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7話 寄り道しようぜ
痛みを覚えてからは成長が速かった。
翼を動かすのが前よりだいぶ楽になったのだ。
初めて浮遊に成功した時は、本気で涙ぐんじまった。
朝から晩まで、サボにアドバイスをもらいながら練習を続けたのよ。
休んでる時でも、時折尻尾で翼を攻撃したりなんかして。
そうして三日ほど経った頃だろうか。俺は大空を駆ける鳥となっていた。
「気分は最高だわーっ」
真っ直ぐも右回りも左回りも自由にできる。バックだって可能だ。まさに縦横無尽に飛行できている。
「ちび竜さん、すっごい上達したっすねー」
「サボのアドバイスのおかげだな。感謝してるわ」
「試しに、ちょっと勝負して見ません?」
「いいねー」
競争はより能力を高めるだろうしなー。
ゴールは一キロほど先にある岩山の上に決定した。
「じゃ始めるっすよ。よーい、スタート!」
サボのかけ声とともにレースが始まる。俺は強く羽ばたかせ、ロケットスタートをかました。
「速っ!?」
サボの驚愕する声が後ろから聞こえた。一応先手をとることには成功した感じだな。
加速も上々で、サボとの距離は少しずつだが開いていく。相手の必死な顔を見るに手を抜いてるってことはないだろう。
細かい動きではまだまだサボの方が上だが、直線のスピードは俺が勝るらしい。
「ちび竜さん、前、前!」
「ん……?」
あー、前方からワイバーンっていう小型の竜がつっこんでくるのだ。口を大きく開けてるし、俺を補食しするつもりらしい。
「氷結ブレス!」
飛行しつつ青白いブレスを吐くと、ワイバーンの全身が氷の塊の中に閉じこめられ、そのまま急速に下へ落下していく。
邪魔者を無事排除した俺は、僅差だがレースでも勝利をおさめた。
「マジっすかぁ。もうおれより速いとか……ショックっす」
「真っ直ぐは、まだまだ速くなれそうだ」
「才能っていうか、種族差を感じるっすね。そろそろ遠距離飛行もいけます?」
「ああ、練習はこんくらいでいいだろ。約束通り、そっちの用件を手伝うわ」
「あざっす!」
約束は約束だもんな。俺たちはこのまま死の峡谷からサボの故郷へ向けて前進することとなった。
サボの故郷……リーグル島は、中央大陸からずっと西に進んだところにある諸島の一つのようだ。
死の峡谷は南大陸なので、だいぶ離れた場所にあたる。
移動だけで数日は覚悟しなくちゃいけねえから中々大変だ。
「で、故郷は何に困ってるわけ?」
「それがですね、最近強力な魔物が大量に現れるようになったんす。今、悩んでるのはアイアンワームっていうやつで、攻撃がほとんど通じないんすよ」
「倒し方とかないのか? 昔からいた魔物なんだろ」
「いえ、それがですね、変異種っぽいんです。だから情報が全然なくて」
ワームに限らず、変異種がチラホラ見受けられるとのこと。
異常現象ってやつだな。
ただ、サボの村には強い亜人や獣人がいるので、今日明日にも滅びそうって話ではない。
時間の猶予はまだある感じ。とはいえ、このままじゃいずれ危険だということで死の峡谷までサボが出張したと。
半日飛んだところで、サボの飛行速度が目に見えて落ちた。
「どうした、疲れたか?」
「疲れたっていうか……腹が減っちゃって」
「あー、そりゃそうだわな」
「ちび竜さんと違って、燃費が悪いんす。この近くにブルリンスって町があるんで寄ってみてもいいっすかね?」
「おう」
俺としても異世界の文化には興味あったりするしな。
「それからですね、これからはちびさんって呼んでいいすか? 一般的に竜ってのはさすがにマズイかなって。コモドドラゴンの亜種で通したいんすよ」
「それオオトカゲじゃね? 騙せんのかよ」
「たぶん大丈夫っす」
実は竜種で俺くらい小さいのはあり得ないらしい。
生まれたばかりでも一メートルはあるのが普通だとか。
俺みたいにミニマム化できる竜は一般的じゃないのかねえ。できてもしないのかもな。厳しい弱肉強食の世界でわざわざ能力を落とすなんて真似しないと。
高度を下げて、入り口の門へ向かう。サボは着地したが、俺はフワッと飛んだまま前へ進む。門兵とサボは知り合いらしい。
「どもっす。またきました?」
「サボ、だったか。結局死の峡谷にはいかなかったんだな」
「いえ、行ってきましたよ」
「嘘つけ。本当ならそんな五体満足でいられるか」
「あはは、バレちゃったすか。あのですね、食事とりたいんで中入れてもらえます」
「入場料を払えばな。ただ……そいつは……まさか竜か?」
門兵は目を眇めて、俺を不思議そうに眺める。
すぐに、自分で言った竜という言葉を否定した。
そんな小さい竜がいるわけないか、って感じに。
「コモドドラゴンの亜種でして」
「ガッハッハ! トカゲちゃんか~。カワイイでちゅね~」
急にアホみたいな口調で俺を撫でようとしたので、逃げるように飛ぶ。
「嫌われちゃったかな~。……ごほん、それはそうと、翼もあるし魔物だろう? 従魔であれば、悪いが魔力測定と、主人に忠実であることを示してもらう。実はこの間、従魔が他の人間を食い殺した事件があったんだ」
そのせいで、従魔に対する検査が実施されているとのこと。
まずは主人の命に忠実に従うかを見せることとなった。
サボが拾った石を軽く投げ、それを拾うよう指示してきたので、俺は殊勝な感じに従った。
右に飛べ、左に飛べ、止まる、なども忠実にこなしていく。
感心したように、門兵が手を叩いた。
「賢いじゃないか! 俺もそのトカゲ欲しいんだけど、どこで売ってるんだ?」
「売ってないっすよ。ちびさんは野生にしかいないっす」
「ちびさん、こっちおいで~、ぐえへへへ」
「キモ……」
「エッ、喋るのおおお!?」
無言貫くつもりだったのに、うっかり口にしちまった。でもそのくらい、この門兵の顔つきがヤバくて。目がイッちゃってるだもん。
「あー、とにかく俺は従魔合格なんだろ。早く中入れてくれ」
「ふへー、流暢な言葉遣いだなー。オジサン、ますますちびさんが欲しくなったぞ。で、も、まだダメなんだな。あまりにも強すぎる場合、監視官をつける必要がある。ま、トカゲちゃんは必要ないと思うけど一応仕事だから」
門兵は魔力量を計れる壷を持ってきた。触ると魔力を吸い取り、中で水を生み出す貴重な道具らしい。
魔道具っていうそうだ。
魔力量が多いほど、中から水があふれ出てくる。
「一応、水が壷からでなければ合格だぞ」
「触るだけでいいんだな」
指先でちょこん、と触ってみた。
――ドッバアアアアアアアアアアアア!!
壷の口から噴水のごとく水が噴き出してきて、ビビりまくる俺たち三人。
え、ちょ、溢れるどころかすげー勢いで飛び出してきぞ。
いったん空まであがった水が重力で舞い戻ってきて俺たちの体をバシャバシャと濡らした。
髪の毛をペチャってさせた門兵が、俺を指さしながら声を張った。
「はいアウトーー! こいつアウトーーーッ! みんな集まってーッ」
大声で呼びつけるから、別の旅人相手にしてた門兵たちまで駆けつけてきて、すぐに囲まれてしまった。
「おいおい、俺は言われた通りやっただけだぞ。捕まって牢屋行きとかじゃねえだろうな」
「そんなことしないさ! でも怖いから、監視官がくるまで囲んでるだけっ」
胸張ってだいぶかっこ悪いこと言われたら、苦笑しかできませんわ。
門兵たちの好奇の視線を浴びながら、監視官とやらが到着するのを辛抱強く待つ。
少しして、町の中からようやく姿を見せてくれた。
どんなゴツいのがくるかと思ったら、華奢な少女だからビックリした。
「あれが監視官? 若くねえか」
「侮るなかれ。ああ見えて、監視官一の実力者だ。少なくとも俺なんかとは比べものにならん」
「うん、それは何となくわかるわ」
「あ、やっぱり? 俺ってコネでこの仕事就いてて、実は魔物と戦ったこともないんだよねー」
がはははー、と恥ずかしげもなく笑うおっさんを見て俺は思ったね。
この町、大丈夫なのかなって。
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