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邪竜転生 ~魔王も勇者も瞬殺できる最強生物~ 作者:瀬戸メグル
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8話 美少女戦士

本日3話目
 監視官付き、という制限ありで入場を許可された。
 門をくぐると、その監視官が丁寧に挨拶をしてくれた。

「私はアスラって言うの。ここで監視官をしている十八歳だよ。見た感じ、二人とも悪い人じゃないのはわかるけど、一応規則だから我慢してね」

 赤茶色の長い髪を後ろで三つ編みにして、格好は落ち着いた感じの上着にロングスカートの組み合わせ。
 顔はたまご型の輪郭で、目鼻立ちは優しい印象を与えるように整っている。
 派手な美人ではないけど、清廉な感じがするし男性人気は高そうだ……なーんて思ってたら、

「(ちびさん、アスラさんってかなり可愛くないっすか?)」

 早速、目がハートになっちゃってるおバカちゃんがいるじゃねえの。
 恋に落ちるの早すぎっすよ、サボさん。
 竜だからわかんねえっす、と相手にしないで俺はそっぽ向く。でもサボじゃない方から視線を感じたから、そっちに顔を向ける。

「……かわいい。お名前なんて言うの?」
「面倒だし、ちびでいいわ」
「ちびちゃんね。何か食べたいのない? お姉さんがオゴっちゃおっかな!」

 このマスコット的な見た目が少女のハートにはキュンときたらしい。贔屓にされてる感がすげー。
 金もないし、オゴってくれるならやぶさかではないぜ。
 アスラに案内され、飲食店の中へ俺たちは入る。
 何が良いかわからんので、注文はアスラにお任せ。

「店員さん、フルーティサンド三つとグロ魚の湯煮を。あ、サボさんは自腹でお願いね」
「うい……」

 ヘコむサボと、ビビる俺。
 何にビビってるかって?
 グロ魚の湯煮とかいう、言葉響きの悪い料理にだ。

「二人ともこの地方出身じゃないよね? 雰囲気でわかるよ」
「おれは遠くの島からっす」
「俺は、一応死の峡谷出身ってことになんのかな」
「死の峡谷って……。どおりで、魔力も並じゃないわけだ。見た目に反して強いんでしょ」
「そっちもそうなんじゃねえの? だから監視官なんてやってる」
「魔法が結構得意なんだ。あ、料理がきましたよー」

 皿にのってやってきたのはフルーティサンド。
 長めのパンに切り目を入れ、そこに色とりどりの小さい果物が詰まっている。
 ラズベリーのように小さめのイチゴっぽいが、青緑黄色~と七色を超える彩り。
 はむ、と食べて、舌鼓をうつ。
 甘酸っぱさが口の中に一気に広がった。鼻に抜けるような果物の香りも悪くない。果物と(少し固めだが)パンの感触とが混じっていい具合に胃の中に落ちていく。

 竜になっても味覚自体は、ちゃんとあるな。地味に嬉しいわ。
 俺もサボもすぐに皿を綺麗にした。タイミングを見計らったように店員が次の料理を運んできた。
 ……うえ。
 これが、グロ魚の湯煮か……。
 料理自体は実は普通なのよ。味付けされた切り身の魚の肉があり、その上に三つ葉が乗せられている。
 これだけだと、普通のうまそうな魚料理。
 問題は隣の皿だ。
 わざわざ、魚の顔だけ切り取って上向きに乗せられているのである。
 ぎょろっと開かれた目玉、開かれた口には細く尖った歯がビッチリ、皮の色は赤黒い。

「何でこれ持ってきた? 客に出しちゃいけねえだろ」
「わかってないなー、ちびちゃん。まずは切り身を食べてみて」

 勧められるままに一口。

「…………ウマ」

 魚なのに、豚の角煮に似た味だった。
 タレがほど良くしょっぱくてグッド。
 そして、口の中に入れた瞬間トロけるほどに柔らかい。白米が恋しいぜ。

「じゃ次はねー、これどうぞ」

 アスラはスプーンでグロ魚の目玉をえぐるように取り出す。スプーン上で転がる目玉が薄気味悪い。 
 けど、さっきの切り身も美味かった。
 ここは信じてチャレンジしてみることにしたら――

「うめええええええ!」

 噛んだらぐにゅ、という感触がしてジワーと液体が漏れ出たのがわかった。その汁が、俺を発奮させたというわけだ。
 豚骨スープみたいな濃厚な味なのに後味が爽やか。
 しかも飲んですぐに、胃や食堂がポカポカと温かくなってきて心地よい。
 もう片眼もすぐにいただいた。
 もはやグロさなんて気にならない。
 俺だけじゃなくサボも絶賛なので、異世界人にとっても美味らしい。

「これ癖になる味っすね」
「ああ、俺もビックリだわ。こんなグロ魚なのに」
「見た目悪いのって案外おいしいの多いんだよ」

 ゲテモノ料理ってやつだな。
 ゲテモノ美食家に親近感を覚えそうで困る。
 十分食を楽しんでから、店を後にした。
 通りを歩くだけで、俺たちは注目の的だ。
 俺が目立つのもあるが、このアスラも人気者らしい。

「寄っていってよアスラちゃん。おまけするよー」
「アスラ~、今日も仕事頑張れよ~」
「困ったら何でも相談してね」

 道行く人や店の主人なんかが温かい笑顔を咲かせるのだ。
 その様子を見たサボが、また俺に耳打ちしてくる。

「ちびさん、おれとアスラさんの恋のキューピットになってもらえないっすか?」
「おまえは故郷の心配しとけよ」
「だってぇ、めちゃタイプなんですもん」
「なになに~、私がタイプだって?」
「あわっ、あ、アスラさん、ひどいっすよー」
「アハハ、ごめんね、盗み聞きしちゃって。でも私はサボはあんまりタイプじゃないな~」
「しどい……」
「あ、ちびちゃんはすっごいタイプです!」

 そう言うと、楽しそうに俺に抱きついてくる。
 頭撫でられたり、尻尾プニプニされたけど、抵抗はしない。さっき飯オゴってもらったので、少しくらいは体を許すわ……うふん。
 うん、自分でもキモい。
 体中をペタペタ触られながら、俺は訊いた。

「監視官以外にも何かやってるか? 人気高すぎ」
「実はね、私は個人的に「きゃーー、きゅうり泥棒よーー」あらら」

 話の途中で、何ともまぬけな響きが聞こえてきたのよ。
 きゅうり泥棒って……。

「さーて、捕まえますかー」

 腕まくりしてやる気を出すアスラだが、きゅうり泥棒は俺たちとは逆の方に逃走している。
 距離はだいぶ遠めだ。
 健脚なのかなー、と様子を窺ってたら、何だか難しい単語並べた呪文みたいなのを口にするアスラ。

「ハッ!」

 それが終わるなり地面に両手をつけた。
 何やってんの?
 俺がそうツッコもうとした時、遠方から一つ悲鳴があがった。
 巨大腕を象った土がいきなり地面から隆起、泥棒をアッパーでぶっ飛ばしたのだ。
 泥棒は一発ノックアウト、起きあがれない。

「土腕という魔法なの」

 へー、ファンタジーなことで。
 ここぞとばかりにアスラは得意げな顔でポーズを決め、自分語りを始めた。

「表の顔は監視官、しかしその裏の顔は! ――平和をこよなくあいする美少女戦士――アスラよ!」

 ノリノリすぎて、俺とサボが反応できないでいたらコメントを催促された。

「さ、最高っす! よっ、美少女戦士アスラ!」
「ありがと~。ちびちゃんも!」
「自分で美少女って言っちゃうセンス」
「冷めた反応ありがと~!」

 ともあれ、この美少女戦士はボランティアで町の見回りをしたり困っている人に手を差し伸べたりしているっぽい。
 人気の秘訣はタダ働きだったわけだな。
 俺とは真逆の属性備えてやがる。

「ところで、ちびちゃん。実は町中での魔法、特に攻撃系は強く禁止されてるんだ。使った種類によっては死刑もあり得るほど……」
「ってことは、おまえ……」
「特別職につく人は別だけどね!」
「うっざ」
「ひっかけてゴメンねー! 心配してくれてあーりがとー」

 てへぺろってやるあたりで、こいつの性格が掴めてきた。一見清楚に見えるけど中身は生粋の元気娘ってやつだ。
 ま、サボ同様に悪いやつじゃなさそうだ。監視官としては当たりなんじゃねえかな。
 泥棒も捕まって、ホッと通りが落ち着きを取り戻した。
 したのだが……またすぐに喧噪に飲み込まれることとなる。
 一人のおっさんが、大声を発しながら通りを走り抜けていったのだ。

「また出たぞー! また首無しの死体が出たぞーー!」

 猟奇的なやつはどこにでもいるようだな。
 首無しか……異世界も物騒だわ。

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