豊洲新市場が安全と証明されれば、移転は進むのか?計画通り、築地市場は更地にするのか?事ここに至っては、もう予定調和などあり得ない。チーム小池が放つ、驚きの計画の全貌をすっぱ抜く。
〈豊洲移転の決定を、今一度立ち止まって都民と考える〉
〈豊洲新市場の建設費が、約4000億円の見込みだったにもかかわらず、4年間で2000億円も増えている。その原因を厳しく検証しなければならない〉
〈すでに豊洲新市場の建物はできていることを踏まえ、複数の解決案を提示し、予断を持たずに検討を進める〉
—これは、ある内部文書に記された文言である。作成されたのは、小池百合子東京都知事が誕生する前の今年7月ごろといわれる。都庁関係者がこう証言する。
「小池さんは、都知事に就任する前から、いちはやく側近に命じて、『都知事になったら、まず築地市場と豊洲新市場の問題から着手する』ことを前提に情報収集させていました。そのうちの何人かは、小池氏が作った豊洲問題のプロジェクトチームに入っています。
最終的に、チーム小池内では『4つのシミュレーション』が提示されました。その中で、『4つめの選択肢』—つまり最有力のプランとして記されていたのが、豊洲新市場への移転中止、そして『新・築地市場』を完成させる、というウルトラCだったのです」
本誌は今回、この内部資料、つまり築地市場移転問題に関する「行程表」の一部を入手することに成功した。冒頭で引用したのは、その文書の最初に記されている大方針である。
9月28日の所信表明演説で、小池氏はこう言い切った。
「責任の所在を明らかにする。誰が、いつ、どこで、何を決めたのか。何を隠したのか。原因を探求する義務が、私たちにはあります」
一見すれば先行きの見えないこの状況で、彼女がつねに強気を貫けるのは、圧倒的な都民・国民の支持を得ているからだけではない。まだ他の誰にも明かしていない、この「行程表」が脳裏にはっきりと描かれているからなのである。
この資料から分かるのは、小池氏が豊洲新市場への移転そのものを見直すことを、最初から「本命」と位置付けていたということだ。現在のところ、小池氏はそれを公には口にせず、あくまで「延期」とだけ言っている。まだ機が熟していない、とみているのだろう。
しかし、小池氏が移転中止という「ウルトラC」を都民・国民の前で披露するその日は、当初の予定よりも早まったかもしれない。豊洲新市場の地下空間の発見と、いわゆる「盛り土問題」の紛糾は、チーム小池にとってもまったくの「棚ボタ」だったからだ。都議会野党議員がこう話す。
「小池さん自身、ここにきて『盛り土問題』でこれほど豊洲新市場のイメージが悪くなるとは予想していなかった。何せ、就任からわずか1ヵ月で、築地市場を無条件に豊洲へ移転させることは不可能になりましたからね。
しかもこの件で、都知事選のときに『厚化粧』などとさんざん悪口を言われた石原(慎太郎元都知事)さんに、頭を下げさせることまでできた。『神風が吹いた』と言ってもいい」
「行程表」の中には、確かに「盛り土」や地下空間の問題については書かれていない。豊洲新市場が抱えるさまざまな問題についてまとめた箇所には、概略、このように記されている。
〈豊洲のほうが店(注・仲卸店)が狭い。また、豊洲は街区が大きすぎて小売店の客や観光客にとっては不便。客は仲卸業者に商品の配達を求めるようになり、対応できない仲卸業者は廃業に追い込まれるおそれがある。
また、土壌汚染問題が解決していないとの指摘がある。豊洲市場の用地は、有害物質が基準値を超えた場合に指定される「形質変更時要届出区域」で、指定解除には、地下水モニタリングを2年間行って基準以下であるとの確認が必要になる、この確認をしないまま、豊洲新市場の建物は建てられている。
さらに、建物は土壌に触れないよう高床式だが、床に水を流すと地下に浸透し、毛細管現象によって汚染物質が染み出すおそれがある〉
小池氏への追い風は今なお止んでいない。9月29日には、豊洲新市場の「地下空間」にたまった地下水から、基準値を超える有毒物質のベンゼンとヒ素が検出された。
先の引用箇所では、「地下水モニタリングを2年間行う」とあるが、そこまでの手間をかける必要はないだろう。この調子で次々と豊洲新市場の「ボロ」が出てくれば、小池氏自身が思っているよりもずっと早く「移転延期ではなく、移転中止である」と発表する日が来ることになりそうだ。
では、この「行程表」でチーム小池が想定する「豊洲移転中止」そして「新・築地市場」の具体案とは、いったいどのようなものなのか。ここからは前出と別の都庁関係者に解説してもらおう。
「チーム小池がまとめた『4つの選択肢』は、以下のようなものです。
まずは、予定通り豊洲に移転する。この場合、築地市場は基本的に更地になります。
2つめが、豊洲移転を完全に取り止め、築地市場だけを改修して使い続ける。この場合は豊洲新市場が宙に浮いてしまうことになります。以上の二つの選択肢は、今となってはもう、採用される可能性はないでしょう。
3つめは、築地市場をメインの取引所として維持しつつ、豊洲は築地市場のストック用倉庫として活用するというもの。
そして4つめが—これがおそらく、今後の軸になると思いますが—築地市場の改修工事を行って、『新・築地市場』としてリニューアルする。工事の間だけ、一時的に豊洲へメインの市場機能を移す。そして将来的に『新・築地市場』が完成した暁には、再び仲卸業者を築地へ戻して、豊洲市場は物流拠点プラス商業施設として改装するという案です」