首相官邸までもが注目していた沖縄の石油会社、南西石油をめぐる再編が決着を迎えそうだ。南西買収の最右翼として浮上しているのが、西日本を中心に「SOLATO」(ソラト)のブランドでガソリンスタンドを展開する太陽石油だ。
同社は南西買収を否定するが、沖縄のあるガソリンスタンド経営者は「今後は太陽石油からガソリン供給を受けること、安定供給については心配ないことを、供給元担当者から伝えられた」と話すなど、複数の関係者が証言している。
そもそも、南西石油はブラジルの国営石油会社、ペトロブラスが所有していた。沖縄唯一の製油所を持つ石油会社として、沖縄のガソリン需要や発着する航空機のジェット燃料を供給してきた。だが2015年3月末、ペトロブラスは沖縄での石油精製事業から撤退すると表明し、16年3月には石油製品の販売を終了。それ以降は当座の安定供給を確保するために、石油元売り大手の東燃ゼネラル石油が石油製品供給を担っていた。
太陽石油は製油所を愛媛県今治市の1カ所のみ保有する、石油元売り大手5社の陰に隠れた中小企業。しかも、国内市場に占める沖縄の規模は微々たるものだ。
それにもかかわらず、今回、この小さな買収劇に官邸までもが注意を払っていたのは、南西買収候補に中国企業の影がちらつくシンガポール系ファンドと韓国企業の名が浮上していたからだ。
沖縄県の尖閣諸島では、この数年中国とつばぜり合いを繰り広げており、そんな中で国民の生活や産業を支える戦略物資である石油の製油所を買収されては体裁が悪いと官邸は考え、神経を尖らせていた。南西石油の嫁ぎ先が太陽石油に落ち着くとなれば、官邸としては願ったりかなったりだ。
● JX・東燃の審査が前進か
石油元売り業界を所管する経済産業省も官邸同様に胸をなで下ろしているはずだ。
というのも、太陽石油による買収となれば、公正取引委員会によるJXホールディングスと東燃の経営統合の審査が前進するとみられているからだ。
実はJXも東燃も南西買収を目指していた。もともと沖縄のガソリン販売シェアはこの2社合計で約半分を占めており、仮に製油所も2社のどちらかが取得すれば、沖縄で圧倒的な力を持つことになる。公正取引委員会は両社が沖縄市場で圧倒的優位な立場になるため、経営統合に何らかの注文を付ける可能性が考えられていたのだ。
競争力強化のために石油元売り業界再編の絵を描いてきた経産省としては首尾よく再編が進んでほしい。もう一方の出光興産・昭和シェル石油の合併が、出光創業家の反対で頓挫しかかっている状況ではなおさらだった。
山積する石油元売り業界の懸案事項が、一つ片付きそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)
週刊ダイヤモンド編集部
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