九州大の林克彦教授らはさまざまな細胞に育つマウスiPS細胞を、培養皿上で卵子にまで育てることに成功した。卵子を受精させ健常な子供を得ることもできた。従来は作製過程でマウスの卵巣に移植する必要があった。ヒトの不妊症の原因解明などに役立つ可能性がある。成果は英科学誌ネイチャー(電子版)に18日掲載される。
研究チームはまずマウスの尾の細胞から作ったiPS細胞で、精子や卵子のもととなる「始原生殖細胞」を作った。次に体内で卵子になるまでの約5週間の過程を3段階に分け、それぞれ培養方法を工夫した。
この結果、1回の実験で600~1000個の卵子を作れるようになった。卵子を通常の精子と受精させて子宮に移植し、マウスを計8匹誕生させた。マウスは正常に子供を得る能力があった。
従来もマウスiPS細胞から始原生殖細胞を作ることはできたが、受精可能な卵子に育てるには別のマウスの卵巣に移植する必要があった。
iPS細胞から培養だけで卵子を大量に得られる今回の手法は「絶滅が危惧される動物にも応用できれば、種の保全などに役立つ」と研究チームは期待する。卵子ができる過程を詳しく観察すれば、不妊の原因解明につながる可能性もある。
国の指針はヒトiPS細胞から生殖細胞を作ることは認めているが、受精させる実験は倫理的な観点から禁じている。将来、新手法が改良されてヒトに応用できるようになれば、不妊に悩む女性らが「iPS細胞から卵子を得たい」と望むケースも考えられる。新たな問題を生む可能性もありそうだ。