを見る人間がいれば演劇は成立する」という考え方。「舞台と客席との境目をなくしたい」という願いは、舞台上に「マハゴニー市民席」という名の客席を作る決断につながりました。そもそも架空の街の隆盛と衰退を描く物語。劇場全体をひとつの街ととらえ、観客もまた市民として演劇に参加します。「市民」たちは否応なく物語に巻き込まれ、演出プランによっては重要な使命を帯びる可能性もあるのです。
マハゴニー市民席


スガダイローとの新たな挑戦、若手ダンサーRuuを振付に大抜擢
 昨年演出したイプセンの「ペール・ギュント」をピアニスト、スガダイローのフリージャズで彩った白井。喝采を浴びた才能を今回も起用します。そもそもオペラ劇の「マハゴニー市の興亡」がジャズテイストを帯びることで、人間の欲望がもたらす運命という普遍性を詰め込んだ物語を、より明確に現代へと引き寄せます。
振付には、ストリートダンス振付作品のコンテスト「Legend Tokyo」で輝いていた若きダンサーRuuを大抜擢。今という時代の感性と、白井がRuuに見た「過去の音楽に対するリスペクトや憧憬」が融合することで、ヴァイルの音楽がより身近になる可能性を秘めているのです。


生きざまを舞台に放つ存在感あふれるキャストが実現

主演には抜群の歌唱力と一本芯の通った演技力で、舞台作品のほか大河ドラマ「真田丸」での石田三成役など、テレビでも重要な役柄での出演が続く山本耕史、近年は舞台での活躍がめざましいマルシア。そして2人を支えるように、歌手・女優として舞台の第一線に立ち続ける中尾ミエ、圧倒的な歌唱力で多くの名作ミュージカルを支えてきた上條恒彦、各分野で核となる役柄を演じ続け、2014年の白井演出版「テンペスト」で元ミラノ大公プロスペローを迫力いっぱいに演じるなど信頼の厚い古谷一行と、生きざまを舞台に放つ存在感あふれる俳優が結集しました。
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