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自民党改憲草案 内と外で使い分けるな

 党内向けには「公式文書」と位置づけて重要性を強調し、対外的にはそれを「提案しない」と言って反発をかわそうとする。党内外で使い分ける対応は方便と言うほかない。

     自民党の憲法改正推進本部がきのう決めた2012年の憲法改正草案の取り扱いのことである。党内の保守派にも、公明党や野党にも配慮した結果だ。

     天皇の「元首」化、自衛隊の「国防軍」化、非常時の国家緊急権付与などを柱とする草案は、基本的人権の尊重より公共の秩序を優先し、国家主義的で復古調の色彩が濃い。

     安倍晋三首相は「わが党はすでに案を決めている。党の案をベースに議論したい」と言い、「党内で相当議論して作った草案を大切にしたい」と述べてきた。

     これに対し保岡興治本部長は会合で草案を「そのまま憲法審査会に提案することは考えていない」と表明した。首相の発言を修正し柔軟な姿勢を見せたともいえる。

     今夏の参院選の結果、衆参両院ともに改憲に前向きな勢力が3分の2に達し、改憲案を発議する事態もあり得る。しかし、近代民主主義に逆行する改憲草案が数の力で推し進められるのは危険と考え、わたしたちはまず草案の破棄を求めてきた。こうした懸念は多くの野党も共有しており、民進党は「国民の権利を軽んじている」と撤回を求めている。

     冷静な議論が始められるよう保岡氏は批判的な世論にも耳を傾けた。しかし、党内保守派の理解を得るために「公式文書」と権威付けをした結果、玉虫色の態度となった。

     今臨時国会で際立つのは安倍首相が憲法論議の深入りを避けていることだ。かつて憲法改正発議の要件を緩和する憲法96条改正を提起したころとは様変わりだ。

     改憲対象とする逐条の議論は衆参憲法審査会に委ねるとし、「いよいよ憲法改正がよりリアリティーを帯びてきている。自民党総裁として発言するのは控える」と慎重だ。

     憲法96条改正が結局は頓挫したという反省もあろうが、草案の逐条解説を始めれば保守的な側面が際立つ結果にもなりかねないと危惧しているのではないか。

     民進党は家族を重んじることを国民に義務づけるかのような自民党の草案についての質問を集中的に行い、踏み込んだ答弁を避ける首相を「逃げ続けている」と批判している。

     自民党は12年草案とあわせて、保守色が抑制された05年新憲法草案も党内議論の土台とするという。それでも与野党が冷静な議論をするにはやはり12年草案を破棄すべきだ。

     それが健全な憲法論議を進めるうえでの政権党の責務であろう。

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