三十六歳女性がハーゲンダッツを買ってきた。
スーパーの商品券を使ったらしく、私の分もあるという。これは嬉しいニュースである。さっそく大喜びで食べた。しかしこのハーゲンダッツは変化球のものだった。後半でプリンの汁が出てきたのである。
「いやカラメルソースだから」と女性は言った。
「変な言い方しないで」
しかし私にとって後半でいきなり飛び出した液体はプリンの汁(カラメルソースの蔑称)と言いたくなるマイナスのサプライズであった。私だってコンビニ等でプリンを買った時に味わうことになるあれは丁寧にカラメルソースと呼ぶが、場違いなところに登場されればプリンの汁とも呼びたくなる。
三十六歳女性は様々なハーゲンダッツのなかでもプリンの汁が内蔵されたこれがいちばん好きらしく、見ると冷凍庫に二つも入っていた。自腹でもうひとつ買ったのだという。ちなみに正式名称は「カラメルカスタード」である。プリン汁カスタードではないようだ。
しかしやはりこんなものは普通のハーゲンダッツに飽きた人間の食べ物ではないのか。王道に飽きた貴族たちの遊びではないのか。日常的にハーゲンダッツを食べている三十六歳女性はいい。だが私のようなバニラ味すらほぼ食べたことのない人間がいきなり食べていいものなのか!
「知らないよ!」と言われた。
まあ、そうだと思います。興奮してすみません。
数日後、自腹でハーゲンダッツのバニラを買った。プリンの汁にはこりごりだったからである。しかしバニラはバニラでみっちりしていた。ものすごく密度の高い食べ物だと思った。三十六歳女性は「途中で疲れるでしょ」と言った。言い得て妙だと思った。小さなカップなのに中盤で疲労感がある。アイスひとつ食べるのに「中盤」という表現をしている時点でおかしい。フルコースじゃないんだから。
正直なところ、私はエッセルスーパーカップや爽のほうが好きである。とくにこの夏はスーパーカップのバニラばかり食べていた。小さなカップが6つで400円弱。安い男である。しかし実際に好きだから仕方ない。
私はアイスを食べて疲労こんぱいになりたくない。私にとっちゃハーゲンダッツは登山である。強い意志と入念な準備がいる。そのうえで一歩一歩踏みしめるように進まねば食べ切れない。1個300円の山脈。それがハーゲンダッツである。
山脈だと考えると安いですね。