カジノ事業であれほどの大損を出した人物がラスベガスで最後の決戦に挑むとは、何ともぴったりだ。ドナルド・トランプ氏は19日、ヒラリー・クリントン氏を相手に、3回目にして最後のテレビ討論に臨む。この時点で、情勢はトランプ氏に不利だ。9月にクリントン氏とほとんど並んだ支持率を無駄にした後、トランプ氏は選挙戦で息をのむような急襲に乗り出した。
これは奔放なナルシストの最後の賭けなのだろうか。それとも、焦土作戦に打って出て、米国の民主主義に脅威を及ぼすのだろうか。
世界における米国の今後の役割について懸念している誰もが、トランプ氏が挑戦者であることに安堵しているはずだ。もし彼が本来の主張から脱線せずにいられたら、選挙戦の状況がどうなったか想像してみるといい。トランプ氏はその場合、同氏のセクハラ行為を告発した女性たちを侮辱する代わりに、クリントン氏の「グローバリズム」に対して自分の「アメリカニズム」を訴える議論に集中する。もしそうしていたら、かなり大きな勝算があったかもしれない。
■最大の障害は性格
トランプ氏が負ける可能性が高いのは、彼の持つ独特の国家主義的なポピュリズム(大衆迎合主義)のせいだと考える人は、拙速な結論を出すことに注意したほうがいい。トランプ氏の勝利を妨げる最大の障害は本人の性格だ。とにかく我慢ができないのだ。
アドバイザーたちはトランプ氏に、主要なテーマから逸脱しないよう懇願してきた。クリントン氏を国際主義の企業エリートの手先として描くことで、クリントン支持者の投票率を抑えることがトランプ氏の選挙戦の戦略だ。もう一つの頼みは、腐敗したワシントンを正せるのは反逆的なアウトサイダーだけだと訴えることで、トランプ支持者の投票率を高めることだ。
これは分かりやすい。だが、トランプ氏はほんの数分以上、この議論からそれずにいることができない。必ず、自分を告発する女性たち相手の、ぞっとするような攻撃に引き込まれてしまう。セクハラ被害にあったとされるある女性について、同氏は「彼女は絶対に、私の最初の選択肢にはならなかったろう」と言い放った。
その結果、党の支持を失った。政治専門サイト「ポリティコ」によると、共和党全国委員会は初めて、大統領指名候補のためのテレビ広告に1ドルたりとも費やしていない。代わりに共和党の財源は、議会選挙に振り向けられている。同様に、共和党の指導者たちは、自党の大統領候補との関係を断つという、今までなかったことをした。
大半の共和党員はトランプ氏の「米国第一」の主張を黙認した。またクリントン氏に対する痛烈な批判も共有した。この点では、大半の共和党員は今も変わらない。彼らはメキシコとの間の壁さえ容認した。この1週間で共和党議員らがトランプ氏への「承認撤回」に動いた原因は、同氏が女性について語る際の物言いだった。