見え方には重力影響? イグ・ノーベル賞、東山教授に聞く
京都府宮津市にある天橋立の眺め方として有名な「股のぞき」に関するユニークな研究で、立命館大文学部の東山篤規教授(65)が今年の「イグ・ノーベル賞」を受賞した。上半身をかがめる股のぞき以外にも、寝転がったり逆さ眼鏡をかけたり、さまざまな見え方を探究してきた。「股からのぞいたり寝転んだりして眺めると、ありのままに物を認識できる」と言う東山教授に、「世界の見方」を教えてもらった。
■直立時や「逆さ眼鏡」で実験重ね
「見え方には、重力が深く関わっているはずです」。東山教授は、直立歩行という人間の姿勢が錯覚を生み出すと指摘する。股のぞきで風景の印象が変化する原因を探った研究でも、この仮説を裏付ける結果を得ているという。
股のぞきで眺めると、遠くの物は近く、近くの物は遠くに見え、風景の奥行きがなくなる。網膜か上半身のいずれかの逆転が原因と考えられてきたが、長らく結論は出ていなかった。
東山教授は1996年ごろから10年かけ学生の協力を得て研究した。股のぞきと直立で、被験者から2・5~45メートル離れた5地点のいずれかに、高さ32~162センチの5種類の赤い三角形を一つずつ置き、三角形の大きさと被験者からの距離を答えてもらった。股のぞきした被験者は、三角形が遠くになればなるほど、高さの値を小さめに、距離は近めに推定。一方、直立では三角形の高さと距離のいずれの推定も、被験者からの遠さで変化はなかった。
さらに風景が逆に見える「逆さ眼鏡」をかけて同様の実験を実施。眼鏡をかけて直立した場合、大きさや距離の被験者の推定に変化はなかったが、股のぞきをすると、かけていない時と同様、推定の変化がみられた。このため、股のぞきによる風景の変化は、網膜像の逆転ではなく、上半身の逆転が原因と結論づけた。
■おもしろがってくれるならうれしい
東山教授はほかの実験でも、寝転んで物を眺めると通常の立ち方では生じる錯覚が起こらないことも突き止めている。股のぞきも寝転がった姿勢も、通常の立ち方とは体にかかる重力の向きが異なる。東山教授は「姿勢を変えることで、重力の影響から解き放たれ見え方が変わる」と推測する。学生時代からの研究を経て確信を得た。
実証的な手法で、視覚の不思議さに正面から挑んできた。一方、研究成果は「イグ・ノーベル賞」の受賞という意外な形で注目を浴びた。「イグノーベル まじめにやって 笑われて」。得意の川柳で心情を表現し、いたずらっぽく笑う。「僕の研究をどう見るかは、皆さんの自由。おもしろがってくれるならうれしい」
■受賞記念講演会 イグ・ノーベル賞受賞を記念した東山篤規教授の講演会が20日午後4時半~5時50分、京都市北区の立命館大衣笠キャンパス・以学館2号ホールで開催される。参加無料で申し込み不要。先着480人。問い合わせは立命大文学部事務室TEL075(465)8187。
【 2016年10月18日 10時16分 】